果てしなきスカーレット re:imagined   作:うそだよなまもる

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国を興すに至ったクローディアスの能力が発揮される。


サタン

その言葉に、スカーレットの全身がぞわりと逆立つ。

忘れもしない。歯向かう民を処刑する際、まるで正論のように叫んでいた。

 

「(まさかこれが、相手を洗脳するための言葉!?)」

 

しかし、スカーレットの心身ともに変化はない。いや、銀髪のオオカミやポローニアスの反応を見る限り、無意識の内に操られてしまっている可能性がある。

 

「(なら、体が自分の意志で動く間に仕留める!)」

 

残り数歩を短縮するため、スカーレットがさらに足へ力を込める。

そのとき、クローディアスがふっと笑った。

 

「やはり効かないか。そこまで父親譲りとは」

「は?」

「だがいい。我を守れ」

 

クローディアスがそう呟くと、スカーレットの後方から鋭い叫びが聞こえた。

 

「ダメだ、スカーレットッ!」

「っ!?」

 

スカーレットは思わずその場で踏ん張り、急ブレーキをかける。

剣の切先はちょうどクローディアスと人一人分の距離がある。そのまま腕を伸ばせば心臓を一刺しできる。

だができなかった。

 

「ダメだよ、こんなこと、あっちゃいけない」

 

自分を引き留めた声の主がヒジリだったから。

少し遅れてやってきた彼はリュックサックを脱ぎ捨て、スカーレットとクローディアスの間にすっぽりと収まった。

 

「どう、して」

「君の方がどうかしてるじゃないか。クローディアス様を殺そうとするなんて」

 

スカーレットは己の時間が止まったかと思った。

急速に血液が冷える。そのせいで頭が一気に冷え、思考が冷静になってしまう。

 

「(ヒジリが洗脳された)」

 

やはり、クローディアスの「啓蒙である」という言葉が引き金となっていた。活力に満ちていたヒジリの両目から光が失われているのだが、顔は笑っていた。それが逆に気味が悪い。

スカーレットが無事なのか理由は不明だが、彼女にとってはその方が問題だった。

 

「お願い、そこをどいて」

「クローディアス様は君と戦うことなんて望んでいない。友好的に終わらせよう。戦争を止めて、全員でエルシノア帝国軍へ入る。それで丸く収まるじゃないか」

「……あなたがクローディアスの名を呼ばないで!」

 

約束していた。「もし自分が闘争本能(サガ)に呑まれたときは殺してくれ」と。

自分がいくら傷つこうが構わないと思っていた。煉獄の平和と復讐が達成できるのなら、それでも良かった。

なのに、スカーレットの腕は震えて、剣を動かすことができなかった。

 

「どうしたスカーレット。我に不服があるのなら、この男ごと貫けば早いだろう」

「貴様、どれだけ人の心を弄ん…!」

「それが我に与えられた……いや、得るべくして得た権能よ」

 

クローディアスは自分を庇っているヒジリの肩を叩いた。

 

「人類の祖……エデンを追放されたアダムとイブ……それを扇動したのは一匹の蛇だという。しかしその姿は文献によっていかようにも変わり、されどその悪行のみが、戒めとして残るのみ」

「…………サタン」

 

スカーレットの零した単語に、クローディアスが蛇のような舌で舌なめずりしてから、満面の笑みを浮かべる。

 

「この力を説明する上で、もっとも適したものがそれでなぁ、しかしこの力は悪ではない。現実から目を背け、現状の不満を垂れ、己の怠慢を現世のせいにして死後へ期待するばかりの無能ども……」

 

無遠慮にヒジリの頭を叩きながら、クローディアスはさらに続ける。

 

「下層の人間が自らを変えるのは不可能だ。死んで生まれ変わればと思ったが……どうだ、この煉獄で獣になって余計に醜くなった。民に自由など不要。民に幸福など不要。民に意志など不要」

 

そして、締めとばかりにヒジリの背中をどんと押す。

スカーレットは反応が遅れた。剣の切先がヒジリの肩に刺さり、赤黒い塵が舞う。

 

「があああああっ!」

「なっ!?」

「我が煉獄の王として、森羅万象を支配する。これが最適解だ」

 

よろけるヒジリをスカーレットは受け止める。

破綻している。そうスカーレットの脳内が結論を出していた。

自分が間違えていることに気づいていない子供のような暴論。もっと正確にいえば、他人を見下すあまり自分以外を信じられなくなった小心者のような。

しかし、そんな男が認知を歪めてしまう能力を得てしまった。

故に、煉獄でこんな真似をしているのだ。

 

「(何が、クローディアスをここまで駆り立てているの……?)」

 

スカーレットはヒジリの傷口を布で抑えていると、クローディアスが言った。

 

「おい、そこの犬。いつまで休んでいる?」

「す、すみません。クローディアスさま……」

「ヒジリ、耳を貸してはダメ!」

「ヒジリと言うのか……ではヒジリ、これは啓蒙である」

「あ、ああ、ああああああああ!」

 

ヒジリは苦しみながらスカーレットの手を振り払い、荒々しく立ち上がる。

そして、クローディアスの方へ向くと、仰々しくかしずいた。

 

「醜態を晒してしまい申し訳ございません。クローディアス様」

「ならば償ってみせよ」

 

クローディアスは悪だくみを思いついた様子で、ゆっくりとスカーレットの方を指さした。

 

「殺せ、スカーレットを」

 




書き溜めはしていないのですが、今回は早めに出せました。
次は週末にでも
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