果てしなきスカーレット re:imagined 作:うそだよなまもる
しかし、そう簡単に戦いは終わらない…
「ダメだ、もうその人たちに戦意はない!」
ヒジリの叫びが、硝煙に巻き取られて溶けていく。
スカーレットの眼前で、エルシノア軍が戦場で逃げ惑い、立ち尽くし、何もできないまま殺されていく。
「(洗脳は解けた後、記憶に混濁が出る……だから、抵抗できない……)」
予想通り、洗脳主であるクローディアスを無力化したおかげで、エルシノア軍を解放できた。そして片方が戦意を失えば、
その二つを要素を満たすことで、戦争を止める算段だった。
確かにスカーレットたちの眼前では、戦争は行われていない。
戦争ではなく、一方的な虐殺へ変わってしまったのだ。
「どうしてだよ、
「ううん、
「なら、どうして……」
ヒジリの問いに、スカーレットはぽつりと答える。
「憎しみ、だよ」
戦争によって限界まで抑圧されていたその感情が爆発し、制御できなくなってしまった。
「私にも分かる。憎しみは負の感情だけど、他のどんな感情よりも、力が湧く」
「……止めらないどころか、火に油を注いだのか、俺たちは」
ヒジリは怒りに任せて、床を強く叩いた。
落ちていた硝子が刺さり、彼の拳から赤黒い塵が舞う。
「(
煉獄に来て、スカーレットは
しかし、
所詮、
「(クローディアスの言う通り、一度死んでも、私たちの本質は変わらないの……?)」
地獄と見紛う光景に、スカーレットは己の無力さと、現実の無常さを恨む。
そのとき、俯いた彼女の頭部に、冷たさを感じた。
「……雨」
水滴は勢いを増し、数秒経たないうちに大雨となる。
スカーレットは顔を上げ、天を仰いだ。
上空にある海が荒らし、雷を伴いながら、巨大な龍が姿を現した。
「リヴァイアサン、このタイミングで!?」
同じく顔を上げたヒジリが、慌てた様子でスカーレットの肩を叩く。
「こんなガラス張りで高い場所、雷が落ちたら大変だ、すぐに移動しないと!」
しかし、スカーレットは動かなかった。リヴァイアサンが渦のように同じ場所で回転しているが、雷を落としてくる様子がない。
何故だか分からない。ただの勘違いかもしれない。それでも、スカーレットはリヴァイアサンと目が合っている気がした。
そして、これまでリヴァイアサンと邂逅してきた記憶があふれ出してくる。
「……ああ、そうなんだ」
「スカーレット?」
「あまり気にしないようにしてたの、自分が何者なのか」
「スカーレットは、スカーレットだろ?」
首を傾げるヒジリに、スカーレットは首を横に振った。
「ヒジリが犬で、キャラバンのみんながラクダ、ポローニアスとレアティースはアザラシ……なら、私は?」
「……トカゲっぽいけど、確かに、分からない」
スカーレットにとっても、疑問ではあった。
他の獣人とは一線を画する膂力と頑強さ、全体を覆う真紅の鱗。見た目はトカゲのようだが、現代の爬虫類にはどれにも当てはまらない。
クローディアスは己を、アダムとイブを拐した蛇……もとい、サタンと称していた。
もし親類であるスカーレットも、同じく尋常ならざる存在なのだとしたら。
「ヒジリ、お願いがあるの」
「ああ、何でも言ってくれ」
「手を握って」
スカーレットがそう言うと、ヒジリは迷わず彼女の手を取った。
「私の背中を押して。思い切り」
「手を握ったままでいいか?」
「それは離して。二人分は無理かもしれないから」
「はいはい」
ヒジリは手を離し、代わりにスカーレットの背中へ手を添える。
そして、迷わずスカーレットを窓の外へ押し出した。
「(ありがとう、ヒジリ)」
宙に放り出されたスカーレットは、感謝と共に己の内へ意識を傾ける。
思えば、最初は
「(私はトカゲの獣人じゃない、まだ、足りない部位がある)」
鱗、爪、尻尾……それはあくまで人にもある部位の延長線だ。だからこそ、この部位だけが最後まで発現しなかったのだろう。
全身の熱を背中に集中させ、圧縮して形を作る。そしてそれを実体のものとする。
「……来た!」
その熱が肉体を突き破ると、スカーレットに真紅の鱗で覆われた、巨大な翼が生えた。
「飛べええええええええええええええ!!!!」
翼をはためかせ、スカーレットは天高く飛翔した。
硝煙と大雨を吹き飛ばす勢いで風を切り、あっという間に戦場の真上まで移動していた。
「全員、聞けえっ!!!!」
第一声を口にしたとき、スカーレット自身も驚いていた。
まさに龍の咆哮と呼んだ方がいいかもしれない。戦場にいたすべての獣人が、スカーレットの方を見上げてしまったほどだ。
「エルシノア帝国軍を率いたクローディアスは、煉獄のジャンルダルクである、このスカーレットが討ち取った!」
自分の鼓膜すら張り裂けそうな勢いで、スカーレットは言葉を紡ぐ。
声を上げた影響なのか、それとも違う何かなのか、喉の奥が激しい熱を帯びていく。
「戦いを止めなさい、これより全員で、見果てぬ場所へ昇る!」
最後の一声を絞りだすため、スカーレットは大きく息を吸い、吐き出した。
声と同時に、灼熱の炎が戦場の空を貫いた。
「煉獄に生きる者たちよ、あなた方の運命は、この私がもらい受ける!」
次は週の半ばにでも