果てしなきスカーレット re:imagined   作:うそだよなまもる

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撤退を余儀なくされたスカーレット、しかしボローニアスの言葉が忘れられず、大きな選択をすることになる…


決断

煙幕を抜けたスカーレットは、しばらく担がれたまま来た道を戻っていた。

彼女を抱えていたのはヒジリとオオカミの獣人だった。スカーレットと隊長が気がかりだったのか、予定を早めて様子を見ていたのだという。

 

「……もう、大丈夫。おろして」

「いいのか?」

「自分で走れるから」

 

何もしないでいることに耐え切れず、他の獣人たちと合流するタイミングでスカーレットは自分の足で走ることを選んだ。

道中は全員が無言だった。交渉を失敗したと言う事実と相手が容赦なく味方を殺すという事実が重くのしかかり、口を開けないでいた。

 

「……追手は?」

「関所の守りを優先したんだと思う。ここまでは追ってこなかった」

 

ようやくヒジリとスカーレットが話をできたのは、スタート地点である門まで帰還したときだった。

 

「けど、オオカミの兵が寝返ったのを見た以上、ここからもすぐに離れないと」

「また、一から出直しだな」

 

ヒジリは他の獣人たちへ事情を説明し、移動の手はずを整え始めた。特にキャラバンの団員が全面的にサポートしてくれるようで、すでに荷物を取り纏めだしている。

手持ち無沙汰のスカーレットは、人質であるオオカミたちの所へ行き、銀髪のオオカミが残した遺言を伝えた。

部下のオオカミたちの反応は、一様に落胆と悲しみだった。

 

「あの人には、この結末になることが分かっていた。だが我々を守るために……」

「……隊長が望んだとおり、あなた方は折をみて解放する。武器は最低限しか返せないと思うけど、どうか理解してほしい」

 

殉職したオオカミの言葉を噛みしめるためか、オオカミたちは座り込んだまま思案をしている。

スカーレットは静かにその場を離れて、念のため追手が来ないか見張りをすることにした。

 

「(……私は、どうすればいいのだろう)」

 

リヴァイアサンの介入があった影響で、戦況は膠着状態になっている。

しかし休戦になるような雰囲気はなく、些細な火種さえあれば再び戦火は燃え上がってしまうだろう。

 

「(この戦いはクローディアスが仕組んだもので。見果てぬ場所の人数制限の噂は、おそらく帝国軍が戦争をするために流したデマ)」

 

つまり、クローディアスの目的はこの煉獄で戦争を起こすこと。

まったくをもって理解できない。

 

「(理解できないのは、私の考えが正しいから……それとも、私が何も知らないから?)」

 

ポローニアスに浴びせられた言葉。自分は何も知らず、さらに知れば苦しむからと自殺を勧められた。冷徹だったが、ポローニアスの口調に偽りがあるように思えなかった。

処理しきれない情報が入り乱れ、酷く頭痛がする。

 

「スカーレット?」

 

呼び掛けられ、スカーレットは振り返る。

声をかけてきたのはヒジリだった。

 

「撤退の段取りができたよ。砂漠地帯まで戻って様子見をすることになった」

「その後は、どうするの?」

「………」

 

ヒジリは答えに窮しているようだった。

敵に対抗できる戦力がない以上、逃げるしか方策はない。厳しい我慢を強いられることになりそうだった。

 

「俺は強くないし、戦争を止めるような能力もない……けど、諦めなければ絶対にチャンスがくる」

「ヒジリ……」

「ここにいる全員で、見果てぬ場所へ行こう」

 

それを承知の上で、ヒジリの瞳は曇りなく澄んでいた。

出自を考えれば、絶望的な状況に身動きができなくなってもいいはずだ。それでも彼は常に誰かを案じて行動を続けている。

スカーレットにはあまりに眩しくて、羨ましかった。

 

「私は、ヒジリたちと一緒にいられない」

「……え?」

 

大きく目を見開いたヒジリへ、スカーレットは続ける。

 

「解放軍へ参加する。そこで我が師ポローニアスと……クローディアスを討つ」

「どうして、何のために?」

「何も知らないまま死んで、何もできないまま煉獄で手を汚した。このままだと、何もしないでまた終わる」

「スカーレットは俺たちを守ってくれた。危ない役割だって沢山……」

「それじゃダメなんだ!」

 

スカーレットは自然と声を荒げていた。

自分でもなぜ大声を出したのか分からない。感情の整理がつかないまま、言葉だけが溢れてくる。

 

「分からないよ、私だってどうすればいいのか……だけど、逃げても何も変わらないのだけは、はっきりしてる」

「なら、戦うことに意味があるのか!?」

「意味があるかは、戦争の結末が決めてくれる。もしくは、私が再び死ぬときに」

「……本当に、行くのか?」

「…………ごめん」

 

スカーレットは回れ右をして、ヒジリから顔を背けた。

それから逃げるように、戦場へ向かって一歩を踏み出した。

 

「私は、あなたみたいに強くない」

 

それが届いたかどうかは不明だが、ヒジリは追ってこなかった。

代わりに、複数の靴音がスカーレットへに迫って、そして隣にオオカミの軍隊が現れた。

 

「我らも解放軍へ参加する」

「あなた方の隊長は、心に従えと言っていた」

「その結果であります。煉獄でも我らを導いてくれたあの方へ報いるために、戦うのです」

 

スカーレットを置いていくように、オオカミたちは進行を開始した。

目的地が同じなだけで、目的はまったく違う。故に慣れ合うことはしないのだろう。

 

「(私が私じゃなくなるかもしれない……それでも)」

 

闘争本能(サガ)が発動するたび、体が獣人へ染まっていく。次は体だけで済む保証はない。しかし、スカーレットの足は止まらない。

そのために、先ほどすべてを捨てたのだから。

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