俺の筋トレノートがどっか行ったけど、それより周囲の俺に対する態度が変in終末世界ソシャゲ   作:レンタン

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1 たとえ世界が終わっても、筋肉は終わらない

 俺が転生した世界はまぁひどい世界で、終末世界を舞台にしたソシャゲの世界だったんだ。

 人類はほぼほぼ滅びかけ、詰んでいる。

 絶望と、悲劇と、それから文明が崩壊する以前には存在しなかった特殊な力がはびこっていて。

 まぁ、希望なんて殆ど存在してない世界だった。

 そんな世界に転生したものだから、娯楽もなければ食料もない、明日の命も望めないというのが前世の記憶を取り戻してすぐの俺だったのだ。

 

 だから筋トレをすることにした。

 

 筋トレはいいぞ。

 まず何より暇を潰せる。

 無心になって体を動かしていれば、空腹も時間も忘れられるのだ。

 それに強くなれる。

 この世界にはあまりにも命の危険が多すぎる、それから身を守るための力が手に入るのだ。

 

 だから俺は筋トレに励んだ。

 毎日決まったセットを、雨の日も、風の日も、休むことなく続けた。

 部屋での筋トレに集中しすぎて、部屋を出たら故郷が滅んでいた時はびびったが。

 

 やがて俺の筋トレは、この世界特有の不思議な力――ファクターと結びつく。

 特異なファクターに目覚めたことで、筋トレをより効率化することに成功したのだ。

 結果としてミュータントと呼ばれる存在になり人扱いされなくなって、故郷が滅んだあとに暮らしていたコミュニティを追われたものの。

 筋トレの方が俺は大事だから、気にすることはなかった。

 

 この世界に生まれ落ちて二十年。

 筋トレを初めて十五年。

 俺はその成果を一冊のノートにまとめてきた。

 といっても、大抵はその日やった筋トレの内容を纏めただけのものだ。

 だからまぁ、失くしても新しいものを使うだけなんだが。

 

 それでもまぁ、失くすとちょっとショックだよな。

 筋トレより優先して探すほどでは、ないんだけどさ。

 

 

 +

 

 

 戦場は筋トレだ。

 正式名称は忘れたパンデミックウィルスにより、人間に限らず様々な生物がモンスターと呼ばれる怪物に変異。

 それらが人類と自然環境を食い荒らし、世界の破滅が秒読みとなった時代。

 俺はそんなウィルスと混沌とした世界に抗う組織、イミュニティに所属してモンスターやヒャッハー共と戦っている。

 そんな戦いは、いつだって俺を鍛えるいい筋トレになるのだ。

 なにせ、経験は実戦の中でしか育まれないからな。

 

 今俺が戦っているのは、名前は忘れたけどクソでかいフンコロガシみたいなモンスターだ。

 クソだけにフンコロガシ……という突如脳裏に湧いたジョークは置いておいて、こいつはなかなか厄介なモンスターである。

 俺は自慢の拳を叩きつけるが、硬い。

 フンコロガシは少したわみながら”あるもの”を吹き出しつつ後退するにとどまった。

 吹き出したのは液体だ。

 これがまた厄介で、触れると人の体を簡単に腐食させ溶かしてしまうのである。

 

 俺は自分のファクターと、鍛え上げた肉体を存分に生かしたいという理由で素手による肉弾戦を好む。

 しかしこのフンコロガシはそんな俺と相性最悪。

 今も飛び散った液体が俺の腕を溶かし、()()()()()()()

 痛みに少しだけ顔をしかめるが、即座に俺はファクターを起動。

 

「せめて、溶かすのは美少女の服だけにしてくれよな」

 

 脳死極まりない思考で吐き出した戯言と共に、傷を即座に再生させる。

 ――ファクターは、言ってしまえば異能力。

 俺の場合は肉体蘇生。

 心臓か脳のどちらかさえ止まっていなければ、肉体を即座に再生させるという代物。

 ただ、強力な力には代償が伴う。

 

『レンドさん! 汚染度がまもなく既定値に到達します! 今すぐ退いてください!』

 

 その時、通信が入ってきた。

 通信の主はイミュニティのオペレーター。

 俺によく連絡を送ってくれる、シェリアちゃんだ。

 シェリアちゃんの言う通り、俺はファクターの使いすぎで汚染度――ウィルスにどれだけ汚染されているかを示す数値――が危険域に到達しつつある。

 しかし、未だフンコロガシは倒せていない。

 

「待ってくれ、今はいいところなんだ」

『駄目です! これ以上はレンドさんの体が持ちません!』

「そう言われても、俺以外に戦えるミュータントがいるのか?」

『そ、それは……』

 

 イミュニティは原作の頃からとんでもないブラック組織だからな、慢性的に人手不足なんだ。

 今から俺のいる場所にたどり着けるミュータントはいないだろう。

 それに、フンコロガシの攻略法は解った。

 こいつは瞬間的に強い衝撃を受けることで、腐食の体液を撒き散らす。

 だったら――

 

「捕まえたぞ!」

 

 俺はフンコロガシと格闘戦をしながら、やつの頭を掴む。

 そのさなかに何度も体液を受けて体のあちこちが解けたりしたが、まだ大丈夫。

 フンコロガシの頭は小さい。

 だから俺が気合を入れて首のあたりを掴めば、掴める。

 要するに、俺はこれから()()()でこのフンコロガシを殺す。

 

『!!!?!!?』

「悪く、思う……なよ!」

 

 俺は鍛錬で身につけた特殊な呼吸で、身体のリミッターを外し規格外の膂力でフンコロガシに圧をかける。

 結果として肉体は悲鳴を上げるが、俺なら再生できるから問題ない。

 そのまま勢いよくフンコロガシの首をへし折り、トドメとばかりに首をもいで――殺した。

 

 

 +

 

 

 イミュニティには、レンド・サイトウと言うミュータントがいる。

 所有するファクターは肉体蘇生。

 死にさえしなければどんな状況でも肉体を即座に再生させる。

 一見強力な能力だが、()()()()()()()()能力でもあった。

 他のミュータントはついでみたいに身体能力を強化したり、大規模な破壊力を有していたりするが、レンドにはそれがない。

 一般的に、レンドはミュータントとしての戦闘力は低いとされる方だ。

 

 しかしそれでも、レンドはイミュニティの優秀なメンバーとして知られている。

 それもこれも、彼の異様なまでのモンスターへの執着が原因だ。

 彼はどれほど怪我を負っても、汚染度が限界に近づいても逃げようとしない。

 絶対にモンスターを倒そうとする。

 彼は故郷をモンスターに滅ぼされた経歴を持つ。

 それを考えれば不自然というほどではない。

 しかしそんな経歴、イミュニティのメンバーとしては平凡とすら言えてしまう。

 これほどまでに彼がモンスターに集中する理由を、イミュニティの人間は知らなかった。

 

 ――これまでは。

 

「……おかえりなさい、レンドさん」

「ああ、ただいまシェリア」

「またあんなに無茶をして……早く除染を行ってください」

「解ってるよ。――ところで」

 

 イミュニティの拠点に戻ってきたレンドを、シェリアは入口で迎え入れる。

 そんなシェリアに、レンドは何気ない様子で問いかけてきた。

 

「なぁ、ノートを見なかったか? 古いノートなんだが」

「あ、えっと……」

 

 ――知っている。

 シェリアはそのノートの存在を、知っている。

 けれども、口をついて出た言葉は――

 

「し、知りません」

「……そっか。いやいいんだ、ありがとう」

「…………ごめんなさい」

「シェリアが謝ることないだろ? じゃあ、除染室に行ってくるよ」

「……はい、では、また」

 

 そうして、レンドは何気ない様子で去っていってしまった。

 あとには、胸元を抑えて顔を伏せるシェリアだけが残される。

 

「う、うう……うううううう!」

 

 そのまま、シェリアはその場に崩れ落ちてしまった。

 ぽろぽろと溢れ出る涙を拭おうとした先から、更に涙が溢れてしまう。

 もしここでレンドが帰ってきてしまったら、そう思ってもなお、涙は止められない。

 知ってしまったからだ。

 

 レンドは、筋トレを趣味にしていた。

 常に筋トレばかりしている筋トレバカで、モンスターへの執着を除けばどちらかといえば天然の入った落ち着いた人物だ。

 この終末世界に、心を病んだものは多い。

 だからレンドはその中で比較的、精神が安定している方だと思われていた。

 

 

 だけど、違った。

 

 

 レンドのノートには、彼がこれまで行ってきた筋トレの内容が書かれていた。

 最初は簡単なものから始まって、少しずつ負荷を増やしていくごくありふれたもの。

 だが、異常だったのはその筋トレを一日として欠かしたことがないことだ。

 

 

 故郷が滅びた時でさえ、ミュータントに覚醒しコミュニティを追い出された時でさえ、彼は筋トレを欠かしたことがない。

 

 

 すくなくとも、記録上彼の故郷が滅びた日も、ノートには筋トレの内容が記されていた。

 それは端的に、彼がすでに壊れてしまったあとなのだということをむざむざと突きつけられているかのようだった。

 こうして今平気にしているのも、モンスターに対して異様な執着を見せるのも。

 彼が人として生きていた頃の反復行動なのではないかと、思ってしまう。

 

 が、実際にはそんなことはなく。

 レンド・サイトウは単なる一般的な筋肉に狂っただけの変人なのだが。

 少なくとも、外部からそれを類推できる要素は、何一つないのであった。

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