果てしなきスカーレット re:imagined   作:うそだよなまもる

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助けたキャラバンの隊長に誘われ、共に見果てぬ場所への道中を進むスカーレットとヒジリ
旅の中で、二人はお互いを理解していく…


年寄りたち

窮地を脱したなりゆきで、スカーレットとヒジリはキャラバンと行動を共にしていた。

 

「休憩にしよう」

 

砂漠の終わりに差し掛かる場所にオアシス――だったであろう枯れた木と干からびた湖があった。

団長のラクダ男が指示を出すと、他のラクダの獣人たちがテキパキと準備を始める。手馴れた様子で、スカーレットは立ち尽くしていることしかできなかった。

なぜだかヒジリの方は「俺もやります!」と自然に混ざっていた。道中でかなり仲良くなっていたようだ。いつの間に。

 

「私は周辺の護衛をします」

「自分もやろう」

 

スカーレットが護衛を買って出ると、団長も同じく立候補した。

 

「私は一人でも平気、ですが」

「新人に見張りを押し付けるのは、薄情だと思ってね」

 

槍を杖替わりにして、ラクダの団長は首を振った。

スカーレットたちの後ろでは楽し気な会話が広がり始めていた。

その喧噪を邪魔しないためか、団長は少し控えめに話し始めた。

 

「そういえば、君たちの目的地は?」

「私は……」

 

スカーレットは答えに窮してしまった。

父と民に謝るために見果てぬ場所を目指していたが、自分がどこへ向かうべきなのか、分からなくなっていた。

 

「ふむ、盗賊というような雰囲気でもないし、見果てぬ場所を目指しているものだと思っていたが」

「どうなのでしょう。ですが少なくともヒジリは、そこへ向かうべきなのでしょう」

「君はいいのか?」

 

その返しに、再びスカーレットは言葉を詰まらせる。

手袋を外す。手の平は白く、手の甲から腕にかけて紅い鱗で覆われている。

服をめくり、背中を擦る。こちらも鱗の感触があった。足も、腰も、首も、頬も同じ。馬男たちが言うには目だけは辛うじて人間を保っているらしい。

自分が完全な獣となってしまったとき、どうなるのだろうか。

 

「私はあのとき死ぬべきだった……そもそも死んだ身で、どうしてこんな苦しまなければいけないのだろう……」

 

俯いて、スカーレットは泣き言を零した。

ヒジリにだけは聴かせるべきではない。そのせいであまり声は出なかった。

 

「不思議だな、君たちは」

「え?」

「ヒジリくんと君ではまるで正反対だ。一緒に行動していて、困らないのかね」

「実は出会って間もないのです。あなたたちと同行し始めてからの方が、長い時間を過ごしているくらい」

 

そう言ったものの、スカーレットとヒジリが会話した時間はそこまで多くなかった。

ヒジリはキャラバンの団員たちと交流を深めるため、スカーレットは闘争本能(サガ)の暴発を恐れて距離を置いていたためだった。

 

「……ふむ」

 

ラクダの団長は顎に手を当て、しばし唸る。

そして、スカーレットへ言った。

 

「見張りはもう平気だ。君も休むといい」

「いや、ですが……」

「ちょうど余興が始まるようだ。空気が和らげば、自然と打ち解けられるだろう」

 

***

 

焚き火がたかれていた。

昼夜も彩りもないこの煉獄だが、炎色は変わらず綺麗で、その暖かみも相まって思わず引き寄せられそうになってしまう。

そんな焚き火を囲うように、キャラバンの獣人たちが演奏と踊りに興じていた。

 

「あ、スカーレット!」

 

団長に背中を押されたスカーレットが近づくと、ヒジリが気付いて手招きする。

彼が持っているのはリュート。洋ナシを縦から真っ二つにしたような胴に、弦を張っているフレットと呼ばれる部分とチューニングを行うナットの部分が折れ曲がっている。

 

「教わってるんだが、意外と難しいんだ」

「どうして、急に?」

「なりゆきで」

 

嬉しそうに首を傾げるヒジリ。

すると、ヒジリの指導役をしているであろう高齢のラクダ女が笑った。

 

「彼ね、歌がうまいのに楽器はからっきしなの」

「指ががくがくしてんだ、不器用なんだなー」

 

太鼓を叩くラクダ男が茶化すと、どっと笑いが起きた。

キャラバンの皆は、ヒジリの悪戦苦闘する表情があまりに滑稽で愛らしく、思わず笑わずにはいられないといった様子だった。

スカーレットの想像以上に、ヒジリはこのキャラバンに馴染んでいるようだ。

 

「こんな短期間で、なんでここまで仲良く……?」

「特別なことは何も。みんなの今までの生い立ちとか頑張りを、ゆっくり聞かせてもらっただけだ」

 

屈託なくヒジリが笑う。

柴犬がこんな笑みを浮かべていたら、思わず絆されてしまうのも理解できる。

スカーレットは彼の隣に腰かけると、二人の眼前で、ラクダの男女が唱と炎に合わせて踊り出した。

ときにそよ風を掴むように、ときにせせらぎを手で掬うように。息の合ったラクダたちの踊りが続いていく。

 

「ヒジリは凄い。私は怯えてばかりで、情けない」

「職業柄、慣れてるだけだよ」

 

その言葉に、スカーレットは口にする勇気をもらえた気がした。

 

「生きてた頃、ヒジリは何をしていたの?」

「救助隊員だったんだ。子供の頃、災害で両親が死んでさ。そのとき助けてくれた隊員さんに憧れて、俺も誰かを救おうと思った」

「だから、ヒジリはこんなに優しいの?」

「どうだろうな……俺の生きてた時代はそもそもこんな物騒な世界じゃなかったからなぁ」

 

流れるように、会話が繋がっていく。

スカーレットの口からも、自然と言葉が紡がれていた。

 

「ヒジリが生きてた時代は、とても平和だったんだ」

「時代というより、俺の生きていた日本って国がね。七十年以上も戦争をしていないんだ。経済も治安も安定してて、それこそ災害ぐらいでしか、大量の死者が出ないんだ」

「羨ましい」

「スカーレットの生きていた国は、大変だったのか?

「エルシノアの外はほとんど知らないんだ。お父様が生きていた頃はとても豊かだったと思う。けど死ぬ一年前後ぐらい、周りを見てる余裕がなかった」

「……君が死に急いで見えるのは、それが理由だったりする?」

「……今は、よく分からない」

「そっか」

 

踊りがクライマックスを迎えた。テンポがぐっと高まり、ラクダの男女の踊りは優雅さを保ちつつ、一糸乱れぬ動作に磨きがかかっていく。

 

「ヒジリは、これからどうするの?」

「とりあえずいろんな場所を巡って、傷ついてる人を助けようと思ってる。君は?」

「しばらく、あなたの手伝いをする」

「恩なんて、感じなくていいのに」

「ありがとう、あのとき、私を止めてくれて」

「約束、忘れないでくれよ?」

「うん」

 

絶妙に噛みあっていない。そうスカーレットは自覚していたが、深くは訂正しなかった。

目の前を駆け巡る音楽と踊りと囃し立てる楽し気な声が、曖昧なスカーレットを包み込んでくれていた。

 




昨日で仕事納めできましたので、のんびりペースアップしていければー
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