TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

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1章 旅立ちは日の出とともに
ドラゴン転生?


 人が最初に与えられるのは、願い事だ。

 

「お願いだ……お願いだよ」

 

 こんなふうになって欲しい。あんなふうになって欲しい。こんなことをして欲しい、あんなことをして欲しい、幸せになって欲しい。

 

「君は……君が……」

 

 そんな願いを込めて、人には名前がつけられる。

 

「あははっ……なんて綺麗なんだい」

 

 だからきっと、名前も誰かの願いで。それが最初に人間に与えられる、かけがえなのない財産なんだ、って。

 誰かが、そう言っていた気がする。

 

「君こそが、ボクの」

 

 大体それをくれるのは親だったり。祖父母だったり。その子の幸せを願う、親しい人間だったり。

 

「そうだ……君は……」

 

 じゃあ俺は。一体、誰に。

 

 

 

 

 暗い。周りが見えない。どこだっけ、ここ。

 

「……?」

 

 いや暗っ、暗いな。本当に暗い。ほんの少しの光も目に入ってこない。

 

 何かな、学校帰りで電気もつけずに寝ちゃったんだろうか。

 あるいは、誘拐事件とか? なんて、こんなぴちぴちの男子中学生を誘拐してすることなんざないか。

 えぇと、スマホは、と?

 

「ア……?」

 

 おかしいな、こんなところに壁があったはずが……いやそもそも、周囲が全部塞がれてないか、これ。

 待った。これってまさか、本当に誘拐?

 

「グァア、アッ!?」

 

 今気づいたけど、声も「グァー」とか「ガァー」とかしか出ないし。理性も知性もない獣みたいな声だ。

 あれかな、どこかの悪の組織に攫われてバッタ人間に……って、そんなわけないか。寝ぼけすぎだ。

 

「アァー……」

 

 意外と脆そうだな、この壁……いや、壁じゃないな。硬い感触はするけど、曲線だし。

 

「グシッ」

 

 壊すか。家の壁だったら両親に怒られるけど、緊急事態な気がする。

 

 そもそも寝てたならベッドの感触があるはずだけど、尻の下の感触まで硬いんだから。生き埋めとかだろうか。

 

「グアッ!!」

 

 怒られるなら、後で存分に怒られよう。グッと決意して、壁のようなそれを押し壊す。

 やっぱり壁じゃなかったのか、それはボロボロと簡単に壊すことができた。

 

「グゥ」

 

 あとこの声はさっさと治らんのかな。風邪でも引いたか、喉の調子が……と?

 

「……がぁっ!?」

 

 なんだ、この手。いや、手か? これ。

 爪が生えてる。いや、元々生えてるけど。動物みたいというか、動物そのものだ。

 あれだ、ワニ。ワニに少し似てる。昔食べたことがあるから間違いない。腹減ったな。

 

「……ガガゥ!」

 

 言ってる場合か。と言うか間違いないじゃねぇよ、間違いであって欲しいよ。だってこの手、俺の意思で動くんだもの。

 ……というか百歩、いや五億歩くらい譲って、これが俺の手だとして。この色、何?

 

「グルル……」

 

 俺の記憶が正しければ、鱗が金色のワニなんていない。俺の記憶だから怪しいけど。

 それに、随分と爪が長くて鋭い気がする。スパイクみたいに、少し地面に食い込んでる。

 

「ウゥ……ッ!?」

 

 周囲を見渡しても、あたりには木々だけ。唯一変わったものといえば、真後ろの卵くらい。この卵、俺が出てきたのってこれか?

 ……嫌な予感がする。

 

「フッ……!」

 

 水の音がする。ってことは、そう遠くない場所に川がある。

 そこで自分の姿を見れば、いつも通りの俺が……人間が映るはず……! 四つん這いでこの走りやすさだから、すでにだいぶ怪しいけど……!

 

「ガゥッ!!」

 

 結果、水面に映るのは……黄色の体毛と、陽光を反射する金色の鱗。大きな紫色の目、尖った爪に鋭利な牙、そして人間にはあり得ない歪んだツノ。俺の意思通りに動かせる翼。尻尾。

 よしよし、いつも通りの俺の姿。

 

なんっじゃ、こりゃあああああっ!(ガゥッガァ、ガァァアアアアアッ)!?」

 

 な訳があるかァ! どっからどう見てもバケモンで、ドラゴンだよ!!

 

 

 

 

「グゥー……」

 

 よし、落ち着こう。というか落ち着いた。顔を洗っていったん落ち着いた。

 人間、顔洗って風呂食って飯入れば大抵のことは落ち着けるのだ。冷静になれ、クールビズ。……あれ、なんかちょっと違うかも。

 

 まあいいや。とりあえず状況は飲み込めないながらも、把握できた。

 

「グゥ」

 

 この卵の破片から見て、改めて確信できる。

 今の俺の姿は、どう見てもドラゴンだ。

 

「……」

 

 どう見てもじゃないが。いやいい、一旦受け入れろ。

 見た目はちょっとかっちょいい。いいよな、ドラゴン。全男子の憧れだと思う。この俺も例に漏れない。

 でもだからって、こんなふうにドラゴンになってしまいたい人なんて少数派だ。少なくとも、俺は違う。

 

「グルルッ」

 

 不満を口にしても仕方ない、状況の整理に戻ろう。ここはどこかの森の中。日本なのかはわからない。

 

 ただ、自分の姿を見るに……日本どころか、地球さえ怪しい。とりあえず俺の知る地球には、ドラゴンは空想上でしか存在しなかった。

 これは、あれだな。

 

「グッ」

 

 状況が全くわからん。ここは地球かもしれないし、そうじゃないかもしれない。全く異なる、別の世界。異世界、とか。

 そもそもドラゴンの体で動けてる時点でおかしいことだらけなんだから、今はわかってることだけわかればいい。

 

「……」

 

 そもそも俺って、何してたんだっけ。目が覚めたらいきなり卵の中だもんな。

 

 えっと、確か。普通に授業を受けていた……と、思う。体育の授業を。体育の先生、お前らの学年は中弛みがどうとか言ってくるから最近ニガテだ。

 

 で、それで……補習授業と追試のせいで、一人で家に帰ることになった。雨だ。雨が降ってた。結構な豪雨。

 親が迎えに来てくれるみたいだって、道の途中でいったん雨宿り。

 

 だんだん、雷の音が近くなってて怖かった。そしたら、いきなり目の前がピカッと光って。

 

「アッ?」

 

 あれ? ひょっとして俺、死んだ?

 

「が、ガガガ……?」

 

 いや待て、待て待て待て。状況的に雷に打たれてそうだけど、ちょっと待って。

 十四歳、十四歳だぞ? こちとらまだ。それを何か、そんなくだらないというかある意味劇的だけど、突然の死ではいおしまいですか。ふざけないで欲しい。

 

 そもそも雷に当たる確率なんて……クソッ、わからん。理科の授業をきちんと聞いておくんだった……!

 

「グゥー……!?」

 

 えっと、仮に死んでたとして、だ。うちは神道と仏教を足して二で割った平均的日本家庭だから、輪廻転生。

 

 竜道やドラゴン道なんてものはないから。俺は解脱できずに畜生道。そんなバカな、ドラゴンも畜生に含まれるってのか。じゃあ人間も畜生だろ。

 いや、違うな。多分憤るべきはそこじゃないな。

 

「ガァ」

 

 話がまとまりを得なくなってきた。

 えぇと、つまりは……一旦死んで、ドラゴンに転生してる。って可能性がある。一旦で片付けるにはあんまりな事実だし、現実味が薄すぎるけど。

 

 とにかく、現状はわかった。

 俺はドラゴン、ここは森林。川の中には魚もいたから、他の生き物だっているはず。なんか見たことない形してたけど。

 

 わかんないことだらけだけど、とりあえず腹が減った。食わないと死ぬ、そして俺は死にたくない。

 オーケー、そしたらまずは飯でも獲り、に?

 

「……ぁ、とに……の……?」

 

 人の、声?

 

「……ぃ……さ……?」

 

 遠くから、人の声がする。

 さっき川の音を聞いた時もそうだけど、聴覚が鋭い。それに、少し見える景色、特に色。が、変だ。

 俺の体、本当にもう人間じゃないんだな。

 

「グッ……!」

 

 考えるな。助けてもらうチャンスだ。コミュニケーション大事。

 そもそもこの世界に人間がいるなら、人が住んでる街だってあるはず。森よりもずっと安全だし、飯も食えるだろう。

 

「ガァガ……!」

 

 そうと決まれば膳は、じゃなかった、善は急げ。

 卵のかけらでいいか、えぇと……「俺は人間、へるぷみー」と。これで助けてもらえるハズ。

 

「グルルルルッ!」

 

 このチャンス、絶対ものにする!




しばらくは毎日投稿を続ける予定です。
また、一時間後には2話が更新されます。
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