ブラック・ブレット9 Träume 開幕、北陸奪還戦 作:鏡之翡翠
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意識を覆い隠していた
自身の脳が覚醒した事を、しばらくの間自覚できなかった。
ずいぶんと長い事夢を見ていたような気がする。脳裏に焦げつくほど鮮明に残された最後の記憶から、今の自らの現状を探ろうとする。
眼前に
こちらを
――「
その瞬間、胸に湧き上がる激情。
直前の戦闘による負傷など意識の
そして始まる死闘――いや、違う。
無意識が都合良く
あの時行われたのは、単なる
圧倒的強者が、敗北を
超振動デバイス――『ヴァイロ・オーケストレーション』を
そこから繰り出される必殺の
――…………。
記憶は、ぶっつりと、そこで途切れていた。
そこまで思い出し、なぜ自分は今もなお意識を保っているのだろうかと疑念が湧く。
「――ようやく起きたのね。もう目覚めないかと思ったわ」
未だ暗闇のさなかにいる自分に、何者かが呼びかけてきた。
外部からの情報を受け取り――そこでようやく
ゆっくりと
全身の筋肉に指令を送り、上体を起こしていく。
それだけで生身の肉体部分が悲鳴を上げそうになった。
カーボンナノチューブ製のナノ筋肉や、自己修復バラニウム合金の
「……なぜ、お前がここにいる」干上がったように
「そんな
「施術……だと……?」
十五の目の前には、簡素なパイプ椅子に腰掛けた少女がいた。
色素の薄い髪に、白地のワンピース、頭には星形の
小学校高学年から中学一年生ほどの
「……そういう事か」と十五は得心いったように溢す。「つまりは俺もお前も――組織に生かされたのだな? ハミングバード――いや、
「ご名答、ソードテール。ポンコツになった
そう言ってワンピースの少女、久留米リカは腰を上げて立ち上がる。だが、その動きはどこかぎこちなかった。四肢の筋肉が十全に機能していないかのように、小刻みに
「ハミングバード、お前……」
「当たり前でしょ。出血多量と
「そもそも、お前は爆弾で
十五の記憶が確かならば、ハミングバードこと久留米リカは、『ブラックスワン・プロジェクト』隠蔽作戦の際、東京エリア第六区のマンションで
エレベーター内での戦闘を経て行動不能に追い込まれたリカは、自身のぬいぐるみに仕込んでいた爆発物を起爆――自分
それが
「顔に出てるわよ」とリカは
「……俺の知らないところで何があった?」
「ダークストーカーよ」リカは
「あいつが……!? とてもじゃないが信じられない……!」十五は首を横に振る。
あの作戦に派遣された十五とリカ、そして
第一世代型機械化兵士――『新人類創造計画』を超えるために立ち上げられた『新世界創造計画』。
その産物である十五達、第二世代型機械化兵士の
同じ計画によって生み出された同期達は、いわば
「……信じられないのは私も一緒よ」リカの瞳に影が落ちる。「今となっては問い詰める事も叶わないわ」
ぴくりと、十五の目許が動く。「何だって?」
「ダークストーカーも、あとついでに櫃間篤郎も――あの件に関わってた五翔会のメンバーは、私とあんた、それからネストを残して全員死んだわ」
あっさりと言い放たれた事実に、十五は側頭部をハンマーで殴られたような衝撃を覚えた。
「そんな……櫃間さんが……ッ!?」
「そっちを始末したのはネストだけどね。ダークストーカーの方は、里見蓮太郎との一騎討ちで敗北して死んだって」
「じゃあ……計画は……!? 『ブラックスワン・プロジェクト』は……!?」
「とっくに凍結されてるわ。余った抗バラニウムガストレアは、『
「ギレスベルガーの造った失敗作共か……」どうやら自分が寝ている間に、何か大きな計画が動いていたらしい。
自分の意識とは関係なく、あの尊大な態度を崩さない和服姿の廉価版機械化兵士の顔が浮かんでくる。
自らが拾ってきた『呪われた子供達』の双子にも施術を受けさせ、かつて例のない三つの能力を扱うイニシエーター産機械化兵士を統率していた男。
廉価版でありながら、十五やリカと同じ二枚
根拠はないが、リカの言う廉価版機械化兵士は継麻の事なのだろうと当たりをつけた。
それを裏づけるように、リカは肩を
「警察に? そんな馬鹿な」余りの話の突拍子のなさに、十五は目を丸くする。「いくら連中が失敗作と言えど、ただの人間ごときに負けるはずが――」
「――残念だが事実なんだよなあ、それが」
十五とリカの会話を寸断するように、医務室の扉が乱雑に開け放たれた。
わざとらしく靴音を鳴らしながら入室してきた男を視界に収め、十五とリカは
「……フッケバインか」
「何だよ堅苦しいなあ。任務外でコードネームで呼ぶんじゃねえよ。俺にはちゃんと
トレンチコートに
「それより、どういう事だ」と十五は食ってかかる。「俺が意識を失っている間に何があったッ?」
「はッ、失敗作がキャンキャン
「廉価版共と一緒にするなッ。俺とお前は共に『新世界創造計画』の第二世代だろう!」
「……へーえ。くくくッ、そうかいそうかい。お前、まだ知らされてなかったんだな」
含みのある笑いと共に、
臥恫はワンピースの少女の背後に回ると、「ほら、リカちゃん。良い加減教えてやれよ」とスカートの
「……クソ野郎が」とリカが顔を背ける。
十五は
リカの
そう。
リカの肌に刻まれた刺青からは、
痛々しい手術
とっさに自身の腕を見やり、絶句する。「……ッ」
同じだった。そこに残されていたのは、星形の
「理解したか?」
「…………――っ!」
「ちなみに立場だけじゃないぜ。お前らはすでに機械化兵士としても、名実共に失敗作になったんだ」
「何……!?」
「察しが
「…………嘘だ」事態を理解するにつれて
「はははッ! ようやく理解したかよ! そうさ! お前らを救ったのは、お前らが失敗作だって
「
だが、そんな十五の淡い期待を打ち砕くように、リカは苦い顔でかぶりを振った。「……私も内臓のほとんどをバラニウム製のものに詰め替えられてるわ」
「そん、な……」
「まあ、そう肩を落とすなよ。お前ら二人は、フルスペックの機械化能力と廉価版能力の複合化に成功した初めての検体だ。
臥恫はそう言うと、もう十五達に用はないとばかりに医務室の扉を蹴り開けた。
そうして、こちらを振り返る事もせずに言う。
「絶望に打ちひしがれんのは勝手だが、生き残ったからには働いてもらうぜ。ネストがお呼びだ。俺と『スクイドオクトパス』が回収した『ソロモンの