超絶選り好み最強奥手サキュバス   作:麦村

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ついでにアグロッペヌヂョルもいるよ。

 まず初手はこれだ。

 

「フェイスオープンッ!!」

 

 ガッと兜の前の部分を掴んで上げる。これで魅了を発動すると大体の種族に効く。そこで動きが止まったところを殴るというわけだ。

 

「怖っ! 悪鬼か!?」

「私のイケメンフェイスになんてことを!」

「逆に顔が良い方が怖いって!!」

 

 ドラゴンなんかにはすごい好評なのに。老若男女問わず。

 残念ながら口論で時間を使ってしまったが、やつは所詮ただの淫魔。私の暴力には勝てまい。

 

「無言で殴りかかってくるなっ! 怖いでしょうが!」

「なぜ避ける!」

「あんたキレてると動きが単純だから避けやすいのよ!」

「何?」

 

 なるほど。今まで全然言われたことがなかったが、そうらしい。

 確かに、私がキレるのは基本同族相手だし、あいつらはちょっと殴っただけで死ぬ。口を利けなくなった状態ではその弱点を知ることができないのも納得できる。

 なので反省して冷静に殺すことにした。今までは単純に殴ろうとしていただけだが、次は武器を使おう。やっぱりリーチがあった方が良い。

 ということでいつものハルバードを取り出す。万の悪魔の血を吸ったこいつに不可能は無い。

 

「アッアッアッ! 死ぬ死ぬ死ぬぅ!!」

「てめぇ、避けるな!」

「い、生きてる!? 私、生きてるぅ!?」

「チィッ!!」

 

 む。待てよ。教会の分体の方にノナが近づいてきている。こんなやつに拘っている暇はない。ここはあちらに意識を集中させて様子を見るべきだ。

 

 ◆◆◆

 

 ノナが村の近くまでやってくると、にわかに騒がしくなった。村で何かが起こっているらしいな、と地面を強く蹴ってそちらへ向かう。

 そこでは村の若い衆が数体の魔物と戦っていた。何名かは負傷し、後方でライラによる治療を受けている。

 とはいえ、魔物はそこまで強くはないし、数も少ない。ノナが加勢するとすぐに戦いは終わった。

 

「ライラさん! 大丈夫ですか?」

「え」

 

 あとは状況をライラに聞こう、とノナは彼女の元に向かった。

 どうやら魔物避けが機能していないようだし、あれは教会の管轄のはずだ。管理しているのは彼女だろう。

 近づくと同時にその手を握ると、ライラが一瞬不自然に固まる。しかしすぐに柔和な笑みを見せた。ひとまず、目立った負傷は無い。魔法で治療をしていたらしく、見た目には清潔なままだ。

 

「はい。大丈夫です。私は治療や支援に専念していましたので」

「良かった……」

「……」

 

 ライラは意外そうに目をぱちぱちと瞬かせていた。もしかすると、調査をしていた自分がここまで急いで駆けつけてくるとは思わなかったのだろうか。

 冷静そうに見えていたが、もしかすると先ほどまでは戦いで怯えていたのか? ああやって固まったのも、突然話しかけたせいかもしれない。そう思えば、少し手が震えているようにも思える。

 ノナは安心させるために勤めて笑顔を維持してライラに語りかけた。

 

「大丈夫ですよ。ライラさん。僕がこの村を守るので!」

 

 ◆◆◆

 

「あんた今、分体に戻ったわよね!?」

「うるさい! ノナが私の手ぇ握ってんだ! 感触を楽しまない方が無礼だろ!!」

「キモッ」

「の、ノナ……。あ、やばい。手が震える。ノナにお触りしてるせいで全身が痙攣する……」

「……なんか分体がものすごい震えてるんだけど」

「ノナ!? 良いんですか!? そんな! 守ってもらっちゃって!?」

「あんた、魔界じゃ最強の淫魔でしょ……」

「あ、やばい。変な声出そう。おひょー……。ぬへへへへ……。ふぇへへへ……。ふへっぬへへ……。おびょーびょびょびょ……」

「なんで突然スライムになんのよ!?」

「あんたにも分かりやすいように視覚的に喜びを表現してあげようと思って」

「分かんない……」

「純愛派じゃないから感性が鈍いんだぞ」

 

 ◆◆◆

 

「それにしてもなぜ魔物が……」

 

 退魔シスターならばこれぐらいの魔物は造作も無い。

 しかし、運が悪いのか、まさか自分が村を出ている間に襲撃されるとは。

 もしかすると、先ほどの淫魔が関係しているのだろうか。

 

「……ノナさん。どうやら急いで帰ってきたようですが、何かがあったのですか?」

「……実は」

 

 ノナはライラに道中の出来事を語った。毒沼からの帰り道で女淫魔に出会ったこと、竜人らしい全身鎧の男が足止めをしていたこと。

 なぜか男が竜人ではないか、と告げると妙にライラの表情が引き攣っていたのだが、何か理由があるのだろうか。竜人が苦手だとか。

 

「……淫魔は強力な暗示能力を持っていますものね。魔物を操ることも可能でしょう」

「僕もそのように考えています」

「となると……」

 

 不意にライラがノナがやってきた方を見つめた。きっと、そちらにはまだあの二人がいるのだと思う。戻って状況を確認するべきか。それとも……。

 

「……ノナさん、お疲れ様でした。また魔物がやってくるかもしれないので、しばらくは教会で待機してもらえますか?」

「……はい」

 

 そうだ。あれ以上強大な魔物が来たらどうするのだ。それに、あの男も操られて襲撃してくるかもしれない。

 あの淫魔の目的は不明だが、きっとこの村を狙っている。

 となれば、しばらくはここを離れるわけにはいかない。外に出て魔物を間引くよりも、この村を守る方がずっと大事だ。

 

「では、僕は教会でこのサンプルを解析しようと思います」

「本当は休んでほしいのですが……お仕事ですものね。根を詰めすぎないように気をつけてください」

「はい」

「ああ、教会に焼き菓子がありますから、お腹が空いたら摘んでください」

「はい」

 

 ノナは村の周りを少し歩いて周囲に異変が無いことを確かめると、教会に戻ってサンプルの解析を始めるのだった。

 そして、途中でライラの作ったクッキーを摘んだノナは、はちみつの自然な甘みに頬を緩ませた。

 

 ◆◆◆

 

「……」

「え? 何? 突然止まって……」

「ノナ……。私のどこが竜人に見えたんだ……。せめて普通の悪魔と勘違いしてくれ……。淫魔だけど……」

「あー。人間は魔力で見分けるから……。あんた、普段魔力隠してるし……。確かに見た目はそう見えるけど……」

「見えるわけないだろ!?」

「あんた昔ドラゴンに混じって闘技大会出てたでしょ」

「バレて出禁になった。楽しかったのになあ」

 

 ……ふと思う。どうせこいつを殺したところで魔神様が生き返らせてしまうのだ。

 流石の私も魔神様相手に文句はあんまり言えない。

 あれ、そういえば魔神様、大罪神官同士での殺し合いはダメだとか言ってたな……。思い出してしまった。

 

「……ライエントゥーラ?」

「……ふむ」

 

 こいつは殺せない。でも放っておくと私のノナに淫蠱毒(恐ろしい儀式だ!)をしてしまうかもしれない。

 そういえばこの前みっちゃんから新しい魔法を教えてもらったんだった。あれを使ってみるか、と私は目の前にいる奴の肩に腕を回して拘束した。

 

「なにこれ」

「逃げると悲惨なことになるぞ」

「えっ」

 

 ついでに腰にも腕を回し、脚と尻尾も胴体に絡める。よし、これで逃げられないな、という状況で魔法を使う。

 

「封印」

「は? えっ、今なんて言った!? うぁああああ!?」

「ついでに隷属」

「ついでぇ!?」

 

 みるみるうちに忌々しいあいつが小さくなっていく。最終的に手のひらより少し大きいぐらいのサイズのよくわからん黒い生き物になった。

 

「これでよし」

「ななな、何がぁ!? 私の……私の美貌がっ!!」

「私とノナがゴールインできたら戻してやる」

「そんなの……。そんなの……思ったよりは不可能じゃないわね」

「不可能なわけがあるもんか」

「……そーですね」

 

 なんかトカゲみたいな割には翼付いてるし、なんとなく鳥っぽいようななんか変な生き物である。

 力は封印しているので、これで適当に私の目の付くところに置いておけば一安心だ。

 

「よーし帰るぞー。あ、ノナに色目使ったら滅するから」

「……それっていつも通りじゃない?」

 

 ◆◆◆

 

「あれ、ライラさん、それは……?」

「ノナさん、おはようございます」

 

 サンプルを解析した翌日。

 ノナが食堂へ出て行くと、ライラが鳥籠のような何かにパンをちぎって入れていた。

 どうやら中にはトカゲと鳥を合わせたような黒い生き物がいるようで、それを世話しているようだ。

 はて。昨日までは居なかったはずなのだが、とノナは首を傾げる。

 

「これはアグロッペヌヂョルです。見ての通り、アグロッペヌヂョルですよ」

「あぐろぺぬーどる?」

「アグロッペヌヂョルです」

「はぁ」

 

 変な名前の生き物なんだなあ、とノナがアグロッペヌヂョルを見つめると、アグロ(以下略)は抗議でもするかのようにライラの指を噛んでいた。

 

「あっ、ライラさん。大丈夫ですか?」

「え? ……」

 

 ライラはまるで今の今まで痛みに気がついていなかったかのように指先を見つめ、それから固まった。

 そしてノナが気が付かない一瞬の内にアグロの顎を外し、強引に戻し、もう二度とこんなことができないようにと親指と人差し指で頭を上下から押さえた。

 

『おい、わざわざ私が手ずからノナのためのパンを食わせてやってんだから反抗するなよ』

『アグロッペヌヂョルって何よ。あんたのセンスって壊滅的ね』

『わざと変な名前を付けただけだ。普段はこんな名前は付けん』

『こんな女じゃ、今の私の方が選ばれちゃうかもねぇ?』

『……魔神様。ああ魔神様。こいつ殺せないなんてないよ』

 

 あとこっそり念話でこんな会話もしていた。

 そう、アグロッペヌヂョルの正体はノナの前に出てきたあの淫魔なのである。ライエントゥーラに力を封印された後、監視のために教会で飼われることになったのだった。

 

「ふふ……大丈夫です」

「毒とかありませんよね……?」

「アグロッペヌヂョルに毒はありませんよ」

「なら良かった」

 

 まあ害は無さそうだし、自分も餌をあげてみよう、とパンを持って行くと、なぜかライラが鳥籠を持ち上げてノナから遠ざけた。

 

「あの、ライラさん?」

「アグロッペヌヂョルは女性以外から餌を恵まれると憤死します」

「そんな生き物いるんですか!?」

「ここに」

 

 にわかには信じられなかったが、あまりにもライラが堂々としているので、そんなこともあるのか、とノナは受け入れた。

 ライエントゥーラは「なんかゴリ押したら信じちゃったな……」などと思っていた。

 

「では朝食にしましょうか」

「はい」

 

 朝食を食べながらノナはライラに解析結果を伝えた。

 毒沼自体に魔力が大量に含まれること。土壌から魔力を吸ったと考えられること。沼には物を溶かす作用があるが、その際に噴出する煙には害は無いこと。

 これは普通の沼ではありえないので、むしろあの沼全体が巨大なスライムなのではないか、ということをノナは語った。

 

「あら。となるとアレは……」

 

 朝食後、ライラは古い日記を持ってきた。昔、この辺りを訪れた旅人の書いた物らしく、100年は前の物だと言っていた。よく保管されていたものだ。

 

「この日記にはあの辺りはピュアスライムの群生地だったと記されています。スケッチもこの通り」

「ピュアスライムは変化しやすいですからね……」

 

 毒草でも生えたのか、それとも旅の魔法使いでもやってきて何かをしたのか。

 なんにせよ、元々はあのような土地ではなかったらしい。

 

「お恥ずかしながら僕の実力ではまだ安定して駆除をすることはできないでしょう」

「そうなのですか?」

「はい……。しかし、毒沼に住んでいる魔物が好む物はこの辺りには無いようですし、村との距離も開いています。今すぐに魔物がやってくることは無いでしょう、なので、本部に装備を要請し、その間、他の場所も調べようと思います」

「そうですか……」

 

 ところで。毒から身を守る装備で最も手軽な物は全身を覆う形をしている。費用対効果から、聖刻教会ではこの装備にエンチャントをしたものが貸し出されている。

 これは機能を重視しているため、端的に言えばダサい。いや、ダサいとかダサくないとかではなく、全身を覆うので何も見えない。なんかもっさりした分厚い服である。

 

(……無しだな)

 

 ライエントゥーラ的にはノナのかわいい表情も何も全く見えなくなるので、いくら安全のためとは言え、その装備を着せるわけにはいかなかった。

 となれば、他の装備だろう。もっと貴重な装備ならノナの顔もばっちり見える。今度みっちゃんに相談しておこう……。

 

 ライラがそんなことを考えているとは露とも知らず、ノナはここしばらくの計画を話していた。

 

「今日からしばらくは北東の森の調査を行おうと思います。どうやらここから小さな獣がやってきて、畑を荒らしているようなので」

「もしかすると、村の方からそういうふうに聞きましたか?」

「はい。昨日、小耳に挟んで。それに、あの淫魔がまた村への襲撃を企てているかもしれません。なるべく近くに居た方が良いでしょう」

「そうですか。では頑張ってきてくださいね。お昼には帰ってきますか?」

「はい」

「ならば、昼食も用意しておきます。美味しいうちに帰ってきてくださいね」

「はい!」

 

 ノナは「ライラさんのご飯楽しみだなー」などと考えながら教会を発った。

 まさか、昨日遭遇した淫魔と謎の男。その両方が姿を変え、拠点となる教会に居るとは全く想像もせずに……。

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