果てしなきスカーレット re:imagined   作:うそだよなまもる

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ヒジリの制止も聞かず、スカーレットは他の獣人たちも巻き込んで軍隊との戦闘を始めてしまう…



許すな

一斉に放たれた銃弾を、スカーレットは石柱の背に隠れてやりすごす。

そして次弾が装填される瞬間を縫って、軍隊へ一気に距離を詰めた。

 

「二列目、構え!」

 

最前列のオオカミたちが装填しながら、最後列へ移動していくと、後ろの列が一歩前に出て、スカーレットへ照準を合わせてくる。

 

「ぐっ……!」

 

放たれた弾丸の猛攻にスカーレットは再び石柱を盾にした。

 

「(頭が、痛い……!)」

 

脳から直接理性が締め付けられるような感覚が続いている。闘争本能(サガ)が、スカーレットを飲み込もうとしていくる。

堪えようとして目を閉じると、瞼の裏に貼り付いた悪夢が、スカーレットを責め立ててくる

 

クローディアスを討て。我が恨み、国民の恨みはそれでしか晴らせないのだ。

 

雑音と叱責が、嵐のようにスカーレットの中でぐちゃぐちゃにかき混ぜられていく。

 

「(あいつらはクローディアスを知っている、あいつらはクローディアスの命令で人を殺した。あいつは、あいつは、あいつら、あいつら、あいつあいつAITSUAITSUAITSUAITSUAITSUAITSUAITSUAITSU……——)」

 

それが我が娘の役目だ。そうだろう、スカーレット。

 

何度も聞いた父親の幻聴が、スカーレットにとどめを刺した。

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」

 

二列目が撃ち切る前に、スカーレットは石柱から転がるように躍り出た。数発の弾丸がスカーレットの頬を掠めるが、奇跡的に直撃は免れる。

 

「GURAAAAAAAAAAA!!!!」

 

そして三列目が準備する僅かな時間で、オオカミの軍隊へ突っこんでいく。

 

「狂ったか、愚かなトカゲが」

 

叫びながら走ってスカーレットへ向けて、銀髪のオオカミが小銃を構えた。彼は指示役でありながら、いざというときのために自身も銃を携えていたようだ。

銀髪のオオカミは狙いをさだめ、引き金を引いた。

 

「GA!」

 

弾丸がスカーレットの左肩へ命中する。赤黒い塵が、空いた穴から漏れていく。

しかし、彼女は余計に力を漲らせるように、突進する速度を更に上げた。

 

「隊長、三列目装填できました!」

「近づけさせるな、撃て!」

 

三列目が構え、一斉に銃撃を放つ。

その銃声に合わせてスカーレットは飛び上がり、全弾まとめて回避した。

虹のようなアーチを描き、銀髪のオオカミの目前に着地した。

 

痛い、熱い、憎い。

殺して、あいつを殺して。

 

自失したスカーレットの脳裏で、ずっと鳴り響いている。これまで無意識だったのに、今は抗えない何かに突き動かされている。

 

「こ、殺される!」

「A、A、AAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

爪のてっぺんまで満ち満ちた殺意を流し込むように、スカーレットは銀髪のオオカミへ手を伸ばした。

そのとき、どん、とスカーレットの背中に何かがぶつかった。

 

「だから――」

「HI?」

「止まれって、言ってるだろう!!!!」

 

スカーレットの耳に、ヒジリの絶叫が直撃した。

爆発で無理やり濃霧を吹き飛ばしてしまったように、視界と意識が広がっていく。

 

「あれ、私」

「正気に戻ったんだな。叫んでも無視するし、銃をばかすか撃つから近づけないし……」

 

ほっとするヒジリの笑顔を見たら、スカーレットの身体から力と憎悪が抜けた。

唯一残ったのは、撃ち抜かれた左肩の痛みだけだった。

 

「敵意が消えた! 殺せ!」

 

そのとき、別方向から叫びが聞こえた。銀髪のオオカミだった。

 

「っ、させない!」

 

スカーレットの判断は早かった。

短剣を抜き、銀髪のオオカミの背後を取る。

そして刃をオオカミの首元に当てながら、他のオオカミたちへ告げる。

 

「動くなっ! 銃から弾を外して、遠くへ投げろ!」

「「「…………」」」

 

敵意の消えないオオカミたちを見て、スカーレットは次の手へ移る。

銀髪のオオカミの首元の毛を刈り、素肌に短剣を充てる。煙草の煙ぐらいの赤黒い塵が漏れた。

 

「こちらは交渉したいだけだ。どうか収めて」

「……銃を捨てろ」

 

すると、銀髪のオオカミが部下たちへ命令を下した。

それであっさりとオオカミたちが武装を解除していく。

スカーレットは隣にいるヒジリの方を見た。

彼は安堵と納得した様子で、大きく頷いた。

 

***

 

オオカミたちを拘束する役割をスカーレットが、荒れる獣人たちを諫める役割をヒジリが担った。

それから、スカーレットはヒジリの治療を受けながら銀髪のオオカミと対面で話を始めた。

 

「エルシノア帝国?」

「厳密には国という単位ではないが……クローディアス様が士気を高めるためにそう呼称していた」

 

銀髪のオオカミは言葉を選ぶというより、言葉に窮しているように話していた。

 

「クローディアスはどこにいる?」

「見果てぬ場所があるという山の麓……その近くに城があった。この門から少し歩けば見えてくるはずだ」

「……訊いていてなんだけど、あっさり答えていいの?」

 

スカーレットが尋ねると、銀髪のオオカミは眉をひそめた。

 

「君に背中を取られて、大声で叫ばれたとき……戦意が急激に萎んだ。我に返った感覚がした。」

闘争本能(サガ)から正気に戻ったってことか?」

 

スカーレットの治療を終えたヒジリが、銀髪のオオカミに訊く。

 

闘争本能(サガ)だが、そうじゃない。自分の本能(もの)だけど、自分のものじゃないみたいな……」

「……分かるか、スカーレット?」

「ううん、私にも闘争本能(サガ)のことはよく分からない」

「すまない、自分もこれ以上は言語化は難しい」

 

申し訳なさそうに首を振るオオカミに。

その頭部に、握り拳ほどの石が直撃した。

 

「誰だっ!」

 

スカーレットが辺りを見渡すと、とあるカッコウの女性が目に留まった。

ボロボロと涙を流しながら、別の石を探している。

 

「許せるはずないでしょ!? あいつらは夫を殺したのよ!」

「だ、ダメだって!」

「許すな、あいつらを許すな!」

 

慌ててヒジリが止めに走る。

交渉の段階で、オオカミたちの命を奪わない約束をしていた。それに耐えきれなかったのだろう。

しかも、それだけでは終わらなかった。

 

「そうだ、あいつら拘束されて何もできないじゃないか」

「見果てぬ場所に人数制限があるなら、一人でも減らした方が」

「いや、人質にすれば有利になるんじゃないか?」

 

伝播した怒りと憎しみが、空気を重たくしていく。今、オオカミたちは銃を失って拘束されている。要するに無抵抗で、一方的に憂さ晴らしをするには絶好のタイミングなのだ。

獣人たちの闘争本能(サガ)が目に見えて広がっていく光景を、スカーレットは初めて目にした。

そのとき、膨らんだ嫌な空気を破裂させるように、一発の柏手が鳴った。

 

「注、目っ!」

 

ヒジリが大声で、両腕を思い切り大振りして、周りの視線を独占した。

 

「さっき、人質にするって案を出したの、あんただったな?」

「え、あ、まぁ」

「その案にしよう、彼らを人質にして、今みたいに交渉して見果てぬ場所へ行けばいい」

「いや、あいてがこいつらごと襲ってきたら……」

「そんな気が滅入る可能性を考えたら、いつまで経ってもこの門をくぐれないだろう?」

 

全員が無言だった。ヒジリの意見はいくらでも否定できるが、それをしたくないように。

 

「あなた方の苦しみは、さっき来たばかりの俺には分からない……すぐに許すのも難しいと思う。だからひとまず、前向きな方を考えてみないかな?」

 

これが決定打になったようで、周囲から憎しみの気配が薄らいでいく。

 

「(許すな、か……)」

 

しかし、スカーレットの耳から、カッコウの女性の悲痛な怒りが消えなかった。

瞼を閉じるのが、また怖くなった。

 




昨日書いたデータが消しとんだときは絶望したけど、なんとか年内更新です…
次は三が日にでも
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