「こ、これは……」
1945年1月6日、台湾高雄基地にて第二航空艦隊参謀長の菊池朝三少将は着陸してくる一式陸攻や四式重爆『飛龍』等を見つつ久しぶりの航空戦力の来訪に驚きをしていた。
そして司令部にやってきた者に対しても驚いたのである。
「淡路島警備府重爆撃航空隊司令官の入佐中佐です。急な受け入れに感謝します」
「お、女ッ!?」
「はっ、少々特殊な事なのですのでご容赦ください。女に似ていますが女でもあり男でもありますので」
司令部にやってきたのは航空パイロットの服装した女性だった。しかし降りてきたパイロットは皆、女に似た顔をしていた。だが、見れば男にも見える。よく分からないモノである。
「その……海軍省からの極秘書類を通して知っていましたが……やはり会うとその……」
「でしょうなぁ。我々も妖精というのはまだよく分かっていませんからな。ただ言えるのは、戦死しても気付けば淡路島にいる。そんなところです」
菊池少将の言葉に入佐中佐は苦笑しながら肩を竦めるのである。
「司令長官は解任され大本営に戻っており新司令長官が来るまでは自分が担います」
「感謝します。あの司令長官なら特攻にでも直ぐに出そうとしそうなので」
前任者である福留中将の皮肉を言う入佐中佐である。なお、福留中将は1月5日には第二航空艦隊司令長官の役職を解任され本土に回されていた……が、後にそのまま予備役に問題無用で回されるのは何とも言えない皮肉でもある。
「我々淡路島警備府の任務はルソン海峡を通過するであろう米第38任務部隊を撃滅する事にあります」
「話は聞いています」
「淡路島警備府から零戦54型360機、一式陸攻96機、四式重爆『飛龍』72機が派遣されこれに対処します」
「感謝します。此方も何とか護衛戦闘機を掻き集めている最中です。我々にも面子はあります」
「ありがとうございます。短い期間ではありますがやりましょう」
菊池少将と入佐中佐はそう言って握手をするのである。そして1月7日、米第38任務部隊は南シナ海へ侵入する計画の『グラティテュード作戦』を発令し同日にはルソン海峡を通過しようとしていた。しかしそれは問屋が降ろすわけはなかった。
ルソン海峡を哨戒飛行していた零式水偵が通過しようとする第38任務部隊を発見したのである。水偵は直ぐに撃墜されたが水偵が発した電文は台湾高雄基地で受信していたのだ。
「中佐ッ」
「はい、行きましょう。全機発動!!」
『オオォォォォ!!』
予め待機していた攻撃隊はプロペラを回し始め離陸を開始する。菊池少将は何とか第221航空隊の零戦10機、第341航空隊の紫電4機を揃えて面子を保とうとする事に成功する。
そして護衛用の戦闘機374機、陸攻168機に彩雲2機は台湾各地の航空基地から出撃するのである。無論、ルソン海峡を通過しようとしていた第38任務部隊の対空レーダーにも探知していたのである。
「500機以上の航空機だと!?」
「は、はい。恐らく狙いは我々第38任務部隊かと……」
「……急ぎ防空戦闘機を上げろ!! ジャップめ、まだ死に体では無かったか……」
第38任務部隊司令官のジョン・S・マケイン・シニア中将は報告に顔を歪めながらも命令を発令する。直ちに正規空母8隻、軽空母5隻から防空戦闘機のF6Fが準備され発艦していく。なお、第三艦隊司令長官のブルことウィリアム・ハルゼー大将は旗艦『ニュージャージー』の艦橋で早く迎撃しろと喚いていたりする。マケイン中将は攻撃隊が到着する前に何とか205機のF6Fを発艦させる事に成功したがそれでも来襲した零戦等の戦闘機は374機もいたのだ。
「ジークなど叩き落としてやる!!」
そう意気込んでいた米パイロット達だったが空戦を開始して僅か30秒程度でその自信は消えてしまったのである。
『馬鹿な!? 速いジークだと!?』
『ヘルキャットがジークに圧倒されているだと!? 夢だと言ってくれ!!』
『後ろにジークが取り付いた!! 誰か来て———』
『トーマスがやられたぞ!!』
『全機、サッチ・ウィーブで対抗しろ!!』
『駄目だ、あっという間に崩される!! ジークのパイロット達はベテランだらけだぞ!!』
ヘルキャット隊は淡路島警備府の零戦隊に翻弄され124機が撃墜され残りは逃げるので精一杯だった。その隙を突いて入佐中佐の攻撃隊は高度6000から第38任務部隊に侵入するのである。
「よし、電探欺瞞紙投下!!」
「ヨォーソロォー!!」
攻撃隊の先頭にいた彩雲2機は増槽を投下する。投下途中で増槽はパカリと割れ、中から電探欺瞞紙——アルミ箔が散布されるのである。
「レーダーに障害!!」
「アルミ箔だ、ジャップめ。勉強しているじゃないか!!」
米第38任務部隊の対空レーダーの画面は真っ白に染まり暫くは使えなくなる。無論、淡路島警備府の攻撃隊はそれを見逃す程はアホではない。
「イ号弾、投下用意!!」
「投下用意宜し!!」
「投下ァ!!」
爆弾倉を開いた入佐中佐の一式陸攻から爆弾——イ号一型甲無線誘導弾が投下された。一瞬の間を置いてから特呂一号四型液体ロケット(推力350kg 150秒燃焼)が点火し爆撃手の無線誘導の下、眼下にある第38任務部隊の空母目掛けて突っ込んでいく。
「ロ、ロケットだ!?」
「何!? ジャップがロケットだと!!」
入佐中佐機に狙われたのはマケイン中将が座乗する『ハンコック』だった。『ハンコック』は対空砲火を上げて回避航行を行うがイ号弾は躊躇なく『ハンコック』の中部飛行甲板に突き刺さり格納庫に転がって爆発した。
「グウゥッ!?」
「ひ、飛行甲板に命中!! 直ちにダメコン開始します!!」
「更にロケット弾来ます!!」
「衝撃に備えろォォォ!!」
マケイン中将が叫ぶ。『ハンコック』はイ号弾3発が命中し大破したのである。
「『ハンコック』大破!!」
「マケインはどうした!!」
「通信は繋がりますが生きていますッ」
戦艦『ニュージャージー』の艦橋にてハルゼーは状況を好転させようとしていた。しかし、状況は悪化する一方であった。
「『ヨークタウン2』『レキシントン2』にロケット弾4発から5発命中!! 両艦とも火災が激し過ぎてダメコンが追いついていません!!」
「『カボット』轟沈!!」
「『カウペンス』大傾斜!! 『カウペンス』総員退艦を発令しています!!」
「『ラングレー』『サン・ジャシント』大破、炎上!!」
「おのれジャァァァァァァァップ!! 死んだ振りをしやがって!!」
怒りに満ちたハルゼーは自身が被る野球帽を床に叩きつける。対空砲火で何機かは落としてはいるが被害は明らかに第38任務部隊の方が大きかったのだ。
入佐中佐の攻撃隊は炎上している空母を確実に叩こうと優先的に炎上空母を攻撃した。
攻撃隊はこの攻撃により引き上げる頃には正規空母『ヨークタウン2』『レキシントン2』、軽空母『カボット』『カウペンス』『ラングレー』『サン・ジャシント』巡洋艦『サンディエゴ』『フリント』駆逐艦6隻を撃沈する事に成功。攻撃隊の電文を受信した台湾の各航空基地は歓声をあげたのである。
「やりましたな参謀長!!」
「あぁ……やってくれた……(彼等もマリアナの仇を取ってくれたか……)」
喜ぶ参謀達を横目に菊池参謀長は人知れず一筋の涙を流す。前年のマリアナ沖海戦で自身が指揮していた空母が沈み、その際に戦死した航空隊司令兼飛行長を思い出す。雰囲気的にも攻撃隊を指揮していた入佐中佐が本人かもしれない。
(妖精とは……英霊達かもしれぬ……)
菊池参謀長は帰ってくる攻撃隊の無事を祈りつつ攻撃隊指揮官に祝いの日本酒を用意しようとするのである。
ハルゼーの第三艦隊は台湾からの思わぬ攻撃により空母6隻を喪失した事で『グラティテュード作戦』の中止を発令しルソン海峡を反転したのである。ハルゼーは突っ込み、台湾を航空攻撃しようとしたが護衛の零戦等も思わぬ手強さを見せた事で日本の航空戦力がまだ壊滅していないと判断、逆に此方の損害が増える可能性を考慮したのである。
「フム……幸先は良いかもしれんな……」
将和と清の艦隊は沖縄沖を航行しており、状況によっては駆けつけて砲雷撃を咬ます勢いだった。しかしハルゼーが反転した事で当初の予定通り南方に向かう経路を航行していた。
「これなら戦闘機だけ載せなくても宜しかったですね」
「まぁ結果論だから仕方ない」
加賀の言葉に将和は肩を竦める。台湾の航空隊の空振りも考慮して全空母には戦闘機と対潜哨戒機しか搭載していなかった。だかまぁそれは仕方ない事なので将和も割り切るのであった。
「ではヒ87船団と合流を急ごう。序に鮫退治もしつつな」
「宜候」
そして将和と清の2個艦隊は対潜警戒をしつつシンガポールには1月13日に到着するのである。
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