ブラック・ブレット9 Träume 開幕、北陸奪還戦 作:鏡之翡翠
「はッ! お目が高いじゃねえか。俺様の価値を速攻で見抜いた事は
降下してきたのはヒッピーを思わせる長髪に、トレンチコートを合わせた二十代半ばの男だった。他者への攻撃性を隠さない表情には、やはり、あからさまな自らへの自信が満ち満ちている。
突き刺さる
研ぎ澄まされた勘が、けたたましく
次の瞬間だった。「――『
「――!」
音の出どころは男の両脚だった。彼の履く細身のブラックジーンズの
「
須永と小田桐が後方へ飛び退いた瞬間、長髪の男の振り抜いた右脚が空気を燃焼させながら切り裂き、ソニックブームを発生させる。音を置き去りにするような一撃は、一瞬前まで須永達が立っていた場所を砕き割り、
常識を覆すかのごとき蹴り技から繰り出される
――さっきの二人とは比べものにならない威力……!
須永の首筋に、ドライアイスを押しつけられたような熱と冷たさが同時に襲いかかる。
――銃での迎撃は不可能と見るべきだな……!
横目で小田桐を見やると、彼は小さく頷いてナイフを抜き放った。
その動きに合わせて六四式を構え直すと、眼前に滞留していた濃密な
須永がバックステップで距離を離すと、代わりとばかりに小田桐が前へと躍り出た。
「はッ! 自殺志願者かあ!?」と青年が
青年の両脚――おそらくは超バラニウム合金で
地を
僅かコンマ一秒後に仲間の死が差し迫った状況でなお、須永の動きに迷いはなかった。
事前に味方を誤射しない角度に位置取っていた須永は、すかさず六四式を照準すると、フルオートで弾幕を張る。激烈極まる射撃音が重なり、大量の
「豆鉄砲が!」と青年が吐き捨てる。五翔会のエージェントは、須永の方など見向きもせずに義足を振り抜いた。
轟! と
そのままの勢いで、
だが――
――
青年の意識が、一〇〇分の一秒にも満たない間、銃撃に裂かれたところを小田桐は見逃さなかった。一切の無駄のない身のこなしで、青年の死角へと入り込み、必殺の距離からサバイバルナイフによる
青年の
逆袈裟に放たれたナイフの切先が、青年の胸部を裂き斬った。トレンチコートの厚手の生地がパックリと裁断され、その下から夥しい量の血液が噴き出す。「がッ――!?」
青年の体勢が大きく崩れる。胸を押さえた青年は、後方に
勝機。攻め立てるならここしかない――。須永はそう判断すると、再度六四式を照準。
小田桐、須永の両名による容赦のない
こめかみに青筋を浮かべた青年は、「良い気になってんじゃねえぞ!」と吠え立てると、熱せられた右脚を
「ちッ」と須永は目を細める。
――これでも崩し切れんか。
――しかも……。
いつの間にか、致命傷を刻まれたはずの青年の胸部からの出血が止まっている。衣服の向こう側に視認できる皮膚が、生体組織とは思えないほどの
――おそらく体内に最先端の生体工学の技術が詰め込まれているな。
――この男と……あとはソードテールもか。生身とサイバネティクスの混合体には、かなり高度な自己回復機能が
青年の襲撃と共に
かたや脇腹に深い傷をつけられた男。かたや腕に浅い斬りつけを食らった少女。
戦闘継続不可能な
――同じ機械化兵士でも、各人で改造の度合いは違うという事か?
――
「どうしたよ、おっさん共! 俺様はまだまだ食い足りねえぜ! これで
青年の
――さて、ここからどうするか……。
この青年の突入に合わせてか、敗北したエージェント達の他、各エリアの自衛隊も一時退却している。これだけの破壊規模を有する個人戦力。連携は現実的ではないと踏んだのだろう。
――時間から考えて、
――何とか包囲に穴を開けて突破したいところだが……。
眼前に
こちらの弾薬にも限りがある。長引けばジリ貧になる事は必至だ。近接戦を繰り返せば、それだけ小田桐が被弾する確率も跳ね上がる。
「俺が死ねば良いか?」と、こちらの内心を見透かしたかのように、無機質かつ事務的な問いが投げかけられた。小田桐の提案の声には、僅かの
「……いや」と須永は小さく首を振る。「その選択肢は俺の中にはない。少なくとも今はな。
「了解。だが、ここからどうする?」
「分かってる。それをこれから詰めるところさ。――――