果てしなきスカーレット re:imagined 作:うそだよなまもる
それは果てしない旅の始まり……
「……なんで?」
ヒジリがあり得ない、と言った風にスカーレットへ続ける。
スカーレットは心に浮かんだまま、微笑んで返事をした。
「まだ、私は行くべきじゃない」
「いや、いやいやいや。君は確かに、自分で取り返しのつかないことをしたと言ったよ。でも、その罪は清算できないとしても、沢山の人を救ったじゃないか」
ヒジリは強くスカーレットの肩を掴み、誠実さを讃えた瞳で彼女を射抜く。
それでも、スカーレットは微笑みを崩さなかった。
「お父様が話していたの。私たちが天国でも地獄でもなく、煉獄へ来た理由」
「理由……?」
「後悔から解放された者が、聖性を得て天国へ至る……お父様は思い違いと言っていたけど、ひどく腑に落ちた」
「それが、どうして天国へ行かない理由になるんだ」
ヒジリが戸惑いがちに問う。
返事をする前に、スカーレットは肩に置かれたヒジリの手を自分の両手で包み込み、胸に抱き寄せた。
「私は生前、クローディアスへ復讐できなかったことを後悔して煉獄にやってきた。ただ、旅の中でその目的を達成する必要がなくなって、代わりに新しい目標ができたの」
「スカーレット、まさか……」
時間という概念がないこの煉獄において、スカーレットは数え切れないほどの経験をした。
煉獄へ落ちてすぐに命を狙われた。
オオカミ部隊と衝突と和解をし、見果てぬ場所を志すもポローニアスに阻まれた。クローディアスを討つために戦争へ赴き、その結果「煉獄のジャンルダルク」へ担ぎ上げられた。己の過ちを繰り返す状態からヒジリが助け出してくれ、最終的にクローディアスを倒した。
そしてこの見果てぬ場所へ至り、生前の後悔は海と共に洗い流された……しかし。
「煉獄へ来た人々を、天国へ導きたい」
これが、スカーレットに芽生えた目標。後悔が消えた心に宿った想い。
生前ではなく煉獄で培ってきた経験が、スカーレットにその決断をさせていた。
「ごめん、だから私は――」
「はぁぁぁぁぁぁぁ…………」
すると、ヒジリはその場にしゃがみ込み、長くため息を吐いた。
「ヒジリ、大丈夫」
「スカーレットはそういう子だよなぁって、改めて思い知ったよ」
「え、ええ……?」
「で、俺を巻き込むわけにはいかないって、言うんだろ?」
「…………う、うん」
スカーレットが驚きながら言うと、ヒジリは追加でもう一度、ため息を吐いた。
「だろうと思ったよ。ようやく、君のそばにいられると思ったのに」
「ご、ごめんね?」
「謝らないでくれ。途中からそんな気がしてたんだ」
ヒジリはゆっくり立ち上がると、天国へ続く門へ目を向けた。
スカーレットも視線を移動させると、最後の人々が手を振ってきており、それに手を振り返して応える。
そうして、周囲にはヒジリとスカーレットの二人だけになった。
「分かったよ、だったら、俺にも新しい目標が出来た」
「ヒジリも?」
ヒジリが扉へ歩いていき、そして通過する寸前で立ち止まったと思うと、どすんと胡坐をかいた。
「行かないの?」
「君が助けても、天国へ行けなきゃ意味がない。だから、俺がここを守るよ」
ヒジリはにかりと笑い、スカーレットへサムズアップした。
「俺が長く居座りすぎて守り神になる前に、迎えに来てくれよ?」
「…………ヒジリ!」
スカーレットはヒジリへ駆け寄り、強く抱きしめた。
荒唐無稽で無理難題な目標であるとは、ヒジリもスカーレットも承知の上。
しかし、二人は今生の別れにはしなかった。これまでの日々が、二人の再会を信じさせたから。
「分かった、必ずヒジリの所へ戻ってくる」
「のんびり待ってるさ、時間は存在しないほどあるしな」
二人は優しい眼差しで見つめ合い、唇を重ねた。
数秒ほどの幸福と誓いを終えて、スカーレットはゆっくりとヒジリから離れた。
「行ってくる!」
スカーレットは駆け出した。あっという間に茂みを抜け、砂浜を踏み、海へ飛び込む。
温かい海に揉まれながら、スカーレットは体に熱が広がっていくのを感じた。
「(鱗、牙、爪、翼……何故だろう、元の自分に戻っていく気がする)」
スカーレットが水を恐れず目を開けると、自身の姿がドラゴンになっていた。
翼をはためかせ、海を抜けると、眼前に灰色の空が広がった。
「(みんなと会ったとき、私も沢山のことを話せるように)」
もう一度翼をはためかせ、煉獄の空を駆ける。
スカーレットは永遠に続く枯れ果てた大地に、遠い未来を見据えた。
「(ヒジリとまた会ったとき、二人で手を取って歩めるように)」
それは、人々の後悔で染まった地を照らす希望。
それは、ヒジリとの約束を果てすための道のり。
「行こう!」
それは、果てしない旅の始まりだった。
最後に一言だけ。
原作を越えるなんてできん!
今までありがとうございました。