果てしなきスカーレット re:imagined 作:うそだよなまもる
スカーレットは荷台の中で縮こまっていた。
視界は真っ暗な闇に覆われている。時折揺れるせいで骨と床がぶつかり、絶妙に痛い。
しばらく息を殺していると、荷台が止まる。
「武具と銃か……ならば地下の武器庫へ運べ。軍へ入りたいのなら順番に通すから待機しているように」
事務的な説明が終わると、また荷台が進みだした。
暗闇の中にいるスカーレットにも、空気と気温が変わったのが知覚できた。城内に入ったのだろう。
下り坂に差し掛かったのか、床が斜めになった。変な音が立たないよう必死にしがみつく。
そして平地に戻ってしばらくすると、剣の柄が地面に四度、打ち付けられた。
合図を受け取って、スカーレットは仕掛け板を外して荷台から出た。荷物が置かれた床の下に人が入れるスペースを作り、底を外せばすぐに出られるようにしてあるのだ。
「ありがとうございます。大丈夫でしたか?」
「おそらくは……随分とあっさりだったので驚きました」
「帝国軍とはいえ、時代も人種も違う混成部隊ですから。煉獄では武器工場を造る設備もないとなれば、献上品を持ってくる人間は検閲は緩くせざるを得ないのです」
「なるほど。スカーレットさんは随分と肝が据わっておられる……」
スカーレットの荷台を引いていたのは、キャラバンの団員であるラクダの獣人だった。戦いに参加しておらず、従順に見え、帝国軍の顔が割れていない。この要素を満たす必要があったからだ。
「みんな、出てきて大丈夫」
そう声をかけると、他の荷台からも獣人が這い出てきた。
合計で十人前後。キャラバンのラクダたちは非戦闘員のため、戦闘員はこれで全員だった。
その一人であるヒジリが、スカーレットへ尋ねる。
「ここからどうする?」
「打ち合わせ通り、三組に分かれる。陽動と突入、それから突入した人の撤退ルートをバックアップする待機のメンバー」
荷短剣を腰に携えながら、スカーレットは続けた。
「陽動は注意を惹きつけてから、煙幕を焚いて城の外まで逃げる。突入班と撤退ルートを確保する班は、私が状況に合わせて都度指示を出す」
「分かった。みんな、絶対に無理はしないこと、命第一で!」
ヒジリの掛け声で、戦闘員が頷いた。
全員の瞳に決意が灯ったのを見て取り、スカーレットは短く深呼吸をした。
「行こう!」
***
スカーレットの作戦は概ね成功した。
武器庫を見張っている兵士を昏倒させてから、武器庫に火を付ける。そして注目が集まったタイミングで、スカーレットたちが兵士が守りを固めている場所へ煙幕を投げ、城中を煙で満たした。
敵に侵入されたとき、兵は出口と貴族や王族がいる場所に自然と集まっていく。それを利用したのだ。
「このゴーグルなら煙でも目が開けられる。私についてきて」
煙に紛れて移動し、階段を上り、兵の気配が消えたタイミングで、スカーレットが口を開いた。
「ここであなたたちは待機。敵が来たら私に合図を送ってすぐに逃げて。あっちからロープを使えば問題なく逃げられると思う」
その指示に、ヒジリが感嘆したように唸った。
「かなり手馴れてるな。まるで城の構造が分かってるみたいだ」
「この城、私が暮らしていたものと似た構造をしているの。おそらくクローディアスが意図的にそうしているんだと思う」
「にしてもだよ。敵も味方も傷つけないでここまでこれてるしな」
「師匠の教えなの。だから、ここまでは私たちをすんなり通してくれるはず」
「……?」
「ほら、ヒジリはここで待機でしょ?」
スカーレットが催促したが、ヒジリは納得してない様子で首を振る。
「君と行かせてくれ」
「ここから先は必ず戦闘になる。ヒジリを守って戦える自信ない」
「それは否定できないけど……撤退するつもりないだろ、君」
ヒジリに指摘されて、スカーレットは言葉に詰まる。
図星だった。他の人に撤退を促しているのもそれが理由だった。
彼らを疑っているのではない。生前に裏切られた記憶が、スカーレットが孤立へ駆り立てていた。後ろから刺されるぐらいなら、己一人で戦った方が安全だと。
「戦いになったら隠れてることしかできないけど、君を撤退させるための道具は持ってきた」
「けど……例え不可抗力でも、ヒジリに誰かを傷つけてほしくないよ」
「……それを言ったら、君を殺す権利を持っているのは俺だ」
ヒジリの瞳に覚悟が灯っている。どんな風が吹こうか揺らがない強い信念が燃料となって、彼を支えているようだった。
「君が誰かに殺されるなんて、ごめんだ。だから、俺が絶対に死なせない」
「……、……なら、一つだけ約束して」
スカーレットはヒジリへ歩み寄り、武器庫から拝借した拳銃を渡した。
「私が絶対にヒジリを守る。それから私が
「ああ、分かった」
ヒジリは即決で頷いてくれた。
互いの覚悟を認め合い、スカーレットはヒジリと上層へ向かった。
生前のエルシノア城を模倣しているのなら、上の階が舞踏会を開く大広間、そしてその上に観覧室……王が居る場所へ辿りつくはずだ。
「ヒジリ、止まって」
大広間に差し掛かると、スカーレットはヒジリを制す。
大広間は大理石に加工された宝石が埋め込まれ、生前のエルシノア城と遜色ない豪華絢爛さを誇っていた。
その中心に、一人の獣人が立っている。
「やはり、ここまで来てしまいましたか」
「ポローニアス……貴様はここにいると思っていた」
アザラシの獣人が短剣を抜いた。
スカーレットも短剣を抜き、大広間の中心へと歩いていく。
「一人なんて、余裕だな」
「あなたの暴れっぷりは、城からよく見えておりました。数がいようが無駄でしょう」
「私を単独で倒せると?」
「ワタシは忠告したはずですよ、姫様」
ポローニアスは生気を失った瞳で、スカーレットを見下した。
「あなた様は真実を望んだ、であれば、できる限りの苦しみを与えて殺さねばならない」
「それがクローディアスの命令だからか」
「ええ」
「なら、私は殺されるわけにはいかない」
両者が剣を構えると、広間がぴたりと静まり返った。
塵が床を這う音すら聞こえる空間を斬り裂くように、互いの切先がぶつかり合った。
次は週末にいけたらいいな