果てしなきスカーレット re:imagined   作:うそだよなまもる

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クローディアスを討った雷、それはリヴァイアサンが放ったもの。
そして、リヴァイアサンの正体は、スカーレットのよく知る人物で……



アムレット

クローディアスとポローニアスだったものが完全に見えなくなった後。

スカーレットは海の方角をじっと眺めていた。

 

「スカーレット?」

「あの雷、きっと……」

 

その言葉に引き寄せるように、まるで天を突き破ろうとするように、リヴァイアサンが海から飛び出してきた。

 

「リヴァイアサン!?」

「どうして!? やっとここまで来たのに!」

「に、逃げろ!」

 

他の人々が散り散りに逃げていく。

 

「ずっと海にいたと思ったら……もしかして、ここの番人なのか!?」

「ううん、違うよ」

 

しかし、スカーレットは逃げず、リヴァイアサンと目を合わせる。

すると、まるで歩み寄るようにゆっくりと、リヴァイアサンが近づいてくる。

 

「(もしかして、と思ってた)」

 

スカーレットは両手を限界まで広げて、彼を迎え入れる。

リヴァイアサンは進む度、雷を発散させながら少しずつ鱗が剥がれ、細く小さくなっていく。

 

「(私もクローディアスも、実在しない存在だったから……)」

 

堪えきれなくなり、スカーレットの瞳から大粒の涙がとめどなく溢れて来る。

リヴァイアサンは完全に人の姿となり、スカーレットの目の前で着地した。

 

「ずっと見守ってくれていたのですね、お父様……!」

 

現れたのは、実の父であるアムレットだった。

スカーレットが観た最後の記憶通りのままの、優しい顔つき。

 

「スカーレット!」

 

アムレットも腕を伸ばすと、スカーレットはその胸に飛び込んだ。

 

「お父様、お父様ぁ……!」

「すまなかった、スカーレット」

 

娘を強く抱きしめながら、アムレットは懺悔するように涙を流す。

 

「私は、王としても父としても、兄としても失格だ」

「どうして、ですか?」

「クーデターの前、飢饉のせいで輸入に頼らざるを得なくなった。しかし各国に海運に関する権利の譲渡を条件にされてしまってね、戦争を避けるために、消極的な行動しかできなかった……それが、弟には愚策にしか思えなかったのだろう」

「そんな……」

「私は最後まで、クローディアスの意見に耳を傾けなかった。その結果、民を守るどころか傷つけ、君に取り返しのつかないことをさせ、クローディアスを止めることができなかった……」

 

アムレットの後悔の涙を、スカーレットは優しく指で掬う。

そして、自身の涙も拭ってから、笑って見せた。

 

「お父様、少なくとも一つは違います」

「どうしてだい?」

「私は、自分が犯してしまったことを、お父様のせいだとは思いません。私は私自身で、この行いを背負っていきたいのです」

 

スカーレットがそう言うと、アムレットはスカーレットを離し、静かに頷いた。

 

「ありがとう……その言葉だけで、私は……」

「……っ?」

 

すると、スカーレットの背中越しに、巨大な何かが動く音が聞こえた。

振り向くと、天国への扉がひとりでに開いていく。

 

「突然どうして……」

「お、俺、みんなを呼んでくる!」

 

何か起きたか不明だが、ヒジリは慌てて逃げて行った人々を探しに駆け出していく。

すると、アムレットが得心がいったように呟いた。

 

「煉獄は、天国と地獄の狭間にある場所」

「お父様?」

「この地に私たちがいる意味を考えていたのだよ。天国へ昇るために、私たちは後悔から解放されなければいけないのだと思う」

「後悔、ですか?」

「私は、死の間際に激しい後悔に苛まれた。それこそ、今死ぬことなんてできないと」

 

スカーレットも、自然と腑に落ちていた。

後悔、それはスカーレットが出会ってきた人々にも感じられていた。ヒジリは人を助けられなかった後悔を煉獄で果たそうとし、クローディアスは煉獄で国を創り、支配しようとしていた。

 

「後悔から解放された者が、聖性を経て天国へ至る資格を得る」

「だから、扉が開いたのですか……?」

「どうだろうな、私が君に救われたから、そう思うだけかもしれない」

 

扉は完全に開かれる。奥は光で満たされ、その先に地面があるのかすら見て取れない。

スカーレットは隣に立つ父の顔を見た。彼の顔は完全ではないものの、静かに晴れていた。

 

***

 

「……本当にいいのか?」

「はい、お父様だからこそ、お願いしたいのです」

 

ヒジリが散り散りになった人々を扉の前に集めると、スカーレットはアムレットへ短剣を預ける。

 

「君の代わりに、人々の先頭に立つなんて」

「私は王ではありませんから、やはり、お父様が一番初めを歩む姿が見たいのです」

 

そう言うスカーレットに、アムレットは少し思案した後、ゆっくりと頷いた。

 

「分かった。その役、引き受けよう」

「ありがとう、お父様……みなさん、これよりクローディアスを討った彼——アムレットを先頭に、天国へ至ります。これまでのように焦らず、共に昇っていきましょう」

 

人々に向けてスカーレットが宣誓すると、周囲から拍手が上がった。この場において否定や妬み嫉みなど、頭をよぎることもないように。

 

「私はみなさんを見届けるため、最後に行きます。天国で再会できたら、みなさんのお話を聞かせてくださいね」

 

その言葉の後、アムレットが短剣を構え、光の奥へ進んでいく。それから次々と人々は扉を通過していった。

スカーレットには、それが神聖な儀式のように思えた。一瞬たりとも目を離すまいと、じっとその場に立つ。

 

「……良かったのか、スカーレット、君が最後だなんて」

「決めていたことだから」

 

すると、隣にヒジリがやってきた。彼もスカーレットと共に最後に昇ることを望み、他の人々と別れの挨拶を済ませていたようだ。

 

「ありがとう、ヒジリ」

「急だな」

「私がここにいるのは、あなたが私の命を預かってくれていたから」

「……今思うと、プロポーズみたいだな」

「てっきりそうだと思っていたけれど」

 

スカーレットが揶揄うように笑う。

すると、ヒジリは顔を赤くして、スカーレットの手を躊躇い気味に握った。

 

「なぁ、スカーレット」

「どうしたの?」

「天国に行ったら、その、だな、俺と……」

 

ヒジリが中々言い出せずにいると、スカーレットは微笑んで、先に返事をした。

 

「ごめん、私は天国へ行けない」




次で最終回とします。
この三連休で終わらせたい……
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