超絶選り好み最強奥手サキュバス   作:麦村

2 / 19
あとその辺の淫魔ライエントゥーラ

 あんまり長くノナの生活について語っているといつまで経っても今の話に辿り着かない。ここからは巻で行く。

 数年間、神学校で訓練を積んだノナはついに師匠の老シスター(男)に認められ、退魔シスターとしての推薦を受けた。

 そして聖都で試験を受け、見事に合格。退魔シスター見習いになったのだった。

 それからまた訓練を積むことになった。正直、この辺りでいつもは細マッチョのイケメンへの道を歩み始めるのだが……。

 

 ノナはそうならなかった。いつまでたってもちっちゃくてかわいい少年のままである。感動した。

 声も少年らしいが高いままだったし、顔立ちも女の子っぽいそれである。激しい訓練を積んでいるが、筋肉もさほど付いていない。代わりに魔力はモリモリ増えているが、そこは大歓迎である。

 性格も純朴な感じでベリーグッド。ノナこそが私の理想の男の娘シスターかもしれない。そう思い始めた矢先にエトロの地への赴任の話が出てきた。

 ノナの初仕事である。これは私が下調べをしておかなければ、と任務が出る前に現地へと向かった。その教会には若い女のシスターがいた。

 許せなかった。人間の女とかわいいノナと二人っきりとなれば、ノナのあれやこれやが危ない可能性がある。それよりも私と危ない関係性になってほしい。でも人間の女とは良くない。

 そんなわけで上層部に暗示を掛け、そのシスターを別の教会へ移動させた。そして、なんとか私を新しいシスターだと認めさせ、代わりのシスターとして派遣されてきたのだった。終わり。

 

 ……ではなく。エトロの教会は酷かった。ボロっちい。こんなのでは私とノナの愛の巣には相応しくない。いや、愛の巣は教会よりも一軒家の方がずっと良いが、しばらくはここで過ごすのだ。ノナの派遣までは一週間ほどしか無いが、その間になるべくまともにしてやろう、とひたすら中の掃除や改修を行っていたのだった。

 掃除をしていると一週間はすぐだった。いや、本当は一週間よりも短かった。私の中のノナセンサーが張り切って早く来てしまうノナを捉えていた。

 大っぴらに魔法を使うと近くの住民に怪しまれるから、と手作業に留めていたせいで中しか綺麗にならなかった。

 それを誤魔化すようにほうきを持って中の掃き掃除をしているような動作をする。今更外の掃除を始めるよりはずっと良いだろう。もう夕方だし。

 

「失礼しまーす……」

 

 ウワーッ!! 生のノナだ!! 息してる!! そりゃ生きてるもんな……。私を認識している!! そりゃ見えてるもんな……。

 まあまあ。ここは平静を保つべきだ。決してノナに変な女だとは思わせてはならない。

 今からノナを裸にひん剥いて致すこともできるが、そういうのは良くないと思う。

 やっぱり私はそうやって肉体的な快楽に耽るよりも、こう……恋愛的にお互いの気持ちが通じ合った瞬間が一番気持ちがいいと思うのである。なったことないけど。でも正直恋愛小説でも両想いになった瞬間が一番気持ちいいからな……。

 そんなわけで思考のために時を止めようと思ったが、そういえば睡眠学習で時止めの対処魔法も教えてしまったな、と咄嗟に止めることにした。

 ならば、なんかこう、良い感じに頑張るしかないのである。一応軽く頭を触ってちゃんと角が隠れているか、耳が人間らしい丸い耳になっているかを確かめる。よし。大丈夫だな。

 

「あら……」

 

 あらってなんだよ。おい。お淑やかなお嬢様か? 私はそういう性格じゃないだろ。

 淫魔にしては貞淑な方、と言えば聞こえは良いが、魔界だと淫魔のツラした戦闘悪魔呼ばわりされてるんだぞ。しかも親とかいないし。お嬢様から一番かけ離れた存在だろ……。

 ええい。とにかく第一声がこうなっちゃったからにはしょうがない。なんとかそれっぽくしなければ。

 

「あなたが……ノナさん、ですね?」

 

 それぐらい分かっとるわい。ドッペルゲンガーなんかがノナの真似しても一瞬で分かるわ。こちとら魔神様の大罪神官やぞ。淫魔のくせして傲慢と虚栄の称号もらってんだぞ。納得してないが。あんまり魔神様には文句言えないけど。こんなに謙虚なのに! 虚栄心なんて淫魔の中でも低レベルなのに!

 いや待て。最初は自己紹介だ。

 

「私はライラ。よろしくお願いします」

「あっ、こ、こちらこそ、よろしくお願いします!」

 

 慌てるノナはかわいい。思わずいつもみたいな笑顔になりかけるのを微笑む程度に抑える。

 ひとまず、悪くは思われていなさそうだ。ここは最初の印象のままに、お淑やかそうなシスターとして振る舞い、徐々に素を見せていくようにしよう。それが良い。

 

「まず荷物を置かなければなりませんね……。部屋に案内します」

「はい!」

 

 さっとノナを案内したのは二人部屋である。当然、私と相部屋だ。他の部屋は適当に埋めておいた。倉庫も埋めたし、馬小屋も解体した。これでノナは私と同じ部屋で寝泊まりをしなければならないのである。完璧な作戦だ。

 

「わあ! 二段ベッドですか! 僕、初めて見ました!」

「そうですか? さほど珍しい物でも無いと思いますが……」

 

 二段ベッドではしゃぐノナはかわいいねえ……。しかしこれは私と同じベッドで寝起きをしなくてはならないということだ。

 

「では、どちらが上を使いますか?」

「どちら……? あの、ライラさんもこのベッドを使うんですか?」

「はい」

 

 ノナに名前を呼ばれてしまった。フルネームじゃないけど嬉しい。悪魔だけど昇天しそう。しないけど。

 ところで、堕天使の逆は昇悪魔なのだろうか。それなら昇悪魔になっちゃう。

 

「その……僕は男なのですが」

 

 知ってる。知っているからこそ狙っているのだ。

 ここは他の部屋は寝られる部屋ではない、と言ってもいいが、そうなるとノナは礼拝堂で眠りそうだ。

 

「……これから同じ教会で働くのですから、寝食を共にすることで仲を深められる。そう思いませんか?」

「そう、ですか……?」

「はい」

「……」

 

 ノナはまだ納得していなさそうだったが、ゴリ押した。せっかくの合法的な同棲生活なのだから、なるべく近い場所に居たいというのは当然の心理だろう。

 その辺の人間ならともかく、こちとら淫魔だ。その辺の匙加減……というかノナがそれほど私を警戒していないのは分かる。これぐらいは許されるだろう。なんだこいつ気持ち悪っ、と思われていたら適当な部屋を空けるつもりだった。大丈夫そうだが。

 それから部屋の隅の方に荷物を置くことを促し、そのまま教会の案内をする。

 この教会は居住区画と礼拝堂が一緒になったものだ。全体的にボロいが、中だけは綺麗にしておいたので問題は無い。

 

「……そろそろ食事時ですね。用意するのでノナさんはテーブルで待っていてください」

「あ、僕も手伝います」

「長旅で疲れているでしょう。今日はゆっくり休んでください」

「……分かりました」

 

 長年、花嫁修行は欠かさなかったので、料理は当然できる。ノナの胃袋を掴んで、二度と私の料理以外食べられないようにしてやろう。

 こんなこともあろうかと、既に下ごしらえは済んでいる。あとは焼いたり温めたりするだけだ。十分程度で料理は終わる。

 

「できましたよ」

「は、早いですね……。それにお肉ですか……」

「ノナさんがこの教会に来た歓迎に、と思いまして」

 

 ノナ。いっぱい食べな。そういう気持ちを込めて大きめの肉をよそっておいた。

 それを見たノナは遠慮しているようで、ちらちらとこちらを見てくる。

 

「あの……これ、本当に僕が食べていいんですか?」

「ノナさんは男の子でしょう? たくさん食べてください」

「で、ではありがたく……」

 

 食前の祈りをノナに合わせて済ませ、早速食事を始める。

 軽く焼いたパン、温めた作り置きの野菜のスープ。それに塩で味付けしたちょっとだけ分厚いお肉。

 我が事ながら、中々悪くない。ノナも突然豪勢な食事を出されるよりは受け入れやすいだろう。

 こうして少しずつノナの胃袋を掌握する計画だ。

 

「わあ……」

 

 静かにノナが肉にナイフを入れる。透明な肉汁がじわりと滲み出す。焼き加減も完璧だな……。

 今までは冷めた薄い肉ばかり食べていたようなので、これは初めてだろう。私がノナの初めての女になる第一歩だ。ありとあらゆる初めてを私にしてやろう。

 

「ん〜……」

 

 随分と美味しそうに食べるものである。かわいい。もっとそういう顔を見せて欲しい。

 それからノナはあっという間に食べ終わってしまった。どうやら口に合ったようで一安心である。

 

「ふぅ……。ライラさん、とても美味しかったです」

「ありがとうございます」

「その……次は僕が作りますよ」

 

 ノナの手料理!? ……ノナの手料理ぃ!?

 本気でおっしゃってます? そんなものを私が食べていいんですか? 本当に? ノナと同じ食物を胃に入れているだけでも幸せなのに?

 毎日作って欲しい。あるだけ全部食べるから。

 

「……そうですか。では、次はノナさんにお願いしますね」

「はい」

 

 いやあ楽しみだなあ。ノナの手料理。今からワクワクしすぎて心臓が不整脈を刻んでいる。

 一体何を作るのだろうか。学校にいた頃に学んだ料理だろうが、どれになるのか、非常に興味深い。

 

「お風呂を沸かしてきますので、ノナさんが先に入ってください」

「そんな。……わざわざありがとうございます」

「いえ。毎日沸かしていますので、大した手間でもありませんよ」

 

 私は不潔な人間が許せないのだ。そのために数百年を掛けて風呂を世界中に広めたぐらいには。色々と風呂を沸かすのに便利な道具を作っては設置してを繰り返したおかげで、今ではド田舎でも風呂があるのだ。

 ところで、ノナが入った後の風呂にはやっぱりノナの出汁が出ていると思う。このノナの出汁に入ったら、それは実質ノナに包まれているということではないだろうか。

 やばいな。興奮して眠れなくなりそうだ。大人しく風呂の湯を変えておこう。ノナと同じ湯に入ったら、多分私は爆発四散する。

 

「ライラさん。上がりましたよー」

 

 う、うわっ。風呂上がりの寝巻きのノナが歩いている……。ほかほかしている……。髪も肌もしっとりしている……。石鹸のいい匂いがする……。良いシャンプー置いといて良かった……。服は緩めの地味なチュニックとズボンだが、それがむしろノナの少女性を引き出しているというかぁ……。

 よし。大人しくノナと同じ匂いになりに行くか、と入浴。ノナはこの石鹸やシャンプーは備品だと思ったようだ。私の持ち込んだ品だが。

 適度に暖まったところで至って普通の寝巻きに着替える。こんなド田舎にスケスケのネグリジェを着ているシスターがいるわけが無いし、初日からそういう服を着ても「なんだこの痴女……」としかならないだろう。ああいうのはもっと心の距離を詰めてからの方がいい。

 そんなところでさーっと高級ドライヤーで髪を乾かす。魔石消費がバカにならないところ以外は良いやつだ。改造しているので、普通よりは燃費が良いはずなのだが。よし、完璧なさらつやヘアーだ。

 ダイニングの方ではノナがホットミルクを飲んでいた。ふんわりとした髪がつやつやと輝いている。か、完璧すぎる髪だ……。触りたい。多分それだけで一日中楽しめる。

 

「ノナさん。そろそろ寝ましょうか」

「そうですね……。もう夜ですからね」

 

 夜の祈りの後に照明を消し、寝室へ向かう。昔のオイルやら個人の魔法で灯りを確保していた時代に比べて、随分と進歩したものである。人間のこういうところは結構好きだ。

 

「ノナさんは下でよろしかったですか?」

「はい。その……降りる時に踏んだりしたら大変ですからね」

「そうですか」

 

 ノナにならちょっとぐらい踏まれても許せるが、本人がこう言っているのでそれに従うのみである。

 それにしても、ノナはせっかくかわいいのに地味な寝巻きなのが残念だ。もちろん、これはこれでノナの可憐さが際立つというものであるが、是非ともかわいい寝巻きも着て欲しい。

 しかし、ここで女性物を渡しては「なんだこの変態女……」となることだろう。できれば男女どちらでも通用するようなデザインでなければ……。フリルとか付いてるとかわいいよね。

 

「ライラさん、おやすみなさい」

「はい。おやすみなさい」

 

 真っ暗闇でも悪魔ならばはっきりと何があるのかが見える。しかし、今は瞳を閉じて音に集中する。

 

「すぅ……。んん……」

 

 う、ウワーっ!! ノナが私の真下で寝てる!! えっ。これから私、ノナと一緒のベッドで寝ていいんですか!?

 ノナもノナである。出会ったばかりの私を信頼してこんなにぐっすりと眠ってしまうとは。私が悪い淫魔だったらとっくに食い散らかされていただろう。純愛派で助かったな……。

 さて。いつもならノナの寝顔を朝まで鑑賞するところだが、今日はなんとノナと一緒に寝ることができる。これは素晴らしいことだ。しっかりとこの部屋に同族やら変な呪いやらが侵入しないように結界を張り直す。これでよし。

 じゃあ、ノナとこの世の色々に感謝しておやすみなさい……。入眠。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。