それから、しばらく経って。一日の半分が過ぎた。
一日の半分が過ぎたってことは、ご飯を食べる時間ってことだ。おなかすいた。
「ご主人、昼休憩にしよ」
「待ってくれ。ちょうどいい場所がなくてね。できれば、完全な安全地帯か……何かあっても、最低二ヶ所の逃げ道を確保できる場所が欲しい」
「じゃああそこでいいでしょ」
「……ただの横穴だよ?」
「チッチッチ」
ご主人ったら、何もわかってないんだから。こうやって、腰溜めに拳を打て、ばっ!
「ふんぬっ!」
「……」
「開いたよ、穴! もーちょい広げたら休めるだろ?」
「ああ、そうだな……全く、すごい才能だよ」
この体は頑丈なだけじゃない、筋力だってすごいのだ。柔めの岩とか、瓦礫とかなら拳で吹き飛ばせる。
「さ、これでよし! ご飯! ご飯!」
「はいはい。少々お待ちを、お嬢様」
「え、気持ち悪い」
「……」
この二週間で身体強化を覚えたから、さらにそれが強化されることになる。
単純な身体能力なら、ご主人を上回っているらしい。調子乗って模擬戦挑んだらボロクソに負けたけど、魔物相手なら十分以上に通用する。
「ほら、サン。お弁当」
「サンキューご主人!」
お昼ご飯はいつもニィナが持たせてくれる。あの日のやたらと豪勢な夕飯の時知ったけど、ニィナの料理はめちゃくちゃうまい。
「今日の具材は?」
「えぇと、キャベツとタマネギがそれぞれ酢漬け、それと塩漬け肉が入ってるね。炙って入れよう。ソースはいつものやつ」
「ピリ辛でうまいよな、あれ。香りがいい」
さっきご主人が言ってたやつをとうもろこしからできた生地で包むこれは、一般的な弁当。サンドイッチみたいに、片手で作業をしながら食べれるのがメリット。
「相変わらず、サンのはでかいな……」
「成長期だからさ」
で、そのメリットを帳消しにしたのが俺用の弁当。この体、すごく腹が減る。成長期だから前世でもそうだったけど、食ってもずっと「まだ食える」って感じがある。
だからつい食べ過ぎちゃうけど、まあしょうがないよな。
「いただきまーす!」
「はい、いただきます」
ご主人の故郷にも、食事前の挨拶の文化があるらしい。ここからずっと向こうへ行って、海を渡った先にあるんだとか。
まあ、飯がうまいからそれは今いいや。辛くてしょっぱくて、玉ねぎの苦さがいいアクセントだ。おいしい。
「そういえばサン、どうだ? 新しい剣の使い心地は」
「ふぃふぁふぃふぉふふぁふぃふぁふぁ!」
「わかった、僕が悪かった。ごめんな、食べたタイミングで聞いて。ゆっくりでいいから、飲み込んで話そう」
「んっ……! 意外と使いやすかった! 折れないのはいいな!」
「そっか。何より」
ご主人には基本的な装備と、剣を買ってもらった……ん、だけど。剣は扱いが難しくて、薄くて鋭い物だとすぐに壊れてしまう。
なんでも、鋭ければ鋭いほど、そして力が強いほど、刃に真っ直ぐ力をを込めなきゃいけないんだとか。
俺にはそんな器用なことはできません。そんなわけで、俺が買ってもらったのは肉厚の、ほとんど鉄の塊のような剣。これなら俺でも扱える。
「さて、サン。今日の主な目的はマッピング。それと、出現する魔物の確認だ。覚えてるな?」
「もちの論述問題。洞窟だけあって、虫っぽいのとか蛇っぽいのが多いな」
「その通り。彼らは視力が退化しているから、その分熱や音、匂いでこちらを見つけてくる。ってことで、これだ」
「なにこれ?」
ご主人がシュッと吹いたそれは、なんだか臭くって……いやくっさ。
「気休めだよ。ちょっと強めの魔物の匂い。これで弱いモンスターは寄ってこなくなる」
「俺この匂いキラーイ……」
「そう言わずに。これで、無駄な戦いは避けれるよ。それと、靴はこれに履き替えて。音が出にくくなる」
極力戦闘は避ける。それが、この人の基本的なスタイルらしい。
まあ、普通ダンジョンって一人で潜るもんじゃないみたいだもんな……それでも、あの大量の魔物を皆殺しにできるのはすごいけど。
「昼飯を食ったら、マッピングも再開だ。しっかり休んでいくよ」
「りょーかい、ご主人! お水ちょーだい」
「はいはい」
今回こそ、呪いが解けるといいな。
◇
と、そんな意気込みはどこへやら。俺たちは、困惑していた。
「サン、そっち行ったぞ!!」
「わ、わかった!」
襲いかかってくるのは、巨大なトカゲのような魔物。これはドラゴンじゃないらしい。表面には、軽くて頑丈な岩がついている。
「どりゃっ!」
トカゲなら狙うのは足と背中。ご主人はそう言ってた。だから、今回は足を砕いてバランスを崩して……!
「ぬぬぬぬぬぬぬっ……! こん、ちきしょおおおおおっ!!」
そのまま、洞窟の下にぶん投げる!
「よくやった、サン!」
「やったかな?」
「下で水音が聞こえた。かなり時間がかかったから、より地下で落下した証拠だよ」
「ふへぁああ……」
やっと全部倒し終わった……。
「ご主人……敵、多くない……?」
「多いな。普通、こんな一ヶ所に敵は集まらない……それに、こんなふうに連携をとってくるのは異常だ」
「へ……?」
そう言ってご主人が指差した先には、さらに大量の魔物が。
「さっ……先に言えぇっ!?」
「いや、疲れているように見えたから……流石に、これとまともに取り合ってやる理由はない。最終手段を使う」
「最終、手段……?」
なんだろ、ひょっとして何かすごい魔道具でも。
「耳を塞げ、サン」
「えっ?」
「逃げるぞっ!」
……もっと先に言えよ。音響爆弾を使うなら。耳がキーンてする。
朦朧とした意識で悪態を吐きながら、ご主人に連れられて。
「よし、ここなら大丈夫かな」
「……どこだ、ここ」
「洞窟の天井。岩魔法で拠点を作った。下はさっきトカゲを落とした方だし、魔物は来れないさ」
「うぐ……サンキュー、ご主人……」
今俺が受けてるダメージ、ほとんどあんたのせいだけどな。
ぼやきながらも、状況を整理。昼休憩を終えてから少し探索を進めて、そしたらこれだ。
「……なあ、ご主人。これって」
「ああ。多分……」
大量の魔物が一ヶ所に集まる。魔物同士が連携をとってくる。それも、異種の魔物同士が。
こんなことが起こるのは、可能性としてはたった一つ。
「魔物たちの首元。あるいは、虫型なら背。それぞれに、サンと同じ鎖型の紋様があった」
「ってことは、つまり……!」
「いるぞ、サン。このダンジョンに。お前を呪った奴が」
このダンジョンのどこかに、やつはいる。
あの数の魔物。ダンジョン内のほとんどの魔物を、味方につけているはず。
「クッソ厄介だな……!」
「ああ……けれど、進むべき場所はわかった」
「進むべき場所……?」
ひょっとして、あの魔物たちが増えていく方向ってこと?
そりゃそうかもしれないけど、あの数を相手にするのはできれば避けたいんだけど……。
「いいか、サン。洞窟型ダンジョンのダンジョンボスは、より地下にいることが多い。そして、ダンジョンボスが討たれればダンジョン内の魔物は死滅してしまう」
「うん、聞いた……けど、それがどうかしたの?」
「奴によって最も避けたいことは、ダンジョンを攻略されることなんだよ」
ご主人は、下を向く。先ほどトカゲを落とした、あの場所を。
「つまり魔道具使いは、この下。ダンジョンボスを操ろうとしている」
「っ……まさか……!」
「そう、そのまさか」
そして、にっこりと笑って。
「この下に降りるぞ!」
そんな宣言をしてのけた。
ええ……本気かよ。
「それ、魔物を相手した方がマシなんじゃ……脱出はどうすんのさ」
「ロープだね。大丈夫、万が一のための魔道具は持ってるから……それより、ダンジョンボスを奪われる方がまずい」
「……なんで?」
確かにダンジョンボスは強いけど、前二つのダンジョンなら俺らでも勝てた。なら、別に問題ないような。
「……魔道具は完璧じゃない。ものによっては、キャパシティがある」
「きゃぱしてぃ?」
「今回なら、一度に操れる魔物の数や……あるいは、操れる魔物の強さとか。あの魔道具がこの辺りのダンジョンで出たなら、こんなにたくさんの魔物は操れないはずなんだよ」
魔道具の強力さは、ダンジョンボスの強さとほぼ正の相関がある。ご主人の言ってることも一理ある、けど。
「それを超えた場合、魔道具が壊れたり……タチの悪いものでは、使用者に著しい不利益をもたらすことがある。……最悪、死んでしまうほどのね」
「っ……!」
ああ、それは確かに。急がないといけない。
「わかった。行こう、ご主人」
「ああ。魔道具が壊れてしまう前に」
「それもそうだけど」
このままだと、人が死ぬ。
「死んじゃうのは、違うだろ。助けてあげないと」
「……ああ。そうだな」
そうなる前に、止めてやらないと。