ブラック・ブレット9 Träume 開幕、北陸奪還戦   作:鏡之翡翠

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 非常事態はすぐさま駅舎内に伝わる。作戦本部の金沢駅構内を武装した兵士達が駆けていく。

「くそ」と毒づいたのはソードテールこと鹿嶽(かたけ)十五(じゅうご)だった。「開かない……! 奴ら、ここまで計算して……」

 斉武と須永のいる応接室の扉は、どれだけ押しても(ろく)に開く気配がない。直前に聞こえてきた爆音と崩落音から類推(るいすい)するに、室内に大量の瓦礫(がれき)が積み上がった事で、扉の前が塞がれてしまっているのだろう。

「ハミングバード! 本部の兵士達に爆発物を持ってくるよう要請(ようせい)するんだ! このままでは(らち)が明かない!」

「そんなの悠長(ゆうちょう)に待ってる暇なんてないでしょ!」しかし久留米(くるめ)リカは激昂と共に、十五の案を否定した。「どいてなさい! このまま突破するわ!」

 リカが合図するように片手を上げると、廊下の奥から、室内に不釣り合いなエンジン音が爆発した。直後に浮遊する二つの物体が、リカの元へ近づいてくる。

 それは合成ゴムで成形されたタイヤのような見た目をしていた。円盤遊具(フライングディスク)ほどのサイズの浮遊物の至るところから、ゴムの表皮を突き破って大振りの刃物が生えている。

「――要は邪魔な瓦礫(がれき)がなくなれば良いんでしょ」とワンピースの少女はゴキリと首を鳴らす。「私の『死滅都市の徘徊者(ネクロポリス・ストライダー)』で根こそぎ千切(ちぎ)り潰してあげるわ」

「あそこにはまだ斉武大統領が――」

「あんた馬鹿? 爆弾で吹っ飛ばしたところで同じでしょ? なら、制御の利きやすいBMI端末(ビット)()じ開ける方が、まだマシよ」

 リカの剣幕に、十五は口を引き結びつつ退(しりぞ)いた。「…………瓦礫の除去が済んだと同時に、俺が『光学迷彩能力(マリオット・インジェクション)』を発動して突入する」

「オーケー。しくじんじゃないわよ」リカがゆっくりと腰を落とし、前方を見据えながら端末操作のために集中力を研ぎ澄ましていく。「――攻勢付加(オフェンシブ・エンチャント)(ソーン)』」

 瞬間、ビットに搭載された衝撃波エンジンが鼓膜を穿(うが)つような(うな)り声を轟かせる。

 爆音に爆音を重ね、排気口から煤煙(ばいえん)噴射(ふんしゃ)。一気に応接室の扉前に近づくと、回転(のこぎり)のごとき轟音を響かせながら、戸板(といた)塵芥(じんかい)を破断しにかかる。

 アーク溶断を思わせる(まばゆ)い閃光が辺り一帯に撒き散らされ、猛回転する『徘徊者』の躯体(くたい)が、みるみる内に瓦礫内部へと押し込まれていく。

「目標の排除まで、あと五秒」

 リカが無機質に告げると同時に、十五はコートの内側に仕込まれていたサバイバルナイフを抜いた。構えを取ると共に、機械化兵士能力を発動する。ナノマテリアルを埋め込まれた人工皮膚が光を()じ曲げ、十五(じゅうご)の大柄な体躯(たいく)を一瞬にして、周囲の景色と同化させる。

「……あの野蛮な軍人崩れめ。五翔会(俺達)と敵対する事が何を意味するのか、骨の(ずい)まで思い知らせてやる」

 バギンッ! という一際大きな音がしたかと思えば、入口を塞いでいた建材の破片がまとめて崩れ落ちる。粉塵(ふんじん)の向こう岸に、応接間の空間を視認。

 先行して突入した二機のBMI端末(ビット)追従(ついじゅう)するようにして、十五も現場へ踏み込んだ。「斉武(さいたけ)大統領ッ!」と光学迷彩を解除し、仰向けになったシルエットへと呼びかける。「ご無事ですか!? 族の連中は――」

「俺の事は良いッ!」顔を上げた斉武が、激情と共に()える。彼は極寒のさなかにいるかのごとく震える指先で、一点を指し示す。壁に穿(うが)たれた大穴を。「すぐに先遣隊の連中を追え! 何としてでも奴らをここで仕留めろッ!」

「ソードテール! 斉武大統領はッ!?」遅れて乗り込んできたリカが、状況を確認すると共に、「……っ!」と息を飲んだ。

 (かす)れ始めた声で斉武はがなる。「良く聞けッ、ソードテール、ハミングバード! 須永(すなが)は――いや、先遣隊は『ソロモンの指輪(ゆびわ)』で召喚したガストレアを利用して、五翔会(ごしょうかい)諸共(もろとも)、北陸に集まった連合軍を殲滅(せんめつ)するつもりだ! すぐにフッケバインも向かわせる! ここで先遣隊を撃滅(げきめつ)し、『ソロモンの指輪』を奪還せよ!」

 

 

 

「……何やねん、あれは……ッ!?」作戦本部のモニター管制室にて、大阪エリア陸軍の屋島(やじま)(つかさ)は、信じられないものを見たような表情を浮かべていた。「()()()()()……()()()……?」

「屋島少佐! 北西方向より、ガストレアの大群が進軍中!」と管制官の一人が、声を上擦らせていた。「確認できるだけでも……()()()()()()()()()()()()()()()()()()! それに……先頭にいるのは……!?」

 外周区の至るところに設けられた監視塔、そこから撮影された映像が、リアルタイムでモニターに映し出される。

 画面を埋め尽くすように敷き詰められた鮮紅色(せんこうしょく)の輝きが、白色(はくしょく)の雪原を(あや)しく照らし出す。その全てがガストレアである事実を、脳が無意識に拒もうとしていた。

 そして。

 大群の先頭に立ち、ゆっくりと歩く一つの影。

 ボロ切れを和服のように身に纏い、二足歩行で闊歩(かっぽ)するのは――一言で言えば(さる)だった。

 毛むくじゃらの体躯(たいく)は、間違いなく類人猿の因子(いんし)を発現している事を示している。髪の毛のように伸びた頭の毛は、さながら(さむらい)のように後頭部の辺りで結わえられ、寒風に(なび)いている。

 相貌に()まる目は、おそらく昆虫の複眼だろう。五角形の個眼(こがん)が密集して並び、その一つ一つがガストレア特有の赤い(きら)めきを放つ。

 他に発現していると(おぼ)しき因子はない。間違いなくステージⅠ寄りのステージⅡガストレアだ。だが、その特異な風貌(ふうぼう)は、明らかに脆弱な低ステージのそれではない。

 人間のごとく衣服を身につけ、髪型を整え、二足で地を踏み締める。その全てがゾディアックも含めた既存のガストレアの特徴と余りにも逸脱(いつだつ)している。

 だが、それ以上に何よりも目を()く特徴が、その個体にはあった。

 右手に携えられた――ブラッククロームの輝きを(たた)える長尺(ちょうじゃく)の物体。

 震える唇で、屋島は呟く。「……まさか――刀……なんか? ガストレアが……バラニウム製の武器を持っとるんか……!?」

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