果てしなきスカーレット re:imagined 作:うそだよなまもる
彼女は煉獄のジャンルダルクとしての最後の仕事……人々を見果てぬ場所へ導く役割を担うことに……
見果てぬ場所の入り口と思われる山の頂上は、強くも清らかな雨が降っていた。まるで、来る者たちの汚れを洗い流すように。
一人、また一人と獣人たちが列をなし、頂上へ到達している。ある者は肩をかし合い、ある者は怪我人を背負い、ある者は子供を抱きかかえて。
そして、解放軍とエルシノア帝国軍、両軍共にここへ来れている。互いに思う所があるが、それでも見果てぬ場所へ昇ることを選んだ。
その主導者であるスカーレットとヒジリも、頂上までやってきていた。
「綺麗な場所……」
「ああ、こんな絶景でも、まだ天国の入り口なんだよな……」
顔に掛かる雨を拭いながら、スカーレットは頭上に流れる海を見やる。
近くで見る海は、表面こそ透き通っているが、奥がどうなっているかは分からない。
見果てぬ場所の先が天国だと言うのなら、この海を越える必要があるのだが。
「問題は、ここから先か……」
「それは大丈夫だと思う」
「どういうことだ?」
ヒジリが首を傾げると、スカーレットは大きく息を吸い、火炎と共に吐いた。
雨と混ざって炎が煙になると、頂上より更に上……海へと続く透明な階段があるのが分かる。
「あそこだけ、雨が不自然な動きをしてると思ってたの」
「ちょ、急に炎を吐かないでくれよ。びっくりする」
「できることが増えたのはいいんだけど、色々と変な行動取ってしまうみたい」
スカーレットが軽やかに一回転して見せると、大翼がばさりと広がり、ヒジリにぶつかる。
「あ、ごめんね」
「その翼、肩甲骨の延長線だよな? 肩回りをリラックスすればいけるかも」
「分かった、やってみる」
そうして、スカーレットはヒジリを真似して肩を回したり背を丸めたりする。
最後に深呼吸して脱力すると、自然と翼を閉じることができた。
「流石に、翼で海は通れないもんな」
「ありがとう」
二人で頷き合う。
そして、スカーレットは他の人々の方を向いた。
「皆さん、これから見果てぬ場所……そして天国へ至ります」
解放軍、エルシノア帝国軍共に、無言でスカーレットの言葉に耳を傾けていた。
「始めに私が行き、後に彼が上ります。壊れないことが確認できたら合図をしますから、落ち着いて、全員で上っていきましょう」
その提案に異を唱える獣人はいなかった。
スカーレットが紡ぐ言葉の一つ一つを嚙み締めるように、深く静かに頷いている。
「行こう、スカーレット」
「もし階段が壊れたら、必ず飛んで助けるよ」
「ああ、頼む」
スカーレットは深呼吸をし、実体のない階段の一段目へ足をかけた。
雨のおかげで、注意していれば踏み外すことはない。ただゆっくりと、硝子細工を扱うように、スカーレットは階段を上っていく。
五段ほど上がってから、ヒジリがスカーレットの後を追う。
そしてヒジリも五段ほど上がり、平気なのを見て取ってから、スカーレットが合図を出した。
獣人たちの列が、上空の海へ向かって伸びていく。
その光景を、スカーレットは時折振り返っては、感慨深げに眺めていた。
「(不思議……死後すぐにやらないといけなかったことを、みんなでやってるみたい)」
魂が天国へ至る。生前に想定していた死後の行動を、肉体を持ったままやることになるとは。
スカーレットは前に向き直り、一歩を大切にすることにした。
「(ここからは、どうするんだろう)」
スカーレットは海の真下までやってきた。
水面に手を入れて探ってみるも、海の中に階段はなかった。
「(流れは速いけど、温かくて、凄く落ち着く……)」
あまりの心地よさに、スカーレットは吸い込まれるように海の中へ入った。
***
海の中で、スカーレットは己の人生を振り返っているような気がした。
走馬灯のようなものではなく、自我が芽生える前……己という命が宿り、母の中で育っていた頃。
生命の始まり。それを追体験しているような感覚がした。
流さに身を任せるまま、スカーレットは目を閉じた。
「……あれ?」
気づけば、スカーレットは白い砂浜に流されていた。
立ち上がって周りを見てみると、楽園とした表現しようのない空間だった。
透明感のあるエメラルドグリーンの海、生命力に満ち満ちた南国の植物、汚れのような存在はなく、永遠の美しさが約束されているようにも思えた。
「ここは……?」
水滴を払おうとして、スカーレットは違和感を覚える。背中にあった翼と、尾骶骨あたりにあった尻尾の感覚がなかった。
確かめてみると本当に翼もなく、さらに腕には爪と鱗がなくなっていた。最後に水面を鏡代わりにして顔を見てみると、スカーレットは人間に戻っていた。
「どうして……?」
狐につままれた気持ちで、スカーレットは砂浜を歩いてみることにした。
すると、茂みの一部が人の手で拓かれた痕跡を見つけ、慎重に進んでみると、真正面——五十メートル先にある巨大な扉が現れた。
「これが、天国への門?」
スカーレットは扉へ近づいていく。
遠くからだと分からなかったが、扉はスカーレットの三倍以上の全長を誇っている。凝った意匠もないが、その圧倒される大きさに、スカーレット思わず息を飲んだ。
「(凄い……なぜだが、それ以外の感想がもてない……)」
スカーレットが見惚れていると、砂浜の方から人の声が聞こえた。喜びと驚きが混同し、どんどん声の数が増えていく。
「(良かった、みんなも来れたみたい)」
スカーレットが安堵に胸をなでおろし、再び扉へ目を向ける。
これが空くのかどうか、それが最後の問題になりそうだった。
3/15追記
どうしてもやりたい展開のため、中盤~後半を少し変えました。
次は週末にでも