果てしなきスカーレット re:imagined 作:うそだよなまもる
そこに待っていたのは、煉獄でも生前の姿のままで鎮座するクローディアスで……
「悪魔……?」
「比喩表現か何かか?」
「いいや、あれは、悪魔そのものだ」
ポローニアスが零した言葉に、スカーレットとヒジリは首を傾げる。
誰もが獣人となったこの煉獄では、「どんな獣になったのか」が有益な情報となる。本来の獣の力を引き出せる者は多くないが、それでも戦略を組むきっかけにはなるからだ。
「他に何かないか?」
「あの方……いいえ、あれは獣という概念を越えている」
ポローニアスは瞳に恐怖を灯してから、憑き物が落ちたように気絶してしまった。
彼を壁際へ寄せてから、スカーレットとヒジリは上階を目指すことにした。
「結局、悪魔ってどういう意味なんだろうな」
「分からない。けど、ポローニアスが私たちを貶めるつもりはなかったと思う」
「つまり、クローディアスは本物の悪魔ってことか?」
階段へ足を踏み入れる前、ヒジリが上階にある観覧室を見やる。
「なぁ、俺の勘違いじゃなかったら……」
「うん、さっきまで見下ろされていた。その上で、こっちを招き入れるつもりらしい」
スカーレットも、ヒジリが覚えているであろう不快感を覚えていた。
大広間に足を踏み入れてから、ポローニアスが気絶するまで。閲覧室から背筋の凍るような視線があった。
洗脳で兵士を戦地へ駆り出し、直属の部下が戦うさまをただ眺めているだけ。
「生前から変わっていない……吐き気のするほど、趣味が悪い男」
「スカーレット、酷い顔してる」
「ごめんなさい。ここからは、あまり顔見ないでほしい。獣になった今だと、見れたものじゃないから」
「なら、見たくないものがあるときは、俺の方を向いておいてくれ」
そう言って、ヒジリはにかっと笑う。
スカーレットにとっては何よりも救いだった。
スカーレットとヒジリは警戒しつつ、階段をゆっくり上り始める。
進みながら、ヒジリがスカーレットへ耳打ちした。
「そういえば、決めておきたいことがあるんだ」
「どうしたの?」
「敵が洗脳してくるなら、目覚めさせる方法をが必要だろ?」
「洗脳する方法も解除する方法も聞けなかったから、その場で判断した方が……」
「念のためだよ。俺の場合は……出動時のアラーム訊くと全身の細胞が逆立つ」
「有効だろうけど、私が出せるの?」
「いや、無理だ……なら中学の頃からずっと聞いてる曲とかどう?寝てるとき勝手に口ずさんでるらしい」
スカーレットは思わず苦笑してしまった。
警戒は解けないが、肩はだいぶ軽くなった気がする。
「だから、もし俺が操られたら、スカーレットが歌ってくれ」
「……歌、苦手なの。お母様とお父様も、私を音痴だって」
「平気さ。洗脳されているときに音痴とか関係ないだろ、多分」
それはそれでスカーレットは不服だった。
そんな彼女の表情に気づかないまま、ヒジリは歌詞を口ずさみ始める。
***
観覧室は無人であったが、中央に両開きの扉があった。
スカーレットはヒジリに目配せをして、ゆっくりと扉を押し開けた。
全面をステンドグラスで彩られた、神秘的な空間だった。
屋根と側面は上空の海からの光を取り込んで薄く光、その光を反射した床が淡く輝いている。ただ光量が足らず、部屋の全体が見渡せない。
しかし、玉座だけには眩しすぎるほどの光が当たっていた。
生前と変わらない、他人を値踏みするような不愉快な目に、やや低い小太りな背丈、声だけはすこぶる良く、まるで一流歌手のようである。
そこにいたのは、スカーレットの死の間際に見たままの仇だった。
「クローディアスッ!!!」
「スカーレットか……」
玉座に座るクローディアスは、短くため息を吐いた。
「落ち着きたまえ。仇討ちなどと……くだらないと思わんかね?」
「なんだと?」
「殺されたから殺し返す。それに何の意味があるか。それに我はただこの国をあるべき姿へ導いたまでのこと。殺される謂れなど微塵もない」
椅子に座る男から発せられた言葉に、スカーレットは生前のトラウマが蘇る。
怒りと憎しみに対して、憐憫と嘲笑をもって迎えられたあのときと。
まったく同じ言動をしているのは、おそらくわざとそうしているのだろう。
「貴様は、生前から今に至るまで、一体何がしたいんだ」
「我は王。常に正しく、絶対的で、神がそうしていたように、地上を支配せねばならん」
「それは傲慢だ。お父様はとっくに、絶対王政を否定なされていた」
「それが愚かなのだ。諸外国は力を付けて制海権を奪い合い、我が国は食糧難を抱えていた……だのに、常識が通じない相手国と、知識も能力もない民と歩調を合わせようとするとは」
子供の論理を優しく諭すように、クローディアスがくすりと笑う。
「そなたの父は、あまりに愚かで話にならなかった」
「……言わせておけば」
歯を食いしばり、スカーレットは剣の柄を握った。
「最後に訊いてやる。貴様が死ぬ間際、私たちのエルシノアはどうなった?」
「興味ないな。今この地で我に従う者だけが、エルシノアの民だ」
「安心した。貴様が生前と変わらない醜さで!」
床のグラスを割る勢いで蹴り出し、スカーレットは突撃した。
「貴様だけは、この場で殺してやる!」
「口だけは立派だ。父親譲りだな」
そんなスカーレットへ向けて、クローディアスは不敵に笑う。
そして大きく息を吸うと、拡散させるように声を張った。
「民よ、これは啓蒙である」
先週は仕事、今週は胃腸炎という地獄コンボを味わってました。
皆さんも牡蠣には本当の本当の本当にお気を付けを…