TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

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「ソラ・シーカー」

 無意識に口から飛び出た、過去の英雄の名。

 目の前の少女はそれを受けて否定するわけでも、動揺するわけでもなく。

 

「そうじゃ……我が名はソラ。だが、それがどうした? 怖気付いたのなら(わらべ)の呪いを解くがいい」

 

 その通り。自分こそがソラである、と、肯定してみせた。

 

「ここから貴様の息の根を止めるのに、一秒も必要ないぞ……!?」

「っ……!」

 

 本気だ。本気の怒りだ。

 背筋が凍る。幾度も経験してきた、死の淵に瀕する感覚。

 

 次の俺の言動次第では、こいつは躊躇なく刀を振るうだろう。

 

「誤解です。話を聞いてください」

「……妙に落ち着いておるのぉ」

 

 まあ、だからなんだという話だけどね。

 

「言った通り、誤解ですから。話を聞いてくれませんか?」

「断る。まずはあやつにかけた呪いを解け。できない事情があるならそのまま話せ」

「えぇと……僕がかけた呪いではない、と言いますか……」

「……」

 

 ソラさんは刀を宙に放り投げた。それは一瞬で、煙のようにどこかへ消えてしまった。

 ……固有魔法、か?

 

「童に事情を聞く。妾が戻るまで、そこを動くなよ」

「……はい」

 

 多分、動いたらバレるんだろうなぁ。末恐ろしい。

 

「お客さん、すげぇ人に目ェつけられたな。なんか悪いことでもしたか?」

「はは……多分、誤解なんですけどね」

「そか。焼き鳥サービスしてやるよ」

 

 さっきの店主さんが動けずにいる俺を見かけねて、追加で一本焼き鳥をくれた。これはサンにやろう。

 

「あの人、何者なんです?」

「なんだ兄ちゃん、しらねぇのか? あの人はな……」

 

 どうせ暇だ。しばらくの間、この人に話を聞くとしよう。

 

 

 

 

 ええと。正直、俺も。俺もさ? この世界に慣れてきたと思ってたんだよ。

 なんだかんだ、ダンジョンも攻略したし。

 

 でも、流石にこれは予想外というかなんというか。

 

「ここどこだよぉ……」

 

 一瞬の出来事だった。

 焼き鳥を受け取るご主人の後ろ姿を見ていたら、視界がブレて強い衝撃。気づいたら、ここに。

 

 部屋の中は、何の変哲もない部屋。机と椅子とベッドがあって、窓には植物が飾られている。

 

「せめてなんか変哲があれよ……」

 

 逆に怖いわ。鍵閉まってて外にも出れねーし、なんなんだよここ。

 

「おお! 起きておったか! いきなりすまなかったのぉ!」

「っ!?」

 

 立ち尽くしていると、突然扉が開いた。

 奥からは、白髪の女の子が一人。俺と同じように、ツノと翼、あと尻尾が生えてる。

 ……竜人?

 

「それにしてもヌシは頑丈だの! 魔法で守ってやる必要もなかった! 将来が楽しみじゃな!」

「え、えと」

「おっと、紹介が遅れたな。妾はソラ。ヌシと同じ、竜人族の一人じゃ! 同胞を見るのは初めてかのぉ? 妾も同族に会うのは久しぶりじゃ!」

 

 なんだこいつ、めっちゃグイグイくる。

 あと頭撫でんな、鬱陶しい。なんでみんなして俺の頭を撫でたがるんだよ。

 

「そ、『ソラ』?」

 

 『ソラ』……『空』? 日本語?

 

「うむ! 童、名は?」

「え、サン……」

 

 ほんとは違うけど、身分証にこう記載されてるからこれで名乗るしかない。

 

「おお、素晴らしい名前じゃ! カッコイイのぉ! その名をつけたのは誰じゃ?」

「ご主人が……って、そうじゃなくて! ソラ! だっけ!?」

「む?」

「『日本』って知ってるか!? あるいは、『地球』とか!」

 

 『空』。明らかに、日本語の発音だ。

 ひょっとして、ひょっとすると。前世との繋がりが。

 

「『ニホン』? 『チキュウ』? すまんのぉ、若い者の言葉はよくわからなくて……」

「……そ、っか。そうだよな」

「名付けをしたのは『ゴシュジン』だったか? うむ! きっとその者は、サンの幸福と未来の安寧を祈っておったのだろう!」

 

 ……大丈夫。きっと元の世界には戻れるさ。魔道具があれば、きっと。

 

「それより、サン。ヌシにいくか質問をして良いかのぉ?」

「いいけど、っつーかそれより! ご主人は!? というかここどこ!! 俺を攫ったのお前か!?」

「あー、その辺も質問が終わったら教えるからのぉ……どれ」

「なっ……!」

 

 パチ、と首元から音がした。チョーカーが外れていた。

 いや、外された。見えなかった。

 

「やはりのぉ……」

「っ、見んなよ……!」

 

 あんま人に見られたいものじゃないのに。

 恨めしいと睨んでいると、ソラと名乗ったそいつは俺の額に手を当てて。

 

「すまなかったな。許せ。質問が終われば全て説明するからの」

「……」

「さて、まずは……ヌシにこの呪いをかけたのは、あの男か?」

「違う」

 

 ご主人はそんなことしてない。

 

「それに……確かにご主人と従魔契約することになったけど、それで嫌なことなんてほとんどされてない」

「……ふむ。嘘はない、か」

 

 意図はなんとなく読めたけど……いきなり攫われて、嫌なとこ見られて、ご主人も疑われて。少し腹が立ってきた。

 

「大体、お前は」

「うむ! これは、あれじゃの!」

 

 俺の話を遮って、ソラはにっこりと笑顔になり。

 

 

 

 

「ほんっとうにすまなんだ……!!」

「か、顔を上げてください!」

 

 変わらず串焼き屋の前にいたらしいご主人の前で、深々と頭を下げた。

 

「どうする、ご主人。一発殴っとく?」

「しないよ! 誤解は解けたんだし、それでいいじゃない」

「だってよー……」

 

 先に話を聞くべきじゃないのか、あの場面。

 

「その、久方ぶりに同族を見かけて、嬉しくなっての……? じゃが、サンには何か呪いがかけられていたようで……奴隷にでもされたのかと……」

「奴隷?」

 

 この世界、奴隷とかいるの? というか俺、世間的に奴隷なの?

 ご主人の方に目線を向けると、彼は首を振った。

 

「昔はあった。けど、今は世界でもほとんどないよ。……だから僕の世間体はやばいんだ」

「街中で首輪をつけて連れ回しながら肉棒を押し付けて……とんだ鬼畜変態ぷれいをかますろりこん野郎かと……!」

「首輪はチョーカーで、肉棒は焼き鳥な!!」

 

 なんなんだ、こいつ。

 

「ちょおかぁ……なるほど、それはファッションか。改めて、すまなかった!!」

「まーご主人がいいなら俺はいいけどさー」

 

 俺もちょっと怒りすぎたかな。

 謝ってるんだし、一応俺を助けてくれくれようとした? みたいだし。

 

「何か詫びを入れさせておくれ。妾にできることなら、なんでもしよう!」

「や、やめてください! というかいい加減頭あげて! 僕は気にしてませんから!!」

 

 流石にこんな天下の往来で頭を下げられては、こちらもたまらない。

 ご主人がソラをなんとか宥めるが、彼女は腑に落ちていない様子だった。

 

 いきなり刀を突きつけたらしいし、向こうとしてもごめんじゃ済まないよな……あ、そうだ。

 

「なあ、ご主人。探索者連盟の場所ってわかってるの? この国で登録するんでしょ?」

「え? ああ、いや……街にある地図を使うか、人に聞こうかと」

「じゃあさ、ソラ。俺たちのこと、そこまで案内してくれよ」

「ああ。それはいいアイディアだね。ソラさん、お願いできますか?」

 

 ご主人と一緒に頼んでみると、ソラは拍子抜けしたような表情をした。

 そんなことを頼まれるなんて、思ってもいなかった。と、顔に書いてある。

 

「……この妾を前にし、そんなことを願うのか?」

「え? うん」

「そうか……」

 

 そうして、彼女はくるりと背を向けて振り返り。

 

「変わってるの。ヌシらは。ついて参れ。ついでにじゃが、この街も案内してやろう」

 

 どこか満足げに笑ってみせるのだ。

 なぜかはわからなかった。とりあえず、言われるがままについていくことにした。

 

「ソラ様! 先日はどうも、ありがとうございます! これ、お礼を……!」

「おー構わん構わん。そいつはヌシの子に食わせてやれ。まだ体力も回復してないじゃろう」

 

「あ、ソラさん! 見てこれ、作った!」

「おお! 可愛らしい兎じゃのぉ! 才能がある! 大事にするんじゃぞ!」

 

「ソラ様ー! 新しい魔道具入荷したんで、よかったら見てってくださいねー!」

「また今度のー!」

 

 ついて行くことにしたんだけど。めっちゃ話しかけられる。

 

「なー。ソラって有名人なの?」

「んぶっ……!」

 

 疑問をそのまま口にすると、ソラはお茶を吹き出した。さっき知らない人からもらってたやつ。

 

「わ、妾のことを知らんのか!?」

「知らんのじゃ。だって初めて会ったし、この国に来たことないし」

「んなっ……! イリオスに続いて、一日で二人とは……!」

 

 ぐぬぬと悔しがるソラを見て、頭に疑問符がまとめて十個くらい浮かび上がる。

 有名人だろうとなんだろうと、別の国から来た人なら知らないんじゃ?

 

「わ、妾の姿に覚えとかは!?」

「ない。名前通りの『空色』だなーってくらい」

「なんでじゃあ!!」

 

 すると後ろで、ご主人も少し困った反応。

 何笑ってるのさ。ご主人だって見覚えなかったんだろ。

 

「サン、この人はな」

「よい!! ならば改めて自己紹介と行こう!!」

 

 ソラはバサっと翼を広げ、自らの胸に手を当てて。

 

「我が名はソラ! ソラ・シーカー!! シーカスケイヴの探索者にして、当代を生きる「英雄」じゃ!!」

「英雄……って、救国の英雄譚の?」

 

 いや、そんなわけがない。数千年前の話ってご主人が言ってたし。

 ってことは、また別の英雄の一人ってこと?

 

「おォ、お婆様の伝説はきちんと他の国にも轟いているようじゃのぉ!!」

「……お、お婆様!? つーか英雄って結局何!?」

「サン、英雄っていうのはね。この国最高峰の探索者に与えられる称号や、名誉だ。一つの時代に、英雄は一人しか存在できない」

 

 最高峰の探索者……確かに、目で動きが追えなかったりしたけど。

 じゃあ、お婆様っていうのは。

 

「そして妾は救国の英雄ソラ、その唯一の孫娘というわけじゃ!!」

 

 つまり、つまりだ。

 ソラのおばあちゃんが、数千年前の救国の英雄ってことになる。だったら、それって……そんなのは……!

 

「え、ソラって何歳なの!!?」

「最初に言うことがそれか貴様ァ!!」

「はは……」

 

 こいつはロリババアってことだ!!

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