伝説のTS美少女ポケモン吟遊詩人はサトシストッパーになるようです   作:GT(EW版)

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 一応最終話のつもりですが……


セキエイリーグ優勝! サトシ最終決戦!!

「サトシくんとシゲルくんが来てくれない……悲しい……」

「落ち込みすぎでしょ」

 

 それからのことである。

 場所はマサラタウン最大のランドマーク、オーキドポケモン研究所。

 ポケモンリーグセキエイ大会が全日程を終えた今、私とポケモンたちは慰労パーティーに参加していた。

 

 終わってみれば今回のセキエイ大会は、このマサラタウンから3人の成績上位者を輩出する大変名誉な結果となった。その当事者である私とシゲル君、サトシ君とそれぞれのポケモンたちのリフレッシュを兼ねて──というオーキド博士からの大変ありがたい厚意である。

 

 確かにポケモントレーナーの集大成であるポケモンリーグでのバトルは、一戦一戦が通常のバトルの比ではないカロリー消費だったからね。私は普段そこまで節制しているわけではないのだが、今日も風呂上がりに体重計に乗ってみたら少しだけ痩せてしまったものである。

 

 全体的にポケモントレーナーがスリムだったり筋肉質だったりするのも、ポケモンバトル自体がトレーナー自身も体力を消耗する過酷な競技であるということだろう。

 なので、今日は思いっきり食べて飲もうと思う。TS美少女ポケモン吟遊詩人の優雅なオフ日である。

 

 

「は?」

 

 

 なんだいブルー? そんな嫉妬に駆られた哀しみの王女みたいな顔して。

 

 ……いや、キミだって痩せてるじゃないか。そのスタイル、見ればわかる……至高の美貌に近い。

 いや、本当にモデルさんのようになったねー。そのハイカラな服といい、カリスマ感が全身から溢れ出ているよ。よっカリスマデザイナー。

 

「それはどうも……って、私らがこのスタイルを維持するのにどれだけ苦労してると思ってんのよ!」

「私に言われても……」

 

 

 ──そう、今私のことを何故か呆れた目で見ているこの少女がブルーである。

 

 黒いワンピースとサファイアのイヤリングが印象的な茶髪ロングの美少女は、マサラタウン出身者の1人にして7年前に私とナナミと共に旅立った同期でもある。

 そんな彼女は17歳にして人気ファッションデザイナー、ポケモンコンテストでも数々の栄冠を手にしたトップコーディネイターの1人であり、今や我々世代が誇る押しも押されもせぬ鬼才だった。

 

 そんなブルーは普段から物凄ーく忙しく、私としてもここ最近はナナミ以上に会う機会が減っていたものだが……彼女は私がセキエイリーグに出場すると知るなり、イッシュ地方から遥々来訪し準々決勝から見に来てくれたらしい。

 つまりは丁度、私とサトシ君の試合からの観戦である。

 

 そしてそんなブルーの他にも、もう1人の同期であるオーキド・ナナミもまた、久方ぶりにタマムシシティから帰郷してきていた。

 その彼女は今、この地方で最も流通した通信端末であるポケギアを使ってシゲル君と通話している。

 

「……あらそうなの? それはとっても気になるけど……おじいさまもヒイちゃんもみんな待ってるんだから、早くお願いね」

 

 何はともあれ、今日は2人がパーティーに出席してくれて助かったよ。

 大会の優勝者である私が主賓のくせにテーブル席に1人ポツンでは、あまりにも悲しいパーティーとなっていたところである。

 

 しかし予想外だったのは、私の他に祝われるべきこのパーティーの主役2人の姿が未だに見えないことだ。どこ行ったんだサトシとシゲル。

 あの2人、この時何かやってたっけ? アニメの知識ももはや大部分が歯抜けているため、今彼らが何をしているのか私にはその情報が一切わからなかった。

 

 そんな私は彼らを待っている間、サトシ君のベトベトンと元気に戯れているオーキド博士の姿を眺めたり同窓会もかくやとばかりに2人の同期との駄弁り合いを楽しんでいた。

 

 今この場に集まっているのは私とブルー、ナナミの他には研究所の主人であるオーキド博士と、飛び入り参加したシゲル応援団の女の子たちがいる。

 

 それとサトシ君のママことハナコさんと旅の仲間のタケシ君、カスミちゃんといった錚々たる面々である。

 

 多分、私のせいだと思うが何とも女性比率の高い集まりとなってしまったが……タケシ君が楽しそうなのでこれもヨシとする。見目麗しい女性陣に彩られたこの研究所で、彼はこの日初めて会ったブルーとナナミにも例によって猛烈なアプローチをかけていたものだ。

 この2人は私以上に素敵なお姉さんだからさもありなん。私が1番美少女なのは譲らないがね。

 

 しかしこの時、面白いことにブルーは「そ、そう……」と彼の堂々たるアプローチに対してしどろもどろな反応で私に助けを求めていた有様であり、相棒のカメックスがセコムしてくれるまで随分と押されっぱなしだったものだ。

 見た目はギャルっぽく普段は気の強い男勝りな彼女だが、意外にも押されると弱いことが判明した瞬間である。初めて知った友人の一面に対して、私はこの胸にときめきを覚えた。

 

「ブルーはあざといね……」

「アンタが言うな!」

 

 そしてそんな彼女とは反対に、ナナミの方はタケシの攻勢に対して「ごめんなさい、心に決めた人がいるので」ときっぱり断っていたものだ。

 おそらくは方便だと思うが、大人しそうな見た目に反してバッサリとした対応には彼も「あ、そうですか……」と穏便に引き下がったほどであり、日頃から随分手慣れている印象を受けた。

 やはりアレかな? 普段から研究業で男性研究者と関わる機会が多いからか、その手の話には私たちの中で1番耐性があるのだろう。

 シゲルの姉という存在はアニメにははっきり出ていなかったと思うが、流石はポケモンシリーズのその他あらゆるメディアミックスで「美人なお姉さん」として描かれていたナナミさんである。

 特に「電撃!ピカチュウ」に登場したシゲルのお姉さんの姿は、基本歯抜けだらけな前世の記憶にも強く染みついていたほどだ。名前は確かナナミじゃなくてサツキだったけど。

 私の親友であるこのナナミは、どちらかと言うとSPECIALな方の容姿に近い気がするがそれはそれとして。

 

「ナナミは罪な女だね」

「うーん……ヒイちゃんだけには言われたくないわね」

 

 なんでさ。

 

 

 ……さて、そんなこんなで当初思っていたよりも賑やかになったパーティー会場である。

 

 これだけの美少女たちに囲まれたパラダイスの中で、いつにも増して(私の前ではいつもだけど)ハイテンションになっていたタケシ君が、サトシ君たちが来るまでの場繋ぎとして「僭越ながら……」とマラカスを振り回し例の歌を歌ってくれた時はその美声とクソ度胸に思わず感激してしまったものだ。

 

 これが本物のタケシのパラダイスか……あの伝説の……!

 

「すごいねタケシくん! 即興でこんなに楽しい歌を歌えるなんて」

「!! ハイッ! 自分の十八番です!」

 

 私もリュートでデュエットと行きたかったが、今は完全にオフモードなので弾く気は無い。

 衣装もリュートも羽根帽子共々今は実家に預けている。何よりこうして上着を脱いでいる軽装の状態だと、どうもスイッチが入らないんだよね。

 

 ブルーがデザインしてくれた吟遊詩人の衣装、上着やベルトを外すだけでも涼しげな白いワンピースのような軽装に変わるからオンオフの切り替えが楽で助かっている。おかげで今の私はいつもより身軽に踊ったり手を振ったりすることができた。

 よっ! タケシくん! にくいねー! だいとうりょー!

 彼のやたらとキレのあるマラカス捌きには、その代わりとして声援と惜しみない拍手を進呈したものであった。

 

 ……そうしたらカスミちゃんから信じられないものを見るような目で見られたが、まあ宴の席である。私だってこのくらいはしゃぐことはある。

 

 

「ブルーさん……ヒイカさんってもしかして、実は凄くノリが良い人だったりします?」

「……あなたは薄々感じていたみたいね。ええ、こういう奴なの。本当に世を儚んでいる時もあるけど、こんな顔して案外ノリが良い奴よ」

「……サトシたちには言わないでおこ……」

「それでも今日ばかりはまあ、はしゃぎたくもなるでしょう。私もあそこまで楽しそうなアイツは久しぶりに見たわ」

「そうですか……」

「チョケプリィィ」「コダッ?」

 

 

 因みにカスミちゃんは出会って数分でブルーに懐き、隣の席に座りながら親しげな会話に弾んでいた。何故だ。私相手にはまだちょっと距離感じるのに……何故ブルーには即懐くんだカスミィ……!

 

 ……うん、わかるよ。2人とも水ポケモンが好きな者同士だからね。なんとなく相性が良いのではないかとは思っていた。反対に炎の私とは文字通り、水と油なわけである。

 

 しかもどうやらカスミちゃんはタケシ君のアタックからブルーを守るために颯爽と駆けつけた彼女のカメックスの勇姿を見て、その紳士ぶりに一目でメロメロにされたようだ。普段はタケシのお姉さん好きに隠れているが、そう言えばこの子の水ポケモン好きも大概だったね……

 

 その際にはボールから出した(勝手に出てきた)コダックに対し、「あんたもこういうダンディーなポケモンになりなさいよ!」「コダッ?」と馴染み深いやり取りを交わし大いに和ませてもらったものである。

 

 コダックは勝手に出てきた口だが、皆のポケモンたちも今はボールから一斉に解放されて思い思いにリラックスした姿を各所で見せており、程なくしてパーティの垣根を越えたそれぞれのコミュニティーを構築していた。

 

 私のウインディはシゲル君のウインディのところにいて、私のキュウコンはタケシ君のロコンと一緒にいる。やはり希少な同族同士ということもあり、弾む会話も多いのだろう。

 因みにアブソルとウルガモスはこういう人の多いキャピキャピとした場は苦手なようで、彼らは自主的にボールに篭って就寝している。

 ロトムはパーティーの料理を作っているハナコさんたちの姿を見て奉仕精神が刺激されたのか、厨房でハナコさんやバリちゃんたちを手伝っている。

 

 そして、リザードンはと言うと──

 

 

 

 

「グルル……」

「チョキチョキチョキチョキッ、チョッキプリィィィ!」

 

 

 

 庭のところで今、トゲピーの滑り台になっていた。

 

 

 

 

 ……いや、これには私も驚いたよね。

 

 私のリザードンはああ見えてチームワークを大事にしており決して孤高を気取っているわけではないのだが、見た目やバトルの時に見せた苛烈な印象のせいか、最初は皆さんがたのポケモンたちから萎縮され、怖がられている様子だった。実際、気難しい性格ではあるからね。その反応が完全に誤解というわけでもないのが難儀な性格である。

 その状況を見かねてか、勝手知ったる幼馴染の仲であるブルーのカメックスが「やれやれ、仕方ない奴だな君は」と言わんばかりの様子で仲介役を買って出ようとしたが──そんな彼よりもいち早くリザードンのもとへ歩み寄っていったのが、カスミちゃんの手からトテトテと離れたトゲピーだった。

 

 カスミちゃんはもちろん、シゲルガールズも含む一同の「えっ、近づけて大丈夫なの……?」と見守る視線の中──トゲピーは周囲の心配もどこ吹く風という様子でリザードンと向き合うと、無邪気に「あそぼう」と呼びかけているようだった。

 

 その物怖じしないトゲピーの純粋さを前にして、リザードンは豪快に笑った。

 その後、今ではその背中や尻尾を貸して遊んであげている様子である。まるで強面の保育士さんと無邪気な園児のような心温まる光景に、私たちは大いに度肝を抜かれた。

 

 長年付き合ってきた私からしてみても、初めて見る相棒の一面だった。お前、子供には優しかったんだな……って。

 

 知らず知らずのうちにポケモンも成長するものなのだと──昔のクソガキだったヒトカゲの姿を思い出しながら、育ての親としてしみじみ思った。

 

 

「子供が嫌いじゃないなら、もう少し優しい顔をすればいいのに……不器用なところは、一体誰に似たのやら」

「アンタでしょ」

「ヒイちゃんそっくりね」

「……?」

 

 

 えっ、昔の私あんなにツンデレだった?

 嘘でしょ……盛りすぎじゃない? このヒイカって美少女キャラ。

 

 

 

 ──と、そのようにしてしばらくパーティーを楽しんでいた私たちであったが……宴もたけなわという状態の中でも未だに姿を現さない2人の主役に、私はこの日何度目になるかもわからない嘆きを呟いた。

 

 

「サトシくんとシゲルくんが来てくれない……悲しい……」

「どんだけ悲しいのよ……わかったから」

「悲しい……私がいると気まずいのかな……?」

 

 

 私もあの子たちからリザードンみたいに遠巻きに見られていたのだとしたら、かなりショックである。今にも泣きそう。

 何が悲しいかって、客観的に見た私は彼らからそう扱われるに足る要因がありすぎることだ。

 

 そりゃあ参加しづれぇでしょうよ……キミらを労う為に開いたパーティーに、キミらを揃って打ち負かした女が出てるんだもの。

 しかもそれが、同年代のライバルでもないポッと出のサトシストッパーと来た。

 

 ラララ~わたしは炎の伝説厨〜冷たい炎はみんなを火傷させるぜ〜……♪

 

「今日の主役がシケた顔してるんじゃないの。勝負の世界なんだから仕方ないでしょう。……まあ、私があの子たちと同じ立場だったら悔しくて来れなかったでしょうけど」

「……そう……」

「ブルーちゃん!」

「メンゴ☆」

 

 確かにこのしょんぼりした覇気の無い顔は、私のことを慕ってくれている子たちには見せられない表情ではあるけれど……そんな私の周りには現在、私の本性というか本質を理解している関係の友人しかいないので遠慮無く今の気持ちを漏らした次第である。

 タケシ君とカスミちゃんがオーキド博士やハナコさんと、シゲルガールズが仲間内で話し込んでいる今の時間は、私も本当の意味で素の自分を出せるのかもしれない。

 

「ヒイちゃん、さっきシゲルから連絡来たわ。そろそろ来るって。サトシ君も一緒みたいよ」

「!」

「うわ、露骨に嬉しそう……いや、嬉しいならもっと笑いなさい! このこの」

 

 やめい、頬を指でつつくな。

 ちゃんと笑えているだろう昔よりは。

 

 だけど、そっか……来てくれるのなら、2人とも敗戦から立ち直ってくれたということでいいのだろう。確かにブルーの言う通りそれが勝負の世界ではあるが、2人はまだ挫折を知らない10歳。打ち負かした張本人としては、どうしても気に掛かってしまうのだ。

 尤も2人がそんなことで潰れるタマではないことは、最初からわかっているのだけどね。

 

 

「だけど驚いたわ。あんたが今更リーグ戦に出るって聞いた時も驚いたけど、まさかこのど田舎から3人もベスト8に残るなんて」

 

「ま、あんたは別としても、ナナミの弟なら意外でもないか……」と、ブルーが呟きながらワイングラスを優雅に傾ける。

 

 そんな彼女が「ん」と差し出してきたグラスに向かって私が自分のグラスを当てると、カウンターで待機しているナナミのフシギバナが器用なツル遣いで注いでくれたブドウジュースをちびちびと啜っていった。

 うむ、流石は名バーテンダー……結構なお手前です。

 

 しかしこれがアルコールの入った本物の赤ワインなら、もっと大人のTS美少女として格好がついたのかもしれないが──言っても仕方ないか。10歳から独り立ちする者も珍しくないこの世界だが、残念ながら酒類の解禁に関しては前世の法律と変わらないのである。

 

 酒を飲むにはあと3年……短いようで長い辛抱が必要だ。

 

 私が「できることなら3年後、3人で飲み交わしたいね」と、やがて来るべき時に思いを馳せていると、ナナミは「そうね!」と嬉しそうに笑み、ブルーは「……そういうとこ、変わらないわねアンタ」と頬を赤くして返した。

 

 確かに小っ恥ずかしいセリフだったかもしれないが、私には未だ、キミたちの他に酔った自分の姿を見せてもいいと思える相手がいないのだよ……

 

 私の知名度は今回の大会を通して爆発的に上がったのは間違いないだろうが、ポケモン吟遊詩人の出会いは基本的に一期一会──これまでと変わらず、全ては風の赴くままである。

 それでなくとも昔から……おそらくは前世からだろうが、対人関係の苦手な私である。この交友関係がたった3年でそこまで改善するとも思えず、特に改善する気もなかった。

 

 しかしそれでも私はこの人生で最初の酒を口にする時、その気持ちを共有する誰かが傍にいない未来はとても寂しいと思ったのである。

 

 もちろん、先のことはわからない。20歳になった私たちは、お互いさらに忙しい身の上になっているかもしれないが……それでもね。

 

 できればその時は、ここにいる3人で飲み明かしたいのである。

 

 

「ヒイちゃん……!」

「あーもうわかった! わかったからっ! 3年後も今日みたいな時間はいくらでも作ってやるから、そんな捨てられたガーディみたいな目をしないで!」

 

 

 してないし。

 

 まったく私を誰だと思っているのかね。天下のポケモンリーグ、セキエイ大会の優勝者でござるよ。

 

 ウインディはどう思う? ……ああ、してたんだ捨てられたガーディみたいな目……そっか……それはキツイね。反省する。

 

「……あ、ごめんなさいウインディ。もちろん、貴方のことじゃないのよ?」

「バウ!」

 

 この世界ならではの表現という奴だが、前世でよく使っていた比喩表現に関しては似ているポケモンの名前をそのまま当てられるケースが多い。

 それこそ私が最近引き起こした「バタフライ効果」という言葉も、この世界風に言うなら「バタフリー効果」の方が伝わりやすいだろう。

 

 ブルーの謝罪に対して私の近くでシゲル君のウインディと一緒にポケモンフーズを食べていた私のウインディが「呼んだ?」と振り向くと、私は彼女の言葉を代弁してやった。

 

「大丈夫、気にしてないってさ」

 

 今の表現が不謹慎だと気づいてすぐに謝ったのは、ブルーの人柄が出ているところだろう。

 私のウインディ、昔は本当に「捨てられたガーディ」だったからね。

 トレーナーがポケモンを捨てるというのはこの世界でも珍しい話ではないというのが、何とも悲しい話であり、私自身も当時は目から光を失うほどに落ち込んだものだ。

 

 ガーディのくせに威嚇ができなくて、これじゃ番犬にならないとかなんとか……名前は忘れたが、この子を捨てた元のトレーナーはそんなことを抜かしていたものだ。

 

 尤もそのおかげで私はこの子と会えたのだから、私としてはありがたい話である。

 ウインディの方もそれは同じ気持ちのようで……というか、「なにそれだれのこと? そんなことよりごはんもっとよこせ」と言わんばかりの今の表情は、あまりにも大物であった。……もしかしたらこの子本当に、前のトレーナーのこと忘れているかもしれない。まあいいか、あんな奴忘れても。

 

 ええい卑しい奴め。たんと食えMVP!

 

 イェーイ! 元のトレーナーリーグ戦見てたー? 今日の決勝戦は貴様が捨てたガーディが4タテしてくれたおかげで優勝できました! ぺっ。

 

 

 

 ──こんばんは、セキエイリーグ優勝者のマサラタウンのヒイカです。

 

 

 はい。

 マウント取りみたいな自己紹介ですまない。勝ちすぎて申し訳ない。調子に乗ってすまないが、今夜だけは許してほしい。既にポケモンバトルよりも伝説の弾き語りの方に力を入れて久しい私だが、優勝に浮かれる気持ちは盛大にあったのは我ながら欲張りなTS美少女ポケモン吟遊詩人であった。

 

「本当に強くなったわね、その子もキュウコンもリザードンも。なんで吟遊詩人になってからの方がチャンピオン目指してた頃より遥かに強くなってんのよ」

「ふふっ……それも伝説だから、かな?」

「ナナミ、通訳」

「伝説のポケモンを探し回る生活をずっと続けていると、自然に競合相手と戦うことが増えるから、その実戦経験の積み重ねで強くなれたのかもしれない──だって」

「なるほど、ありがとナナミ」

 

 ? 通訳介する必要あったかな。……まあ、ナナミの言う通りなので私から付け足すこともないが。

 

 表彰台の上でもインタビュアーに「どうやってそれほどの実力を?」と質問された時にはそう返したものだが、みんなして「お、おう……」と言わんばかりの反応だったのが未だに解せない私である。

 

 いや、確かに伝説のポケモンなんてそう簡単に関われないからこそ伝説と呼ばれているのだということは、当然私も理解している。しかし私たちだけが独自に行っている特別なことと言えば、本当にそのぐらいしか思い浮かばないのだ。

 

 どうやら伝説を語る伝説の旅路によって、私たちは自分が思っていたよりも強くなりすぎてしまったらしい。(ベジータ)

 

 この7年間公式戦から遠ざかっていた私たちだが、今まで巻き込まれてきた伝説のポケモンを巡る数々の事件は、実はジム巡りを超えるとてつもないパワーレベリングだったのである。みんなもやろう! 伝説巡り!

 

 

「誰でもできたら苦労無いわよ」

 

 

 ……?

 

 

「……自覚無い天才ってマジで嫌いだわ……流石私、我ながらよくこんなのと張り合えたわ」

「ブルーちゃん……」

 

 何だその、「私何かやっちゃいました?」とこれ見よがしにアピールしているチラチラ星人をウザがるような眼差しは。失礼な奴である。

 

 ……もちろん、私とて自分の力に無自覚だったわけでも、ポケモンたちの実力を疑っていたわけでもない。

 

 しかし数々の伝説との出会いが、私自身の想像を上回るレベルアップとなったことは確かな事実である。

 仮に7年前のただのポケモントレーナーだった私がそのまま挑んだとしても、ここまでやれたとは思えない。そもそもあの頃は手持ちに3匹しかいなかったからフルバトルもできなかったしね。

 

「それはどうかしら? 私も色んなトレーナーを見てきたけど、あの頃からヒイちゃんはとんでもない実力だったと思うわ」

「そりゃあ伝説のポケモンを探す旅の経験はとても大きいのでしょうけど……アンタの場合はそれ以前に、持ち前の才能と豪運ありきよね。伝説のポケモンだって狙ってもそうそう会えるもんじゃないし、それこそ探す過程で何度も死にかけるような事件に出くわすこともないわよ。普通は」

 

 失敬だねキミたちは……それでは私が普通ではないみたいではないか。

 まあ「ポケモン吟遊詩人」の冠を外しても「転生TS美少女」の部分は残るので実際普通ではないのかもしれないが。

 

 しかし私だってポケモントレーナーとして一端の実力者であれるよう、相応の努力をしている身だ。運頼みの才能マンみたいな呼び方はしないでいただきたい。

 

 あっ才能ウーマンか……でも私はTS美少女だからウーマンというのも違う……? ???

 

 

「フリーズしてる……かわいい……」

「……なにバグったポリゴンみたいな顔してるのよ。わかってるわよ、あんたたちが人並み外れた努力をしてるのは」

 

 

 ならばいい。

 

 私はともかく、この子たちの努力を才能の一言で片付けるのはいくらブルーでも許さないからね。

 

「なんで褒めてるのに怒られてるの私?」

「今のはちょっとブルーちゃんが悪いかな」

「そう……ごめん」

 

 いいよ。

 

 しかし、確かに私はポケモン吟遊詩人になる前から、一定の実力を持ってはいただろう。伝説の旅に出ることができたのは、その下地あってのものというのは否定できない事実だ。

 

 生半可な下地では、そもそも伝説のポケモンが住む過酷な環境に耐えられないからね。

 

 私だってオーキド博士やサトシ君たちほどフィジカル強くないし、何ならマサラタウン生まれの中では極めてひ弱な体質である。

 特に気温の高い熱帯地域とかよく熱中症になるし……だから温暖な気候と聞くアローラ地方には、未だに行ったことのない身の上である。そろそろ行ってみたいとは思うのだけどね。

 

 それでなくとも私にはポケモンたちの問題もある。

 寒いところだと「神ィ!」と崇められるウルガモスだって、暑いところでは「あんたなんか神じゃない!」って疎まれたりするし、この子にも嫌な思いはさせたくないのだ。なので公演をする時も暑すぎる場所はできるだけ避けておきたいという自分ルールがあった。

 

「? アローラにだって暑くない場所はあるわよ」

「そうだっけ……?」

「何なら雪山もあるけど」

 

 あれ、そうだったか。

 アローラはどうも温暖な気候のために首が伸びたナッシーのイメージが強くてな……そう言えば「氷タイプのロコン」がいるというのもアローラ地方のいずこかであったか。

 私の前世ログに残っているうろ覚えなポケモン知識は、ギリギリXYぐらいまでかすっているかどうかという半端なものである。故にそれ以降は無いも同然であり、自分自身のにわかさに苦笑する始末だった。

 

「……つくづく思うけど、その体質で炎系ポケモンと相性良いの不思議よね。氷とかエスパーとか使いそうな顔してるのに」

 

 それね、私も鏡を見た時今でもよく思う。

 実際は炎炎炎炎ゴースト悪である。氷エスパーどころか対極だ。

 あっ、おかわり注いでくれてありがとうロトム。だけどキミも、今日ぐらい休みなよー。

 

「ロトトト……」

「あらどうも。ロトムは紳士ねーデキる男って感じだわ」

「ロトムに性別は無いわよ? コイルやビリリダマと同じ無性ポケモンになるわね」

「そうなの? この間アローラで見かけた子たちは男の子っぽかったのに」

「性別と性自認はまた別の話だからね」

「そのあたりは最近デリケートだからやめましょう……」

 

 泣くなルフィ、タイプAだろ。

 因みに私の性自認はTS美少女であって男でも女でもないので悪しからず。じゃあ女の子じゃんって? ……この話はやめよう。私の精神衛生的にも色々と刺さる。

 

「と言っても、最近は研究が進んだことで今まで無性だと思っていたポケモンに実は性別があることがわかった──という実例も増えてるのよね。私が今研究しているのも「伝説のポケモンファイヤーは女の子なんじゃないか」って内容だったり」

「えっ、そうだったの!? ……ってか、ナナミって今そんなこと調べてるんだ」

「私が布教しました」

「ふふっ、そうね。誰かさんのおかげで私も伝説のポケモンに興味を持って……たまに送られてくるヒイちゃんの写真がそれはもう、凄く役に立ってるのよ」

「……頼もしい協力関係だこと」

 

 私も私で、ついでに撮ってきた数枚の写真がナナミの手でとんでもなく分厚い論文に魔改造されるのを見るのがとても楽しみだったりする。

 私もポケモン吟遊詩人として伝説のポケモンたちのことを語る以上、少しでも解像度を上げるためにポケモンの教養を押さえておくのは必須だからね。聴衆から「その情報古いよ!」と指差して笑われようものならとんだ赤っ恥になる。

 

 私はナナミの行けない場所で伝説のポケモンと出会い、ナナミはそれを資料の1つとして知見を深め、私のわからない学問を研究する。ポケモン吟遊詩人とポケモン研究者は、思っていた以上に相性が良い仕事だったのだ。

 

 そんなわけで私とナナミは友人関係であると同時に、現在は互いの利害が一致したビジネスパートナーでもあった。

 

「そう言えばセキエイ大会の開会式で「ファイヤーが出た」って噂を聞いたけど、それは本当なの?」

「本当だよ」

「本当……って言い切るには、色々と不可解な点も多いんだけどね」

「……どゆこと?」

 

 いや、あれはファイヤーだ。私がそう判断した。

 

「まあ、あんたほどの伝説マニアがそう言うなら……」

 

 うむ、あれには私も驚いたよ。今思い出しても感激が胸に染み渡ってくる。

 

 セキエイリーグでは今大会まで代々受け継がれてきた伝統行事として、スタジアムにある種火に伝説のかえんポケモンファイヤーの聖火を灯す聖火リレーが行われている。

 それは本来厳かに行われるべき神聖な行事であったが、開会式当日──聖火の価値に目をつけたロケット団が乱入し、ランナーから聖火を奪う事件が発生したのだ。

 

 その開会式にはもちろん私も参加していたのだが、その時私はおぼろげなアニメの記憶に「あー……なんだっけ……?」と、思い出せそうで思い出せない喉の奥に引っ掛かったような前世の記憶に悶々としていたものである。

 

 アニメのファイヤーって、本人よりもコジロウがファイヤーになる回の方が印象に残っていたから困る。アレは衝撃的すぎたから。

 

 故にその回の出来事を思い出したのはロケット団を止めようと勇敢に飛び出したサトシ君を、ロケット団のびっくりドッキリメカが聖火の力を以て追い払おうとした時のことだった。

 

 ロケット団の奪った聖火の炎──それがひとりでに火の鳥の形に変わると、その突進によってロケット団のメカを一撃で粉砕していったのである。

 火の鳥はそのまま羽ばたいて空に舞い上がると、自らの意思で聖火台の中へと舞い降り、その種火に炎を灯していった。

 

 伝説の鳥ポケモン、ファイヤー自身がその場にいたわけではない。

 

 しかしファイヤーの聖火が恐らくファイヤーの意思による遠隔操作を受け、自身の現し身として顕現しサトシ君を守ったというのだ。

 この目で見なければ、にわかには信じがたい……あまりにも常識外れな特異現象であった。

 

「あれはまさに、火の神様と呼ぶに相応しい離れ業だったね。ポケモン吟遊詩人などと伝説の語り手を気取らせてもらっている私だが……彼ら──彼女らのことはまだまだ知らないことだらけなのだと思い知らされた」

「そうね……私ももっと勉強しなくちゃ」

「それはまた……大変な体験ね」

 

 因みに私もファイヤーとは過去に何度か出会ったことがある。

 それぞれ出会った場所も個体も別であったが、ナナシマで1匹、オレンジ諸島で1匹、カロス地方で1匹とそんな感じだ。……あっ、亜種と思われるガラル地方の子もいたね。だから今回のセキエイこうげんの個体で5匹目になるのか。

 

 しかしまるでホウオウのような神秘的な特異現象を引き起こした今回の個体は、今までに私が見てきたファイヤーの中でも特殊な個体だったのかもしれない。こちらは私の想像だが……セキエイリーグはまさしくそんな神様に見守られた聖地だということになる。

 

 ……あと、その時ロケット団を相手に如何にポケモンリーグが夢の舞台なのかと啖呵を切るサトシ君の姿はカッコ良かったよ。

 

 ロケット団の手口を1番知っていたからというのもあるのだろうが、私も含めてあれだけいたリーグ出場者の中で、いの一番に前に出てきたのはやはり並大抵の胆力ではない。無鉄砲なだけだとシゲル君は言っていたが、私にはどうしてもそんな勇敢な少年の姿に尊いまぶしさを感じてしまったものだ。

 

 努力で身につくものではないからね……あそこまでの度胸は。

 

「……ま、光る物はあると思うわ。確かにあんな子と出会ったら、リーグに出たくなる気持ちはわかるかも」

「えっ、ヒイちゃんサトシ君が目当てだったの? てっきり炎使いとしてあの子のリザードンが気になったのかと」

 

 それも無いと言ったら嘘になるが……炎使いとして、というのとはまた別の話だ。

 

 私はグレンジムリーダーのカツラさんのような炎タイプのエキスパートを自負しているわけではないからね。パートナーのヒトカゲは別としても、私は直感的に、私と相性が良さそうだなと思ったポケモンを仲間にしてきた。

 なんとなく炎タイプと相性が良い気がしたからなんとなく似たような連中が集まって、そのままなんとなくで旅を続けたところ、なんとなくでジムバッジを集め終えてしまったというのが7年前の私である。

 何とも空虚なクソガキであろうよ。それと比べて彼らの、なんと中身のある子供たちか。

 

 

「サトシ君と……シゲル君には期待しているよ。2人とも、私にはない物を持っているから」

「シゲルも? それ聞いたら、本人も喜ぶと思うわ」

 

 

 サトシ君は言わずもがな。いつもいつでもテキトーに生きている私と違って、常に全力で生きているハングリーな向上心と根性、ポケモンたちの力を限界以上まで引き出す爆発力は私には持ち得ないものだ。

 

 シゲル君は何と言ってもポケモンゲットが上手い。……この言い方だと雑な褒め方に聞こえるかもしれないが、ただポケモンを捕まえる手際が良いだけでなく、ゲットしたポケモン1匹1匹に丁寧に向き合い、その特徴を理解することで相手に合わせたパーティ構成を自在に変えていけるのが彼の強みである。

 

「ナナミの弟くん、カメックスを中心に徹底的に炎対策をしてきたものね。ゼニガメを選んだセンスも確かにナイスだけど……それでもアンタとのレベル差は覆せなかったのに、随分高評価なのね」

「流石に今はまだ完全に仕上がっていないからね。だけどレベルの差なんて、もう少し時が経てば自然に埋まるものだよ。近い将来、彼が捕まえた全てのポケモンが仕上がった時を思うと……とんでもないトレーナーになると思わない?」

 

 特にあの子はバッジを8つ集めればリーグ出場できるところを、自分が捕まえたポケモンたち全員にバトルの経験を積ませる為、10ヶ所ものジムを突破してきたストイックさがある。やる男だよ、彼は。

 

 私のジム挑戦なんて元から3匹しか捕まえていないから全部同じメンバーだったし。

 

 

「そう言えばあなた、ゲットだけはそんなに上手くなかったのよね。……もしかして今も?」

 

 

 ……さて、何のことやら。

 逆に言うと、キミらが上手すぎるとは思わないかね?

 

 キミら、私とそんなに筋力差無いのになんであんな遠くへボール投げられるの?

 この世界の人たち、女の子も普通に肩強いしコントロールも良すぎる……下手したら私の中で1番カルチャーショックを受けた事例かもしれない。

 

 私が投げたへなへなボールなんて、遠くにいるポケモンに運良く当たったところで反応しないこともザラなのに。

 

 

「ねえナナミ……もしかしてだけど……ヒイカが伝説のポケモンと出会いまくってるのに1匹も捕まえてないのって……」

「かわいいのよ? ヒイちゃんの投げ方。こう、7歳ぐらいの女の子投げって感じで」

「違うからね。私が伝説のポケモンを捕まえていないのは、捕まえる気が無いだけだからね?」

「……いつも「お前なんてこれで十分だ」って感じで、下から雑に放り投げてたから「何気取ってんのよコイツ」と思ってた。マジで苦手だったのね。ごめんなさい、今になって誤解が解けたわ!」

 

 

 やめい。そんなスッキリした笑顔から哀れみの目で見つめるのは。やめて……

 

 ナナミ! 私のフォームを真似するな! そんなに可愛い投げ方してないから!

 

「ふふ……ごめん、悪ノリしちゃった」

 

 まったくもう……誰にだって苦手なことはあるのだ。まあ私は別に気にしていないが……あっこのターキー美味い。

 

 もきゅもきゅ……私は別に気にしていないが、絶対誰にも言うなよ?

 特にサトシ君やシゲル君たちには絶対言うなよ? フリじゃないからね。

 

「言ったら面白そうね!」

 

 やーめーろー。

 

 ……こんなこと、私のことを尊敬してくれてる子たちに知られたら幻滅される。私が見栄っ張りな奴なのはキミらも知っているだろう。

 

「……幻滅はしないんじゃないかしら。寧ろ……ねぇ?」

「ねー」

 

 ねーじゃねぇんだよ。

 とにかく私が嫌なのです。TS美少女ポケモン吟遊詩人のブランドに傷がつくからな……

 

 

 ……私がノーコンノーパワーなことはどうでもいい。

 

 別に、旅に出てからそれで不便を感じたこともない。フィールドにボールを届けるならトスで十分だし、ゲットするにしたって当てられるところまで近づいて適当にボールを落とせば良いだけの話だ。

 

「まあ、それは確かにそうね」

「うん、投げるのが苦手な子にはそうするように、時々私が開いているポケモン講座でも教えてるわ」

 

 だから私がポケモンを全然捕まえないのは、単にやる気の問題である。

 私は最初からポケモンの大量ゲットには興味なかったし、古くから遡れば前世のゲームでも図鑑のコンプリートを目指したことはなかった気がする。

 

 私のプレイスタイルは出会ったポケモンの中から直感的に「いいな」と思ったポケモンだけを捕まえ、育てて、殿堂入り後にパーティが完成したところで満足して終わる。そんなテキトーな感じだったのだ。

 

 ……せっかくポケモンの世界に転生したというのに、リアルでもそんなスタイルを続けているのが私である。

 仮に私が球技もこなせる運動神経抜群の模範的マサラ人だったとしても、7匹以上のポケモンを捕まえることはなかったように思う。

 

 まず前提として、そこまでたくさん捕まえたポケモン全員に対して平等に愛情をかけられるかと思うと……断言しよう。私には無理だ。

 

 私はシゲル君ほど器用ではないし、サトシ君ほどハートフルなトレーナーでもない。

 

 ……カッコつけて言ってみたが、割と情けないな私。うわ、もしかして私ってダメな奴……?

 

 

「急に鬱にならないの! あと、中見えてるからその格好で体育座りしないって言ったでしょ。……しっかりしなさいよ、チャンピオン」

 

 

 ……おっと失礼。ノンアルなのに酔っ払っているような躁鬱さですまない。

 

 だけどこの角度ならキミらにしか見えていないし、別に良くない? リュートを弄るときも楽なんだよね、膝立てて座るの。

 

「ナナミ……」

「私のせい!?」

 

 まあ、確かに椅子の上でこの座り方をするのは親しい仲でもはしたないのでやめておこう。

 私としては、これも名探偵の座り方のようで落ち着くのだが。

 

 ん……話を戻すがそういうわけで、私の場合は最初の1年間の旅でゲットするに足る波長の合うポケモンはガーディとロコンしかいなかったという事実である。

 私の捕獲技能がダメダメなことは否定しないが、そもそも私に合うポケモンがいない以上仕方あるまい。

 

 それから3匹とも順調に力をつけ、鍛えた技で勝ちまくっていたら特に他の仲間を増やす必要もなく8つのジムバッジを揃えてしまった──というのが私の10歳の話である。

 

「ヒイちゃんが全然ポケモン捕まえないことには、昔おじいさまが困ってたわね。「旅立ってもう何年も経っておるのに、ヒイカ君から全くポケモンが送られてこんのう……もしや! ワシの他の研究所と契約を!?」って何度もソワソワしたり落ち込んでいたわ」

「あっはは! さすが孫ね! 物真似うまーい!」

 

 ……そんなに上手いかな?

 前から思っていたが、ナナミのそれはどうしても可愛さが勝ってしまうから博士に似ていないと思うのだが。

 

「そ、そういうことを真面目な顔で言う……っ」

「この女……昔より気安くなった分、前より酷くなってやがるわ。仕事でポエムばっかり作ってるからかしら?」

 

 ポエムではない詩だ。弾き語りだがな……

 

 私は私だよ。昔も今も変わらない。ブルーがブルーで、ナナミがナナミであるようにね。

 

 

 

 

「……で、これからどうするの?」

 

 

 満月の見えるガラス張りの壁の前で、ブルーが傾けたワイングラスを月の光に照らしながら問い掛けてくる。 

「あっ、この角度から見ると綺麗……」とグラスの表面に目を落としながら呟く彼女に、私が「キミの方が綺麗なんじゃないかな」と率直な感想を述べると、彼女は何とも微妙なジト目で睨んできたものである。

 

 そんな冗談を交えてはみたが、彼女の質問には至極真面目な意図が込められていたので、私も真面目に返すことにする。

 

 どうする……か。さて、どうしようかね? これから先。

 

「今回の優勝でチャンピオンリーグへの挑戦権を得たけど、こちらは絶対に出なくてはならないわけではないからね……既に私の目的が達成できたことを思うと、正直この先には興味無いかな」

「でしょうね。あんたはそーゆー奴だもの」

 

 大会優勝のその先にある舞台──地方最強の四天王たちが待つチャンピオンリーグへの挑戦を夢見るトレーナーたちは星の数ほどいる。

 しかし彼らは彼らで、私は私である。みんながそうしているからと、私がそうしなければならない理由は私にしかないわけで。逆に私から他の者たちに対しても、伝説の旅を強制する権利は持ち合わせていないのだ。

 

 応援してくれた人たちは、みんなの期待に応えてくれない私を不満に思うかもしれないが……こればかりは本当に仕方のないことだ。

 

「まあ、それならそれでいいんじゃないの? モチベーションも無いのに次の大会に進んでも、ポケモンたちだって困るでしょうし……いや、あんたのポケモンならそれはそれとしてノリノリで戦いそうだけど」

「そうなんだよ。よくわかってるね」

 

 本当にそれ。この子たち、私と波長が合いすぎる……

 

 これだけ戦えるのにバトルへの意識はほどほどで、今まで公式戦に出場しようとしなかった私に嫌な顔1つせず付き合ってくれるのは本当にありがたいことである。都合の良い彼氏彼女みたいにデキた子たちである。

 

 もちろん、この子たちが1匹でも「俺たち鬼つええ! このまま立ちはだかる奴ら全員ブッ殺していこうぜ!」ってノリだったのなら、私もその意思を汲んであげたいと思っていたのだが……この大会で活躍した3匹はもちろん、他の3匹も「別に……」というのが実際の感触であった。

 

 血の気多め勢であるウインディとキュウコンは今回の大会で思う存分暴れ回ったと満足気だったし、リザードンは元々「最強の座を狙う」というよりも「自分が最強だと理解しているタイプ」だ。うん、自分で完結している感じのね。だから俺より強い奴に自ら会いに行く──という意識からは似ているようで外れている子だった。

 

 それでも私が「うるせえ! やろう!」と一言でもかければ「良かろう! このキングの力を目に焼き付けるがいい!」とばかりに付き合ってくれるんだけどね……お互いに妙なところで受動的なのが、これまでの私たちの関係である。

 まあ、そこが丁度良いのだけど。

 

 

「ポケモンは育ての親に似るって言うけど……」

「そっくりよねヒイちゃんとリザードン。見た目と違って意外にノリが良いところとか」

 

 

 そうかな……どうなんだろう?

 

 ──で、他の3匹には今回出番が無かったことにフラストレーションは溜まっていないか確認してみたが、こちらもびっくりするほど落ち着き払っていた。

 

 寧ろロトムなんかは「大会編要らないからさっさとステージ活動に戻って!」と、まるでほのぼの美少女漫画のバトル路線変更を嫌がる読者のような圧力を最近かけてくるぐらいである。

 

 ……いや、私のロトムすっごくいい子だからそんなことは言わないけども、無言の圧力は感じていた。

 彼はバトルよりも公演の仕事を手伝っている方が目に見えて楽しそうな様子だからね……ありがたい子である。いつもありがとうね。

 

 アブソルはリザードンよりも露骨に、行動方針を全面的に私に委ねているところがある。

 昔、彼をゲットした時に色々あったからね……「わざわいポケモン」として人々から忌み嫌われ続ける生命に絶望し、この世界そのものにまで嫌気が差していたところに、当時の私が色々とおせっかいを焼いたりして……以来、どういうことか彼はちょっとやり過ぎなくらい、私の忠臣として働いてくれていた。

 

 私のパーティの中では唯一炎タイプと縁がない悪タイプのポケモンだが、トレーナーに対しての感情が時々強火に感じるという意味では、この子も実質炎ポケモンと言えなくもなかった。……言えないか。

 

 最後にウルガモスについてだが──彼女のことは実はまだよくわからない。

 

 いや、本当にわからないのだ。パーティの中では1番最後にゲットした新参なのだが、ゲットした時も朝起きたらいつの間にかボールの中にいたぐらいで……野生時代から変わり者というか、多くの人がイメージする「伝説のポケモン」ってこういう感じなんだろうなってぐらい、つかみどころの無いミステリアスな子だった。

 

 虫タイプ特有の感情が読みづらい目をしているのもあってか時々何を考えているのかわからないことがあるが、こちらの指示には素直に従うので懐いてはいる……のだとは思う。

 昔出場した「虫タイプ限定のバトル大会」でも、快く大暴れしてくれたし。

 

「虫同士のバトルに炎複合はずるいわね……」

 

 なんとでも言え。私とて勝たなければならない時はある。何と言ってもその大会の優勝賞品は今私が使っている「天界のリュート」だったのだ。

 

 あのリュート、凄い頑丈で耐熱性も防水性も高く、今ではこれなしでの吟遊生活が考えられない代物である。

 

「えっ、そんな凄そうな名前だったのあのリュート」

「見た目は普通の楽器に見えたけど……」

 

 ああ、元々はその名前に相応しい豪勢な装飾が施されていたのだけど、無駄にゴテゴテしすぎていて弾きにくかったからね。思い切って全部外してみたのである。見た目もちょっとダサかったし……

 そうしたら今ではキミらが知っての通り、外見上はそこそこ高そうな普通の弦楽器という感じに落ち着いたものだ。

 

「なんか……凄く罰当たりなことした気が……」

 

 ? まあ優勝賞品を勝手に改造したのはアレかもしれないが、愛用の楽器のカスタマイズぐらい業界では普通だよ。

 寧ろリュートゲットの立役者であるウルガモスが、私以上に元のデザインが気に入らなかったみたいで──無駄にゴテゴテしていた部分を無言の「むしくい」で破壊していたぐらいである。

 思えばあれが彼女が行った最初で最後の暴走だったなぁと思う。

 

 彼女は実際に伝説の太陽神として崇められていた個体の末裔みたいだからね。言わば伝説中の伝説、エリート伝説である。

 しかも優しい。私が雪山で遭難した時なんかもその「ほのおのからだ」で温めてくれるからいつも助かっている。

 

「いつも助かるぐらい遭難しないでね」

 

 そしてそんな彼女の怒りを買うぐらいダサい装飾だったということは、寧ろ元の状態の方が罰当たりだったのだと思われる。私はそう思っている。

 

「どんだけダサかったのよ元のデザイン……」

 

 私はそこまで嫌いではなかったけどね。修学旅行のお土産みたいなキラキラ感が結構イカしていた。

 

 しかしウルガモス以外のポケモンたちにも不評でアブソルなんか急にキレてリュートごと叩き割ろうとしてきたぐらいだし……

 

「……アブソルが反応するってことは、呪いの品か何かだったんじゃないかしら?」

 

 そう思う? 一応祈祷師のおばちゃんにキエーイとお祓いしてもらったから今は大丈夫だと思うけど。

 

 何ならアレを使い始めてからより運気が回ってきて心なしか伝説のポケモンとの遭遇回数が増えたような気がする。

 この間もオーレ地方で縦断公演しに行った時、空を飛んでいるホウオウの姿を見かけてね。あの時は急に帽子の羽根が光り出したからびっくりしたよ。

 

 ホウオウはすぐに消えてしまったけど、あちらもこの羽根を持っている私のことを認知していてくれたら嬉しいと思う。

 

 

 ああ、そうか──これからどうするか……そうだね。

 

 

 サトシ君たちと戦っていたら、なんだか私自身も自分の夢を、さらに追いかけてみたくなった気がする。

 

 

「私は……この世界のどこかにいる、虹色のポケモンへ会いに行こうと思う」

 

 

 そんな、私の夢である。

 ポケモン吟遊詩人として彼らの伝説を語り継いでいくのもそうだが、ホウオウとは直接会って、感謝の気持ちを伝えたい。生まれてきてくれてありがとう、私たちを見守ってくれてありがとうと。

 

 

 マイペースな私がそんなささやかな夢への歩みを少しだけ早めていきたいと思ったのはきっと、あの子たちの影響だろう──。

 

 

 研究所の扉を勢い良く開けて入ってくるなり「ごちそう、まだ残ってる!?」「ピーカッチュウ!」と元気な姿を見せる、赤帽子の少年と黄色いベストフレンド。

 

 そしてそんな彼を「レディーたちを前に素行がなっていないねサートシくんは」と呆れた目で見ているツンツン頭の少年の姿を見て、私は思わず安堵の息を吐いた。

 

 

 あっ、シゲル君の横にいるキミはブラッキー! ブラッキーじゃないか!

 

 

 そうか……こんな時間に離れていた用事ってイーブイの進化のことだったのか。それならパーティーより優先して然るべきだろう。

 

「っ、ヒイカ先輩?」

 

 おう、ヒイカ先輩だよシゲルくーん。

 薄着で帽子もリュートも着けてないから気づかなかったかね?

 

 ちょっと失礼。あっ良い感触……ブラッキーは初めて触ったけど、意外にもふもふなんだね。

 昔前世で飼っていた黒猫ちゃんを思い出してなんだか感傷的になる。長生きするんだよー。

 

 

「……ブラッキーにしたんだ。今夜は満月だし……心地よい光を浴びたみたいだね」

「ブラッ!」

「貴女にはやっぱりお見通しでしたか。何も知らないサトシのことは、体よく利用してやりました」

 

 

 なるほど。

 

 2匹とも疲れている様子から察するに、サトシ君とピカチュウには私のせいで消化不良となっていた「ライバル対決」を名目に1対1のバトルを申し込み、イーブイのレベルアップを手伝わせた──ってところかな?

 

 うんうん、それも伝説だね。ヒイカお姉さんはお見通しですぞー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……なにその展開……私知らないんだけど。

 

 

 あれ? アニメにそんな話あったっけ? って言うかブラッキーって、まだこの時ゲームにも登場してなかった気が……

 

 どうやら私の行動から、やはり運命は少しずつズレてきているようだ。

 今更な話なので特に気にしてはいなかったけどね……この世界がアニメそのものではないことには、私がいる時点からとっくに気づいていた。だから、こういうことも当たり前に起こる。

 

 そんな未知の光景を目にした時、私の脳裏に過ぎったのは初めて出会った時にサトシ君たちが言い放った力強い言葉だった。

 

 

『……いや、やっぱりいいよ。自分で知りたいから!』

『ピッカチュ!』

 

 

 

 ……そうだよね、誰かに知らされた未来を歩むだけなんて、そんなの面白くない。

 

 それに同調したからこそ……今、こうして目の前にもたらされた全く新たな「物語」の変化に、私は感極まる感情を抱えていた。

 

 

「私も……負けてられないね」

 

 

 ポケモントレーナーとポケモン吟遊詩人。

 選んだ道は違うけれど、私は新たな未来を突き進む彼らに虹のような温かな光を感じていた。

 

 だからこれは──そんな彼らへのささやかな対抗心の芽生えである。

 

 ホウオウと先に謁見を果たすのは、このTS美少女ポケモン吟遊詩人であるヒイカお姉さんだと……私は心の中で勝手に、伝説の旅路の後輩であると同時に大先輩でもある彼らにその挑戦状を叩きつけていた。

 

 

 ──そんな、誰にも知られたくない「ただのポケモン好き」としての内心である。




 セキエイリーグ優勝!(はヒイカ)サトシ(はパーティーの裏で)最終決戦!!


 ここまでお付き合いいただきありがとうございます。
 短編のつもりでしたが当初の予定よりも捗ってこんな文字数になってしまいました。
 一応これで完結のつもりですがアニポケのあの回とかあの回とかあの劇場版とか書いてみたくなった時は再び更新するかもしれません。
 とにかく言えるのはヒイカが動く時、誰かの性癖が壊れるということ……
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