果てしなきスカーレット re:imagined   作:うそだよなまもる

21 / 29
遂に最上階へ到達したスカーレットとヒジリ。
そこに待っていたのは、煉獄でも生前の姿のままで鎮座するクローディアスで……



クローディアス

「悪魔……?」

「比喩表現か何かか?」

「いいや、あれは、悪魔そのものだ」

 

ポローニアスが零した言葉に、スカーレットとヒジリは首を傾げる。

誰もが獣人となったこの煉獄では、「どんな獣になったのか」が有益な情報となる。本来の獣の力を引き出せる者は多くないが、それでも戦略を組むきっかけにはなるからだ。

 

「他に何かないか?」

「あの方……いいえ、あれは獣という概念を越えている」

 

ポローニアスは瞳に恐怖を灯してから、憑き物が落ちたように気絶してしまった。

彼を壁際へ寄せてから、スカーレットとヒジリは上階を目指すことにした。

 

「結局、悪魔ってどういう意味なんだろうな」

「分からない。けど、ポローニアスが私たちを貶めるつもりはなかったと思う」

「つまり、クローディアスは本物の悪魔ってことか?」

 

階段へ足を踏み入れる前、ヒジリが上階にある観覧室を見やる。

 

「なぁ、俺の勘違いじゃなかったら……」

「うん、さっきまで見下ろされていた。その上で、こっちを招き入れるつもりらしい」

 

スカーレットも、ヒジリが覚えているであろう不快感を覚えていた。

大広間に足を踏み入れてから、ポローニアスが気絶するまで。閲覧室から背筋の凍るような視線があった。

洗脳で兵士を戦地へ駆り出し、直属の部下が戦うさまをただ眺めているだけ。

 

「生前から変わっていない……吐き気のするほど、趣味が悪い男」

「スカーレット、酷い顔してる」

「ごめんなさい。ここからは、あまり顔見ないでほしい。獣になった今だと、見れたものじゃないから」

「なら、見たくないものがあるときは、俺の方を向いておいてくれ」

 

そう言って、ヒジリはにかっと笑う。

スカーレットにとっては何よりも救いだった。

スカーレットとヒジリは警戒しつつ、階段をゆっくり上り始める。

進みながら、ヒジリがスカーレットへ耳打ちした。

 

「そういえば、決めておきたいことがあるんだ」

「どうしたの?」

「敵が洗脳してくるなら、目覚めさせる方法をが必要だろ?」

「洗脳する方法も解除する方法も聞けなかったから、その場で判断した方が……」

「念のためだよ。俺の場合は……出動時のアラーム訊くと全身の細胞が逆立つ」

「有効だろうけど、私が出せるの?」

「いや、無理だ……なら中学の頃からずっと聞いてる曲とかどう?寝てるとき勝手に口ずさんでるらしい」

 

スカーレットは思わず苦笑してしまった。

警戒は解けないが、肩はだいぶ軽くなった気がする。

 

「だから、もし俺が操られたら、スカーレットが歌ってくれ」

「……歌、苦手なの。お母様とお父様も、私を音痴だって」

「平気さ。洗脳されているときに音痴とか関係ないだろ、多分」

 

それはそれでスカーレットは不服だった。

そんな彼女の表情に気づかないまま、ヒジリは歌詞を口ずさみ始める。

 

***

 

観覧室は無人であったが、中央に両開きの扉があった。

スカーレットはヒジリに目配せをして、ゆっくりと扉を押し開けた。

 

全面をステンドグラスで彩られた、神秘的な空間だった。

 

屋根と側面は上空の海からの光を取り込んで薄く光、その光を反射した床が淡く輝いている。ただ光量が足らず、部屋の全体が見渡せない。

しかし、玉座だけには眩しすぎるほどの光が当たっていた。

生前と変わらない、他人を値踏みするような不愉快な目に、やや低い小太りな背丈、声だけはすこぶる良く、まるで一流歌手のようである。

そこにいたのは、スカーレットの死の間際に見たままの仇だった。

 

「クローディアスッ!!!」

「スカーレットか……」

 

玉座に座るクローディアスは、短くため息を吐いた。

 

「落ち着きたまえ。仇討ちなどと……くだらないと思わんかね?」

「なんだと?」

「殺されたから殺し返す。それに何の意味があるか。それに我はただこの国をあるべき姿へ導いたまでのこと。殺される謂れなど微塵もない」

 

椅子に座る男から発せられた言葉に、スカーレットは生前のトラウマが蘇る。

怒りと憎しみに対して、憐憫と嘲笑をもって迎えられたあのときと。

まったく同じ言動をしているのは、おそらくわざとそうしているのだろう。

 

「貴様は、生前から今に至るまで、一体何がしたいんだ」

「我は王。常に正しく、絶対的で、神がそうしていたように、地上を支配せねばならん」

「それは傲慢だ。お父様はとっくに、絶対王政を否定なされていた」

「それが愚かなのだ。諸外国は力を付けて制海権を奪い合い、我が国は食糧難を抱えていた……だのに、常識が通じない相手国と、知識も能力もない民と歩調を合わせようとするとは」

 

子供の論理を優しく諭すように、クローディアスがくすりと笑う。

 

「そなたの父は、あまりに愚かで話にならなかった」

「……言わせておけば」

 

歯を食いしばり、スカーレットは剣の柄を握った。

 

「最後に訊いてやる。貴様が死ぬ間際、私たちのエルシノアはどうなった?」

「興味ないな。今この地で我に従う者だけが、エルシノアの民だ」

「安心した。貴様が生前と変わらない醜さで!」

 

床のグラスを割る勢いで蹴り出し、スカーレットは突撃した。

 

「貴様だけは、この場で殺してやる!」

「口だけは立派だ。父親譲りだな」

 

そんなスカーレットへ向けて、クローディアスは不敵に笑う。

そして大きく息を吸うと、拡散させるように声を張った。

 

「民よ、これは啓蒙である」

 




先週は仕事、今週は胃腸炎という地獄コンボを味わってました。
皆さんも牡蠣には本当の本当の本当にお気を付けを…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。