冬休みなのに……
というわけで今回はクリスマスにちなんで特別編です。
これは僕と雨宮がパートナーとなってから一年目の冬の出来事。
今思い出すと少し懐かしい、そんなお話。
× × ×
十二月二十五日。世間がクリスマスで賑わう中、喰種捜査官である僕は相も変わらず仕事だった。
「はぁあ。なんでクリスマスに仕事なんだか……。あー彼女欲しー」
「真面目に仕事しなよ高間」
現在僕は局のデスクで後輩の高間俊哉と年末に向けての資料整理をしていた。
資料といっても主に以前の喰種捜査に関する書類や今年起きた喰種事件関連の書類をまとめて分類するだけの仕事。
一見楽そうに聞こえるこの作業だが、とにかく数が多い。
中でも目を引くのはSSSレート喰種【隻眼の梟】に関する資料。
過去二回の交戦記録があり、最近だとあの有馬特等が撃退したという記録が新しい。
天才やらCCG最強と謳われた有馬特等ですら討伐に至らなかった喰種。
おそらく今まで僕が出会ってきた喰種とは比べ物にならないくらい強いのだろう。
正直戦いたくないが捜査官である以上、それは叶わぬ願いだ。
先のことを考えてしまえば【隻眼の梟】は早急に討伐しなければならない喰種。
いくらまだ一等捜査官であるとはいえ、特等らと同様に駆り出されるであろう。
そんなことを考えながら何気なく資料を読んでいると、不可解な点を見つけた。
「(最初は死者が出ているのに二回目の死者がゼロ?いったいどうして……)」
初見だったから対抗策が思い付かなかったから?二回目には有馬特等がいたから?
いや、もしかして……
―【梟】は二人いる?
「……まさか、ね」
ありえもしない考えを頭の片隅に押しやり、再び資料を整理する。
しばらく整理を続けていると、見知った顔がオフィスにやってきた。
「先輩、遅いです。早くしてください」
「おー雨宮。ごめん、もう少しかかりそうだから待っててくれないかな?」
「……分かりました。ご馳走していただく身ですし、待ってます」
帰り支度が済んだ雨宮はいつもながらの無表情で淡々と告げた。
クリスマスにお互い予定がないということで、前々から言っていた居酒屋に連れて行ってあげることになったのだ。
あくまでも可愛い後輩に奢ってあげようという先輩なりの優しさのつもりだが、約一名そう捉えなかった者もいた。
「え、ちょっ、え?……マジ?」
僕と雨宮の会話を聞いていた高間は、目を大きく見開いて動揺していた。
具体的な内容は思い付かないが、何かを察した高間が鬼気迫る表情で詰め寄ってくる。
何を確かめたいのか分からないから、取り敢えず頷いておいた。
「そ、んな……。表情が乏しいが若くて美人と有名な雨宮さんと付き合っているなんて……。まじぱねぇっすよ城嶋さん!!」
「付き合ってないよ!驚いていたのはそういうことだったのか」
「あー、はいはい。まぁそういうことにしといてあげますよ。分かりました分かりましたっと」
「ねぇ、これでも僕君の上司だよ?」
妙にむかつく顔をこちらに向けてくる高間に若干の苛立ちを覚えながらも作業に戻る。
その途中で散々からかってくる高間を無視して自分の作業を淡々と進める。
唯一良かったと思うのはこの場から雨宮が離れていたということ。
もし高間の発言を聞かれていたら物凄くめんどくさいことになっていたかもしれない。
「……あとはよろしくね高間」
「え、もう終わらせたんですか!?ずるいっすよ!」
「ずっと口ばかり動かしていたのが悪い。それじゃあお疲れ様」
「ちぇ。まぁ楽しんできてくださいよクリスマス」
「はいはい。高間もちゃんと終わらせなよ?」
そう言ってコートを羽織った僕は、雨宮が待っているエントランスへ向かう。
去り際に「俺も彼女欲しーよー!!」という高間の悲痛の叫びは聞かなかったことにしよう。
× × ×
「待たせてごめん」
「いえ。それより早く行きましょう」
無事に合流した雨宮とともに目的地へと向かう。
向かう先は居酒屋【和~なごみ~】。
この間仕事帰り偶然立ち寄った場所で、焼き鳥を初めとした食べ物やお酒が美味しくて最近ひそかに通っているお店だ。
局から歩いて電車で二十分という割と近い場所にある所で、ついてすぐに案内された席についた。
ついて早速お任せで焼き鳥各種とビールを頼む。
先に出されたビールと付属された枝豆を摘まんで今年の事を振り返った。
「にしても色々あったよね今年」
「……当初はすみませんでした」
「あはは、最初の頃の雨宮は僕に辛辣だったからねー。半年経った今でもたまに思い出すよ」
「忘れてください。大分反省しているのですよ」
と言っても全く表情が変わらない雨宮を見て、ついくすりと笑ってしまう。
それが気に食わないのか少しむっとした顔で僕を睨む雨宮。
出会った頃から比べると、こんな表情でも見せてくれるようになっただけでも進歩か。
「……あの時言われたことは言葉は今でも覚えていますし、心に深く突き刺さりました。先輩には感謝してます」
「あれ?なんか素直だね。もしかしてもう酔っちゃった?」
「違います」
それから二時間、他愛無い会話を続けてそろそろお開きということで店の外へ出た。
相変わらず冷え切った東京の夜は、何とも言えない余韻を僕に与えてくれた。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「ん、気に入ってくれたようで何よりだよ。夜も遅いし、タクシー乗ってきなよ」
「何から何までありがとうございます」
「先輩ですからね。誘ったのも僕からだし、気にしなくていいよ」
少し車通りの多いところに出てタクシーを捕まえる。
運転手に予めお金を払い、雨宮に乗るように促す。
もう一度お礼を言おうとして頭を下げた雨宮はすぐには乗らず空を見上げていた。
どうしたのかと声をかけようとしたのだが、その理由が分かった。
「雪、か……」
空からゆっくりと降りてくる純白の明かりは、まさにこんな日には相応しいものだった。
「雨宮。メリークリスマス」
「……はい。メリークリスマスです」
雨宮はタクシーに乗りその場を離れる。
後に残るのは僕一人。
「……今日は少し遅くまで起きるかな」
静寂に包まれた場所で、少しの感傷に浸りながら僕はその場を後にした。
こんな日くらい、少しでも多くの人が幸せな時間を過ごせるようにと願いながら。