TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

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氷結の女オーガ

 一日経って、昼。

 ご主人と昼食を済ませて、魔窟のダンジョンに訪れていた。

 

 仮拠点を設営。

 ここはすでに攻略されたダンジョンの跡地。すなわち、ダンジョンの領域外。

 ダンジョン産の魔物は基本、ダンジョンの外に自分では出れないから、数少ない安全地帯らしい。

 

「うぅん……壮観だな」

「……俺、頭痛くなってきた」

 

 見渡す限り全面のダンジョン。ダンジョン。ダンジョン。ご主人。

 

「どうかした?」

「いや、なんでも」

 

 多分ご主人の向こう側にも、ダンジョンが広がってるんだろうな。見るまでもないし、見たくない。

 

「いや、本当に凄まじいな、これ。こんなの初めて見た」

「ご主人でも?」

「僕でも」

 

 ご主人がどのくらい探索者をやってるのかは知らないけど、結構長いはず。

 流石に、世界最大規模のダンジョン群……って、ことなのかな。

 

「しかも恐ろしいことに、ここはまだ第一層。地下にも地上にも、果てしなくダンジョンが広がってるんだから」

「よく滅びなかったな、人類……」

 

 それだけじゃない。こんなクソでかいダンジョンの侵食を止めたソラのおばあちゃんの強さも際立つ。

 そりゃ、ソラのお母さんも同じ名前をつけようとするよな。その人も英雄だったらしいけど。

 

「ダンジョンは自然消滅することもあるからね。条件は不明だけど。それに、ダンジョン同士で喰いあったり。本来、ここまで大きく成長する方が異常なんだよ」

「へぇ」

「だからここは、歴史的にも意味のあるダンジョンなんだ」

 

 だからと言って、このダンジョン群がおかしいことに変わりない気がするけど。

 

「あそことあそこは別のダンジョン。ついでにあれも違うね。お、あっちは多分攻略済みのダンジョンかな。表示にもあるから、あの中に入ったら警告音が鳴るね」

 

 ここで最初に渡された魔道具。発信器以外にも、いくつかもらったものがある。

 ご主人と俺が持ってるゴツい機械みたいな魔道具も、そのうちの一つ。リアルタイムで探索者が集めた情報が更新されて、ドットでマップを表示してくれる。

 

「ここまで大規模なダンジョン群だと、人も多くてね。どのダンジョンが攻略されていて、どのダンジョンが攻略されていないのかわからない。だから魔道具で示すのが義務なんだよ」

「地上だからいいけど、地下とかもっと上の方だと大事故だもんな」

「その通り。よく覚えてたね」

 

 撫でようとしてきたご主人の手を押し除けながら、軽く首の運動。

 ここからでも、結構な数の魔物が見えるな。

 

「……で。今日はどのダンジョン行くんだ?」

「うーん」

 

 よりどりみどりすぎて、かなり悩む。

 一層だけあって人が多いから、できるだけ人の少ないダンジョンに行きたいなぁ。競争とかになったら嫌だし。

 

「……そうだな。今回は、あの渓谷沿いに行ってみようか。一応、あそこもダンジョンみたいだし……他のダンジョンと比べれば、必要な用意も少ない」

 

 他のダンジョン。火山に砂漠、地下洞窟に巨大樹、あとキノコの森……巨大樹とキノコの森? なにあいつら、すっげー気になる。

 でも、流石に今日は安全第一だよな。

 

「了解。それじゃご主人、ちょっと手貸して」

「ん?」

 

 実はあの時から、密かに練習してきてたのだ。

 相変わらず、空を飛ぶことはできないけど……風の魔道具で、浮力を受ければ!

 

「よしと! このまま飛んでこうぜ!」

「おお! いつのまにこんなことを!」

「へへ……風がきもちいだろ?」

 

 ここはダンジョン。

 どれだけ綺麗な景色でも、危険なことに変わりはない。でも、ずっと警戒しておいても人間は限界がくる。

 

「……ああ。心地いい」

「ん。楽しんで行こうぜ」

「だな」

 

 そのままゆっくりと、ご主人と共に渓谷まで向かった。

 

 

 

 

 のも、束の間。

 

「逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!! なんだあのバケモン!!」

「空中にも魔物がいたとはね!!」

 

 俺たちは全力で逃げ回っていた。理由は単純明快、めっちゃ襲われたからだ。

 

「というか!! 何にもない空間もダンジョン化するもんなの!?」

「あることにはある!! あまり例は少ないっ、けど!! ここは魔窟だから!! なにが起こってもおかしくはない!!」

「どんだけだよ!!」

 

 ご主人が水の魔法で巨大な鳥に攻撃しながら、反作用で渓谷に向かって加速。急いでダンジョンの範囲外から出ればいいはず。

 

「ぐ、くっ……!」

「大丈夫か、サン!」

「なん、とか……!」

 

 なんだけど、風が強い。嵐の中にいるみたいだ。

 さっきまで、あんなに穏やかな天候だったのに……これも、ダンジョンの影響なのかな?

 

「くぅううっ……! あ、そうだ! ご主人!!」

「どうした!?」

「俺に当てながら水出して! ここ! 足の部分!」

「何かするんだな!? わかった!!」

 

 足が濡れる感触。それを通して、あいつにも水が弱い威力でぶつかってる。

 これでいい。俺だって、いろいろ練習してきてるんだ。

 

「ぐぬぬぬぬ……!」

 

 まだ雷は出せない。だけど、集中……魔力を、電気エネルギーに変える。それを魔力と一緒に、体内で増幅させて。

 

「電気魔法!!」

「おおっ!!」

 

 ご主人の水を通して、そのままあいつを痺れさせる!!

 

「これでちょっとは痺れただろ!! 撒くぞご主人!」

 

 骨が体外に飛び出たような鳥の魔物は、確かに一瞬その動きを止めた。

 しかし直後、先程よりもさらにその動きを素早くして。

 

「ピィイイイイッ!!」

「うげっ!?」

 

 風の魔法。それを口から吐き出して、俺たちを墜落させた。

 

「ご主人ッ!!」

「大丈夫!! この高さなら問題ない!! このまま川に落ちて、逃げるぞ!!」

「おうッ!!」

 

 言われるがままに、川へと墜落。体へのダメージは、ほとんどない。

 

「あ……あっぶなぁあ……!?」

「今度から、空を飛んでいくのはやめよう……」

「同意見……」

 

 普通に殺されかけるところだった……空中じゃ、あの鳥に対抗しようがない。

 

「ひとまず、目的地には着いた。このまま拠点を設営して、攻略を始めよう。まずは様子見、敵の強さを測る」

「わかっ、ぷ」

 

 衝撃。瞬間的に、鼻と背中に痛み。

 

「サン!?」

「っつぅうううう……な、なんだ今の……いきなり俺のことぶった……?」

「違うよ!! 魔物!! 戦う準備!!」

「わ、鼻血が」

 

 一体誰だ俺の鼻から血を垂らさせたのは。

 睨みつけるようにして目線を上げると、そこには白い……狼? では、ない何か。

 

「ウォルルルル……」

「なんじゃありゃ?」

「森の魔物……それも、狼がベースか。僕も見るのは初めてだ」

 

 俺の知ってる狼に甲殻はないし、あんなふうに尾が長くて鋭かったり、鹿みたいなツノも生えてたりしないんだけど。

 

「気をつけろ、サン。図体に似合わず素早いぞ」

「わかってるよ」

 

 なんせさっき攻撃を受けたからな!

 実際、かなり重たい一撃だった。素早さだけじゃない。それに相応しい力も兼ね備えてるわけだ。

 

「っ、後ろ!」

 

 なんて、一瞬考えた隙に。姿がぶれて、いつのまにやら後ろまで。

 なんとか爪を剣で防いで、反撃。当たらない。

 

「グルルル……」

「こっちを襲う気満々みたいだね」

「すばしっこくて鬱陶しい……」

 

 速さはワーム並。かなりすばしっこいけど、それなら仕留めれるはずなのに……やりづらい。

 

「ワームと違って、動きが直線的じゃない。頭を使えよ、サン」

「わかった! ……この操作の実行に必要なメモリが足りません」

「早い!」

 

 ほざきながらも、再度攻撃に近寄ったツノ狼。

 こいつの主な攻撃手段は四つ。ご立派なツノ、鋭い爪、大きな牙、しなやかな尻尾。

 

 厄介なことに、攻撃が直線的じゃない。ヒットアンドウェイで何度も攻めてくる。

 

「……だぁもぉ! しゃらくせぇ!!」

「サン!?」

 

 だったら、もう攻撃を避けんのはやめだ! 正面からぶん殴る!!

 

「グルァアアッ!!」

「ぐっ……!」

「っ……!」

 

 当然、そんな単純な戦い方で倒せる敵じゃない。攻撃のタイミングをずらされると、カウンターが取れない。

 その程度を考える知能はあるのか、狼は爪ごと掌を俺に叩きつけ。

 

「お前、俺よりバカだな」

「ギャアッ!?」

「いつつ……!」

「よくやった、サン!」

 

 そのまま近づくご主人。彼は迷いなく、狼の首。鎖骨と首の骨の間から、剣を差し込み。

 

「ガ……」

「ふぅっ」

 

 心臓を破壊して、トドメを刺した。

 

「電撃魔法の使い方が上手くなったね」

「珍しく頭使っただろ? いてて」

「赤くなってるじゃない。おいで」

 

 電撃魔法。雷魔法と違って空中に放出できないそれは、接触状態か導電体が触れている状態じゃないと効果が薄い。

 

 逆に、触れてさえいれば大丈夫。俺ならあのくらい耐え切れる。高出力で、そのまま撃ってやった。

 魔法の使い方も、なんとなくわかってきた気がする、っと?

 

「……ご主人。やばいかも」

「え?……っ!」

 

 そりゃそうだ。よく考えてみればわかること。

 

「囲まれたな」

 

 狼ってのは、群れで狩りをする生き物だ。

 

「……これ、ダンジョンボスでもないんだよな?」

「ああ。かなり厄介だな」

 

 戦い方は、一度見られている。同じ方法は通じない。

 群れの頭数は、音から察するに三十匹以上。一斉に襲い掛かられたらやられかねない。

 

「一回ダンジョン出る?」

「だな。そうしよ」

「キャイン!!」

「……ん?」

 

 森の奥から、悲鳴? それも、狼の?

 

「っ……!?」

「どうした?」

 

 どんどん頭数が減っていってる……二十、十。いや、もうほとんどいない!

 しかもはっやい。なんだこいつ。音で動きを追いきれない。

 

「っ、なに今の!?」

「森が……」

 

 森から砲弾のように打ち出されたのは、狼の死体。それらは、真っ直ぐに反対方向の森へ向かって。

 

「ルゥオオオオオオオオ!!?」

「……へ?」

 

 奥から鳴り響いた、豪快な叫び声。ちょっとだけ光が漏れてる。ダンジョンボスが倒された?

 

「ご主人……あれ……」

「あれ……っ……!?」

 

 さっきまで横を流れていた川が、凍ってる。なんだ、これ。

 ダンジョンボスを殺した。なら、探索者?

 

「いや、ない……ないない、ないないない……絶対にない……あの人がこんなところにいるわけ……」

「ご主人?」

「っ、とサン! ごめんよ! ダンジョンは攻略されてしまったみたいだし、帰ろうか!!」

「う、うん」

 

 どうしたんだろ。こんなに焦ってるご主人、初めて見た。なんかあるのかな?

 

「さ、急ごう。きっと明日には別のいいダンジョンが見つかるさ。今日のところは宿に帰って一日中」

「おい。どこにい行きやがろうってんだ?」

「っ……!!」

「え?」

 

 人。女の人だ。さっきまで、前に立ってたっけ?

 というかご主人、めっちゃびっくりしてたな。ビクゥッてなってた。

 

「だ、ダンジョンに異常が発生してます。あなたも早く帰ったほうがいいですよ」

「ク、ハハッ! なんだ、その下手っクソな裏声は」

「どしたご主人、とち狂った?」

 

 目の前の女の人、黒いファーのついたコートを着たその人は、髪をかきあげながら笑った。

 へぇ、左右で目の色がちが……いや笑い方こっわ。スプラッタ映画の怪異かよ。

 

「よォ。久しぶりだなァ、馬鹿弟子」

「……お、お久しぶりです……師匠」

「……師匠ォ!? 師匠って、あの氷結の女オーガの!?」

「あ?」

 

 いやだってひょうけ、あ、女オーガ、あ、ああ! 全部腑に落ちた!

 確かに氷結の女オーガだこの人! 思ったより的を射た表現してたのなご主人!

 

「ちょ、サン!」

「おいおい待て待て、あーと、確かお前はサンだったな? なんだ、今のは」

「え、なんで名前知って」

「私の質問はなんだっけなァ?」

「あい! ご主人が貴女様のことを表現するときに使ってた言葉です!!」

「ほォー……?」

 

 怖すぎる。なんでそんな顔できるの。なんでそんな怖い言い方するんだよ。泣きそう。

 

 生物的に、というか本能的に逆らっちゃダメだって言われてる。

 

「……」

 

 ご主人が気にするなって顔でこっち見てる。笑顔引き攣ってるけど。

 ごめん、ご主人。長いものに巻かれなくてもいいけど、怖い女には逆らうなって父の教えで……主に母親に……。

 

「サン。僕が死んだら、ソラとレインを頼るんだ。ニィナのことも。骨は、海の向こうにある辺境の村に……」

「ご主人っ……!!」

 

 そんな、なんで、俺のせいで……!?

 

「……ック、ハハ! そう怯えるな。私はこれでも嬉しいんだぞ?」

「へ?」

「可愛げのなさも含めて、相変わらず。私も、これでもお前のことを案じていたんだ」

「師匠……」

 

 そっか。久しぶりの再会、だもんな。

 ご主人とその師匠。どんな関係かはまだわからないけど、きっと二人も仲良くやって……。

 

「そう、元気そうで何よりだ。どこかでのたれ死んでたら罰が与えられねェからなァ!!?」

「ご、ごめんなさいって、すみませんでしたああああああ!?」

「心配ばかりかけやがってこの糞弟子がァ!!」

 

 アイアンクローって、あんな音がするものだっけ。あんな万力みたいな、メキメキメキィって。

 ……でも、師匠の方。嬉しそうだな。

 

「ったく」

「ひっ」

「あー、そう怯えるな。これは私とこいつのコミュニケーションみたいなモンだ」

「バッドコミュニケーション……」

 

 あれが、対話……?

 

「大丈夫だよ、サン。実は僕の自業自得だから……」

「……?」

 

 あれ、誰だろうこの赤いジャガイモ。

 ……ああ、ご主人か。

 

「まァ、この程度にしてやるよ。……よく、生きていてくれたな。我が弟子よ」

「ご主人、これ「よく生きて私の前にツラを出せたな」って言ってる?」

「違うよ……師匠も、お変わりないようで何よりです」

「……まァな」

 

 少し照れ臭くなったように、師匠と呼ばれたその人は後ろ髪を掻いた。

 

「それでその、なぜここに」

「弟子に会いにくるのに理由がいるのか?」

「……はは」

 

 ……なんだ、結構しっかり仲はいいのか。ちょっと安心した。

 多分、ご主人がこの国に来るってことは教えてたんだろうな。なんだ、じゃあすでに予定されてた邂逅だったんじゃないか。

 

「僕、師匠にこの国にいること教えましたっけ……?」

「いや」

「じゃあホラーじゃねぇか!」

 

 ご主人の「はは」って肯定じゃなくて引き攣ってる方の笑顔かよ!

 

「……その、とりあえず場所を移しましょうか」

「だな。ここだと雑魚がやかましくていけねェ、特に……」

 

 ご主人の師匠は、巨大な岩石を一つ拾い上げた。

 何を言ってるのかわかんないだろ? 俺もわかんねぇ。でも、岩石を拾ったとしか表現できねぇんだもん。

 

「頭の上をバサバサ飛ぶ鳥畜生どもとかなァ?」

「……」

 

 ビシャっと滴り落ちてきた鮮血を浴びて、彼女は凶悪に笑った。

 少しして、先ほど俺たちを襲った鳥の頭が落ちてきて。俺は早急に、この人には逆らわないと決めた。

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