TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

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2章 氷の涙は零れない
救国の英雄譚


 パカラ、パカラとなる馬の足音を聞きながら、肩にもたれかかって眠るサンを揺さぶる。

 

「サン。……ほら、サン。起きて」

「んんー……」

 

 彼女はなかなか起きない。食欲が高ければ、睡眠欲も高いらしい。

 できれば寝かせておいてあげたいけれど、入国審査があるからなあ。それに、ツノが体に刺さって少し痛い。そろそろ起きてもらうとしよう。

 

「サンっ」

「ん……あー、おはようご主人っ……!?ご、ごめん……」

 

 体重を預けて、その上よだれを垂らして眠っていたことに気づいたのか、彼女は顔を赤くして姿勢を正した。別に気にしないのに。

 

「大丈夫、寝顔も可愛いよ。それに、よだれも洗えば落ちるさ」

「なんにもフォローになってねーよ! あとそういうのわざと言ってんのか!?」

 

 少しからかってやると、彼女は別の理由で顔を赤くした。

 まあ、そんなことはさておいて。

 

「外を見てごらん、サン」

「聞けよ! なんか言え! キザったらしいこと言って鳥肌立たせてごめんなさいって言え! ……ったく」

 

 なんて、不機嫌になりながらも、言われた通りに外を見てくれた。扱いやすすぎて、少し心配になる。

 サン、大丈夫かな。そのうち誘拐とかされてしまいそうだ。させないけどね。

 

「おおー……!」

 

 先程までの不機嫌はどこへやら。サンは、外の景色に目を輝かせていた。

 それもそのはず。あんなもの、魔法とダンジョンが存在しないらしいサンの世界にはなかっただろう。

 

「もしかして、あれが?」

「ああ、そうだよ。シーカスケイヴ最大のダンジョン群、魔窟だ」

 

 とは言っても、まだほとんどつま先のような大きさだけど……サンは目がいい。この距離からでも、はっきりと目に映っているようだ。

 

 岩のようだったり、木が生えていたり、滝ができていたり、溶岩が噴出していたり、凍っていたり。

 

 この世界のあらゆる景色を一つに混ぜ合わせたような、不自然で巨大な生成物。世界でも最大規模のダンジョン群、魔窟。

 世界で最も美しい光景の一つとも言われている。

 だが、その実情は。

 

「結局、救国の英雄譚ってなんだったの? 途中で寝てごめん……」

「ああ。そういえば、まだそのお話の途中だったね」

 

 サンの眠気が限界そうだったから、ほとんど独り言を続けながら、ゆっくりと寝かしつけてやったんだった。

 

 慣れない旅路で、体力が持たなかったんだと思う。

 

「そうだな……まあさっき伝えた通り、あのダンジョン群……魔窟は、太古の時代からここにあった」

「うんうん」

「ただ、当時この地はまだ未開拓でね。それに、魔窟も昔はもっと小さなものだった」

 

 入国審査を続けながら、サンに説明を続けていく。

 

「そして数千年前、とある国が食糧難から奴隷を使ってこの土地を開拓しようと考えた。出稼ぎの労働者や、そもそもこの付近の原住民もいたらしい」

「原住民? 未開拓じゃないの?」

「国がなかっただけで、人は住んでいたんだよ」

 

 一時的な安寧を手に入れた場所から来たサンにとっては、あまりピンとこないかもしれない。

 そう思ったけれど、まあなんとか納得はしてくれた。

 

「それで、それ自体は成功したんだけど……そこで問題になったのが、あいつでね。ダンジョンの侵食現象が発生してしまった」

「シンショクゲンショー?」

「長らくダンジョンに少数しか生物が侵入しなかったり……特定の条件で起こる現象の一つ。ダンジョンがその土地を広げてきたり、魔物がダンジョンの外の出てきたり、あるいは新しいダンジョンが発生したりするんだよ」

 

 最低限の金と身分証、審査でダンジョンに潜れるのは、このためだ。

 

 だから、金目当てでの無茶な探索者がいなくならない。

 結局のところ、この世界には探索者が必要なんだから。

 

 人手が足りなくなれば、人類は緩やかに死に向かっていく。世界はいずれ、ダンジョンに包まれてしまう。

 

 ……そう考えると、この世界が残っているのも、人類が滅んでいないのも、本当に奇跡だ。

 

「なにそれこわっ」

「その通り、とても怖いんだ」

 

 侵食現象はダンジョンの発生と違って、条件が明確化してるだけマシだけれど。

 

 たとえこれからどんな時代が訪れようと、探索者の需要は絶えないだろう。

 そう考えると、安定した職業かもしれない。命の保証がないだけで。

 

「そうして広がり続けた結果があのダンジョンだ。あの規模になって尚侵食現象は収まらず、むしろ激化する一方だった」

「や、やばくない?」

「やばい。が、そこで現れたのが、救国の英雄。彼女はその身一つであらゆる魔物を皆殺しにし、ダンジョンを攻略し、ダンジョンの侵食を鎮静化した」

「つっよ」

 

 うん、初めて聞いた時の俺と同じ反応だ……正直、流石に誇張が入ってると思う。

 まあ、どちらにせよ数千年前の人物。もう会うことはできないから、真偽は確かめようがないんだけど。

 

「文字通り、国を救ったわけだね。名前は確か、ええと」

 

 なんだったかな……しまった、勇者の話ばっかり読んでるせいで英雄の方の名前が……ええと、ええと。

 

「そうだ。名前は確か、ソ」

「お次、お待ちのお客様」

「っと、僕たちの番だ。続きはまたあとで」

「りょーかい!」

 

 宿屋の受付に行って、二部屋分の鍵を受け取る。

 お金は先払い。明日の命もわからない探索者に、後払いは存在しないのだ。

 

「これでやっと、ベッドで寝れる……!」

「あはは……」

 

 想定外だったのは、サンが硬いところでの睡眠に慣れていないこと。

 今度、土魔法を教えてやろう。土をふかふかに柔らかくすれば、少しは眠りやすくなる。

 

「しっかし、探索者が多いなー。人種もいっぱい」

「ああ、そうだね」

 

 亜人。サンの世界にはいないらしいけど、獣人やエルフ、ドワーフ、そして何より竜人。

 色々な種族が、この国にはいる。もちろん、肌の色が違う人も。

 

 サンの世界では、肌の色くらいでしか人種が分けられないらしい。少し不思議だ。

 

「この国にはいろんなところからたくさんの探索者が集まるから、その分いろんな人がいるんだよ」

「へぇ……ファンタジーだなぁ」

「僕からすると、サンの世界の方がファンタジーだけどね」

 

 魔法よりも機械が発達した世界。機械文明はこの世界にもあるけど、それは魔法と機械の融合だ。

 魔力なしに、電気の信号だけで携帯用の電話や、あるいは擬似的な知能を作るというのだから、末恐ろしい。

 

「荷物も置いたし……ひとまず、昼食を食べようか」

「やった!」

 

 飯の時間だと、彼女は尻尾を振って目を輝かせる。

 ……たくさん食べさせてあげたくなっちゃうな。攻略では食料は少し多めに持っていこう。

 

「そういや、結局何でこの国に来たの?」

「ん? ああ、それか」

 

 そういえば、サンにはまだ説明していなかったっけ。

 

「一つは、僕がまだ国に来たことがなかったから……っていうのもあるけど。ここで、探索者の連盟に入ってもらおうと思ってね」

「タンサクシャ? レンメー?」

「まあ、ギルドや組合のようなものだと思ってくれ。入るとある程度の支援も受けれるし、生きてさえいれば色々な施設も使える」

 

 例えば、医療施設や訓練施設、あとは魔道具の鑑定、検査、果てはダンジョンの情報とか。

 

 さらにこの国の探索者連盟は、世界でも最大。あらゆる国での支援を受けれるだろう。

 

「ギルド……! 知ってるよ、あれだよな! ほら、モンスターの討伐依頼を持ってきたり!!」

「いや、そういうものは……まあ、指定されたダンジョンの討伐とかはあるか。それと、特定の魔道具の納品だったり……そうだ。魔道具の買取にポイントがつく」

「最後のは浪漫ねーな……」

 

 サンは何かお気に召さなかったらしい。大事なことなのに。

 

「でもあれだろ? お金取られるんだろ?」

「そうだけど、ほとんどの探索者がこの連盟に入っている。僕も入ってるから、心配いらないよ」

「そっか。じゃあ、入っとく」

 

 ……サン、大丈夫かな。「みんなやってるよ」は、詐欺の常套句なのだけど。

 ごねられても困るし、助かるけどね。

 

「それよりご主人、いい匂いしない?」

「ん……ああ、本当だ」

 

 違った。食欲で生返事になっていただけか。

 サンってば、焼き鳥の匂いに釣られていたらしい。どれ。

 

「すみません。これとこれ、二つずつ」

「はいよ!」

「いいの?」

「ああ、もちろん」

 

 サンの分も金を払ってやると、彼女の尻尾はさらに風圧を増していた。

 

 俺はあまり食べれないから、いっぱい食べるこいつを見ていると幸せな気持ちになれる。

 ……なんて、あいつみたいなことを言っちゃったか。

 

「お待ちどぉ!」

「ありがとうございます。ほら、サン」

 

 受け取った串焼きを、サンに渡す。

 

「貴様……!」

 

 ことは、できなかった。

 

「っ……!」

 

 剣……じゃ、ない。片刃の剣。刀? を、突きつけられている。

 

 サンの姿は、見えない。まさか、本当に誘拐されたのだろうか。

 

「三秒やる……今の妾は、あまり気が長くないからのぉ……!」

 

 代わりにいるのは、サンよりも少し背の高い少女。

 白い、長い髪を肩のあたりでゆったりまとめ、さらにもう一つ。先端を、珠のようなもので留めていた。

 

「童にかけられていた呪い……あれは、強力なものじゃ……命を奪いかねん」

 

 何より特徴的なのは。青い、鮮やかな鱗が、露出の多い着物から覗いていて。

 

「たとえ、妾たち竜人のものでも……!」

 

 大きな翼と、線の細い尾。額には一本。主張するように、宝石のような豪勢なツノが据えられていた。

 

「竜人……!?」

 

 しかし、その特徴は。

 

「何のつもりじゃ……! 同胞に何をした!! 答えろ!!」

 

 まるであの、救国の英雄にそっくりで。

 

「『ソラ』……?」

「あァ……?」

 

 気づけば、俺は。その名前を呼んでいた。

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