それでは第六話をどうぞ。
「凄い……」
その光景は、もはや人間離れしたものだった。
私の目でかろうじて追いつけるスピードの【蝙蝠】の攻撃を、同等かそれを上回るスピードで剣撃を繰り出し応戦する城嶋先輩。
仕留めたと思った一撃を呆気なく赫子で叩き飛ばされ、体制を立て直そうとしたがとてもサポートできる闘いじゃない。私の実力では確実に足を引っ張る。
初めて会った時から今に至るまでそのすぐ傍で先輩の強さを見てきたが、戦いを経験すれば経験するほどにどんどん強さに磨きがかかっている。
元々その強さは知っていたが、正直この成長スピードは普通じゃない。
本人は特等達には及ばないと言っているが、果たしてそうなのだろうか。
三年前からパートナーとして先輩と組んでいるが、いまだにこの人の強さが理解できない。
先輩と【蝙蝠】の戦闘に感想抱いていると、ほんの一瞬、【蝙蝠】に隙ができた。
おそらく決める気なのだろう。先輩は【蝙蝠】へと一歩踏み込んだ。
その瞬間、”ナツムラ”の刀身から無数の鋭く長い針が【蝙蝠】の全身を貫いた。
× × ×
「ぐっ……!」
決まった。
一瞬の隙を見逃さず”ナツムラ”のギミックを発動させた。
元々喰種の鱗赫は柔軟性に優れている。
”ナツムラ”はその鱗赫の特徴を最大限に利用したギミックが盛り込まれている。
刀身から無数に凝縮したRc細胞を鋭い針として多方向に一気に伸ばし、間合いにいる敵を串刺しにするギミックを持ったクインケ。
この元となった【夏村】という喰種を討伐したのが僕だったからこのクインケを授かった。
その通り無数の針で串刺しにした【蝙蝠】から、太刀の状態に戻し針を一気に引く抜く。
「があぁぁぁっ……!!?」
針を抜かれた痛みから【蝙蝠】は怒鳴りつけるように喉を鳴らしその場に倒れ込む。
息はまだあるがもう抵抗できる力は残されていないみたいだ。
「……すみません。お力になれず……」
「相手はSレート。僕でも結構きつかったし仕方がないさ。それより局に連絡しよう。【蝙蝠】の処遇については彼らに任せよう」
分かりましたと雨宮はすぐにCCGに連絡を入れる。
そんな雨宮を尻目に【蝙蝠】に目を向ける。
息も絶え絶えに地面に這いつくばるその姿は生への執着が窺える。
「(人でも喰種でも生きたいという気持ちは変わらない、か)」
一般人の喰種への認識はあやふやだが、世間的には喰種は悪とされている。
CCGは正義。そう胸に抱きながら捜査官をやっている者も少なくはない。
だが果たしてそれは正しいことなのだろうか。
喰種にも家族はあるし、人間社会の中で細々と生きている喰種も過去にはいた。
なのに僕達捜査官はただ喰種であるという理由だけで裁き、殺してきた。
「でも結局は僕も変わらない。この手で……」
「先輩。もう間もなく到着するそうです」
「……ん、そうか。それじゃもう少し待とうか」
その言葉から時間がかからない内に他の捜査官が続々と到着した。
【蝙蝠】の処分を任せ僕と雨宮は車に戻る。
シートベルトを締め、ハンドルを握り、アクセルを踏み込む。
運転している間、特に会話はなく【蝙蝠】の報告書についてだけ少し話し合った。
その間にも、あの時の感触は僕の手から離れない。
【蝙蝠】を貫いた感触。いつまで経っても喰種を切るのには慣れない。
かつてそれは甘さだと真戸さんに指摘されたが、まさにその通りだ。
僕は割り切れないし、非情にもなりきれない。
急に雨が降り出してきた。それと同時に車内の会話もなくなる。
止む気配がない雨の音が、寂しく僕の心に染み込んでいった。