十二月十九日午後十一時五分。
十一区の【アオギリの樹】のアジトと思われる建物の前にいる僕達捜査官は、依然として膠着状態が続いていた。
「―なーんで……攻めないんですかねェ?」
「『攻められない』んだ。CCGの十一区支部から奪われた武器のせいで上の階から狙い撃ちされている」
鈴屋の疑問に亜門が答える。
現在の状況はこちら側としてかなり良くない状況だ。
亜門も言ったように敵の方に一部の武器を奪われている上に、向こうには【スコープ】という元傭兵だった喰種がいる。
そいつに師事を仰いだのか、他の銃を持つ喰種もそれなりに腕があるみたいだ。
次々と撃たれる一方、こちらの攻撃は全て赫子に弾かれる。
「反対側は海。周りは森に囲まれている。正面突破しか方法がないのにこの状況はかなり厳しいですね」
「そうだね……。せめて向こうに行ければ一気に片付けられるんだけど」
雨宮に言う通り正面突破しか方法がない。
こうなることも想定して【アオギリの樹】はこんな場所にアジトを構えたのだろうか。
それはそうとして今はこの状況をどうやって打破するかだ。
「―ってあれ?鈴屋はどこ行ったの?」
「そういえば……あ」
「え?」
急に見当たらなくなった鈴屋の居場所を聞いたら雨宮がある方向に視線を向けた。
そこには物凄いスピードでバイクを走らせる鈴屋の姿があった。
というかあれって丸手特等のお気に入りのバイクじゃ……
そのままの勢いで狙撃している喰種の元に飛び込んだ鈴屋はベランダに姿を消し、しばらくの銃声の後ひょっこりと顔を出して言った。
「入ってどうぞ~」
「とつげェェェェェェェェェっき!!!!!」
鈴屋にバイクをお釈迦にされたショックなのかやけくそ気味に叫ぶ丸手特等の合図で次々とアジトへと乗り込んでいく。
走りながら【ナツムラ】を起動し、入ってすぐにこちらに襲い掛かってくる喰種達を確実に斬って殺していく。
その返り血を浴びながら迷うことなくどんどん先へと進んでいく。
「先輩、大丈夫ですか?」
「ん……何が?」
「……いえ、何でもありません」
……雨宮に気を使われるほど酷い顔をしているのだろうか。
確かに喰種とはいえ殺していくのは気分の良いものじゃないけれど、ここは割り切って少しでも多く数を減らさなければこの先【アオギリの樹】がどれほどの被害を出すのか分からない。
迷っている暇なんてない。進まなきゃいけないんだ。
だって僕には、果たさなければいけない目的があるのだから―
× × ×
あれからどれほど時間が経ったのだろうか。
それなりに数を減らしていき少し落ち着いてきた頃、予期せぬ報告が耳に入った。
「【梟】が現れた!?」
「はい。現在篠原特等、黒磐特等を始めとする数人の捜査官が交戦中とのことです!」
「……分かった。すぐに向かう」
まさかあの【梟】が現れるとは予想外だ。
僕の力が通用するのかは分からないが、聞いて引き下がることなどできない。
僕は急いで報告のあった場所へと向かう。
ほとんどの【アオギリの樹】のメンバーを殺したからか、思うようにスムーズと移動することができる。
作戦の終わり近くにまさかこんなことになるとは……
建物を抜けて【梟】のいる場所に向かう途中、思わぬ出会いをしてしまった。
「金木君。やはり君は……」
そこにいたのはあの鉄骨事故の被害者にして【人工喰種】の疑いがある金木君だった。
久しぶりに会った彼は全身ボロボロで、黒だった髪は真っ白になっている。
そして、顔には眼帯マスク。
彼が亜門の言っていた眼帯の喰種だったのか。
「城嶋さん……CCGの人だったんですね」
「ああ。ここにいるということは君は【アオギリの樹】の構成員なのか?」
「……違う。僕はあんな奴らとは……」
【アオギリの樹】という言葉に過剰なまでに殺気だてる金木君。
どうやら彼は【アオギリの樹】とは敵対しているみたいだ。
「戦わなきゃ、いけないですか?あなたと」
「僕は捜査官で、君は喰種。それが今ある事実さ」
「……そうですね。なら……」
ふわりと吹く風と共に、彼の腰のあたりから四本の赫子が姿を現す。
そして顔つきも変わった。一切の優しさを捨てた冷徹なその眼は、強さとともに寂しさを感じた。
戦闘態勢になった彼から目を逸らさず、【ナツムラ】を起動する。
「それじゃあ、―始めようか」
僕のその言葉と同時に、闘いが幕を上げた。
ついに金木君との戦い!
一体どのような結末を迎えるのか……!!