果てしなきスカーレット re:imagined 作:うそだよなまもる
一度目は大敗だったが、度重なる戦いと覚悟がスカーレットに変化をもたらしていた……
「はあっ!」
「……ほう」
スカーレットが小刻みに繰り出す刺突に、ポローニアスが興味深げに唸る。
「少し見ない間に、動きが随分と洗練されましたね。場数を踏んだせいでしょうか」
「そちらは、前回と変わらず余裕だな!」
顔には出さないものの、スカーレットも内心驚いていた。
戦場では
しかし、体裁きや剣の振り方、敵の出方を伺う観察眼に至るまで……思考と行動が直結した動きができていた。
「(リーチと経験で劣っているけど、膂力と速さはこちらが上)」
カウンター狙いのポローニアスへあえて中途半端な踏み込み、放たれたカウンターへ逆にカウンターを仕掛ける。
「む?」
ポローニアスが狙いに気づいたのか、後ろへ数歩下がる。
対して、スカーレットは止まらず前進する。
「(距離を取らせない。このまま壁に追い込んで逃げ場をなくす!)」
ポローニアスが左右へ避けないよう、短剣の横薙ぎと脇腹への刺突を執拗に繰り返す。
「ここだ!」
そして目論見通り壁際に追い込んだと同時に、ポローニアスの腕へ短剣を振り下ろす。
「なっ!?」
「驚きました」
ポローニアスは刃を掴むことで受け止めた。手袋からじわりと赤黒い塵が滴っている。
「あまりにも愚かで、呆れを通り越して驚いています」
吐き捨てるような言葉と共に、ポローニアスの拳がスカーレットの鼻先へ直撃する。
その威力に短剣を手放し、スカーレットは後方へ吹っ飛ばされた。
「スカーレット!」
「ヒジリ、来てはだめだ!」
歯を食いしばって激痛に耐えながら、スカーレットは後方にいるヒジリと一瞬だけ目配せする。
前方からゆっくりとした足取りで、ポローニアスが距離を詰めてきているからだ。
「自身の長所を押し付ける形で畳みかける。確かに有効な戦術ではあります。ですが、それは互いが初見である戦争の場合のみ。しかし、ワタシはあなたの師匠であり、戦場での経験も圧倒的」
そう話しながら、ポローニアスは無表情で剣を振りかざす。
スカーレットは辛うじて避けたが、立て続けに繰り出された蹴りと裏拳を喰らってしまう。
そしてよろけてがら空きになった鳩尾へ、岩のような膝が入った。
「ぐ、が……!」
「覚悟を決めてきたのでしょう。数多の帝国軍を手にかけ、味方に期待をもたせて見殺しにした。それもこれも、あなたの取り戻せない……もはや無意味な真実のために」
崩れ落ちたスカーレットの頭を掴み、ポローニアスは淡々と続ける。
「その結果がこの慢心です。忠告を聞いていれば、我ら帝国軍も、あなた様を信じた味方も、そしてあなた様自身が傷つくこともなかったのに。すべて、あなた様のせいなのですよ?」
「……うる、さい」
「うるさく説教しますとも、ワタシはあなた様の師匠なのだから」
「だから、こうして有利だったリーチを捨てて、私を殴って痛めつけたのか」
頭を掴まれたまま、スカーレットは無理やり口を大きく開けた。
「慢心しているのは、そちらもだろう……!」
「慢心されてしまうそちらに問題があるでは?」
「……そうか。なら――」
スカーレットは力任せにポローニアスの手を引き剥がす。
「ヒジリ!」
「よしきた!」
合図と同時に、スカーレットの後方から煙幕が広がった。
事前にヒジリと相談していたのだ。本来であれば撤退の合図だが、スカーレットとヒジリの意図は一致している。
「この距離で目くらまし? 無駄なことを……」
「いや、違う。もう私の勝ちだ」
逆転の一手。それに対して反応を遅らせるためのブラフ。
ポローニアスに悟られなかった時点で、スカーレットは勝利を確信した。
「これは知らないだろう、ポローニアス!」
掴んでいるポローニアスの腕を思い切り引き寄せ、背中をポローニアスの巨体にぶつけ、全身の力でその巨体を持ち上げ、地面にたたきつける。
一本背負投げ。ヒジリが生きた日本では、古来からある武術の技なのだという。
「がはっ……!」
「で、できた!」
失敗すれば大きく隙を晒してしまうが、成功すれば敵の体勢を一気に崩せる。
話を聞いただけでぶっつけ本番であったが、スカーレットは成功させて見せた。
「スカーレット、そのまま縄で拘束を……」
「待って!」
近寄ろうとしたヒジリを、スカーレットは再び諌める。
スカーレットが捕まえたポローニアスの腕から、力が抜ける気配がない。
受け身をしなかったにも関わらず、まだ動けるというのか。
「こうなったら、足か手を折って行動不能に……」
「その必要は、ないかと」
「えっ?」
急に脱力して、ポローニアスはスカーレットから手を離した。
煙が完全に晴れ、スカーレットはようやく気が付いた。
光を失っていたポローニアスの瞳に、生気の灯が灯っているではないか。
「お父上に似て、凛々しくなられましたな……」
「ポローニアス……いや、師匠なの?」
ポローニアスは微かに首を動かして肯定する。
すると、その様子を見てヒジリがやってきた。
「ポローニアスさん、だよな。正気に戻ったのか?」
「正気……なるほど。その言葉で、断片的しかない記憶に説明がつきました」
「やっぱり、あなたはクローディアスに操られていたんだな」
「そうなのでしょう……本当に、自分自身が情けない」
記憶を整理するように深呼吸をして、ポローニアスはスカーレットの方を向いた。
「クローディアスは、観覧室より更に階段を上った屋上にいます。戦場を眺め……そして、リヴァイアサンをいつでも撃退できるように」
「……真実は、あなたの口から話してくれないのだな」
「愚かなワタシには、その資格がございません。生前も今も、クローディアスに操られるまま手を汚し続け……この報いは、すべてが終わった後に受けましょう」
「それから、クローディアスの言葉には、決して耳を傾けてはいけません」
「どういうこと?」
「あれは人ではなく……悪魔です」
静まり返った城に、ポローニアスの声がじんわりと染みわたっていった。
次は週の半ばにでも