では第七話、どうぞ。
【蝙蝠】討伐からすでに一時間が過ぎようとしていた。
先程まで報告書の構想を練っていた雨宮は疲れたのか今は寝ており、僕は雨音をBGMに局へ車を向かわせていた。
信号で止まり、ふと視線を歩道側に向けると何やら人の様子がおかしい。
少し気になった僕は信号が変わってから道を曲がり、車を歩道脇につけて通行人に話を聞きに行った。
何があったのかと聞くと、どうやら喰種が現れたらしい。
おそらく真戸さんと亜門が追っていた奴だろう。
流石に起こすのは可哀想だと思い、一人で通行人から聞いた現場へと急いだ。
現場に到着すると、そこには遠巻きに事を見ようとしている野次馬、地面にへたりと座り込む女性の喰種、真戸さんや亜門を初めとする何人かの捜査官がいた。
ボロボロな女性喰種の姿を見る限り、どうやら決着はついたみたいだ。
「せめてもの情けだ。辞世の句でも聞いてやろうか?」
真戸さんはこの喰種を殺す気なのだろう。弱りきって、無抵抗な喰種を。
こういう人だというのは僕が捜査官になってから知っている。
喰種には容赦しない、喰種のことを心底恨んでいる人。
「……ヒナミ」
女性の喰種が誰かの名前を呼ぶ。名前の語感から判断すると、おそらく娘の名前なのだろう。
「い……」
「おおっと。時間切れだっ」
女性の喰種が何かを言い終わる前に、真戸さんは喰種の首を刎ねた。
僕の中に残るのは、言いようのない罪悪感。
知っていたのに。真戸さんがこういう人だということを。
なのに僕は止めなかった。遠巻きに、その光景を見ているだけ。
事が終わり、僕は真戸さん達の元へ歩いていく。
足取りが重い。
助けられたかもしれないのに見過ごしたための罪悪感なのか。よく分からない。
「お疲れ様です」
「おお、城嶋君。【蝙蝠】を無事討伐したようだね。私も今終わったところだよ」
「……あの、真戸さん。せめて最後まで言ってから殺せばよかったのでは?」
僕のその言葉に歪んだ笑みを見せ、いつものように言い切った。
「クズ相手にかける情けなどありはしない。そうだろう?」
その言葉に亜門も他の捜査官も、何の疑問も持ちはしない。
それは彼らの中で喰種と悪がイコールで繋がっているから。
僕は【蝙蝠】戦の疲れと報告書を理由に、その場を離れ再び車へと戻る。
雨宮はすでに起きていて、真戸さん達も喰種を討伐したことを伝えると僕は車を走らせた。
局に着き、報告書は雨宮に任せ仮眠室へと向かう。
その間も、どうしても離れない。
瀕死の状態でも生きようと地面に這いつくばる【蝙蝠】。
無抵抗なまま最後まで言葉を言い残せず散った女性の喰種。
寝ようと目を閉じればその光景はより鮮明になっていく一方で、忘れようとしても忘れられない。
少しでも考えないように寝ることに徹する。
雨は止み、夕日がきれいに空を彩っていた。
それでも僕の心は晴れないまま。
拭いきれない罪悪感とともに、僕の意識は深い暗闇の中へと落ちていった。