果てしなきスカーレット re:imagined   作:うそだよなまもる

25 / 29
クローディアスを倒したことで、解放軍とエルシノア軍の形成は逆転した。
しかし、そう簡単に戦いは終わらない…


竜の姫

「ダメだ、もうその人たちに戦意はない!」

 

ヒジリの叫びが、硝煙に巻き取られて溶けていく。

スカーレットの眼前で、エルシノア軍が戦場で逃げ惑い、立ち尽くし、何もできないまま殺されていく。

 

「(洗脳は解けた後、記憶に混濁が出る……だから、抵抗できない……)」

 

予想通り、洗脳主であるクローディアスを無力化したおかげで、エルシノア軍を解放できた。そして片方が戦意を失えば、闘争本能(サガ)が発動しなくなる。

その二つを要素を満たすことで、戦争を止める算段だった。

確かにスカーレットたちの眼前では、戦争は行われていない。

 

戦争ではなく、一方的な虐殺へ変わってしまったのだ。

 

「どうしてだよ、闘争本能(サガ)が発動したままなのか……?」

「ううん、闘争本能(サガ)は発動していない」

「なら、どうして……」

 

ヒジリの問いに、スカーレットはぽつりと答える。

 

「憎しみ、だよ」

 

闘争本能(サガ)という戦いの本能ではなく。生前から人間が抱えている、人を殺してしまいたくなるほどの激しい衝動。

戦争によって限界まで抑圧されていたその感情が爆発し、制御できなくなってしまった。

 

「私にも分かる。憎しみは負の感情だけど、他のどんな感情よりも、力が湧く」

「……止めらないどころか、火に油を注いだのか、俺たちは」

 

ヒジリは怒りに任せて、床を強く叩いた。

落ちていた硝子が刺さり、彼の拳から赤黒い塵が舞う。

 

「(闘争本能(サガ)が私たちを殺し合わせていた訳じゃない)」

 

煉獄に来て、スカーレットは闘争本能(サガ)に振り回されてきた。

しかし、闘争本能(サガ)が獣人たちを殺し合わせていた訳ではない。敵意や戦意を抱くのは、闘争本能(サガ)が発動する前、本来の自分自身に依るものだから。

所詮、闘争本能(サガ)は副産物にすぎないのだ。

 

「(クローディアスの言う通り、一度死んでも、私たちの本質は変わらないの……?)」

 

地獄と見紛う光景に、スカーレットは己の無力さと、現実の無常さを恨む。

そのとき、俯いた彼女の頭部に、冷たさを感じた。

 

「……雨」

 

水滴は勢いを増し、数秒経たないうちに大雨となる。

スカーレットは顔を上げ、天を仰いだ。

上空にある海が荒らし、雷を伴いながら、巨大な龍が姿を現した。

 

「リヴァイアサン、このタイミングで!?」

 

同じく顔を上げたヒジリが、慌てた様子でスカーレットの肩を叩く。

 

「こんなガラス張りで高い場所、雷が落ちたら大変だ、すぐに移動しないと!」

 

しかし、スカーレットは動かなかった。リヴァイアサンが渦のように同じ場所で回転しているが、雷を落としてくる様子がない。

何故だか分からない。ただの勘違いかもしれない。それでも、スカーレットはリヴァイアサンと目が合っている気がした。

そして、これまでリヴァイアサンと邂逅してきた記憶があふれ出してくる。

 

「……ああ、そうなんだ」

「スカーレット?」

「あまり気にしないようにしてたの、自分が何者なのか」

「スカーレットは、スカーレットだろ?」

 

首を傾げるヒジリに、スカーレットは首を横に振った。

 

「ヒジリが犬で、キャラバンのみんながラクダ、ポローニアスとレアティースはアザラシ……なら、私は?」

「……トカゲっぽいけど、確かに、分からない」

 

スカーレットにとっても、疑問ではあった。

他の獣人とは一線を画する膂力と頑強さ、全体を覆う真紅の鱗。見た目はトカゲのようだが、現代の爬虫類にはどれにも当てはまらない。

クローディアスは己を、アダムとイブを拐した蛇……もとい、サタンと称していた。

もし親類であるスカーレットも、同じく尋常ならざる存在なのだとしたら。

 

「ヒジリ、お願いがあるの」

「ああ、何でも言ってくれ」

「手を握って」

 

スカーレットがそう言うと、ヒジリは迷わず彼女の手を取った。

 

「私の背中を押して。思い切り」

「手を握ったままでいいか?」

「それは離して。二人分は無理かもしれないから」

「はいはい」

 

ヒジリは手を離し、代わりにスカーレットの背中へ手を添える。

そして、迷わずスカーレットを窓の外へ押し出した。

 

「(ありがとう、ヒジリ)」

 

宙に放り出されたスカーレットは、感謝と共に己の内へ意識を傾ける。

思えば、最初は闘争本能(サガ)が発動する度、肉体は獣へ変化していった。あれから幾度も戦いに身を投じた今、条件は揃っているはずだ。

 

「(私はトカゲの獣人じゃない、まだ、足りない部位がある)」

 

鱗、爪、尻尾……それはあくまで人にもある部位の延長線だ。だからこそ、この部位だけが最後まで発現しなかったのだろう。

全身の熱を背中に集中させ、圧縮して形を作る。そしてそれを実体のものとする。

 

「……来た!」

 

その熱が肉体を突き破ると、スカーレットに真紅の鱗で覆われた、巨大な翼が生えた。

 

「飛べええええええええええええええ!!!!」

 

翼をはためかせ、スカーレットは天高く飛翔した。

硝煙と大雨を吹き飛ばす勢いで風を切り、あっという間に戦場の真上まで移動していた。

 

「全員、聞けえっ!!!!」

 

第一声を口にしたとき、スカーレット自身も驚いていた。

まさに龍の咆哮と呼んだ方がいいかもしれない。戦場にいたすべての獣人が、スカーレットの方を見上げてしまったほどだ。

 

「エルシノア帝国軍を率いたクローディアスは、煉獄のジャンルダルクである、このスカーレットが討ち取った!」

 

自分の鼓膜すら張り裂けそうな勢いで、スカーレットは言葉を紡ぐ。

声を上げた影響なのか、それとも違う何かなのか、喉の奥が激しい熱を帯びていく。

 

「戦いを止めなさい、これより全員で、見果てぬ場所へ昇る!」

 

最後の一声を絞りだすため、スカーレットは大きく息を吸い、吐き出した。

声と同時に、灼熱の炎が戦場の空を貫いた。

 

「煉獄に生きる者たちよ、あなた方の運命は、この私がもらい受ける!」




次は週の半ばにでも
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。