果てしなきスカーレット re:imagined   作:うそだよなまもる

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殺し合うたびに未知の獣へ変わり果てていくスカーレット
そして、彼女の頭上に現れたのは…



リヴァイアサン

「……あ、れ」

 

スカーレットは我に返った。

我に返ってから初めて、自分の意識がなくなっていたのを知った。

遅れて触覚を取り戻す。

知らぬ間にスカーレットは地に足をつけて立っていて、手には何かを握っていた。

 

「なん、で?」

 

アザラシ男、レアティーズの首だった。

両腕と両脚はへし折れてだらりと下がっている。かすかに聞こえる鼻息で、辛うじて生きていることは分かった。

さっきまで、スカーレットは脳天めがけて短斧を振り下ろされていたはずだ。

 

「———ば……」

 

唇を震わせながら、レアティーズが何かを呟いている。

 

「ばけ、もの」

 

そして首から少しずつ塵と化していき、風に巻き取られてどこかへ飛んでいった。

残された衣服と短斧だけが、レアティーズがここにいた証拠になった。

 

「あ、ああ……また私、人を、殺して……」

 

スカーレットは両手で顔を覆う。そのとき違和感を覚えた。

顔を覆っている鱗の範囲が広くなっていた。触った感触的に、目より下から首の全体にかけて、人間の皮膚はなくなっているようだ。

 

「(そういえば、殺される前の体に電流が走った感覚)」

 

犬男のときも感じた、未体験の高揚感と理性が脳から溶けて行くような開放感。それがスカーレットを獣へと変貌させるトリガーとなっているのかもしれない。

あれを抑えねば、また殺してしまう。

 

「(でも、どうすれば……)」

 

そのとき、スカーレットを周囲を取り囲む木々から十三人の獣が現れた。

レアティーズと同じく、胸にはエルシノアの紋章。種族と持つ武器は十人十色であるが、矛先は全てスカーレットへ向けられていた。

 

「レアティーズ隊長の命により、その魂もらい受ける」

 

コウノトリの男が、スカーレットへ言った。装備を見るに副隊長の立場だろうか。

スカーレットの知らぬうちに囲まれていて、そしてレアティーズと決闘をさせられていたようだった。正々堂々でありながら、スカーレットを数で袋叩きにする計画も立てている。ずいぶんと用意周到だ。

 

「……さがって。これ以上、誰も傷つけたくない」

「それは呑めない。俺たちには隊長の遺志を継ぎ、仇打ちを達成する義務がある」

 

コウノトリ男は首を振った。交渉の余地は皆無だった。

戦うしかない、そう考えると、スカーレットの全身に電流が流れ始める。

死にたくない、殺してしまいたい、戦いたい……そんな衝動で、理性が弾け飛びそうになる。抑えようと意識すればするほど、むしろ体から力が満ちてくる。

 

「やめて、やめて!」

「二番槍は、ニールセンが務めさせていただく!」

 

堂々とした宣言の後、コウノトリ男が直剣を抜き、スカーレットへ刺突を放つ。

切先がスカーレットの喉仏へ近づいてくる。その光景が、彼女にはとてもスローモーションに感じられた。

そして、先端が喉仏へ到達する――その刹那。

スカーレットの脳裏で、ぶちりと大切な何かが千切れる音がした。

 

「あ、ア、AAAAAAAA!」

「なっ!?」

 

スカーレットは刃を鷲掴みにし、力任せにへし折った。

手の平から赤黒い塵が零れるのも構わず、折った刃の一部を握り締め、コウノトリ男の喉元へ突き刺した。

 

「この女、命を何だと思ってるんだよ!?」

「ひ、怯むな、殺せ!」

 

コウノトリ男が絶命すると、それが乱戦のきっかけとなった。

 

「GAAAAAAAAAAA!」

 

スカーレットは咆哮し、迫る鹿の獣人の角を引き抜いた。その角を武器にして、背中から襲い掛かる兎の獣人の脳天へ突き刺す。さらに息絶えた兎の獣人を盾にすることで、水鳥の獣人が放つボウガンの矢を受け止め、刺さったボウガンの矢を小刀代わりにして、狐の獣人の心臓を貫いた。狐の獣人を放り投げて、後ずさる複数体の獣人へぶつけた。

 

「囲め! 四方から槍で仕留めるんだ!」

 

四人の鷹の獣人が足並みを揃え、スカーレットへ一斉に長槍を構える。

 

「AAAAAAAAAAAAAAAA!」

 

スカーレットが再び吠えると、彼女の尾てい骨から大木のように太く、赤い鱗が敷き詰められた尻尾が生えた。

尻尾は鞭のように鋭くしなり、槍ごと鷹の獣人たちを薙ぎ払う。

 

「ダメだ、止まらない!」

「退くな! ここで逃げたら殺された奴が報われない!」

 

獣人たちは果敢にスカーレットへ立ち向かっていき、しかし誰一人として歯が立たず、赤黒い塵と化していった。

総数はもはや一桁を切り、そのほとんどに戦意はなかった。

 

「GUUUUUUUUUUUUU!」

 

なのに、スカーレットは殺戮をやめない。

命乞いをするムクドリの獣人は力任せの蹴りで殺し、逃げようとする馬の獣人は投げた石を直撃させて殺し、最後に腰が抜けて動けない猫の獣人を標的に据えた。

彼はまだ新米なのだろうか、獣人たちの中でも若く見えた。

 

「助けてくれ、お願いだ」

 

弾丸の入っていない銃剣を抱きかかえ、猫の少年は懇願する。

スカーレットの歩みは止まらない。

 

「もう、いやだ。自分の国を守ってたのにクーデターで殺されて、またこんなところで死ぬのかよ! ふざけんな! 神よ、どうして僕たちにこんな試練を与えるのですか……」

 

猫の少年は涙を流し、思いの丈をぶつける。

スカーレットの歩みは止まらない。

そして、スカーレットは鋭い爪を槍のように構え、泣いている少年の心臓を貫こうとする。

 

寸前、不気味な轟音を伴って――一つの雷鳴が地上へ落ちた。

 

奇跡的に一番背の高い枯れ木に直撃したおかげで、スカーレットに当たりはしなかった。

だが、ここでようやく、スカーレットの動きが止まった。

 

「……」

 

放心状態のまま、スカーレットは頭上を見やる。

空に広がる大海原。その荒々しい波を乗りこなすように、巨大なドラゴンが現れた。

太刀魚のようなシルエット、黒曜石のように煌めく鱗、荒波をものともしない逞しい鰭。全長は鯨よりも長大で、鬣が生い茂った頭部は小さな丘に負けないほどだ。

その特徴を視認したスカーレットの脳裏に、ある怪物が思い浮かんだ。

 

「リヴァイアサン……」

 

様々な宗教の伝記に記述されている、空想上の怪物。破壊と混沌をもたらす、海洋の王とされている。

 

オオオオオオオオオ

 

リヴァイアサンが大きな口を開けると、海に巨大な風穴が空く。

空いた穴から飛び出した水が、地上へ雨となって降り注いだ。

 

「……あ、ああ」

 

豪雨に打たれながら、スカーレットはあたりを見渡す。

唯一殺さなかった猫の少年は、ショックで泡を吹いて死んでいた。ほどなくして赤黒い塵となった。

死人はいない。全員が塵になった。一人を除いて、スカーレットが全員を殺した。

 

「あ、ああああああああああああああああ……」

 

スカーレットは膝を折り、もがき苦しみながら泣いた。

雨粒が地面を叩く音が、それをかき消してしまった。




次は週末にでも
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