果てしなきスカーレット re:imagined 作:うそだよなまもる
クーデターによって父親である旧王を殺され、国から逃げていたスカーレットは復讐の計画を実行した。計画は順調にいき、あっさりと現王のもとへ辿りつくのだが…
燃え盛る炎の中で、木製の十字架が激しく音を立てて崩れ落ちた。
「民よ、これは啓蒙である!」
処刑台の上から民を見下ろして、王が叫ぶ。
「民よ、これは啓蒙である!」
舞い上がる煙と火の粉に乗せて、王であるクローディアスは何度も何度も叫んだ。
民はその場にいながら、泣くこともせず、祈ることもせず、ただ見て見ぬふりをするように俯いている。目が合えば、自分たちが炎の中へ放り込まれるかもしれないからだ。
しかし、ただ一人、じっと炎を凝視している少女がいた。
名はスカーレット。フードから少し零れている薄桃色の髪は艶を失っているが、蒼い瞳はサファイヤのように力強い輝きを保ったままだった。
炎の先にいる…狂ったように叫ぶ王を睨みつけて、スカーレットは心に覚悟を刻む。
「(民と父上の敵…今日こそ、必ず)」
***
スカーレットは一つ前の代、旧王の娘だ。
先代の王は優しく、賢く、思慮深い人だった。
ただ、現王はその優秀さを妬み、野心的な商人と騎士たち、そしてスカーレットの母である王妃を取り込んでクーデターを決行。旧王やその側近たち、果てには反抗する民をも手にかけ、国を完全に支配した。
「これより、現国王を殺す」
処刑が行われた夜。城ではパーティーが開かれていた。現王が戴冠して一年の記念日を祝うためだ。
そのパーティーに紛れて、スカーレットは数人の仲間と城へ潜入していた。クーデターが起きた日、憎しみ以外の悉くを捨てた場所に彼女は帰ってきたのだ。
民と国を離れた一年間、地獄の日々だった。現王は武力行使による外交を開始すると、食料の四割が戦地に割かれてしまった。加えて記録的な冷害が作物に大打撃を与えてしまい、国で餓死者が急増した――そんな情報が耳に届くものの、スカーレットは傍観していることしかできなかった。
屈辱に耐えながら、スカーレットは研鑽を積んだ。共に逃げた臣下から剣の技術を仰ぎ、国を立て直すための語学、農学、政治学を修めた。復讐の後のその先までを見越して。
そして、このパーティーに向けて綿密な計画を練った。城に内通者も送り込み、情報をかき集めた。
今日ですべてを終わらせ、すべてをやり直すのだ。
「手はず通り、ここから私一人で行く」
スカーレットは仲間に合図し、別行動をとる。
作戦は順調だ。食料の搬入に乗じて城へ潜入、事前に把握した警備の配置を縫うように進み、現王のいるテラスの前まであっさり辿り着くことができた。
テラスは大広間を見下ろせる位置にある。王はここから臣下たちを見下ろすのが通例となっているのだ。
入り口を塞げば飛び降りる以外に逃げ場がなく、衛兵もそこまで配置できないために手薄となる。道中で目ぼしい衛兵は片付けているので、現王を守るものは誰もいない。
「クローディアス!!!」
短剣を抜き、スカーレットはテラスへ突入した。
「……スカーレットか」
「忘れたか、あなたが殺した賢王、アムレットの仇討ちに来た!」
スカーレットは階下を見下ろす。
パーティーは豪華な食事と、現王に寵愛された者たちが身にまとうドレスで彩られていた。
腸が煮えくり返る思いがした。戦争で国中が疲弊していながら、民を恐怖で従わせ、気に食わなければ殺し、あまつさえ呑気にパーティーへ興じているだなんて
「貴様らもそこで見ていろ! クローディアスを討った後、すぐに粛清してやる!」
そう宣言し、スカーレットは現王へ短剣を向ける。
しかし、現王は余裕の表情を崩さなかった。
「落ち着きたまえ。仇討ちなどと……くだらないと思わんかね?」
「なんだと?」
「殺されたから殺し返す。それに何の意味があるか。それに我はただこの国をあるべき姿へ導いたまでのこと。殺される謂れなど微塵もない」
「どの口が……!」
クローディアスの心臓を目掛け、スカーレットは刺突を繰り出す。
その一撃は寸でのところで回避されたが、転んだクローディアスへ馬乗りになって捕まえた。
「あの世で貴様らに殺された者たちへ侘びにいけ!」
「……くっ、あっはっはっは!」
絶体絶命の危機にもかかわらず、スカーレットを見て大笑いしているクローディアス。
不可解な態度に、スカーレットは不快感と疑問を隠せなかった。
「な、なにがおかしい!」
「だから、落ち着けと言ったのだ」
「えっ――」
瞬間、スカーレットの背中に、何かがぶつかってきた。
「あ、れ……」
腹部が燃えるように熱い。
血がついて真紅に染まった刃が、スカーレットの腹部を貫いていた。
「ポローニアス、……どう、して」
「申し訳ありません……申し訳ありません……」
スカーレットが振り返ると、泣きそうな顔をしたポローニアスがいた。
旧王アムレットが最も信頼した元兵士長であり、クーデターの日にスカーレットを逃がしてくれた命の恩人でもあり、そしてスカーレットの剣の師でもあった。
「ポローニアス、この一年に渡る計画、実に大義であった。此度の功績を讃えて貴様の家族を解放してやろう」
「……申し訳ありません……申し訳ありません……姫様……」
薄れゆく意識の中、スカーレットは二人の会話を耳にした。
仕組まれていたのだ。弄ばれていたのだ。
血の滲むような努力も、練った計画も、何もかもクローディアスの手のひらで転がされていただけ。
許せない、情けない、憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い。
このままじゃ終われない。
なのに、全身から力が抜けて、剣を握ることさえ叶わない。
「これで最後だ。この国へ遺言を残していけ」
「……てやる」
「どうした。よく聞こえないぞ」
臓器から逆流してくる血と共に、スカーレットは吐き捨てた。
「必ず殺してやる。例えこの身が地獄の業火に焼かれようと、必ず!」
スカーレットがこと切れるまで、あまり時間はかからなかった。
次回は火曜日深夜に