喰種捜査官 城嶋裕輔   作:夏目 朝陽

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第十三話です。


#013

「ぐっ……が、あぁっ……!!」

 

あの女の人に刺されそうになった時、僕は目を瞑った。

死んだ。そう思ったのに、尻尾みたいなのに刺された感覚はなく、ゆっくりと目を開けると苦しそうな唸り声とともに僕をあの部屋から助けたお兄さんがお腹を刺されていた。

 

お兄さんはそのまま長い、刀みたいな物をその女の人に向けて振りぬいた。

刀は見事に女の人の首を刎ね、その体は首とともに地面へと崩れ落ちた。

お兄さんを貫いていた尻尾も徐々に崩れるように消え去り、今はもう跡形もなくなっている。

 

「あ……お、お兄さん」

 

「はぁ、はぁ……。ああ、瑠梨君。もう、大丈夫、だからね」

 

「で、でも僕のせいで……」

 

「あはは……気にしなくて、いい、か、ら」

 

その言葉を最後に、お兄さんは地面へと力なく倒れ込んだ。

 

いやだいやだいやだいやだ!!

お兄さんは僕を救ってくれた。二度も、救ってくれたんだ。

いやだ。失いたくない。

僕はもう、誰も失いたくない……!!

 

声が枯れるほど必死にお兄さんに呼びかけても何の反応も示さない。

 

そんな状態から間もなくお姉さんが僕らの元に駆け寄ってきた。

 

「……っ!?先輩!!」

 

さっきまでの無表情から一変、血の気の引いた真っ青な顔でお兄さんの体を抱き上げる。

お姉さんの必死の呼びかけにも何の反応も示さない。

絶望的な状況の中、遠くから聞こえるサイレンの音がこちらに近付いていた。

きっと誰かが救急車を呼んでくれたんだと思う。

 

すぐに駆け付けた救急車に運ばれるお兄さん。

僕とお姉さんも一緒に乗って必死にお兄さんに問いかける。

 

僕らの心配は手術室のランプが消えるまで、なくなることはなかった。

 

 

× × ×

 

 

懐かしい、匂いがする。

ゆっくりと瞼を開けると、そこに映るのは僕が物心ついた時から住んでいた家の中だった。

 

「そうか。夢、なのか」

 

そう理解して、懐かしさを胸に抱きながら順々に家の中を歩き回る。

自分の部屋、弟の部屋、両親の部屋。

 

階段を下りてリビングに差し掛かった時、僕はあの日の光景を見ていた。

 

全身をボロボロの赤い布で覆い尽くした、体系から判断しておそらく男であろうその人物。

その奥に広がるのはそいつに食われた原型を保っていない赤く染まった両親の体。

僕に気付いたのか振り返った赤い布の男は顔の上部を仮面で隠し、弟の腕を咥えている。

 

「お、兄ちゃん……た、すけて……」

 

涙と血で顔をぐちゃぐちゃにした弟は、呆然と立っている僕に助けを求める。

でも僕は動けない。いや、動かなかったんだ。

 

仮面の下から覗かせる獣のような眼光に。恐怖し、動かなかった。

数秒目が合ったあと、男は視線を戻し再び弟を咀嚼する。

 

僕は跡形もなく家族が食べられるのを、ただ、じっと、何の感情もなく眺めていた。

 

それを最後に、僕の意識は遠のいていった。

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