果てしなきスカーレット re:imagined   作:うそだよなまもる

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キャラバンに同行しながら、人助けを始めたヒジリとスカーレット。
その道中、見果てぬ場所へ続く門を塞ぐ軍隊が現れる……


遺跡にて

ヒジリの動きを真似するように、スカーレットはラクダ女のふくらはぎをマッサージしていく。

 

「パンをこねるみたいに……そう、ぐぐっーと指だけの力で」

「こ、こうかな……?」

「それは揉んでるクラウダさんに訊いてくれ」

 

マッサージを終わると、代わる代わるラクダたちがマッサージをせがんでくる。

焚き火を囲んで以来、スカーレットはヒジリの横を歩き、何かをやろうとすれば、隣で教えを乞うようにしていた。

それを通して、彼の人となりがだんだんと分かりだしていた。

 

「大丈夫ですか? どこが痛み――だあぶなっ! 俺は敵じゃない! 敵じゃないよ!」

 

キャラバンの列から急に外れたと思えば、傷ついた獣人の救護をしようとして、逆に襲われかけてしまったり。

 

「この沼、俺が先行して安全な位置を確かめま――やばハマった! 助けて!」

 

濁った沼地を勇み足で飛び出して、あっけなく嵌って他の団員に迷惑をかけたり。

 

「気分だけでも随分違いますから!」

 

そして今のようにキャラバンに高齢者が多いことを案じてか、体を癒すマッサージを進んで申し出ていた。しかし獣人の体では力のコントロールが上手くいかない。老人たちは偶に苦悶の声を上げていた。

 

要するに、距離感が近い癖に危機管理が希薄すぎる。

よく煉獄で生きているものだ。

 

「……どうしたんだ、スカーレット?」

「ヒジリは、学ばないの?」

「煽ってる?」

 

ただ、キャラバンの団員も――スカーレットも、彼を見捨てようとは微塵も思わない。

ここへきてすぐレアティーズの騎士団と行動を共にしていたと話していたので、奇跡的な縁に恵まれていたのだろう。あの騎士団はスカーレットを恨んでいただけで、確かな良心は感じていた。

いや、ヒジリの馬鹿正直なまでの誠実さが、この良縁を引き寄せているのかもしれない。

 

「スカーレットくん、ヒジリくん」

 

マッサージをしていた二人の前に、団長がやってきた。

 

「すまない、厄介なことになった」

「厄介?」

「この先で、一触即発の空気になっている。戦闘になるかもしれん」

 

***

 

キャラバンの団員たちを置いて、スカーレットとヒジリは岩場の狭い道を進んでいた。

団長の話を聞いたヒジリが碌な防具も身に付けずに飛び出してしまったので、スカーレットがそれを追いかける形となっている。

 

「あそこだ!」

 

先に狭い道を抜けたヒジリが、叫びながら更に足を速める。

少し遅れて、スカーレットも道を抜ける。

 

過去に打ち捨てられた遺跡の広場だった。左右を円形の岩場に取り囲まれ、石造りの柱や屋根の残骸が点在している。

スカーレットの正面には、岩の壁を削って作られた巨大な門があった。色も塗られておらず凝った意匠も彫られてないシンプルな作りだが、逆に独特の荘厳さを放っていた。

その扉を守るように、自動小銃を背負う英国服の軍隊が陣取っていた。

 

「この先に見果てぬ場所があるんだろう!」

「どうして邪魔されなきゃいけないんだ!」

「見果てぬ場所を独占するつもりか!」

 

軍隊へ向けて、様々な獣人の混成部隊が抗議の怒声を浴びせている。様子からして、全員が見果てぬ場所を目指している獣人たちのようだ。

焦って群衆の中へ入ろうとするヒジリの襟を、スカーレットはなんとか捕まえる。

 

「ヒジリ待って」

「で、でも、止めないと」

「まだ戦うと決まったわけじゃない。それに今の私たちには、どっちが正しいが判断ができない」

 

ヒジリを諭しながら、スカーレットは周囲を観察する。

英国服を着た軍隊は、全員が黒毛のオオカミで構成されている。隊長らしきオオカミのみ銀の毛並みで、浴びせられる罵声など意にも介していない様子だった。

抗議をしている獣人たちは、いくつか同種族のグループがあるものの、全体的な統率は見られない。中には武器を頭上に掲げ、今にも斬りかかりそうな獣人もいる。

 

「(ヒジリは軍隊を説得しに行きたいようだけど、逆に悪者になってしまうかもしれない)」

 

一見すると見果てぬ場所を目指す者を妨害する軍隊に非があるが、扉の先が危険な状態にある場合は正しくなってしまう。だからスカーレットはヒジリを引き留めたのだった。

すると、軍隊の長である銀髪のオオカミが、頭上へ空砲を打った。

 

「傾聴せよ!」

 

銃の炸裂音と遠吠えのようなオオカミの叫びに、群衆は水を打ったように静まり返る。

その様子を見て取り、オオカミは続けた。

 

「ここから先は通行止めとなっている。見果てぬ場所へ至れる者には限りがあるためだ」

 

告げられた言葉に、獣人たちは戸惑いを隠せなかった。

 

「見果てぬ場所は選ばれし者たちが昇るべき特権、故に、貴様らのような下賤な者を通すわけにはいかんのだ!」

 

銀髪のオオカミの宣言に、群衆の戸惑いが怒りに変わる。

 

「ふざけるな!」

「じゃあそのクソ君主に合わせろ!」

「俺たちが下賤なら、お前たちは卑怯者じゃないか!」

 

怒号が広がっていく中、ヒジリがスカーレットに耳打ちする。

 

「スカーレット」

「このままだと確実に戦いが起きる。そして、軍隊の方が圧勝する」

「ああ、止めないと」

 

スカーレットの横で、ヒジリが意を決した表情で頷く。

そして、二人で群衆へ割って入ろうとした。

そのとき、銃声が響いた。先程とは少し違って、鈍くて硬い。

 

「きゃああああああああああああ!」

 

直後、女性の悲鳴が上がった。

群衆が激しく揺れる合間から、スカーレットは確かに目撃した。

前に出すぎたカッコウの獣人が、赤黒い塵となった。

 

「抵抗する者には、こいつと同様に殺す。我らは君主——クローディアス様に代わり、愚か者を粛清する権利を与えられている」

 

銀髪のオオカミが発した人名に、スカーレットの心臓が跳ね上がった。

力任せに獣人たちの波をかき分けていく。何人かはなぎ倒す勢いでずんずんと歩み、あっという間に最前列に躍り出た。

 

「おい」

「次は貴様が撃たれたいのか、トカゲ」

「今、クローディアスと言ったか」

 

脅しに動じないスカーレットへ、銀髪のオオカミが鋭く目を尖らせる。

 

「あの方を呼び捨てとは……死に急ぐのも大概にしろ」

「答えろ、クローディアスはこの煉獄にいるのか!」

「貴様のような下賤なトカゲがお会いできる方ではない」

 

銀髪のオオカミが合図すると、他の兵隊が一斉に銃をスカーレットへ構えた。

向けられた明確な殺意に、スカーレットの全身に電流が流れる。しかし、今回はそれだけではない。

現世で復讐を遂げられなかったクローディアスが、この煉獄へ来ているという事実が。そのクローディアスが、またも人を虐げているという事実が、スカーレットの怒髪天を衝いた。

 

「待ってくれ、スカーレット!」

 

遅れてヒジリが合流すると、スカーレットの肩を掴む。

 

「あっつ!」

 

しかし、スカーレットの肩が燃えるような熱を帯びていて、ヒジリは思わず手を離す。

スカーレットが深呼吸をすると、バチバチと火花が漏れ出ていた。体を流れる電流が灼熱に変換され、何も考えられなくなる。

 

「答えろ、クローディアスはどこにいる!」

「だから、貴様に答える筋合いはない!」

 

オオカミの小銃から放たれた弾丸が、開戦の合図となった。




次回は明日にでも
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