果てしなきスカーレット re:imagined 作:うそだよなまもる
見果てぬ場所があるという山の麓で、二つの軍が戦いを繰り広げていた…
「直接、見果てぬ場所へ行くのは難しいだろう」
「エルシノア帝国が閉鎖していのか?」
「それもあるが、麓で帝国軍と解放軍で戦争をしているんだ。容易に近づけない」
「解放軍?」
「君たちのような見果てぬ場所を目指す者たちが、エルシノア帝国に対抗して連合軍を結成しているようだ。解放軍の増加を食い止めるために、自分たちが派遣された」
降伏した銀髪のオオカミは、スカーレットへ快く情報を教えてくれた。
全面的に正しいかはさておき、有益なことに変わりはない。信じる価値はありそうだ。
そこへヒジリが合流してきた。
「他の人も、なんとか説得できたよ。ひとまず人質を襲ったりしないと思う」
「ヒジリ、提案がある」
「どうした?」
「門の先へ進む人を制限したい。この大所帯で動くのは危険だと思う」
スカーレットは周囲にいる獣人たちをぐるりと見渡す。
ざっと見て百人に近い。それに加え人質は行動もかなり制限する必要があるし、それ以外の獣人たちも連帯があるかと言われると微妙だ。
「戦闘に不慣れな人に待機してもらって、安全が保障したタイミングで合流してもらう。人質と戦闘要員は少し残しておきたい」
「確かに、女性とか子供もいるから、全員は難しいか……」
「その選定をヒジリにお願いしたいの、あなたの言葉が、一番みんなに届くから」
「……分かった。相談してみる!」
「私はキャラバンのみんなを呼んでくる。旅に精通した人たちなら、きっと頼りになるから」
「ああ、そっちは頼んだ」
銀髪のオオカミの話をまとめると、戦争で解放軍の戦力増強を防ぐために彼らが派遣されている。つまりオオカミたちが報告しない限り、増援はやってこないはずだ。
となると、気に掛けるべきは仲間内での喧嘩で
***
スカーレットとヒジリが互いに奔走し、そこまでの時間を要せず準備が整った。
門の先へ進むメンバーは、スカーレットと銀髪のオオカミが先頭、隊員のオオカミたち数人が後に続き、他の獣人たちとの緩衝としてヒジリが中腹に入ることになった。
「戦闘になったとき、こちらを見捨やすくなっているな」
「皮肉のつもり?」
「いや、賢明な判断だ。逆の立場なら、自分も部下を守るためにそうする」
「賢明な判断なのは同意するけど、逃げるならあなたたちも一緒に連れて行く」
冷静な銀髪のオオカミに、スカーレットも冷静に返した。
「戦いになりそうなら、私が時間を稼いでヒジリが撤退する手はずになっているの」
「……君は納得しているのか? ただの生贄だ」
「彼のおかげで、私やあなた――この場にいる全員が生きている」
スカーレットが同意を求めるように目配せをする。
銀髪のオオカミは無言で頷いて、そのまま歩き始めた。部下の安全を保障する代わりに、道案内は彼がすべて請け負っていた。
一向は門を通過して、ひび割れた峠を進んでいく。
頂点を越えると、蛇腹道の下り坂に差し掛かる。いくつかカーブを曲がると、数十メートル下に大地が広がっているのが分かった。
戦争が行われていた。
「これが……」
「東側がエルシノア帝国軍、西が解放軍だ」
銀髪のオオカミが、淡々と説明する。
東側——帝国軍は、スカーレットも親しみのあるエルシノアの模様が刻まれた旗を掲げていた。生きた国、時代がバラバラなのだろう、それぞれの武具や人種の混成部隊のようだが、己をデンマークの国旗色である赤と白に塗ることで見分け易くしているようだった。
西側——解放軍は、生きた国や時代がバラバラなままで、軍というよりレジスタンスに近い印象を受ける。しかし兵の数は帝国軍の倍以上あり、多種多様な事情を抱えた者たちが集結しているようだ。
この俯瞰できる位置から察するに、状況は五分五分……いや、連携のある帝国軍側が有利に見えた。
「この戦争はいつから?」
「時間の概念がない影響で分からない。記憶が正しければ、始まってから一度たりとも休戦をしていない」
硝煙の香りに乗って、怒号や悲鳴がスカーレットの五感を刺激する。
身体のうずきを抑えるように深呼吸をする彼女へ、銀髪のオオカミが尋ねた。
「この峠を素直に下りてしまうと戦地へ一直線だ。岩場に隠れて大回りしながら、見果てぬ場所の麓を通過する。その後は決まっているか?」
「そこであなたたち人質を使って、見果てぬ場所にいる見張りを説得する。それから私とヒジリとあなたを除いて、その場にいる全員を先に登らせる」
「門の前で残した者たちを迎えにいき、最後は全員でこの煉獄を出る……承知した」
銀髪のオオカミは事情をすぐに飲み込んで、移動を再開した。
スカーレットが合図して、一団はオオカミについていく。
「(そう、これでいい)」
心の中で、スカーレットは己へ言い聞かせるように唱える。
その高さからでは、余程のことがなければ両軍がこちらへ気づくことはない。やり過ごすのが得策だ。
「(あらゆる時代や国からこの煉獄へ人が集まっているのなら、同名の別人の可能性だってあるはずだ)」
帝国軍の長を名乗るクローディアスが、スカーレットの仇でないこともある。
「(だから、これでいいんだ……!)」
戦場から漂ってくる熱気を、殺意をシャットアウトするように、スカーレットは唇を強く結ぶ。
目を逸らしている間に、いったいどれだけの人が傷つき、憎しみ合い、そして死んでいったのだろう。
その思考を、今度は拳を強く握りしめて潰した。
クローディアスを討て。我が恨み、国民の恨みはそれでしか晴らせないのだ。
それが我が娘の役目だ。そうだろう、スカーレット。
しかし、心の内から響いてくる父の声は、どうしても防ぎようがなかった。
あけましておめでとうございます。
次回は来週の前半にでも