果てしなきスカーレット re:imagined 作:うそだよなまもる
しかし、海から一人、ある男が現れて……
全員を門へ呼ぶため、スカーレットは砂浜に戻ることにした。
人間に戻った今の膂力ではびくともせず、知っている文献の呪文も唱えてみたが効果がなかった。他人の知恵を借りる必要がありそうだった。
「みんな、こっち!」
「……誰がいるぞ!」
茂みから出たスカーレットは、砂浜にいる人々から好奇の目を向けられた。
それもそのはず、人間だった頃のスカーレットの顔を知っている者は、この場にいないのだ。
「あ、私は……」
「スカーレットか?」
すると、救護服を着た青年が、スカーレットの名前を呼んだ。
彼の服装と優し気な声音に、スカーレットは彼が誰なのがすぐに分かった。
「ヒジリ、なの?」
「やっぱり! なんかスカーレットだと思ったんだ!」
「その喋り方、本当にヒジリなのね」
二人は手を取り合い、強く握手を交わした。
スカーレットは感動に言葉が出ないでいると、ヒジリが感慨深げに言った。
「スカーレット、君、凄く綺麗な人だったんだな」
「急にどうしたの?」
「いや、戦っているとき以外の所作は綺麗だなーと思ってたから、イメージ通りというか」
「……私は、二ホンって国の人とは出会ったことがなかったけど……ヒジリはこういう顔をしてると思ってた。目とか口、そのままだよ」
二人はおかしくなって笑い合い、そして抱きしめ合った。
何故だが、ヒジリに触れたい衝動が湧き上がってくる。獣から人に戻った影響なのかもしれない。
「そうだ、案内したい場所があるの」
「案内?」
「ええ、おそらく、私たちの終着点」
***
「なんて大きな門だ……」
「これが天国への扉?」
「豪華で綺麗な感じを想定していたけれど、意外と素朴ね……」
スカーレットが人々を扉の前へ誘導すると、活発に議論が始まった。
すると、ヒジリがスカーレットの隣になって、不思議そうに扉を眺める。
「どうする? 全員で押してみるか?」
「獣人みたいな力は出せないし、何かルールがあるのかも……」
人々の声に耳を傾けてながら、スカーレットが考えを巡らせる。
そのときだった。
「止まれ、その先へ進むことは許さぬ!」
茂みの入り口から、鋭い男の声が響いた。
スカーレットが振り返ると、見覚えのある顔がそこにいた。
忘れたくても忘れられるはずもない、人間の頃のクローディアス。スカーレットが最後に見た彼と、年齢はそう遠くないように思えた。
「クローディアス!?」
「拘束してたはずなのに、どうしてだよ!?」
「天は我の味方だ……声が通りさえすれば、民は我に従う!」
クローディアスを昏倒させた後、能力を封じるために手足と口を封じていた。彼の口周りを見る限り、歯で無理やり縄を千切ったのだろう。
その執念に、スカーレットは呆れを通り越して感心さえ覚えてしまった。
「エルシノアの民たちよ、何をしている、早く煉獄へ戻らぬか!」
「あなたは、何を言っているの?」
「民が国を置いて逃げるなどあり得ぬ! 我がいる限り、エルシノアはここにあるのだから!」
狂ったように叫ぶクローディアスに、ヒジリがため息まじりにいった。
「頭がおかしいと思ってたが……発想が子供だな」
「うるさい、聞けぬというのなら、従わせるまでだ!」
クローディアスは大きく息を吸い、全員に響き渡るように声を張った。
「これは啓蒙である! 煉獄へ、エルシノア帝国へ戻れ、愚民ども!」
その場にいた全員が耳を塞ぎ、クローディアスの洗脳から逃れようとする。しかし、声が響いてからでは間に合わない――
「……みんな、洗脳されて、いない?」
スカーレットが身構えたものの、全員が戸惑うばかりで、洗脳された様子はなかった。
「何故だ、これは王の啓蒙であるぞ! 従え、従えええええええええええええええ!!!!」
そんなクローディアスの虚しい慟哭を聞いて、スカーレットは思い出した。
「無駄よ、クローディアス。あなたが誇示していた力は……私たちはもう、獣の体ではないのだから」
「ふざけるな、ふざけるな! これは啓蒙である、これは啓蒙である、これは啓蒙である!」
「……叔父様、もうやめてください」
「まだだ、まだ我は間違っていない!」
クローディアスの意味不明な発言に、スカーレットは思わず説得をやめてしまう。
「生前も、煉獄でも、我が誤ったのではない……民が使えない無能ばかりだったのだ! 我の言う通り、思う通りにすれば、必ず上手くいくはずなのだ!」
「……どうして、そこまでするの?」
「我は……我はアムレットより正しいことを、今度こそ絶対性を証明せねばならん! 我は間違っていない、間違えているはずがないのだぁ!」
クローディアスは懐にあった小刀を取り出す。そして、唾をまき散らしながら、スカーレットへ突撃してきた。
「貴様のせいで、貴様らのせいでえええええええ!」
「……この後に及んで、あなたは」
スカーレットも抜刀し、迎え撃とうとした。
そのとき、茂みから一人の男が飛び出し、クローディアスの腹を直剣で貫いた。
「…………ポローニアス、貴様」
「ワタシたちはもう、すべてを終わらせるべきです」
クローディアスを羽交い絞めにしながら、ポローニアスはスカーレットの方を向いた。
「このような形で、罪を償えるとは思いません。しかし、これしかワタシたちを裁くすべがないのです」
「ポローニアス、何をするつもり?」
「ワタシは何もしません。もっと適任がおりますから」
そうして、ポローニアスは祈りを捧げるように、天を仰いだ。
その瞬間、雷鳴が轟き、遅れて雷がクローディアスとポローニアスに直撃した。
「い、や、だ、終わ、れない、終わって、ない…」
赤黒い塵になる寸前、クローディアスは泣きじゃくるように言葉を紡ぐ。
「助け、て、くれぇ……我を、誰か、助けて……」
最後は完全に塵と化し、同じく塵となったポローニアスと共に、風に運ばれていった。
次は週末にでも