伝説のTS美少女ポケモン吟遊詩人はサトシストッパーになるようです   作:GT(EW版)

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それってもしかしてピカチュウ?

 さて、サトシ君たちとの邂逅から半分くらい成り行きでポケモンリーグに挑むことになった私だが──もちろん開催までの2ヶ月間、ポロロンと過ごしていたわけではない。

 

 まず第1の問題として、私としたことがリーグ挑戦以前に7年も前に集めたジムバッジが今でもまだ有効なのかさえ把握していなかったのである。圧倒的準備不足……! 

 

 こう見えて私も見栄っ張りだから、サトシ君にカッコつけた手前「実はバッジ全部賞味期限切れで出場できませんでした」とでもなったら羞恥心で死んでしまう。

 彼らからも「思わせぶりに出てきてなんだったのあのスナフキン……」「ビガー……」と呆れられること間違いなしだろう。それは実に伝説ではない。

 

 しかし嬉しいことに、こちらからリーグ本部に問い合わせたところ「集めたバッジが今も公認のジムの物なら大丈夫ですよ」とありがたい回答をいただけた。ついでに選手登録も済ませてきたよ。

 

 私が7年前に集めたバッジはトキワ、ニビ、ハナダ、クチバ、タマムシ、ヤマブキ、セキチク、グレンの8つ。ゲームでお馴染みの、いずれも7年前から公認の由緒正しきジムバッジである。

 リーグ公認のジムと言えば、このカントー地方には馴染みの8つ以外にも様々なポケモンジムがある。しかしジム業界も入れ替わりの激しい激戦区であり、毎年少なくない数のジムが協会の抜き打ち監査に引っ掛かるため、私のようにせっかく入手したバッジを何年も腐らせていると「そのバッジもう失効してますよ」という事例も結構あるらしい。

 私が突破した頃のヤマブキジムは今は無き格闘ジムの方だったのでそちらは失効しているかもしれない……と思っていたが、あのジムは失格ではなく休業中という扱いのようで、今のところはまだ公認のままらしい。

 

 最悪2ヶ月以内に8つのバッジを集めなければならないか……と覚悟を決めていたのだが、その懸念は無事杞憂に終わったわけである。良かった良かった。

 

 しかし、だからと言って開催まで悠々自適に過ごしていたわけではない。

 いや、別に優勝を狙っていたわけではないので私自身はそれでも良かったのだが、リーグに挑むと宣言したばかりに私よりもポケモンたちの方がやる気満々になってしまったのである。

 

 特に7年前からの付き合いであるリザードン、キュウコン、ウインディの3匹はかつてセキエイリーグを目指してこのカントー地方を旅回った思い出があるからか、公式の場のポケモンバトルに対して再び火が点いたようだった。

 

 彼らは別に、実戦から離れていたわけではない。

 私がポケモン吟遊詩人になってからも……寧ろなってからの方が、何度か伝説のポケモンを巡る壮大な事件の数々に巻き込まれたせいか、豊富な戦闘経験を積んでいた。

 

 サトシ君たちのようなポケモンリーグを目指す正統なポケモントレーナーやジムリーダー以外にも、この世界には悪の組織やらポケモンハンターやらと、無闇やたらと在野の強者が多いのである。

 

 私の歩む伝説の旅路ではそんな邪道な強者たちとルール無用のバトルを繰り広げることがまあまああったためか、私のポケモンたちは皆武闘派に育ってしまっていた。特にリザードン、キュウコン、ウインディのカントートリオは血の気が多い。他の3匹は大人しいんだけどね……

 そういうわけで彼らのトレーナーである私には、その思いに応える義務があるということだ。

 

 故に私はこの2ヶ月間、本業を休止して彼らのトレーニングに専念することとなった。

 

 幸い自然に溢れたマサラタウンには土地が余っており、トレーニング場所に困ることはなかった。ああ、だから同じ目的で大会への調整を進めていたシゲル君と再会することもあったね。

 

 シゲル君は5年前に会った弾き語りのお姉さんのことを覚えてくれていたみたいで、「その節はどうも」と礼儀正しく挨拶されたものだ。

 それ対して「こちらこそ、覚えていてくれて嬉しい」と返すと「いえいえ! 貴女のような素敵なレディーの麗しい歌声を、何故忘れられようものか!」とやや芝居がかった口調でお世辞を返してくれた。おもしれー子である。

 

 ……この時期のシゲル、アニメだと凄くチャラかった気がするのだが、私に対してはマセたジェントルマンだったのである。

 

 伊達に歳上のお姉さんたちを侍らせていないな……と、その紳士っぷりに大層驚かされたものだ。まあ考えてみれば私も歳上のお姉さんの1人だからか、サー↑トシ↓くーんを煽る時とは全く態度が違うのは当然か。

 私も私でたまにはお姫様扱いされてみるのも悪くない気分だったが……アニメでは後々硬派で落ち着いた性格に成長していく彼の姿を思い出しそのギャップに少し笑ってしまった。ごめんて。

 

 ……しかしサトシ君といい何ともまあ、私が思っていた以上に5年前にマサラタウンで行った公演は彼らの印象に残っていたようで、2人とも私とウインディとの再会を心から喜んでくれたものだ。

 吟遊詩人冥利に尽きるよね。その態度には私も嬉しくなったので、シゲル君たっての申し出を受け、彼のウインディと私のウインディでウインディ同士のスパーリングにしばらく付き合うこととなった。

 

 その際にはシゲル君のウインディが放つ炎攻撃を一切受け付けなかった私のウインディに対して、彼は「こんなに強かったんですね……! 僕もまだ鍛え方が甘かったみたいだ……」と息を呑んでいたものだ。

 

 まあそれも当然である。私のウインディの特性「もらいび」だし……シゲル君のは「いかく」っぽかったが、私のウインディは基本的に炎タイプの技を受け付けないのである。

 

 

 私のウインディは

 まず特性は「もらいび」、理由は大体の人が考えてることと思うが相手の攻撃力を一段階下げるだけの「いかく」よりも炎を無効化する「もらいび」の方が断然お得だから。

 そして技は、一.かえんほうしゃ 二.しんそく 三.めざめるパワー(じめん) 四.ワイルドボルト

 まず一のかえんほうしゃだが、フレアドライブの方が威力高いがこれを選ばなかった理由はもちろんかえんほうしゃによる遠距離攻撃の使い勝手の良さが魅力だから。

 二のしんそくは進化した後にレベルアップで覚えられそうな強力技がこれ位しかないから、まさか素早さの遅いドータクンにジャイロボールを覚えさせる人はいないだろう。

 そして三と四は言うまでもなく弱点である岩潰しや水潰しの為。

 まあほとんどの場合めざめるパワーだけでもOKだろうが、相手がギャラドスかペリッパーの場合だあと地面技が効かないのでワイルドボルトでその代わりにワイルドボルトの4倍ダメージで沈めてやろう、ってことで。

 逆にワイルドボルトで効果抜群にならない炎タイプ (ヒードラン等……もっともこいつを使う人は少ないと思うが)にはめざめるパワー(じめん)で。

 これで死角無し! ある意味で最強のポケモンだなw

 

 

 ──と、私の前世の記憶ログに残っている最強ポケモンの詩のように語ってみる。

 ゲームであれば私のウインディはかなりツッコミどころのある技構成だろうし、それこそポケモン対戦に詳しい方々からしてみれば失笑を禁じ得ないかもしれない。

 ああ、ここで言ったヒードランを使う人が少ないだろうというのはもちろん、「伝説のポケモンであるヒードランを捕まえたトレーナーが少ない」という意味なので悪しからず。私もまだヒードランには会ったことないんだよね……

 

 この世界のポケモンバトルはターン制のゲームとは全く勝手が違うし、技一つとっても同じ名前をしているだけの全く別の効果というのも珍しくはない。

 有名どころで言えばそれこそサトシ君のリザードンの「ちきゅうなげ」や「りゅうのいかり」とかもそうだね。ゲームでは確かそこそこの固定ダメージを与える技だったと思うが、彼のリザードンのそれはほとんど一撃で勝負を決めるはかいこうせん以上の必殺技である。

 

 それと技マシンがね……全然見当たらないんだ。

 

 基本的にポケモンの技は、自力で習得するものと思った方がいい。なので「進化の石で進化するポケモンは進化前に覚える技を習得しにくい」という性質を知らずに進化させて後悔するトレーナーなんかは割と多かった。

 その点、シゲル君はやはり優秀だね。彼のウインディはガーディの頃に覚えるような有力技を一通り修めた後で進化させたらしい。流石は未来のポケモン博士……ポケモンごとにその性質を理解し、それぞれの育成に生かしていく手腕はまさしくポケモントレーナーの手本のように思った。

 

「……どうも」

 

 そんな彼からはウインディ同士のスパーリングの後、先達としてアドバイスを求められたものだが……私としては彼の育成に対する欠点が見当たらなかったので、「今はそのまま、自分とポケモンを信じて進んでいくしかないんじゃない?」と月並みな言葉しか贈れなかったものだ。不甲斐ない先輩を許してくれ……

 

 ただまあ……あえて1つ言うことがあるとするならば、優れた才能と豊富なポケモン知識を持っているからこそ、予想外な出来事が起こった時に対応が遅れてしまうのは弱点と言えば弱点なのかもしれない。

 

 それもやがて遠くない内には克服する些事だと思っていたが……本人にも自覚するところがあったのか、思っていた以上に苦い表情をしていたので、私は「キミが対抗心を抱いているあの子からも、見習うべきところは見習うべきなのかもしれないね」と言っておいた。

 

 

「……サトシか……」

 

 

 その相手について真っ先にアニメの「主人公」を期待してしまうのは、私も転生者ということなのだろう。

 かつて無駄な人生を経験したことのある者として、我ながらしょうもないおせっかいを焼いてしまったと自虐してみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『前の試合では既に同郷のシゲル選手が準決勝進出を決めています! さあこの試合は、どちらが先へ進むのか!?』

 

 

 ……前々から思っていたが、やはりこの世界はアニメと似ていてもアニメそのものではないようだ。

 時に細かいところが、時に大胆な部分に違いが現れている。その事実に私は、この世界に生きる1人の美少女として安堵していた。

 

 あの時口にした私のおせっかいが、おせっかいなりに功を奏したのかもしれないが……シゲル君もまた、このセキエイ大会を当然のように勝ち上がっている。

 記憶に残っているアニメの成績を大きく上回るベスト4へと駒を進めており、この試合の勝者が次の準決勝で彼とぶつかることになっていた──この意味がわかるか? 

 

 

 私、思いっきりサトシとシゲルの間に挟まってるんだよ……! 

 

 

「ままならないものだね……」

 

 

 サトシ君からしてみれば、この準々決勝。私を倒せば終生のライバルであるシゲル君の居場所へとたどり着き、アニメではジョウトリーグまで持ち越すこととなった念願のライバル対決が今この場で実現することとなる。

 

 それについては──正直、私も見たい! 

 あの頃のアニメでもすっごく見たかった!──と、私の心には既に薄れたと思っていた前世の未練がまたふつふつと湧き上がってきたものだ。

 

 無論、その感情は2人がアニメの主人公とライバルだからというメタ的な情報から来ているだけではない……筈だ。

 私は、私自身としてはあくまでも、この世界に生きる1人の美少女ポケモン吟遊詩人として、やがて伝説となる2人のバトルをこの目で見てみたいと思っているつもりだ。できることならば、それもまた世界に語り継いでいきたい! 

 

 しかし、現実は残酷である。

 今は他ならぬ私自身こそが一番のKY、お邪魔虫として彼らの前に立ちふさがっていた。ライバルの間に挟まるポッと出の美少女サトシストッパーとか、これがアニメならお姉様がたから末代まで祟られてそう。

 

 今から試合放棄するなりして、わざと負けるのは簡単だ。しかしそんな汚いお膳立てをされても2人は喜ばないし、何より今も頑張ってくれているポケモンたちに失礼である。

 

 曲がりなりにも私はそれをわかっているからこそ、私はサトシ君と当たったこの試合に対して真剣に臨んでいた。

 寧ろ「私程度の障害、打破せずして何が伝説か!」と、そう思うといつもより調子が出てくるのが私というTS美少女ポケモン吟遊詩人なのである。

 

 そんな性格だからこそ、数少ない友人の1人であるブルーからも常々「あんたって……そうやって行く先々で色んな男を振り回してそう」と苦言を呈される始末だった。心外だよね。

 

 そんな私はサトシ君との試合の中でポロロンとリュートを掻き鳴らしながら、「どうした? キミたちがこれまで積み重ねてきた絆の力はそんなものかい?」「ポケモンマスターへの道のりは険しいよ……私を倒すことより遙かにね(ミホーク)」「いつもいつでも本気で生きてきたんだろう? キミを信じる子たちを想うのなら、ここで諦めちゃダメだ」「夢のつぼみは少しずつ膨らんでるよ」と、私が優勢になる度に彼の心を焚き付けるように煽り散らかしたものである。

 

 劣勢に追い込んでおいてどの口がである。

 

 しかし対戦相手である私がそういった声を掛ければ掛けるほど、彼も彼のポケモンたちもキレを増していったのだから仕方あるまい。

 

 尤も、それでもなお……この時点でのサトシ君はまだ、トレーナーとして成熟していないというのがバトル中に抱いた私の所感だった。

 

 

 アニメポケットモンスターの主人公、サトシが優れた実力者であることに疑いはない。

 

 前世の記憶によると20年以上シリーズの主人公を張りながらリーグで一度も優勝できなかったり、熟練者の筈なのにタイプ相性を致命的に間違えることがある描写がネタにされたこともあったようだが、それでも私が記憶した限り作中では圧倒的に勝ち越しており、惜しくも敗れた大会でもいずれも好成績を収めていた。

 

 前世の私はアニメの最後の方はあまり見ていなかったようだが……それでも最終回付近ではチャンピオンに勝って完全勝利したみたいだし、最終的には最高のポケモントレーナーになったと言っていいだろう。

 

 しかも、それらの実績をたった10歳の少年が為したと思えば、これを天才と言わずして何なのかという偉業である。

 

 他の者にできたか!? ここまでやれたか!? 

 

 少なくとも、私にはできない。

 二度目の人生という反則を犯している私だってその程度なのだ。ポケモンの世界において、彼以上の伝説を残した人間はおそらくいないだろう。

 映画なんて、世界救ってたし……総じてサトシというポケモントレーナーが優れたる操り人であることに異論を挟む余地は無かった。

 

 

 ただ、そんなサトシのトレーナー人生において──贔屓目に見てもまだ未熟さが目立っていたのが、最初の大会であるこのセキエイリーグだった。

 

 

 個人的に、彼がメキメキと腕を上げて名実ともに一人前となり、作中でしっかり実力者として扱われるようになったのは、次の「オレンジ諸島編」からだったと思うんだよね。それこそリザードンが初めて言うことを聞くようになった回では、「ポケモンマスターへの第一歩を踏み出した」と告げたナレーションの一言が印象的だった。

 他にもゼニガメがハイドロポンプを、フシギダネがソーラービームをそれぞれ覚え、圧倒的なパワーと食欲を持つ機敏なカビゴンが加入したのもこの時期だったか。そう思うとやっぱりこの時期のサトシ強いな……それはオレンジリーグのヘッドリーダー、ユウジさんを倒せたわけだ。

 

 

 その記憶に残っているアニメのサトシと目の前にいるサトシ君を比較すると、私がこの試合で相対した彼のポケモンは全体的にレベルが不足している気がした。

 

 キングラー。

 ベトベトン。

 ピジョット。

 ゼニガメ。

 ピカチュウ。

 リザードン。

 

 以上がこのリーグで私ことヒイカと相対した、サトシ君の最終ラインナップである。

 

 これまでに私がリーグで見せたポケモンはキュウコン、ウインディ、リザードンの炎タイプ3体。その情報をしっかりと仕入れてきたのだろう。水タイプを2匹入れてきたことといい、馬力のある最終進化ポケモンを多めに入れてきたことといい、概ね現状のベストメンバーと言える。

 

 しかし、このメンバーには名前や見た目には表れない不安要素があった。

 サトシ君のキングラーとベトベトンは彼が旅の中で育てていたわけではないからか、私の目には実戦経験の浅さが少々気になったのだ。

 

 それ故に、先頭のキングラーは私の先鋒キュウコンが放った「にほんばれソーラービーム」への反応が遅れて撃沈。

 続くベトベトンはカオルコさんのマダツボミ相手に見せた寝技を警戒した私が遠距離からの攻撃を徹底し、「ほのおのうず」によるスリップダメージで倒れていった。

 サトシ君からしてみれば、初っぱなからほとんど何もできずに2タテされた苦しい立ち上がりとなる。

 

 その後3匹目として繰り出したピジョットは彼らの分も気を吐き、私のキュウコンと拮抗した高速戦闘を演じたが──僅かに一手及ばずダウンする。

 しかし後を受けた4匹目のゼニガメは尻上がりに調子を上げてきたサトシ君の直感とマッチし、阿吽の呼吸を以てキュウコンを打ち破ってみせた。これが面白いところである。

 ピカチュウは例外としても普通に考えれば未進化ポケモンは弱いと思うところだろうが、実際に戦ってみると戦法が予想できず、被弾面積が小さいゼニガメの存在は特に厄介だと感じた。

 そういう意味でもサトシ君からすれば相性が不利だから選出を控えたのかもしれないが、私からしてみればこの時点のキングラーやベトベトンよりもフシギダネを選出された方がやりにくかったかもしれない。……アニメでも大舞台の戦績良かった気がするし、何より戦闘IQの高さは数値に出ない強さがあるのだ。

 

 そんなサトシ君のゼニガメだが、流れを変えられる前に私が繰り出した2匹目のポケモン、ウインディのワイルドボルトによって初見殺しさせてもらった。

 

 ……サトシ君の知らない、ポケットモンスター赤緑どころか金銀にも登場しない技である。

 なんだか未来知識で騙し討ちしたような気分だけど、外の地方にいけば普通に流通している技なのだ。だからこれは別に時間犯罪でもなんでもない。7年間世界中を旅回ってきた者の特権と思ってくれ。

「なんだ!? 今の技は……」「ピカッ!?」と驚愕する彼らに、私は「内緒。遠からずや、キミも知るだろう……」とリュートを鳴らしながら意味深に返してやった。実際、彼らもその内知るだろうし。

 

 これで5対2。

 倒れたゼニガメを労いボールに戻したサトシ君は、私のウインディに対して相棒たるピカチュウを繰り出してきた。切り札投入である。

 

 

 ──そしてそれからのバトルで思ったんだけど、やっぱりサトシ君のピカチュウって強いわ。

 

 まさか初見の筈のめざめるパワー(じめん)を直感的に危険だと判断し、咄嗟に発動した「ワンセコンドかげぶんしん」でかわしてみせるとは……恐るべきバトルセンスである。やはり真の伝説のポケモンはキミだったか。

 この時点でもその実力は、他のポケモンたちとはひと味もふた味も違う。改めて、ロケット団が夢中になるわけだと思った。

 流石は伝説のポケットモンスターシリーズのリーダーである。サトシ君のピカチュウはトレーナーに似て調子にムラのあるタイプだと思っていたけど、少なくともこの時の彼の調子は最高潮に見えた。

 

 

「ピカチュウ、かみなりだ!」

「む、これは……」

 

 

 小さな身体から繰り出される痛烈な電撃には私のウインディもかなりのダメージを受け、麻痺状態にさせられることとなった。

 それでもウインディは闘志に牙を剥きながら「私はまだまだ戦える!」と訴えていたが……

 

 

「駄目。戻りなさい」

「……!」

「ピッ!?」

「……きゅうん……」

 

 

 この時、私はポケモンの交代を宣言し、ウインディを一旦ボールに引っ込めた。そんな声を出しても、駄目なものは駄目です。麻痺を甘く見たら駄目。

 久しぶりの強敵を前に熱くなりすぎていた彼女に対し、少々強めの言葉で命じてしまったが……時にはポケモンに無理をさせないために諫める判断も必要なのだと、一瞬ビクッとなっていたサトシ君とピカチュウにはそれとなく言い訳しておいた。

 すまないウインディ……あとで念入りにブラッシングするから許してくれ。よく戦ってくれたよ、さすが伝説のポケモン。

 

 そしてそんなウインディと交代して繰り出したのは、もちろんリザードンである。

 サトシ君にとって最初のポケモンがピカチュウだったように、私にとっての最初のポケモンこそがこのリザードンだった。前世からずっと。

 

「リザードン、油断厳禁。相手はサンダーより上と思って」

「リザッ!」

「ピカチュウ、やるぞ!」

「ピカーチュウ! ピカッ!」

 

 それから2カ月前の続きとばかりに行った互いの相棒対決は──私のリザードンに軍配が上がった。

 

 ……リザードンの奴、私がサトシ君のピカチュウとリザードンのことを特別な目で視ていることに気づいたのか、いつもより妙に気合いが入っていたものだ。それがジェラシーなら可愛らしいのだが、真偽のところは不明である。

 

 ニャースの翻訳が欲しいところだね……私のロトムは無口だから図鑑に入っても喋らないし。まあ、そこがまた伝説的で良いのだが。

 

 

 それはさておきピカチュウを破った私のリザードンは柱のように盛り上がった岩のフィールドの上に降り立つと、偉そうに腕を組んでガイナ立ちをしながらサトシ君最後のポケモンの登場を待ち構えていた。

 

 

「リザードン、キミに決めた!」

 

 

 彼が選んだのは、こちらもリザードンである。

 しかし、2ヶ月前までの彼ではない。

 

 まるで私の知っているにわか知識をその炎で豪快に焼き払ったかのように、サトシ君はこの2ヶ月の間で彼と心を通じ合わせることに成功していたのだった。

 

 

「わあ……」

 

 

 すごい……と、私は思わず幼女のような感嘆の声を漏らし、驚いてリュートを落っことしてしまった。

 

 なのに、私のリザードンの方は特に驚いていなかったのがなんか悔しい。「ふん……当然だ」とでも言いたげに彼は自然体でサトシ君のリザードンを「敵」と見なしていた。私の知らないうちになんだかとってもいい感じなライバル関係になってないキミたち? 

 私のリザードンはサトシ君のリザードンの精神的成長を喜ぶように、高らかな雄叫びを上げてフィールドの空に飛び上がっていた。このツンデレ竜が……

 

 

「リザードン!」

「リザードン」

「りゅうのいかりだ!」

「だいもんじ」

 

 

 それから繰り広げたのは、素晴らしく見応えのあるリザードン同士の壮絶な空中戦だった。

 

 実を言うと私のリザードンは炎技以外の技を滅多に使いたがらない。基本的に扱うのは「かえんほうしゃ」「ほのおのうず」「だいもんじ」「ブラストバーン」の4つというそれはもうウインディ以上に論外な技構成だった。

 だがその技構成こそが彼の力を最大限に発揮できるというのがこの7年間の試行錯誤で私たちが見つけた答えであり、リザードン自身の譲れないポリシーでもあった。

 とにかく炎で攻めて攻めて攻めまくる。大技の炎を生かすために小技の炎を活用する。その果てに岩を溶かし、水も蒸発させ、ドラゴンさえ己の前にひれ伏させてみせる──という彼の王者たる傲慢さとプライドの現れであった。

 もちろん、同じ炎タイプが相手でもそうだ。究極の炎一辺倒、ストレートしか投げない豪腕メジャーリーガーのようなそれこそが、私のリザードンの伝説たる所以であった。

 

 それに対して、サトシ君のリザードンは実に多彩な技を扱うものだ。

 必殺技のちきゅうなげをはじめ、りゅうのいかりにメガトンパンチ。飛行タイプの技はあまり使わないようだが、同じリザードンでも戦い方の違いは対照的に見えた。

 

 

 ……そんな彼らのバトルを見つめている最中に思い出したのだが、確かサトシのリザードンって、後々同族の中ではかなり弱かったことが判明したんだよね。

 

 

 それまでの回ではカツラのブーバー、チャンピオンベルトのニョロボン、ユウジのカイリュー等様々な強者と渡り合ってきた彼の活躍を見てきた視聴者としては、その設定はどうも釈然としない気持ちだったけど……こうして実際に彼の戦いを見た私は、「もしかしてサトシのリザードンは、ピカチュウ以上に調子のムラが激しいタイプなのではないか?」と思った。

 

 わかりやすく言うとアレだ。弱い相手やそこそこの相手には程々の力しか出せないけど、格上を相手した時だけ力を発揮できるバトル漫画の主人公みたいな。

 

 もちろんそれは普段は怠慢で本気を出さないのではなく、本気の出し方をわからなかったという意味である。

 

 サトシ君のリザードンの潜在能力は、他のリザードンにも劣らないどころか寧ろ凌駕しているのだが……その力の引き出し方を本人も理解できていないのではないかと思ったのである。少し違うが後のヒコザルみたいに。

 それはヒトカゲからリザードに進化した後、その力に慣れる前にすぐにリザードンに進化してしまった弊害かもしれない──と私は考察してみた。

 

 なまじ大概の相手はヒトカゲの頃と同じやり方で火を吐いてるだけで簡単に倒せてしまったからこそ、リザードンは進化した自分が持っている本来の力を発揮できなかったのかもしれない。

 

 

「いっけー! リザードン! ちきゅうなげだ!」

 

 

 ──でなければ、説明がつかないのだ。

 

 アニメで彼が弱者の烙印を押されたジョウト地方の竜の渓谷、リザフィックバレー。実は私もそこを訪れたことがあり、私のリザードンは腕試しに訪れたその場所で、全てのリザードンを倒していた。

 言わば、キング・オブ・リザードン。

 そんな私のリザードンに対して、この時点のサトシ君のリザードンが見事な善戦をしているという事実に今、私はこの胸に驚きと喜びを感じていた。

 

 今の彼ならば、リザフィックバレーに行ってもリボンのリザードンに投げられることはないだろう。彼はサトシ君のもとで、もっともっと強くなれるということだ。

 

 

『決まったー! サトシ選手のリザードン、渾身のちきゅうなげが炸裂っ! さあここから一気に巻き返せるか!? マサラタウンのサトシ!』

「やったぜリザードン! お前が最強のリザードンだ!」

「グオオオーッ!!」

 

 

 サトシ君のリザードンの最高の技ちきゅうなげ。相手を抱えながら上空に地球を描き、その勢いのまま地上へ放り落とす必殺の一撃だ。

 私のリザードンが落下し、フィールドから前が見えなくなるほどの土煙が舞う。そんな中で私は、視界の端の応援席で歓喜に湧くタケシ君やカスミちゃん──たちと一緒に抱き合って喜んでいるロケット団の姿を見た。

 

 ……この大会、そう言えばキミたち全然邪魔しにこないなと思ってたらそんなところにいたんだね。あれかな……もしかしてアニメのリザードンとのお別れ回の時みたいに、サトシ君のリザードンに感情移入してリベンジを手伝ってくれたりとか……? 

 

 それが理由でヒロシ君との決着をつけることができたのなら、この私は本来の未来にウルガモスの羽ばたきを与えたことになる。

 だとすればとても……とても嬉しい。これがアニメならきっと、この場面ではいい感じのタイプ:ワイルドが流されていることだろう。

 

 ……だが。

 

「まだだよ、サトシ君」

「何っ!?」

 

 アニメでも数々の強敵を打ち破ってきたサトシ君のリザードン最高の技、ちきゅうなげ。それをモロに喰らった私のリザードンは──再び立ち上がり、周囲に舞っていた土煙を翼の一振りで煽ぎ散らしていった。

 

 

『おーっと立ち上がったぁ!? ヒイカ選手のリザードン、あのちきゅうなげを受けてもまだ余力を残しています!』

「そんな……!」

 

 

 そう、キミたちのバトルは素晴らしかった! コンビネーションも! 戦略も! 

 

 だが、しかし、まるで全然! 私のリザードンを倒すには程遠……くはないが、レベルアップが必要というのが忖度無しの戦力評価だった。

 彼よりも7年早く旅に出たアドバンテージ──それを覆すにはまだ、もう少しかかる。

 

 面白みのないサトシストッパーですまない……だが、私とて今は1人のポケモントレーナー。

 ポケモンの想いと共にここに立っている以上、手を抜くことはありえなかった。

 

「見せてあげて、リザードン。私たちの伝説を」

「ドンッ!!」

 

 今の私にできることは、空気の読めないサトシストッパーながら後で「アイツなんだったの?」とならないよう、せめてこの時の経験がやがて訪れるサトシ伝説の一助となれることを願うばかりだった。

 

 サトシストッパーになるのなら、せめて後の冒険につながるような良い教訓を与えたいよねという面倒臭いお姉さん心である。

 

 いけ、リザードン! ゲームだと2世代ぐらい先取りのブラストバーンだー! 

 

「っ、負けるなリザードン! 全力のかえんほうしゃだ!!」

「グオオッ!」

 

 炎タイプ相手は炎タイプの技でゴリ押す。

 その真理に辿り着いた私のリザードンが最終奥義に対し、サトシ君のリザードンはかえんほうしゃで対抗してきた。

 

 うわっ、2人ともすごい威力……ぶつかった衝撃で羽根帽子が脱げちゃったよ、後で拾いに行かないと。

 

 今まで帽子の下に纏めていた腰まで届く長さのサラサラヘアーを左手で押さえながら、私は両者の撃ち合いに対し固唾を飲んで見守っているサトシ君に向けて言い放った。

 

「サトシ君、キミは気づいてる?」

「……なに?」

「キミのリザードンの炎は今、この間よりも遥かに強くなっている。それは今まで引き出すことができなかった、彼本来の力だ」

「っ、これが……本当のリザードン……!」

「なりふり構わず、彼は私のリザードンを必死で追いかけている内に……今まで自分の知らなかった全力の出し方を身体で覚えたようだ。このバトルにおけるほんの僅かな時間の中でね。もしかしたらキミのリザードンは、叩けば叩くほど伸びる子なのかもしれない」

 

 サトシ君は自分のポケモンを褒めて伸ばすタイプのトレーナーだが、サトシ君自身は多分、まあまあ叩いた方が伸びるタイプと思われる。

 ……自分の行いを正当化するわけではないが、アニメでもセキエイ大会の敗退は、あの結果だったからこそ後の成長につながった筈だろう。

 

 ならばその役回り、僭越ながらこのヒイカが受け持とう。それが私がなってしまった──サトシストッパーの務めとも言える。

 

 どんなこともやり抜くことに意味があるのだ。中途半端が一番良くない。キミもそう思うだろう? 

 

「だけど人もポケモンも、叩いただけでは力を発揮できない。もう一つ大事なのは、最後までやり抜くという信念……誰にも曇らされることのない、虹のような健気な想いなのだと私は思う。今のキミと、リザードンのように」

「リザードン……」

「晴れ渡るその健やかな心を、これからも大切にね。後輩」

 

 要するに、「この試合には負けたけどそれは単なる経験値の差。やり方は何も間違っていないのでこのまま頑張ってください、応援してます!」という意味である。

 

 ……サトシ君がトレーナーとしてあまりに気持ち良すぎる相手だったから、私も熱に浮かされて妙なテンションになってしまったものだ。

 最後の「後輩」呼びのところとか、変に力んだせいで「こーはいっ」って感じのちょっとあざとい感じになってしまったし。キッツ……聞かなかったことにして。

 

 

 ──そして私が言い終わった瞬間、私のリザードンのブラストバーンが押し勝ち、サトシ君のリザードンはとうとう倒れることとなった。

 

 キミはすごいよ……よく頑張った、本当に。

 

 それでもまだ無理して立ち上がろうとする彼は、私のリザードンを睨みながら何か話しているようだった。

 

 うん、あれなら私にもわかる。

 アテレコするなら「お前、いつかぶっ倒す!」と言ったところか。

 それに対して私のリザードンは踏ん反りながら「何度でも挑むがいい、小童」とかそんな言葉を返している様子だった。んもー。

 

 

「リザードン、戦闘不能! よって勝者、マサラタウンのヒイカ!」

 

 

 湧き立つ会場にひらひらと手を振りながら、私は足下に落っことしていたリュートを担ぎ上げた後、リザードン同士の炎の撃ち合いの余波で吹き飛んだ羽根帽子を拾いに行く。

 

 サトシ君のところまで飛ばされてしまっていたその帽子を拾ってくれたのは、このバトルでも活躍した彼のピカチュウだった。

 

「ピ……」

 

 ああ、無理しないでキミも傷ついてるんだから……ありがとうね。

 

 この羽根帽子、ポケモン吟遊詩人になった頃から被り続けている私のお気に入りなんだ。

 見た目はまさに「吟遊詩人の羽根帽子」って感じなのだけど……括り付けられたその虹色の羽根はかつてホウオウが私の目の前に落としていった代物で、伝説の宝物なのである。

 

 因みにこの羽根帽子も含めた吟遊詩人の衣装は、全て私の同期であるブルーに製作を依頼したものだ。

 かつてマサラタウンのファッションリーダーだった彼女は、今はポケモンコーディネイター兼ファッションデザイナーとして世界を巡っているらしい。

 そしてもう1人の同期であるナナミは今、祖父と同じポケモン研究者としてタマムシの大学に通いながらフィールドワークに出掛ける日々のようだ。故に2人とも私と同じく、しばらくの間マサラタウンに帰っていないらしい。

 

 ポケモン吟遊詩人に、ポケモンコーディネイター兼ファッションデザイナーに、ポケモン研究者。それが我ら伝説のマサラ美少女トリオ!

 選んだ道は綺麗に分たれたものの、3人が3人ともポケモンに関わった職に就いている私たちは、お互い会う時間は減ったものの断ち切りがたい絆が残っている──そんな、私のライバルたちであった。

 

 そんな彼女らとの友情の証の一つとして、私はナナミが調達した材料からブルーが作ってくれたこの衣装を愛用しているというわけだ。

 

「よし、我ながら傑作! これならあんたも憧れの的よ! 見た目だけは陰のある儚げなミステリアス美少女詩人ね!」

「? ???」

「ふふっ、似合ってるわヒイちゃん。……だけど、ちょっとスカート短すぎない?」

「そう? カロスやシンオウならこのぐらい普通よ」

「それはそう」

「そうなんだ……」

 

 ──とは、初めて私がこの衣装を身に付けた際に交わした彼女らとのやり取りである。

 高貴な青と白を基調としたこの衣装の配色は、ブルーいわくポケモン図鑑でも語られる「ほんきで おこった リザードンの しっぽの さきの ほのおは あおじろく もえあがる」という伝説をイメージしたとのことだ。

 私のリザードンも本気を出すと尻尾の炎が青白くなるし、いかに彼女が私のことをよく見ていたかがわかる。ライバルだからこそ、相手のことに詳しくなるということだ。

 

 ……何だろうね。互いにバチバチなサトシ君とシゲル君の関係を見ていると、私も7年前のブルーとの関係を思い出すよ。

 

 彼女は昔、私のことをキザでイヤミな奴だと嫌ってたからね。いわく、「自分全部知ってるよ」みたいな態度がムカつくとか……返す言葉もございません。何なら今でも言われてる。

 

 だけど中身がこんな感じな割とテキトーな人だと理解されてからは、彼女の当たりもそこまで強くなくなり、お互い歯に衣着せぬ良い関係になったように思う。

 ポケモンも人間も、相互理解が大事だということだ。

 

 

「ピイカ」

「ふふ……ありがとう、ピカチュウ」

「チャア〜……」

 

 ピカチュウから思い出の羽根帽子を受け取った私は、お礼を言いながらその黄色い頭を撫でてあげる。

 ピカチュウは最初、サトシを負かした私に対して複雑そうな顔をしながらも目を細めてくれた。

 

 ……だけどさっき「ピイカ」って言ったよねピカチュウ? もしかしてピカピたちみたいに私の名前を呼んでくれたのかな? 良かったピカチュウ語で呼びやすそうな名前で。

 

 アニメではピカチュピ(カスミ)には秒で懐いたり、タケシほどではないが彼も美少女には甘かったねそう言えば。この役得は、美少女ならではの恩恵か。

 

 

「ヒイカさん……」

 

 

 おっとサトシ君。

 いいバトルだった──と、今私の口から言うのはイヤミっぽくなるので何も言うまい。もちろん、今回私が勝ったことを「たまたま調子が良かったから」などと謙遜することもしない。

 このぐらいの歳の男の子にとっては勝者からの同情や慰めほど無粋なものは無いだろうという、TS美少女だからこそできる私の伝説的気遣いだった。

 

 

 ──だからこそ私は、ただ静かにこの右手を差し出したのである。もちろん、手袋を外して。

 

 

「……!」

 

 

 サトシ君は何かを噛み締めるような顔を浮かべた後、その手を力強く握り返してくれた。ん……っ、ちょっと痛い……握力強いねキミ。流石は伝説のスーパーマサラ人──というのは冗談で。

 

 なんかごめんね……シゲル君との幼馴染対決を邪魔しておいて、自分の幼馴染との思い出に浸るとは我ながらいいご身分である。

 

 しかしそんな私の気遣いが不要だったと感じるほどに、私を見据えるサトシ君の目は力強く真っ直ぐだった。

 

 そうだ……何を忘れていたんだ私は。

 負けた悔しさに震えても、彼はいつもいつでも本気で生き、挑戦し続けることを諦めない生粋のチャレンジャーなのだ。

 それがマサラタウンのサトシ。ポケモンマスターを目指す少年だ。

 

 

「俺、もっと強くなる! コイツらのことをもっともっと知って、みんなの想いに応えられるように!」

 

 

 うおっまぶし……と、サトシ君から寄せられる青臭さの中にしかない純粋な向上心の光を前に、私は思わず目を逸らしかける。が、先回りするようにいつの間にか私の傍に佇んでいたリザードンの手前、情けない主人の姿を見せるわけにはいかないので気合いを入れて向き直った。

 

 サトシ君が歩む伝説の旅路を邪魔しない。

 私のポケモンたちが望む伝説のバトルを邪魔しない。

 両方こなさなければならないのがTS美少女ポケモン吟遊詩人の辛いところである。ひとえに自分の行動のせいだが。

 

 だがそれはそれとして──こんな私をそういう目で見てくれる彼らのことが、私は大好きだった。

 

 

「そしたら、またバトルしてください!」

 

 

 サトシ君が叩きつけてきたのは、いつになるかもわからないいつかの話。

 彼の性格ならきっとそう言うだろうなーと漠然と想像してはいたが……なんだ。うん……照れくさい。

 

 少し頬の部分が熱くなるのを感じながら、私は彼の申し出に応えた。

 

 

「待ってるよ。私をキミたちの伝説の一部にしてくれる日を」

「……え?」

 

 

 ──なんだかんだと言われても、ボクはキミらのファンだった。

 

 今の世界を生きる時、前世の記憶を想う時……

 

 未来と過去と現世を貫く、ポケットの中のファンタジー。

 

 サトシ、ピカチュウ。

 

 ポケモンマスターを目指す永遠の2人には。

 

 ゴールデンサン、まばゆい明日が待ってるぜ──

 

 

 

「……にゃーんて、ね」

 

 

 ノスタルジーに浸りながら私は、改めてこの世界が好きなのだと理解したのだった。

 

 




 いい感じのナレーションが入ってTo Be Continuedです(´・ω・`)
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