超絶選り好み最強奥手サキュバス   作:麦村

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一件落着マッチポンプ

『く、首。首絞まってるって……。ぐえー……』

「……」

 

 私はアグロッペヌヂョルを掴みながら触手と戦うノナのことを上空から見守っていた。

 ノナには怪我はしてほしくない。だが、成長には痛みが必要だ。

 私はノナを安全に、そして急速に成長させたい。

 美容触手は見たところ、治らない怪我はさせない魔物だろう。

 ならば、ノナにとって良い障害となる。ちょっとぐらいなら食べられても治せるし。

 

 そういうわけで、私は触手と戦うノナを見守っていた。

 前回はちょっと魔物を誘導して村を襲わせたが、今回は何もしていない。

 触手が空腹のあまり、餌付けをしていたアグロッペヌヂョルの魔力、もとい淫魔の魔力を求めて来たのだろう。

 つまり、触手が勝手に村を襲っているのである。

 ここの村人は案外パワフルなようで、自衛ぐらいはできるようだ。逃げ足も早いし。

 今までどうやってこの地で生き残ってきたのかの理由が分かった気がする。

 

 まあ、つまりは私はしばらくはノナに戦闘経験を積ませることにしたわけだ。

 流石にあれが全部来たら一人での対処はできないだろうし、そうやってピンチになったところを助けに入る、というわけである。

 そして、その後にアグロッペヌヂョルを黒幕っぽく登場させ、ノナに倒させる。

 そうすることで、淫魔が襲ってくるかも、などという不安を解消できるわけである。

 完璧な作戦だ……。

 

 自画自賛しながらノナを見守っていると、ついに触手がノナに取り付いた。

 どうやら、私の作ったあのお守りに触れようとしているらしい。多分、アグロのやつは魔力を直接食わせていたのだろう。

 でも服の下にあるし安心だな、と様子を見ていると、なんと触手がノナの服のボタンを外したではないか。

 

『はぁ!? おい、アグロッペヌヂョル! なんだあの触手は!』

『あー。粘液塗る時に服脱ぐの面倒くさいから、脱がせられるように仕込んでおいたのよね』

『服ぐらい自分で脱げ! お嬢様じゃないんだから!』

『別に良いでしょ』

『あわわ……。の、ノナ……』

 

 このままではノナがあられもない姿になってしまう! できれば私がこの手で脱がしたかったが、悪くない。悪くないぞ。

 ごくり、と唾を飲み込み、ノナを凝視していると、突然シスター服を脱ぎ捨てたではないか。

 なんと冷静な判断力だろうか。流石ノナである。

 

『よし、よし。いいぞ。負けるなー、ノナ……』

『……』

 

 薄着になったノナ。いつもは見られない鎖骨が良く見える。

 それに、上半身は服に触手の粘液が染み込んでいるせいで、うっすらと素肌が透けているではないか。

 さらに、肌着がぴったりとくっつき、身体のラインが浮き出ている。

 なんと素晴らしい造形だろうか。流石ノナである。

 

『うへへ……。お胸がぺったんこでかわいいねえ……。撫で回したい』

『あっそ……』

『なんだよ、アグロッペヌヂョル。あんた興味無いのか』

『いや、そんなこと言うぐらいだったらさっさと食いなさいよ』

『は? 恋愛はそこに至るまでが一番味がするんじゃないか……』

『えぇ……』

 

 私は恋愛という過程を経て結婚がしたいのであって、精気が欲しいわけではないのだ。

 そりゃ、ノナの精気は素晴らしいものだとは思うが、それよりもイチャイチャしたい。デートとかしたい。

 残念ながらアグロのやつは純愛派ではないので、その辺の理解ができないらしい。寂しいやつだ。

 

『あっ』

『ぬ、ぬおお……。触手のやつめ……。羨ましい……』

 

 しばらく見ていると、触手がノナに群がり始めた。

 そろそろピンチだと言ってもいいだろう。ノナの前に登場する準備を整えなければ。

 

『よし。アグロッペヌヂョル。封印をちょっとだけ解いてやる。だから……』

『あー。分かった分かった。言われた通りやれば良いのよね』

『分かってるじゃないか。さっさと行け』

 

 アグロのやつが人型になれる程度に封印を解く。このぐらいの魔力なら、ノナでも頑張れば倒せるだろう。

 この後、私が触手を一掃し、アグロのやつをまるで触手を操っていたかのように登場させ、ノナが倒す。これで万事解決だ。

 別にこっちの形体が悪魔だとバレてもいいので、淫魔の魔力を解放すれば、触手も勝手に寄ってくるだろう。

 

『……ん?』

 

 もうちょっとか? いやまだか……。などとタイミングを測っていると、足に取り付いた触手がいることに気がついた。

 その触手は当然、あのお守りを目指して移動する。つまり、上側に向かうということだ。

 その結果どうなるか? そう。ノナのスカートの中に入り込むのである。

 

『ゆ、許せん……』

 

 このままではノナのパンツに触手が触れることだろう。それは良くない。

 ノナのパンツに触れて良いのは私だけだ。あの触手は始末しなくては。

 その一心で私は地上へ降下し、触手どもを掃討しに向かう。

 

「あ、あなたは……」

 

 ノナの身体を好き勝手に這い回った触手どもは許せん。ついでにノナのことをどうにかしようとしている触手も許せん。

 なに。いつものように始末するだけだ。

 身を低くし、尻尾でハルバードを掴む。雑魚相手なら魔法が一番効率が良いが、そこまで広範囲となると周りにもダメージが行く。

 となれば、物理だ。蹴散らしてやろう。

 

『ライエントゥーラ。こっちはいつでも良い、けどぉ……。なに? あんたキレてんの?』

『ああ。この触手どもが許せなくてな』

『……そろそろ全滅するんだけど』

『ふん。脆弱な奴らめ。私の大陸の覇者くんならこんなことは無いぞ』

『……そーね』

 

 ともかく、触手が全滅したならば、あとは打ち合わせ通りに行うだけだ。

 二人で演技をして、なんとかノナにあいつを倒させる振りをする。……まあ、アグロのやつはそんじょそこらの退魔シスターがどうこうできる存在ではないので。

 それに、一応協力はしてもらっているのだから、本当に殺すのは今回は見逃してやろう、というわけだ。

 

「あの……ありがとう——」

「待て」

「えっ?」

『よし、アグロッペヌヂョル。出番だ』

『はいはい』

 

 触手の亡骸の向こうにアグロのやつが現れる。

 そして私に魅了を掛けた振りをする。力の差がよっぽどあれば別だが、私にあんな魅了が効くわけが無い。逆に私の魅了はアグロのやつに効くが。

 

「そうね。犬の真似をしなさい」

『は? なんで私が犬の真似をしないといけないんだ?』

『別にそれ以外を命令しても良いんだけど? あんたの愛しの彼の前であんまりみっともない姿を晒すのは避けてあげたってわけ』

『く……』

「……わん」

 

 こいつの犬にはなりたくねぇ……。だが、今は魅了された振りをしなくてはならない。

 渋々。本当に渋々犬の真似をする。

 くそ、なんでこいつの前で犬の真似をしないといけないんだよ。あとでちょっとボコボコにしておこうかな……。

 

「頑張ってください! 負けないで!」

 

 ノナの応援は効くなあ。かわいい。しかも身長差のせいで私の顔を見上げている。かわいすぎる。

 ……ノナの犬にならなってもいいな。そう。私はあくまでノナの犬の振りをするのであって、あいつの犬の振りではない。

 

「そんなんじゃダメよ! もっと本気で!」

「……バウ! グルルルル……」

 

 よし。ここは本気でノナの犬になってやろう。犬ならば主人を守るのは当然のことである。

 ということで、私はアグロのやつに飛び掛かった。

 

「おい待て飛びかかってくるな! ステイ! ステイ!」

『あんた分かってんの!? ねえ!?』

『あー。分かってる分かってる。うん』

 

 いや、これは演技だ。当然、分かっている。

 あとはノナに私が動けないアピールをして、アグロのやつを倒してもらえばいい。

 そんなわけでノナに向かってボディランゲージでアグロのやつを倒すように指示する。

 

「ワンワン! バウ! ギャン!」

「……そうですね。僕がやるしか無いんですね」

「ワン! ワンワン!」

 

 流石ノナだ。ちゃんと分かってくれた。

 いや、私の心とノナの心が通じ合っているのかもしれない……。これは良いことだ。

 

「坊や、私と戦うつもり? 敵うと思ってるの? 生意気……。良いわ。格の違いってもの、理解(わか)らせてあげる!」

「……僕が、この村を守るって言いましたから」

 

 良いぞー。ノナ。カッコいい! アグロのやつなんてやっちまえー。

 などと呑気に応援していると、不意にノナが表情を引き締め、言い放つ。

 

「だから……容赦はしないぞ!」

 

 やばい。ちょっと心臓破裂した。

 今のはノナの凛々しさの過剰供給である。私が受け止めきれなかった。

 やはり、ノナは素晴らしいな、と思いながら私は尻尾を振ったのだった。

 

 ◆◆◆

 

「せやっ!」

「ふん……あいでっ! ちょっ! 危険物を振り回すな!」

 

 容赦はしない、という言葉の通り、ノナは最初から全力を出していた。

 悪魔は人間とは弱点が違う。人型をしているとはいえ、首を落としてもすぐに再生する。

 だが、人型ならば戦い方は人間とそう変わらない。避けにくい場所を攻撃して、肉体を構成する魔力を散らしてやればいい。

 なぜか油断しきっていた女淫魔を小突くと、途端に妙に痛がり、急にノナの攻撃を避け始める。

 どうやら効いているようだ。このまま攻撃し続ければ倒すこともできるだろう。

 

『あーっ! いつもの感覚で受けたら痛いんだけど!?』

『何油断してるんだよ』

『だって、封印されたことないし! うぉっ、あぶなっ!』

 

 力が封印されていない状態であれば、確かにアグロ(以下略)にノナの攻撃は全く効かなかった。

 だが、今はノナでも倒せるほどにアグロは能力を制限されているのだ。

 

『こんなことで倒されるなんて、流石に認められないわね……』

『顔は傷つけるなよー』

『注文するな!』

 

 アグロは一度大きく後方へ飛ぶと、ようやく鞭での攻撃を開始する。

 いくら淫魔が魔界で軽んじられているとは言えども、大罪神官にまでなった淫魔だ。

 当然、幾度となく戦闘は経験している。そんじょそこらの適当な悪魔には負けない。キレていたとはいえ、ライエントゥーラの攻撃を躱すことができる実力者だ。

 それは淫魔としての能力頼りではなく、武器や魔法を扱う技量があるということだ。

 

『なんか全然魔法出ないんだけど!』

『そりゃ、封印してるからな。詠唱しろ』

『えっ、そんなの忘れたんだけど!? えーっと、えーっと……』

「そこっ!」

「痛っ! くぅっ……!」

 

 それはそれとして、力が封印されている自覚が弱かったので、隙だらけだった。

 いつもの感覚で魔法を使おうとすると、なぜかこれが全く出てこない。詠唱だなんて生まれてちょっとの頃にしか使ったことがない。当然、とっくのとうに忘れている。

 そして鞭は強大な悪魔としての力で振るっていたせいで、弱体化した今はそれはもうへにゃへにゃの軌道を描いていた。なので、余裕でノナに避けられていた。

 あくまで、強大な力で振るうための技量があるのであって、最小限の力で効率的に攻撃するような技量は無いのである。悪魔は読み合いなんかよりも、力で押し潰すような戦いを好むので。

 

『……なんか、思ってたよりも弱いな』

『能力と魔法封印して戦える淫魔がゴロゴロいると思うな!』

『……普通は戦えるんじゃないのか?』

『あんたじゃないんだから!』

 

 普通の淫魔は能力と魔法で戦うというのに、そのどちらも制限されている状態で良くやっている方じゃないか? とアグロはちょっとイライラしていた。

 封印のせいか、たかがミスリルで付けられた傷も治らないし。

 なんだかすごくムカついてきた。なんで私がこんなところで男漁りもできずにライエントゥーラのやつに顎で使われているのか。

 というか、弱いってなんだよ。私は未だに経験が無いあんたよりは上に決まってるじゃない。

 アグロはそんな怒りを込めて鞭を振るった。少し前までよりはよっぽどマシな軌道を描いたそれは、簡単にノナの肉を抉った。

 

「……ふん」

「……!」

「段々……分かってきたわ。戦い方ってやつが」

 

 いくら力が封印されていようとも、武器だけは魔界で使っていたものから変わらない。最上位の悪魔が用いる武器なのだから、そんじょそこらの人間では防御は不可能だ。

 徐々にアグロの攻撃が洗練されていき、ノナの身体に傷が増える。

 槍で防御をしようとするも、武器の格が違いすぎる。柄にほんの一撃が当たっただけで、ペきり、といとも簡単に折れてしまった。

 

「折れた……!?」

「武器が無いならこっちのもんよ! あーはっはっは!!」

 

 徐々に気分が乗ってきたアグロは高笑いをしながらノナを甚振った。

 殺すとライエントゥーラがぐちぐちと1年ぐらい耳元で怨嗟の囁きをしてくるに違いない。それは避けたい。

 そんな無意識の手加減が働いてか、人体の弱点と顔には傷が付いていなかった。

 しかし、アグロは未だにライエントゥーラがやめろともなんとも言わない理由が分かっていなかった。妙に過保護で、普段ならノナがちょっと傷つくだけで騒ぐというのに。

 なぜ、ライエントゥーラは何も言わないのか。それはノナが勝機を待っているのだと確信していたからだ。

 

「……」

 

 武器も無い。だが、時を待てば勝てる。そういう確信がノナにはあった。

 実のところ、ノナはほとんど魔力酔いから回復していた。それは、寝ている時だけとはいえ数年間に渡ってライエントゥーラの魔力に晒されていた影響だろう。

 そして、あの淫魔の魔力量はそこまででもない。ある程度魔力を削れば肉体を維持できなくなるだろう。

 鞭での攻撃も少しずつ癖が分かってきた。避けることはできるが、相手の油断を誘うために今はあえて避けない。

 

「ほらほら! そんなんでいいの!? 死んじゃうわよ!」

 

 そうやってノナが耐えてると、「いや、殺すのはライエントゥーラがうるさいな……」とアグロが一瞬手を緩める。

 その隙を突いてノナが駆け出した。攻撃の隙間を縫い、悪魔の元へと辿り着く。

 そして、その腕を掴み、僅かに唇を開いた。

 

「……浄化(ピュリフィケーション)

「は? あだだだだだ!?」

 

 予想通り、痛みに悶えている。隙だらけの今ならば、強力な術も使うことができる。

 ありったけの魔力を込め、この悪魔を祓ってやろう。

 

祓魔(エクソシズム)!」

「あだーっ!!」

『よし、そこで消滅の演技!』

『きゅ、急に言われても!? こなくそっ!!』

 

 悪魔祓いの術を受けた淫魔は粒子のようになって消えていった。自分が消滅するとは全く思っていなかったようで、断末魔は「あだーっ!!」だった。

 

「……終わった?」

「そのようだ」

 

 淫魔の魅了が解けたようで、さっきまで犬の真似をしていた(妙に静かだったが)男が立ち上がった。

 その姿を見て、自分があの淫魔を倒したのだ、と実感が湧いてきた。

 

「……良かった」

 

 これで村を守ることができた。そう思うと、急に体から力が抜け、ノナはその場に座り込んだ。

 何かを守るための戦いというのは初めてで、気が付かないうちに緊張していたようだ。

 しばらく休んでいると、村の方から足音が聞こえてきた。そちらに振り向くと、なんとライラが走ってきているではないか。

 

「ノナさん、大丈夫ですか!?」

「ライラさん……?」

「傷だらけではないですか! 早く手当てをしなくては……」

「あ、えっと……。あ、ありがとうございました!」

 

 ノナはライラに腕を引かれながら、そういえば言えていなかったな、と男に感謝の言葉を述べた。

 それを受けて男は重く頷いた。

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