果てしなきスカーレット re:imagined   作:うそだよなまもる

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返り討ちとはいえ、己のした虐殺を酷く後悔するスカーレット。そこに現れたのは柴犬の獣人だった。
彼の名前はヒジリという。



ヒジリ

流れた涙が枯れ、リヴァイアサンが降らせた雨も止んだ頃。

 

「もう嫌だ……」

 

スカーレットから、心の底からの本音が漏れた。

幸福だったのがはるか昔のことのようだ。もうそんな記憶があったのかすら、おぼろげになっていた。

雨水でぬかるんだ土を引っ掻く。どれだけやっても、肉を裂き骨を砕いたあの感触が拭えない。

 

「(……もう)」

 

スカーレットの視界に猫の獣人が抱えていた銃剣が映る。

持ち主を失ったそれは、地面に力なく横たわっていた。

 

「(もう、死のう)」

 

ふと、その考えが浮かび、スカーレットは手を伸ばした。

そして、銃剣の切先を喉元へ向ける。

 

楽になろう。復讐を遂げられなかった情けない己を、不要に人を殺めた罪深き己を、終わらせてしまおう。

覚悟して、スカーレットが銃剣の持ち手を握り締めたときだった。

 

「ちょ、ストップストップ!」

 

木の影から、一人の男が現れた。

鼻先から顔の下部分が白、それ以外が青毛の柴犬だった。橙色の作業着に背中の前面を埋め尽くす巨大なリュックサック。

柴犬の男は雨で湿り気を帯びた空気を斬り裂くように声を張り上げる。

 

「やめろ! 早まるんじゃあない!」

「来ないで!」

「いや行くだろ、目の前で死のうする人を見捨てられない」

「あなたも殺してしまう! あなたが来るならすぐに死ぬ!」

 

スカーレットは剣を首に当て、柴犬の獣人を牽制した。

自分で自分を人質にするなんて、意味が分からない。

 

「だからダメだってば! ほら銃を降ろそう! な?」

「…………」

「死ぬなんてもったいない。死ぬなんて一度で充分じゃないか、そうだろ?」

「……私に」

 

歯を食いしばり、スカーレットは涙をこらえる。

 

「私に、価値なんて残ってない……!」

 

スカーレットだってそう思いたい。そう信じたかった。

だができない。現実がそうさせてくれないのだ。

 

「死なせてくれ、死なせてくれないなら、お前が殺してくれるのか?」

「……分かった」

 

柴犬の男が、大股でスカーレットのもとへ歩み寄ってきた。

そして、銃剣を固く握り締めるスカーレットの手に、男は手を重ねた。

 

「俺が君を殺してやる」

「え?」

「その代わり時間をくれないか? 出会ってすぐにばっさりなんて無理だよ」

「……貴様、バカなのか?」

「失礼な。とにかく、いつか殺すからそれまで生きててくれ。いいだろ?」

 

荒唐無稽な柴犬の説得が、ゆっくりとスカーレットの体へ染み込んでいく。

気づかない内に力みを失ったのか、銃剣は柴犬の男に取られてしまっていた。

 

「自己紹介がまだだったな。俺はヒジリ、君は?」

「……スカーレット」

「良い名前だ。カッコイイ!」

 

犬歯を覗かせて、ヒジリは屈託なく笑った。

思わず、スカーレットは苦笑した。じつに一年ぶりだった。

 

***

 

レアティーズたちの遺品を拾いながら、ヒジリが話し始めた。

 

「俺がこの世界に来たばかりの頃、助けてもらったんだ。それから一緒に行動しててさ」

「どうして、別行動を?」

「団長に『死んだ私に唯一残された本懐を遂げてくる。君を汚すわけにはいかないから置いていく』って言われて、一方的に追い出されたんだよ。でも雷が落ちたのを聞いて、居ても立っても居られなかった」

 

それを聞いて、スカーレットは心臓が握りつぶされる思いがした。

しかし、すぐに謝罪の言葉が出なかった。

 

「……その」

「でも、遺品だけでも残っててよかったよ。これがあるのとないのとじゃ、雲泥の差があるからさ」

 

エルシノアの紋章や武器の破片を、ヒジリは大事そうにリュックサックへしまっていく。

そこに憐みも、悲しみも感じなく、ただ死者を弔う誠意で満ち溢れている。そうスカーレットは感じた。

 

「憎まないの?」

「うん?」

「私を、憎まないの…?」

 

スカーレットは自然と罪を自白していた。

ヒジリは少し考えてから、ゆっくり首を横に振る。

 

「彼らもその後ろめたさがあったから、俺を連れていかなかったんだと思うんだ」

「でも……」

「それに、この世界では随分と異常らしい」

 

リュックを背負い直し、どこかへ歩いていくヒジリ。

その隣へ移動しながら、スカーレットは問いかける。

 

「どういうこと?」

闘争本能(サガ)と、彼らは名づけていた」

闘争本能(サガ)……?」

「この体……獣になった影響なのか、無意識的に戦いを求めてしまうらしいんだ。しかも、それが快感に変換されてしまうらしい。団員同士で殺し合ってしまうときもあったよ」

 

スカーレットにも覚えがある感覚だった。

全身を駆け巡る電流。それを感じるのは、いつも殺し合いが始まる直前だった。思えば山羊男のときやヒジリが傍にいたときは、何もなかった。

また一つ、大きな謎が増えてしまった。

 

「こんな傷つけあうだけの体に……なんの意味があるのだろう」

「……ああ、俺もそう思うよ」

 

そこで二人の会話が区切られ、しばらく歩く時間が続いた。雑木林を抜けると、辺りは枯れ木すらもない砂漠へ様相を変える。

ヒジリには行き先を告げられていないが、スカーレットは何も言わなかった。自然と導かれているような気がしたから。

 

「……ん」

「ヒジリ?」

「あそこ、誰かが襲われてる!」

 

ヒジリが指さす先へ、スカーレットは視線を移す。

スカーレットたちがいる砂でできた小高い砂の山……その麓で獣人たちの戦闘が行われていた。

 

「スカーレット、行こう!」

「え?」

「助けないと!」

 

ヒジリが砂の坂を滑り降りて行く。助けると言いつつ、彼は丸腰のままだった。

呆気に取られたスカーレットは少し反応が遅れてしまったが、ヒジリの後を追った。




次は週明けにでも
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