超絶選り好み最強奥手サキュバス   作:麦村

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救いの女神、その名はみっちゃん?

 多分、私は疲れていたんだと思う。

 たった一日だけだとしても、鬱陶しい聖騎士に話しかけられ続けたし、みっちゃんが真夜中に来るとか突然連絡してきたし、ノナのほっぺは触れないしで、精神的に疲弊していたのだろう。

 

「ライラさん、少し肌寒いので、何か暖かいものを……」

 

 しばらく外で立っていたせいか、ノナが肌寒いらしい。何か暖かいものが欲しいとも言っているぞ。

 となれば、暖めるしかない。ここにある中で一番暖まりそうなのは私の身体だ。

 ふむ。決まりだな。

 ということで、ノナの身体を抱きしめる。これで少しは暖かくなるのではないだろうか。

 

「あ、あの? ライラさん?」

「……こうすれば、暖かいでしょう?」

 

 おや? なぜ私はノナを抱きしめているのだろうか。夢かな? あれ、現実だな?

 どうやら疲れていたせいで自制できなかったらしい。まあいいか。

 うひょー。ノナの体温だ。堪らないぜ。最高。癒されるー。

 

「そ、その。何かが来たら……!」

 

 しかし、すぐにノナは離れていってしまった。寂しいが、それを引き留めることはしなかった。私はノナの自由意志を尊重したいので。

 それにしても、一体何があったのだろうか、と前を見ると薄ぼんやりとした光が見えるではないか。

 使い魔もその辺りのやつが死んでいる。ついにみっちゃんが来たらしい。いや、みっちゃんは本人が光ってるから目視でも見えるけど。

 いつものように徒歩で、ちょっとした手荷物を持っているらしい。全く、こんな時間にやってくるだなんて非常識じゃないか。

 そんなことを思いつつも、向こうが手を振ってきたので軽く振り返す。

 

「……ライラさん、お知り合いですか?」

「はい。そのようなものです」

「そうなのですか……」

 

 みっちゃんと知り合ったのはアグロのやつよりも後だが、あいつよりもずっと親密だと言っていいだろう。

 あの時は私も若かった。まだ男の娘こそが至高なのだと知らず、他の淫魔を真似てイケメンを見に行っていたのだから。

 

「ミトラ様……?」

「ミトラ、様……? それって……」

「聖女様だ! なぜこのような場所にお一人で……」

「えっ……」

 

 ちなみにミトラというのは筆頭聖女の名前である。代々受け継がれる名で、筆頭聖女は漏れなくミトラと呼ばれることになる。噂によれば、白金の髪をした穢れなき乙女が選ばれるとかなんとか……。しかも老けないとかなんとか……。

 ところで、聖刻教会が崇めているのは女神ミトスである。実は私は会ったことがあるのだが、不思議なことにみっちゃんとは見た目も性格も好みも何もかもが瓜二つである。多分口に出すのはちょっと恐れ多い本名も年齢も家族構成も同じなんだろうなー。いやあ、不思議だなあー……。まるで同一存在みたいだなー……。

 ちなみに悪魔ではない。マジもんの女神……いや、みっちゃんは聖女である。人間かはともかく。ちょっと俗っぽいけど。

 

「ライラ。久しぶりですね」

「……うん」

 

 軽くみっちゃんの手を握る。私がなぜミトラではなくみっちゃんと呼んでいるのかと言えば、名前を呼ぶのが恐れ多いからなんだな、これが。

 本名は以ての外だし、ミトスは女神の名前だし、ミトラは……まあ呼んでもいいけど。ミトはダメなんだなあ、これが。

 そんなわけで、フレンドリーさを表すためにもあだ名で呼んでいるわけである。

 それでも、みっちゃんとはちゃんとした友達で同志なんだ……。ちょっとね、家族にね。私がどうしても逆らえないお方がいらっしゃるだけで……。

 そのお方のキレるポイントがちょっと分かんないだけで……。

 

「エヴァン。なぜこのようなところに居るのですか?」

「この地にて悪魔が現れた、という報告の真偽を判ずる命を授かりまして……」

「わたくしはそのような命は下しておりませんが」

「しかし……」

「あなたは聖刻騎士です。帰りには、わたくしの護衛をしてもらわなければ」

 

 そういやみっちゃん、今一人だわ。いつもは聖騎士うじゃうじゃ連れ歩いてんのに。イケメンハーレムだやったー、とか言ってるのに。

 ……やばくね? 大丈夫なのは分かるんだけど、私が着いていかなかったら、畑に埋められるのでは? それで済むのか? 存在自体が消されない?

 か、帰りは私がみっちゃんの護衛をしないと……。

 ともかく、この調子ならば、聖騎士も連れ帰ってくれそうだ。

 

「それは……分かりました。しかし、なぜミトラ様はこのような地にやって来られたのです? しかも護衛騎士も着けずに!」

「わたくしはお友達に会いに来たのです」

「お友達? まさか……」

「はい。ライラはわたくしの大事なお友達ですから」

 

 言葉遣いや仕草も、私にテレパシーでイケメンの感想を送りつけてくる時とは大違いだなあ。

 なんだか真面目なみっちゃんを見るのは随分と久しぶりな気がする。すごい違和感があるな……。

 

「このような夜更けに!? いくら聖女とはいえ、常識として……」

「大丈夫です。ライラはいつでも起きているので」

「そのような人間はいません! ミトラ様、人間は普通、夜には眠っているものですよ!?」

「そうですね」

「そうですね!? 今肯定しましたか!?」

 

 おい待てみっちゃん。それじゃ私が人外だと言っているみたいじゃないか。対外的には人間のシスターで通してるんだから、そんなふうに言わないでくれ。

 このままでは余計なことまでぺらぺら喋ってしまいそうなので、その手を引っ張って教会へと連れて行く。

 

「……行くよ、みっちゃん」

「ああっ、シスターライラ、ミトラ様にそのような……」

「エヴァン、静かに。ライラ、今日は良い物を持ってきましたから、後でお話ししましょう?」

 

 みっちゃん本人が光っているので気が付かなかったが、車輪付きのカバンを引っ張ってきていたようだ。

 いつものように、後で私のコレクションも見せてあげよう。……誰かいると変なこと喋りそうだし。

 

「ですが……! そもそも、シスターライラとはどのような関係なのです!?」

「昔からのお友達ですよ」

「昔からと仰られましても……。彼女はシスターになったばかりではありませんか」

「ライラとは趣味が似ているんです」

 

 そうかな……。そうかも……。いや、そこまで似てるかな……?

 みっちゃんはイケメンだけではなく美少年も好きだから、美少年カテゴリの中になら男の娘もいるかもしれないな……。

 

「だとしても……!」

「それに、ライラはお兄様の信用も得ていますから」

「……そう、ですか」

 

 本当かな……。私、全然信用されてないと思うけどな……。

 ともかく、聖騎士も黙ったのでみっちゃんをそのまま教会まで引っ張っていく。

 

「あの、大丈夫、なんですか……?」

「ノナさん、眠いでしょう。今日はもうお休みになられてください」

「そう、ですか……でも」

「おや? 少し失礼……」

「え……?」

 

 眠そうなノナを寝室へ送ろうとすると、みっちゃんが割り込んできた。

 そして、その額に手を当てる。

 

「ふむ。なるほど……」

「あ、あの……ミトラ様?」

「いえ、なんでもありません。少し、不思議に思っただけで……」

「何を……」

「シスターノナ、あなたは……」

「みっちゃん」

 

 それは言うな、と軽く首を振る。ノナに余計なことを言う必要はない。

 もう少ししたらノナ本人も知らないうちに解決できるだろう。その程度の問題だ。

 

「……そうですか。ですが、これぐらいならば」

「……まあ、良いけど」

「えっ、と……?」

 

 みっちゃんが軽くノナに息を吹きかける。光を含んだ吐息がノナの身体に吸収されるように消えていった。

 ……まあ、みっちゃんのすることなら悪いことにはならないだろう。でも私もノナにふーふーしたい。特にかわいい丸い耳とか。

 

「シスターノナ。今日は休みなさい」

「ノナさん。その方が良いです。もう夜も遅いですから」

「ライラさんはどうするんですか?」

「少し話したら眠りますよ。心配はいりません」

「では……おやすみなさい」

「はい」

 

 ノナを見送り、食堂のテーブルに着く。みっちゃんが光っているので、明かりはつけなくとも良い。

 

「エヴァン。あなたも休んでいてください」

「ミトラ様、ですが……」

「久しぶりにお友達と二人きりで話したいというのは、変なことでしょうか?」

「いえ……。何かありましたら、あちらの部屋にいますのでお呼びください」

「眠っていても良いのですよ?」

「そういうわけにはいきませんので」

 

 聖騎士が客室へ消えて少しするとみっちゃんはくすくすと笑い始めた。

 一体何が面白いのだろうか。

 

「どうしたのさ、みっちゃん」

「ライラがあんな風に話してるの見るのが久しぶりで……。ふふっ、あは、あははっ!」

「もう夜なんだけど。あんまり大きな声で話すと迷惑だよ」

「あー、そうだ。これお土産。ほらほら」

「おっ、これは……」

 

 みっちゃんはカバンからいくつかの物品を取り出した。本に白い服、それから手のひらサイズの箱だった。

 箱は妙な仕掛けがあるようで、側面にボタンが付いている。他にも薄く加工された水晶のような物が埋め込まれていた。

 

「うん? 今光った?」

「ちょっと画面……あ、ここ。ここ見て」

「おー」

 

 ボタンを押すと光が放たれたので、目潰し用の魔道具だと思ったが、どうやら違うようだ。

 平べったい方を見れば、そこにはついさっきまでのテーブルが写っていた。

 

「これカメラって言って、このレンズを向けた方の風景を、これを押したらいつでも見られるんだよー。ね、便利でしょ?」

「そうかも……」

「で、ここを開くと記憶結晶が入ってて……これを取り替えると」

「うわ、これみっちゃんが記録したやつ? 半裸のイケメンだらけだ……」

「そうそう。これでいつでも思い出せるの。撮り損じたらこうやって削除して……記憶結晶の中身を減らせるんだよねー」

「ふぅん……」

 

 この前のイケメン撮影会とやらはこれを使っていたようだ。

 景色を保存できるというのは便利なのかもしれない。でも、私の淫魔アイの方がずっと色彩豊かに景色を記録しておけるぞ。

 とはいえ、もらえるものはもらっておく性分なので、ありがたくもらっておくことにした。

 

「まあ、ありがとう……」

「それで、こっちは申請された装備だよ。ほら見て」

「おー」

 

 みっちゃんが白い布を広げる。それは色々と装飾をされた、白を基調としたワンピースだった。

 だが、ただのワンピースではない。随分とご大層なエンチャントが掛かっているようだ。

 

「装備の申請って……。ああ、あれか」

 

 ノナが毒沼探索のために申請をしていた物か。この見た目で毒や酸への強い耐性が付与されている。

 他にもいくつもエンチャントがされており、さらに服を着た人間にも効果が適用されるようで、強力な装備であることはすぐに分かった。

 

「これ、昔もらったんだけど、サイズが合わなくてさー……。代わりに着てもらえばいいかなって」

「ああ……」

 

 みっちゃんは小柄な女の子にしか見えないからね……。後々成長した後に着てもらおうと思ったのだろう。

 残念ながらみっちゃんは成長しないので、大きく作っても意味は無いのだ。

 しかし、確かにノナぐらいの背丈ならぴったり合いそうだ。ある程度はサイズを調整できるようだし、このエンチャントなら私がいじっても大丈夫だろう。

 

「後これ。イケメン写真集」

「何これ」

「カメラで撮ったのを印刷してもらったんだー。ほらここ。この筋肉が……」

 

 やばい。みっちゃんのイケメン談義が始まってしまった。というか、あれ印刷できるんだ。

 でも、こうなると長いんだよな……。私は別にそこまでイケメンには興味無いんだよな……。

 友達だし、一応聞くけど……。

 

「ここ! この段差! こう、ここでくいっとなって、ここはなだらかな感じとか!」

「うん」

 

 みっちゃんとの会話は続き……。

 

「このねぇ、硬そうなんだけどラインは曲線なところが……!」

「うん」

 

 更に続き……。

 

「やっぱり美少年は肋骨ちょっと出てるぐらい華奢だと儚いって言うか……」

「分かる。健康的ではあって欲しいんだけど、ある程度は細い方がかわいいよね。ちゃんと男の子らしく肩幅とか違うんだけど、パッと見は女の子っぽいとそそるものがあってぇ……」

 

 夜通し続いた……。

 そして朝。

 

「ライラさーん、おはようございまーす……」

「おはようございます、ノナさん。朝食は作ってありますので、召し上がってください」

「あれ……? ライラさんはどうするんですか?」

「……彼女を送って行かなくてはなりませんので」

「大丈夫、ですか? 一晩中起きてましたよね? それに、道中は危険かも……」

「大丈夫ですよ」

「……聖騎士様もいますし、大丈夫、ですよね。でも、危なくなったら逃げてくださいね?」

「はい。では、行ってきますね」

 

 ノナと離れるのは非常に残念だが、私はみっちゃんを送っていかなくてはならない。

 唐突に憤怒あたりがやってきたら、あの聖騎士にはどうしようもできないだろう。

 その時、私が近くに居たのに何もしなければどうなるか。

 そうだね。埋められるね。

 ということで、早速みっちゃんの護衛をすることになったのだ。あの聖騎士も、みっちゃんがいるならそちらに掛かり切りになるだろう。

 

「ああそうだ。ノナさん、これを」

「この服は……?」

「申請されていた装備だそうです」

「これが……?」

 

 それを渡すとノナは首を傾げた。

 見た目はただの装飾のされたワンピースなので、到底防具には見えないだろう。

 

「ええっと……」

「これでもエンチャントがされているので、毒や酸にも耐えられるはずですよ」

「そうなんですか? 分かりました……」

「それと、少し失礼。眩しいですよ」

「えっ?」

 

 パシャ、とノナの写真を撮る。

 なるほど、こうやって使うと良いのか。カメラの画面には小さくノナが写っている。

 これを見てノナとの思い出を思い出すのも良いかもしれないし、そのうち印刷してみても良さそうだ。

 

「い、今のは一体……?」

「秘密です。それでは」

 

 みっちゃんとの待ち合わせ場所へ行くと、そこには聖騎士とユニコーンも居た。

 どうやら聖騎士はアレに乗ってきたらしい。みっちゃんは徒歩だったが。

 ところで、ユニコーンは基本的には清らかな乙女なら乗ることができるとか言うが、メスならイケメンも割と乗せる。

 というか、メスは清らかならば乙女でなくとも乗せるので、そちらの方が人気が高い。キレると手がつけられないが。

 なお、悪魔は嫌いなので私が乗ると暴れる。清らかな乙女だろ。

 

「ではライラ、行きましょうか」

「……うん」

 

 ああ、ノナ。しばらく一緒に居られないね……。

 寂しいなあ、と思いつつもみっちゃんを放置するわけにはいかない。

 なるべく早く帰ってくるからね、と教会の方を見て私はノナを思い浮かべるのだった。

 ……そういえば、アグロのやつは今頃どうなっているんだろうか。まだ絞ってんのかな……。

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