果てしなきスカーレット re:imagined 作:うそだよなまもる
彼が己を顧みず人助けをするには、生前の後悔があるようで……
「俺も、何もできずに死んだんだ」
その出だしに、スカーレットは唾を飲み込む。
「俺、子供の頃に大地震で両親が死んじゃってさ。そのとき助けてもらったレスキュー隊に憧れたから、俺も同じ仕事に就いた」
「……それで?」
「運命というかなんというか。レスキュー隊になってすぐに、大地震の被災地で救助活動をすることになったんだ。そこで倒壊した家屋に……」
言葉とは裏腹に、ヒジリの表情は冷静だった。
「家屋には人もいた。隣には先輩たちも……みんな、すぐ側で潰されて即死だった」
「……」
「俺も両手足が折れてて、動けなくて……誰も、助けられなかった」
その絶望が、スカーレットにも容易に想像できてしまった。
奪われ、憧れ、志し、あっけなく死んだ。なのに誰も恨めない。自然を裁く方も手段もない。あまりに理不尽だ。
ヒジリは短く深呼吸した。かすかだが組んだ手が震えている。
「だから、君が仇打ちをすると言ったとき、止められなかった。俺が人を助けてたのだって、生きてるときの後悔を晴らしていただけだったから」
「……違う」
スカーレットは強く首を振った。
ヒジリの優しさの根底。それは確かに、後悔からきているのかもしれない。
「ヒジリは何も悪くない。状況が残酷だっただけだよ」
しかし、そんな人生を送りながらも、命も他人も恨まず、むしろ助ける道を選んだ。
彼と自分が同じだと、スカーレットは微塵も思えなかった。
「それは君もだろ? クーデターが起きたのは君のせいじゃない。それがなければ復讐なんてする必要も、君が悩んで苦しむこともなかった」
「……それは、まだ分からない」
「師匠が言っていたこと?」
「……」
スカーレットは無言で首肯した。
同意したい気持ちはある。ただ今のスカーレットには、それを判断する資格がない。
「じゃあ、確かめに行こう」
「え?」
「ついでに、戦争を終わらせよう」
「ヒジリ、いったいなにを……」
そう言いかけて、スカーレットは周囲に気配を感じて剣を構える。
すると、ヒジリが笑いながらそれを制した。
「安心してくれ。俺たちの味方だよ」
「俺たち?」
気配が徐々に近づいてくる。
視認できる距離までやってきた獣人に、スカーレットは思わず驚きの声が漏れた。
「キャラバンのみんな……!?」
「実は、俺だけじゃないんだ。避難するんじゃなくて、スカーレットを追いかけようって決めたんだよ。しかも、ただそれだけじゃない」
「どういうこと?」
「君が戦っている間……いや、君が最前線で戦ってくれたおかげで、光明が差した」
ヒジリは立ち上がり、スカーレットへ手を差し伸べた。
「行こう!」
***
キャラバンの誘導で、スカーレットは戦場を迂回するように移動していた。クローディアスの城と解放軍のテント、その中間に拠点を作ったのだという。
目的地の直前になると、隣にいるヒジリが話を始めた。
「そうだ、始めに言っておかないと」
「何か大事なこと?」
「あそこにいる獣人は、敵じゃない」
拠点と言われた地点は、洞窟の中にあった。
中は狭く、奥行きは果てしない。歩いて十分以上かけて、ようやく明かりが見えた。
明かりに集う獣人たちに、スカーレットは目を疑った。
「帝国軍!?」
種族は違えど、エルシノアの模様が刻まれた武器や防具を身に付けている。
先ほどヒジリが言っていた意味をようやく理解できた。変装していない本物の帝国軍なのだ。
「大丈夫、この人たちは洗脳から解放されてる」
「せ、洗脳?」
動揺しているスカーレットへ、ヒジリが言った。
「遺跡にいたオオカミたちがいただろ? 彼らが急に戦意喪失したのが疑問だったんだ。そうしたら、ここにいる帝国軍を助けてくれたときに、教えてくれた」
「帝国軍まで助けてたのね……」
「国王に謁見したときから、記憶が曖昧になってるらしい。そして気づいたら戦ってた……って」
「……つまり、帝国軍は全員クローディアスに洗脳されて、戦わされている?」
信じ難い話であるが、スカーレットは否定できなかった。
――
容赦なく発砲してきた銀髪のオオカミは、正気に戻るとそう言っていた。
――クローディアス様がくださった力ですよ。
見果てぬ場所の関所で、ポローニアスがそう言っていた。
にわかに信じがたい話だが、クローディアスにその力があるのかもしれない。
「ああ、だからクローディアスを倒せば……」
「一瞬で戦争が終わる」
煉獄には法律がない。戦争を調停する者がいないのであれば、どちらかが滅ぶまで終わらなかったかもしれない。
しかし、この推測が本当なのであれば……クローディアスを討ち取って見果てぬ場所を解放すれば、帝国軍は戦意を失い、解放軍が戦う理由はなくなる。
これが、ヒジリの指す「光明」だった。
「けど、ここからが問題なんだ。城の守りは厳重すぎて正面突破は不可能。侵入したいけど、帝国軍の人も城の構造を教えてもらってないみたいで……どこにクローディアスがいるか分からないんだ」
「……それなら」
顎に手を当てて悩むヒジリに、スカーレットは言った。
「私に、作戦の指揮をさせてほしい」
「スカーレットが?」
「やったことがあるの。あそこにいるのがクローディアスと私の師であるなら……できるかもしれない」
週二回更新がギリギリになってきました。
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