超絶選り好み最強奥手サキュバス   作:麦村

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なんかその辺の妙に強い竜人(淫魔)

 ここ数日、私の頭はあのパンツのことでいっぱいになっていた。

 ノナがあのパンツを履いているかもしれない、というだけで気分は上々である。

 だが、こっそりタンスの中を覗くと、いつもあのパンツは奥の方にそっと放置されている。

 どうやら、あれは勝負下着のようなものらしい。とは言っても、夜のアレソレ的な意味では無く、勝負の前には新品の下着を履くとか、そういうアレである。

 是非ともまた履いてほしい。

 だが、このままではちょっと私がまずい。最近、あまりにもパンツのことを考えすぎているせいで、うっかりパンツパンツ言いそうになっているのだ。

 これは良くない。まるで頭がおかしくなっているみたいじゃないか。

 

 そこで私は煩悩を発散するため、森で一人、素振りをしていた。

 なお、教会は空けられないので男性体の方である。別に他の姿でも良いのだが、やはり武器を扱うのはこの姿が一番良い。

 

「……」

 

 一振りするごとに思考が研ぎ澄まされていく。

 私よ。パンツの魅力はパンツだけにあるわけではない。あれ自体はただの布切れだ。人が履くことによって価値が付与されるのだ。

 つまり、ノナのパンツはノナが履いた時に最も価値がある布切れだということだ。ノナが履いていないというのに、今からそんなことを考えたところで何になる。

 あんなちょっとド田舎じゃ貴重な真っ白いレース付き紐パンのことなど、今はどうでもいいじゃないか。

 それにしても男の娘用パンツとは。ノナもやるものである。

 私としては男の娘には女性用パンツをそのまま履かせたいのだが、ああいうものも良いものだ。

 女が男の娘パンツを履いてもなんとも思わないが、男の娘が履いているというだけでとてつもない魅力がある。

 しかもノナはシスターである。シスターがあんな下着を履いていて良いのだろうか。なんだか背徳的である。聖典に書いてあるし、私も許可を出すから良いのか……。

 ところで、ノナはあのパンツは師匠から勧められたと言っていたな……。つまり、あの老シスター(男)もまたあのパンツを……?

 よし。考えるのはやめよう。

 

「あの……」

 

 ビクンッ!

 あまりに驚きすぎて人間一人分ぐらい飛び上がってしまった。勢いよく後ろを振り向けば、そこにはノナが居た。

 ……ノナ!? なぜこんなところに!?

 

「今、すごい飛びましたね……」

「……何か用か?」

 

 ごめんよノナ。こんな口の利き方して。

 でもこの姿だと大体こんな風に話しているせいで、咄嗟に話す時はこんな感じになっちゃうんだ……。

 

「その、この辺りに異常が無いかを見ていたらたまたま見かけまして……。あの時、結局お礼を言えていなかったな、と」

「そうか」

「……ありがとうございました」

 

 ノナが深々と礼をする。こっちの姿だとかなり身長差があるので、いつもよりも小さく見える。

 ノナはね……。こういう真面目なところも魅力的なんだ……。かわいいな……。

 今は顔が見えないので、いくらでもにやにやし放題である。まあ、こっちだと基本仏頂面なのだが。表情から考えが読まれるとまずいからね……。

 

「良ければ名前を教えてもらえませんか?」

「名前か……」

「あっ、僕は教会所属の退魔シスターのノナです。よろしくお願いします」

 

 それは知っている。でもノナの自己紹介はいくらあってもいい。

 だが名前をどうするか。というか、この反応からして、まだ私が悪魔だとはバレていないようだ。なんでだよ。あんなに堂々と魔力を解放したというのに。濃すぎたか?

 まあ良いか。こっちの姿が悪魔だとバレる分には何の痛痒も無い。むしろ、バレた方が良いのではなかろうか。こう、いつもの姿と合わせて二種類の感情を向けてもらえそうだし……。

 

「ライエン」

「ライエンさんですか」

「……」

 

 おや、ノナ? もしかしてライエントゥーラの名をご存知ない? 無さそうだな……。

 魔界の悪魔が知らなかったら身体に叩き込むところだが、ノナなら許そう。

 そもそも人間の間では大罪神官すら全然知名度が無いし……。なんか強い悪魔が名乗ることが多い称号、程度の認識らしい。詐称するやつが多いからな……。特に私の称号。

 

「それは……ハルバードですか」

「そうだな」

「しかも全部同じ金属……」

 

 普通、こういう武器は柄の部分は別の素材で作るものだ。

 実際、ノナの槍は先端はミスリルだが、柄はどこぞの霊樹のようだ。人間の間では高級品だと言ってもいいだろう。

 ま、私のオール魔界血鋼ハルバードには敵わんがね。大罪神官全員から血を絞り取った特別製なので。あいつらはなんだかんだ言っても最高位の悪魔なのだ。

 

「すごい武器ですね……」

「ふん……」

 

 当然。強欲のやつがお抱えの鍛治師に作らせた逸品だからな。作ってから渡すのが惜しくなったのか、やけに渋ったので強奪してやったが。元々私専用に作るって約束だっただろうが。

 そんな自慢の武器を褒められて、私も鼻高々である。

 

「さっきの素振りも見てました。すごく、力があるんですね……」

 

 ノナの表情が僅かに翳りを見せる。もしかすると、力について悩みでもあるのだろうか。

 分かるぞ、ノナ。私も昔はものすごい貧弱だったせいで、その辺の悪魔にめちゃくちゃ負けていたからな……。全員ぶちのめしたが。

 残念ながら、人間と悪魔で育ち方は違うのだが、魔力については一家言あるぞ。

 

「その……お願いがあるんです」

 

 なになに? ノナのお願いなら大抵のことは聞けるぞー、と耳を傾ける。

 ノナは何度か息を吸っては吐きを繰り返し、意を決したように口を開いた。

 

「ぼ、僕と模擬戦をしてもらえませんか!?」

「模擬戦……?」

 

 ノナと模擬戦。やってやれない事もない。

 そりゃまあ、あんまり傷つけたくはないが、ノナを強くするためならそれぐらいは許容できる。

 相手を傷つけることで興奮するなどと言ったインモラルな趣味は無いが、ここはなるべく厳しくやってあげよう。

 

「分かった。引き受けよう」

「良いんですか……?」

「ああ」

 

 早速武器を構えて向き合う。

 厳しくとは言っても、本気でやったらとんでもないことになるので、ノナよりもちょっと強い程度に抑える。

 既に戦いは始まっているので、軽く隙を見せてみれば、それを見逃さなかったノナが突っ込んできた。

 そのまま槍で鎧の隙間を狙ってきたところで、その柄に尻尾を巻きつけて武器を取り上げる。

 

「あっ……」

 

 想定外だったようで、一瞬固まったところに軽くぺし……という程度に優しく頭を叩く。多分痛くはないと思う。

 ノナは自分が叩かれたことを確認するように頭をさすり、はにかんだ。

 

「……もう一度、お願いできますか?」

「良いだろう」

 

 そのまま何度かノナと模擬戦を繰り返す。尻尾を見せれば警戒し、それに気を取られたところで柄で軽く吹っ飛ばす。

 武器も尻尾もどちらも使えないように間合い内に入り込まれたところで、軽く羽ばたいて後退。ついでに風圧でノナを吹き飛ばす。

 あとは尻尾を地面に突き刺して両脚で武器を蹴り飛ばすなど、人間ではできないような戦い方を軽く見せてみた。

 やはりノナは覚えが良く、まだ対処はできないが、一度見せただけの戦法にも反応できていた。将来有望である。

 

「……やっぱり、お強いですね」

「いや……よく対応できている」

「そうでしょうか……?」

「ああ」

「……ありがとうございます」

 

 納得はできていないようだが、模擬戦を始めた時よりも動くことができている。

 このまま対悪魔の戦い方を仕込んで、立派な退魔シスターに育て上げよう。

 

「……今日はお仕事があるので、ここで失礼します」

「そうか……」

「また明日、お願いしてもいいですか……?」

 

 どこか不安げな表情でノナが問いかけてくる。そんな顔をされたら断れるわけがない。ノナを不安にするものは全て取り除かなくては……。

 

「もちろん」

「あ、ありがとうございます!」

 

 打って変わって表情が明るくなったノナがぺこりと頭を下げた。

 やはりノナは笑顔の方がずっと良い。たまには他の表情も見たいが、いつも笑顔でいてくれればそれだけで私もハッピーである。

 

「明日もここに居る。だから、都合のいい時間に来ればいい」

「はい!」

 

 そうしてノナはいかにも機嫌良さそうに手を振りながら森の奥へと消えていった。

 私も明日からのノナの育成プランを考えなければ、と再び素振りを開始するのだった。

 

 ◆◆◆

 

 そんなこんなで十日近くノナとの修行が続いた。

 本当は悪魔だと言うことをこっそりと仄めかしていたのだが、なぜか全て竜人なのだと勘違いされている。

 なぜだ……。なぜなんだノナ。今度、悪魔の見分け方でも教えた方がいいのか……?

 

 それにしても満足度の高い日々だった。

 まず朝。

 

「ノナさん、お弁当です。今日も頑張ってきてくださいね」

「はい!」

 

 ノナに手作り弁当を渡す。アグロのやつに母親っぽいとか言われてしまったので、女子力高そうな内容をリサーチして、それを反映してみた。

 普通に切ったパンに野菜やらベーコンやらを挟んだだけだが、ちょっとおしゃれな感じにピックを刺してみた。

 エトロとかいう土地はド田舎なので、大した物は無い。新鮮な野菜なんか、収穫の時期にしか無い。

 それでもバランスよく栄養が摂れて、なるべくかわいい感じを意識しております……。

 

 しばらくするとノナが森でハルバードをぶんぶんしている分体の方にやってくるので、そちらに意識を移す。

 その後、模擬戦をちょろっとして簡単に指導。基礎はできているし、悪魔的戦法でハルバードぶん回している私の戦い方をノナに教えてもしょうがないので、対悪魔用の色々を教えるだけである。

 

「悪魔にも種類がある。地上に多いものは契約悪魔と淫魔だろう」

「契約悪魔? 淫魔は知ってますが、それは初めて聞きました……」

「契約をすることで対価を得る悪魔だ。魔界では契約者が同じ悪魔しか居ない。人間以外には契約をするようなやつが居ない。だから、地上に出て人間と契約を結ぶ」

「それは、普通の悪魔じゃないんですか?」

「いや。他は魔界に居ることが多いせいで地上では見ないだけだ。他には……戦闘悪魔、食魔、睡魔あたりが魔界には多い」

「そんなに色々居たんですね……」

 

 まあ大体こんな感じである。悪魔豆知識というやつだ。

 というか、いくら竜人でもこれだけ魔界に詳しいのはおかしいだろ。悪魔なんじゃ……? という疑いを持ってくれ。

 そして昼食。なぜかノナがご飯を私にもくれるのでちょっとだけ食べる。……これ自分で作ったやつなんだよな。

 

「これ、ライラさんが作ってくれたものなんです」

「というと、教会の?」

「はい。……美味しいですよね」

 

 そりゃまあ、自分で美味いと思って作ってるもんだし……。美味いけど……。

 でもやっぱりノナの料理の方が好きなんだよな。今も消化せずに胃に入れっぱなしにしてるぐらいには。

 忙しいせいであんまり作ってくれないので、なんとかノナを暇にしてまた作ってもらいたい。

 いつもはこの後は腹拵えに模擬戦を少しだけして、ノナがちょっと仕事をして帰還、という流れである。

 しかし、今日はノナの様子がなんだかいつもと違った。

 

「……少しだけ、聞いてもらいたいことがあるんです」

 

 なんだろうか。私の褒めエピソード?

 しかし、ノナの表情はちょっと暗いというか、とにかくそういう明るい話ではなさそうだ。

 それでもノナの話なら聞きたい。頷くと、ノナはどこか寂しそうに話し出した。

 

「僕は退魔シスターです。でも、シスターとしての仕事はライラさんが全部やってくれています。そして家事も」

「良いことじゃないか」

「……そうかもしれません」

 

 まあ、私はそれぐらいできるのでね。教会も最近はだいぶ綺麗になってきたし、お悩み相談室もいい感じにやっているし、最近では村人の会合にちょこっと参加もしている。

 もちろん、ノナが忙しい時の家事は全部私がやっている。こういうね……。本当は自分でやりたいけど、任せてもらえている感じがね……。好きなんだなあ……。

 

「……そして、この前の淫魔。あれはほとんどライエンさんが倒してくれたようなものです」

「……そうか?」

 

 いや、ちゃんとアグロのやつはノナが倒したんだぞ。生きてるけど。

 流石にあの演技がバレたわけでは無さそうだが……。一体何を思っているのだろうか。

 

「ここにはライラさんとライエンさんが居る。だから……」

「……」

「いえ、なんでもありません。僕も、頑張らないと……」

 

 ノナはそう言うと、寂しそうな笑顔を見せた。そういうのは良くない。

 きっと、ノナが言いたかったのは……まあ、ライラとライエン。つまり、私一人で十分そうだなあ、と言うことだろう。退魔シスターとしてノナが居る意味が無い。

 逆である。ノナがここに居るからこそ、私はここに居るのだ。あとはアグロのやつが来たのは私がここに来たからである。触手もアグロが連れてきたのだし。ポイズンスライムは元から居たが。

 だが、私がここに来なければ、あんな初っ端から淫魔に襲われるようなことも無かったし、もしかしたらこんなふうにノナが悩むことも無かったかもしれない。なんとか励まさないと。

 

「……あの淫魔にトドメを刺したのは君じゃないか」

「トドメを刺しただけです。ライエンさんとの戦いで弱っていたようですし……」

「いや……あの時は淫魔の魅了に負けていた。君がいなければ他に被害が出ていただろう」

「そうでしょうか……」

「それに、浄化も悪魔祓いの術も使えないから、君が居て助かった」

「……それなら、良かったです」

 

 どうやら少し持ち直してくれたらしい。良かった良かった。

 いや待て。これはライラの方で励ました方が良かったのではないか? こう……恋愛小説とかでも辛い時に励ましてくれたから好きになった、的なやつがあるじゃないか。

 失敗したかもしれない……。いやいやいや。まだだ。教会にノナが帰ってきたらいっぱい励まして……この状況を知らないのに? ウワーッ! どうすればいいんだ!

 

「……僕、強くなりたいんです」

「……」

「さっきはあんなことを言いましたが、ライエンさんはきっと、いつかここを出ていきますよね。そんな時に僕が弱かったら、村を守れません」

 

 先程までとは違う、決意の籠もった声だった。どうやら、もう悩んではいないようだ。

 そんな……。ノナが持ち直したのは良いことだが、私がこう……なんかいい感じに励まして仲を深める計画が……。

 

「きっと、あの戦い方もその時のことを考えているんですよね。悪魔と戦うことになっても大丈夫なように」

「……」

 

 まあ、そういう面が無いわけでは無い。退魔シスターとして一人で悪魔を祓うことができれば、ノナにも自信が付くだろう。

 最近は訓練通りにいかずに落ち込んでいたようなので、それをどうにかするつもりだった。

 

「だから、ありがとうございます」

 

 真っ直ぐな目で見つめられ、少し居心地が悪くなる。わ、私は最近ノナのパンツのことしか考えていなかったんだ……。そんな目で見つめないでくれ……。

 でもこういうところがノナの魅力なんだよな……。ちょっと凹むこともあるけど、ちゃんと立ち直って頑張れるところがね……。

 

「……今日はもう時間ですね。ちょっと弱音も吐いちゃいましたが、明日もまたよろしくお願いします」

 

 私はそれに軽く手を挙げることで返答とした。

 是非ともノナにはこのまま育ってもらいたいものだ。

 そうやって感慨深くなりながら去る姿を見守っていると、教会の分体の方に妙な反応があった。

 なんかちょっと気持ち悪いというか、背筋がぞわぞわして落ち着かないというか……。

 しょうがないのでそちらに意識を移してみるも、近くには原因は無さそうだ。カラスの分体を飛ばし、周囲を索敵させるといやーな魔力を感じ取った。

 

「む……」

 

 近場の町から唯一この村へと続く状態の悪い道。そのど真ん中を真っ白な馬が駆けていた。その鞍上は白い鎧の男で、その鎧には聖刻教会の紋が刻まれていた。

 

 おい待てコラ。

 あいつ、聖騎士じゃねぇか。

 なんで突然こんなド田舎に来るんだよ。おかしいだろ。

 

 私は嘆いたが、何度見返しても状況は全く変わらなかった。もうちょっとしたら、帰ってきたノナを励ますという最重要タスクがあるというのに!

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