果てしなきスカーレット re:imagined   作:うそだよなまもる

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戦場から目を背け、見果てぬ場所がある山に入ったスカーレットたち。
そこで、スカーレットは自分の師であり、かつ自分を殺したボローニアスと対峙する…


ボローニアス

戦場に人が割かれているためか、迂回するルートで誰とも遭遇しなかった。

見果てぬ場所があるという山。山頂は空を流れる大海へ刺さっている。その影響か上空からかすかに水飛沫が降ってきていて、若干の肌寒さを感じた。

 

「自分の記憶が正しければ、三合目までは問題なく登れるはずだ。だがそれ以降は、関所が造られている」

「分かった」

 

銀髪のオオカミが説明すると、スカーレットはヒジリの方を向いた。

 

「ヒジリ、三合目からは私が先行する。以降は手はず通りに」

「気を付けてくれよ。死に急ぐような無茶は絶対になしだからな」

「言われなくても」

 

事前の計画通り、スカーレットは銀髪のオオカミと共に、列から切り離された。

スカーレットたちは総勢20人ほどでここまで進んできている。そのうち人質となるオオカミは5人ほど。その中でスカーレットと銀髪のオオカミだけで先行して関所へ行き、交渉を行うのだ。

万一敵の数が多く、オオカミ部隊が合流されてしまうのを避けたいのと、敵が交渉不可能な場合の被害を最小に抑えるためだった。

もしスカーレットが死亡した場合は、ヒジリが先頭になって即座に撤退する算段になっている。

 

「引き続き、案内をして」

「人質とはいえ、敵と一対一になっていいのか?」

「自慢をしたくはないけど、本気を出せば成人男性ぐらいのアザラシを片手で持ち上げられるらしい」

「……自分も人外の能力を手に入れているが、君はそれ以上かもしれないな」

「それに、あなたは本来優しい心の持ち主だ」

「……」

 

銀髪のオオカミは何も言わず、整備されていない山道を歩き始めた。

スカーレットは念のため短剣を抜き、後を追った。

 

***

 

四合目に到達した。体感は20℃を切っているように思える。降り注ぐ水飛沫は少し粒を大きくし、霧雨のようになっていた。

 

「あそこだ」

 

銀髪のオオカミが指さす。山の斜面へ抗うように円柱の砦が二本立っており、その間に石の壁が造らていた。

壁の方に扉はない。基本的には円柱の砦から先へ進むようになっているのだろう。

 

「交渉方法は決めているのか?」

「申し訳ないが、あなたを盾にして進ませてもらう」

「謝る必要なんてない。妥当だ」

 

短剣をオオカミの首元に当て、スカーレットは砦へ身長に歩を進める。

 

「何者だ、止まれ!」

 

砦の前にいたウミドリの衛兵が、スカーレットたちを見るや弓矢を構えた。

心臓のある左胸にエルシノアの紋章、レアティーズたちと同じ装備を身に付けている――その姿から、スカーレットと同郷の人間であると分かる。

 

「弓を治めろ、こちらには人質がいる!」

 

スカーレットは声を張り上げ、短剣を持つ手に力を込めた。

 

「この男が分かるだろう。エルシノア帝国軍として、関所を守っていた部隊長だ。彼だけじゃない、部隊全員を人質にとっている!」

「……」

 

ウミドリの衛兵は無言を貫いている。

スカーレットの声に反応したのか、数人の衛兵が駆け付けている。しかし十人にも満たない。見果てぬ場所を守る人数としてはあまりに心許なかった。

増援を警戒しつつ、スカーレットは続けた。

 

「この砦をまとめる者がいるのなら伝えて欲しい。総勢で100人ほどを見果てぬ場所へ通してくれないだろうか。要求が通るのであれば、人質も解放するし、そちらへ危害を加えないことを約束する」

 

言うべきことを伝え、スカーレットは返答を待つ。

だが、衛兵は無言のままじっとスカーレットを警戒しているだけだった。

 

「(交渉は無理なの……)」

 

もう一度だけ要求を伝えようと、スカーレットが息を吸い込む。

そのとき、どんと銀髪のオオカミの背中に突き飛ばされた。

 

「っ! ……何をやって――」

 

尻餅をついたスカーレットは、銀髪のオオカミを睨みつける。

 

「……げろ」

「え?」

 

顔を上げたことで、スカーレットはようやく気が付いた。

銀髪のオオカミから、大量の血が滴り落ちていた。腕や足の数十か所を矢で貫かれている。もし突き飛ばされていなければ、その矢はスカーレットにも命中していただろう。

 

「どう、して」

「部下に、伝えて欲しい……帝国軍は、我らを見捨てた……以降は各々の義に準ぜよ……と」

 

言い切ると、銀髪のオオカミは地面に崩れ落ちる。

矢は心臓も命中していたようで、すでに息絶えていた。最後に言葉を発しただけでも奇跡だった。

少しすると、肉体は赤黒い塵となった。霧雨のせいで、塵は狼の姿形を保ったままだった。

 

「——総員、武器を降ろしなさい。わたしの知り合いです」

 

すると、落ち着きある男の声がした。

スカーレットがその方向を見る。

アザラシの獣人になっているものの……スカーレットはその男のことをよく知っていた。

 

「お久しぶりです。姫様」

「ポローニアス……?」

 

クーデターの日にクローディアスの手から逃がしてくれた恩人で、復讐のための剣術を教えてくれた師で、最後に自分を裏切って殺した張本人。

目の前にいる男に、スカーレットは二の句が継げなかった。

 

「驚きました。よもや姫様まで煉獄にいらっしゃるとは」

「……こんなところで、何を、やってるの?」

「クローディアス様の命です。この砦に来たのは定期視察ですが」

 

辛うじて絞りだせたスカーレットの問いに、ポローニアスはさらりと答えた。

このとき、スカーレットは知ってしまった。

エルシノア帝国を率いているクローディアスは、スカーレットの仇の人物だと。

 

「死してなお、なぜクローディアスの味方をする! あなたの家族を人質にして、あまつさえあなたの命さえ奪ったのではないのか!?」

「ええ、そうですね」

「は……?」

 

ポローニアスの声には、瞳には、何の感情も宿っていなかった。まるで虚無がその場に佇んでいるようだ。

 

「姫様、わたしは今、非常に身軽なのです」

「どういう、こと?」

「生前、わたしは常にしがらみにありました。死して間もないこの体も、後悔と憎悪で雁字搦めだった……しかし、あの方と対面したとき、救われたのです」

 

霧雨の降る空を慈しむように、ポローニアスが天を仰いだ。

 

「愚かな獣人を成敗し、秩序のないこの地を平定する……あの方は、煉獄の神になろうとしているのです」

「人数制限があるからと、自分に従わない人間を見果てぬ場所へ行かせないよう邪魔をしているだけだ。大義なぞあるものか!」

「なるほど、姫様もまんまと信じてしまったのですね」

「……え?」

 

耳を疑う言葉だった。

確かに、スカーレットもその話の真偽は分からない。しかし、現に山の麓では戦争をしているのだから、少なからず原因の一端であるはずだ。

 

「なら、下の戦争はなんで……」

「だから、言ったではありませんか。愚かな獣人を成敗し、秩序のないこの地を平定する神となる。そのための聖戦なのですよ。あの戦いはね」




次は週末にでも
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