果てしなきスカーレット re:imagined   作:うそだよなまもる

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解放軍から英雄扱いされ、戦場で戦い続けているスカーレット。
しかし、彼女の心と体が悲鳴を上げ始めていた…


転換点

 

「(これで、何度目だろう)」

 

朱い鉢巻きをしたパンダの獣人を切り捨てながら、スカーレットは熱に浮かされた頭で考えていた。

闘争本能(サガ)に流されるまま戦い、気絶して誰かに運ばれ、悪夢で強制的に目覚め、また戦場へ戻る。それを繰り返していた。

このところ、様々な境界が曖昧になっている。眼前にいるのは敵なのか味方なのか。起きているのか気絶しているのか。

自分が何をしていて、何のために戦っているのか。

 

「英雄に続け!」

「俺たちには煉獄のジャンヌ・ダルクがついている!」

「クソ帝国軍を一人残らず殺せ!」

 

周囲から荒々しく、嬉しそうに、嗤うような獣たちの雄叫びが聴こえる。

いつからか、敵より味方の声の方が多くなった気がする。ただ目の前で敵が現れては死んでいくので、ここはおそらく戦場なのだろう。

そういえば、先ほど誰かを殺したのだった。

 

「(次が、来た)」

 

影のようなものが揺らめいて、カモノハシの獣人になった。細長い棒状の得物を持っている。

棒状の何かで刺突をしてきたので、手の甲で弾いてから、短剣で首を刎ねた。

少し手に痛みが走った。先端が刃になっていたのだろうか。勝手に体が動いたせいで、対応を間違えたのかもしれない。

 

「(まぁ、いっか)」

 

痛みが熱に上書きされ、すぐに違和感もなくなったので、気にせず進むことにした。

すると新たに獣人が道を塞いでくるので、全員を殴り、蹴り、斬り捨てた。ライオンとかパンダとか白鳥だったような気がする。

どうにも思い出せない。まるで自分が自分ではないみたいだ。

 

「おい、あれ見ろ!」

「こっちを狙ってる!?」

「逃げろ、逃げろ!」

 

周囲の喧噪が跳ね上がる。

その瞬間、頭上からひゅんと風を切る音が響いて。

周囲にいた獣人たちが、岩石の雨に潰された。

 

「ああああああああああ!」

「助けてくれ、助けてくれ!」

「俺らはいい! せめてあの方だけでも!」

 

爆発音にも似た悲鳴が、スカーレットの鼓膜を直撃して。

 

「……え?」

 

曖昧になっていた五感と意識が、急にはっきりした。

解放軍の前線が後方にあった。スカーレットを含む百人前後だけが突出している状態だった。

正面には石造りの荘厳な城。見果てぬ場所の関所で見たものと同じだ。エルシノア帝国軍の本拠地であり、クローディアスがいる場所。

気づかぬ間にここまで辿り着いていて、そして孤立していたのだ。

 

「避けてっ!」

 

横からどんと押され、スカーレットはその場に倒れ込む。

直後、自分を押し倒した鼠の女性が、何十発もの銃弾に貫かれた。

 

「だ、大丈夫!?」

 

鼠の女性の容態を確かめようとして、赤黒い塵と化した。

その射撃によって、周囲の解放軍は両手で数えるほどしか残っていなかった。

 

「私、なんてこと……」

「お気を確かに!」

「え?」

 

呆然としているスカーレットを抱きかかえ、ゴリラの獣人が必死の形相で後退を始めた。

 

「があ!」

 

しかし、ゴリラの獣人は手足に銃弾に撃ち抜かれ、スカーレットを放り出す。

地面に転がったスカーレットを、今度はバイソンの獣人が抱きかかえて走り出す。

 

「待って、あの人は!?」

「もう無理ですよ。でも、あなたは生きて貰わないといけない」

「どうして……」

「煉獄のジャンヌ・ダルク様! あなた様がいれば帝国軍に一泡吹かせられる!」

「あなたたちの目的は見果てぬ場所へ行くことでしょう!?」

「確かにそうですよ。ただ、それもこれも帝国の連中をぶっ倒さないと意味ないじゃないですか!」

 

バイソンの獣人の目には、大粒の涙が流れている。なのに彼の表情は晴れ晴れとしていた。

そんな彼も、数分後にスカーレットを守るための盾になり、塵と化してしまった。

 

スカーレットに選択肢はなかった。ただ流されるまま、解放軍のテントまで運ばれていった。

 

***

 

テントで手厚い歓迎を受けたスカーレットは、いつも通り上等なベッドへ案内された。

 

「相手は遂に奥の手を出してきましたな!

「投石はともかく、銃弾は死者と共に煉獄へ運ばれたものでしょう。数に限りがあるはず!」

「ゆっくりと体を休まれてください。次こそ帝国の城を落しましょうぞ!」

 

興奮気味な獣人たちに言葉を浴びせられた後、仕切り代わりのカーテンを降ろされ、スカーレットは一人になった。

我に返った状態で静かになると、体にのしかかる重力が増した。胃や肺に不快感が押し寄せ、内臓ごと何かを嘔吐してしまいそうだった。

 

「(私を守るために、沢山の人が死んだ……なのに、喜んでいる人がいる)」

 

帝国軍を打倒するという共通の目的があるだけで、個人間に情は湧かない。

戦場では甘さを出すことが命取りになる。その証拠に、ゴリラの獣人とバイソンの獣人はスカーレットへ期待と情けをかけたから死んだ。

 

「(ポローニアスとクローディアスを殺して復讐を果たす。そのために私は戦っている。戦場で誰かが死ぬのは当然なんだ)」

 

頭の中でそう言い聞かせようとする。

しかし、どうしても脳裏にいる理性が囁いてくるのだ。

 

「〈本当にそれが目的? あれだけ殺しておいて?〉」

「(そうに決まってる)」

「〈あなたも気づいているはず。他の人もあなたも、殺すことが目的になっている。殺したくて殺したくて仕方ない〉」

「違う!」

 

囁きを振り落とすように、スカーレットは毛布にくるまる。

しかし、暗闇を待ち望んでいたかのように、スカーレットへ別の声が徒党を組んで襲いかかってきた。

 

痛い、熱い、憎い。

殺して、あいつを殺して。

どうして失敗してしまったんだ。

 

「(うるさい、うるさい!)」

 

クローディアスを討て。我が恨み、国民の恨みはそれでしか晴らせないのだ。

それが我が娘の役目だ。そうだろう、スカーレット。

 

「(やめて、やめてよ、お父様!)」

 

願いも虚しく、暗闇から炎が燃え上がり、スカーレットの全身を焼き尽くそうとしてくる。

それが幻だと分かっているのに、苦しくて、痛くて、辛くてたまらない。

 

「私には、本当に何もできないの……?」

 

絞り出すように、スカーレットは弱音を吐く。

 

「お前、何者だ!」

「その先に入るんじゃない!」

「いるんだろう、ここに!」

 

すると、カーテンの外が急にざわめきだす。

スカーレットが気になって毛布から顔を出すと、勢いよくカーテンが開かれた。

 

「遅れてごめん、スカーレット」

「……ヒジリ、なんで……?」

「君の力になりにきた!」

 

そう言って、柴犬の獣人は満面の笑みを咲かせた。




次は週半ばにでも
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