果てしなきスカーレット re:imagined 作:うそだよなまもる
「一度打ち破った程度で、いくらでもかけ直せるものだ!」
平静を取り戻そうとしているのか、クローディアスがせせら笑い、呼吸を整えようとする。
しかし、スカーレットは慌てる様子もなかった。
「気が済むまで、何度でもやればいい。私は洗脳されず、ヒジリを正気に戻す方法も確立した。もう私たちには通用しない」
「ならば、貴様ら以外の駒を使うのみ!」
クローディアスが二度、拍手する。
スカーレットもそれは読んでいた。いくら洗脳ができるとはいえ、ポローニアス以外の護衛を付けないはずがない。
しかし、手を打った音が虚しく響くのみだった。
「な、何をしている! これは啓蒙である、誰か早く来い!」
それから何度も呼び掛けるも、足音すらやってくる気配がない。
スカーレットが玉座の間の入り口に目をやると、何者かの影が通り、すぐさま消えてしまった。
「(まさかポローニアス、あなた……)」
彼の努力を無下にすまいと、スカーレットは口には出さなかった。
その代わり、クローディアスへ短剣を向ける。
「……もういいだろう。すべてを終わらせよう」
「ふ、ふざけるなっ! 何をしている! 肝心なときすら役に立たない! これだから、これだから使えない愚民は嫌いなのだ!」
「クローディアス……」
父と仲違いしていた影響なのだろうが、スカーレットは碌にクローディアスと関わってこなかった。彼の人となりを知ることもなく、一方的に彼を憎み、復讐すると誓った。
知りたいと願った現実に辿り着いた今、スカーレットが抱いた感情は、哀れみだった。
「どうして、そこまで絶対性を欲しがるの?」
「逆だろう。貴様は……貴様の父も、どうして絶対性を欲しがらない。王であるために必須の特権であるはずだろうが」
「お父様は……アムレット王は、ただエルシノアを愛していた」
クローディアスが口にしていた国を取り巻く世界情勢を、スカーレットは知らなかった。民と交流を交わすときだって、そんな様子は一度も見たことがなかった。
本来ならば、国の王女として恥ずべきこと。しかし、スカーレットの胸中は穏やかだった。
「だから傷つける道ではなく、友和を望んでいた。あなたには愚かに映ったかもしれないけど、それは愛を知らないから」
「愛だと?」
「クローディアス……いいえ、叔父様。あなたは誰からも愛されなかったから、絶対性が欲しいのですね」
「うるさい!!!!」
クローディアスの怒号が部屋中を振るわせる。
「王に愛など要らぬ! 愚民に偽善振りまいて愛を媚びるアムレットより、我の方が王にふさわしい!」
「羨ましかったのですね、お父様が。お父様が愛し、愛されたエルシノアが」
「その目を、あの男と同じ憐みの目を、我に向けるなぁ!」
激昂したクローディアスは、懐からナイフを取り出し、スカーレットへ向かって走りだした。
「我の前から消えろ、消えろぉ!」
迫ってくるクローディアスに、スカーレットは構えていた剣を下ろした。
隣にいた柴犬の男に制されたからだった。
「洗脳されたことは、むかつくが恨んだりしない」
「邪魔するなぁ!」
「けど、俺から言いたいことは一つだ!」
スカーレットの前に躍り出たヒジリは、クローディアスのナイフを手首を捻ってから弾き落とし、クローディアスの勢いを使って思い切り背負い投げた。
「お前の我儘に、他人を巻き込むな!」
床に叩きつけられたクローディアスへ向けて、ヒジリは全身全霊の怒りをぶつけた。
「やめ、ろ。アムレット……」
倒されたクローディアスは、天井を睨みつけ、ぶつぶつと呟いていた。
「なにが、ちがう。なぜ、きさま、だけが満たされている……?」
泣き言がぴたりとやみ、クローディアスは意識を失った。
すると、ヒジリがスカーレットへ笑いかける。
「ごめん、勝手に」
「ううん。でも、どうして」
「この男は、君が斬る必要ないよ。最初から、その必要がなかった」
「……うん」
ヒジリの言葉に、スカーレットは自然と頷いていた。
スカーレットは目を閉じてみる。瞼の裏に張り付いていた炎は消え、ただ真っ暗な闇が残っていた。
「これで、終わったのね」
「ああ、洗脳をしていた本人を倒したから、戦争も終わるはず――」
ヒジリがそう言いかけると、玉座の間が激しく揺れた。
「地震!?」
「いや、この衝撃は……砲弾?」
スカーレットとヒジリは、慌ててステンドグラスの一部を割り、外の景色を見やる。
解放軍が、エルシノア軍を圧倒する勢いで城に攻め込んできていた。
次は週末にでも