TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

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約束

 突然だった。

 ソラさんに全て、話し終えて。そのまま寝ようと帰ったら、そこにサンはいなかった。

 

「っ……!」

 

 まさか、師匠が? いや、そんなはずがない。

 あのキングコングはサンの暗殺を企てるようなタマじゃないだろう。

 

「……寝床が冷たい」

 

 かなり時間が経っている。

 トイレに向かっただけかもしれないけど、だとすれば長すぎる。ヒュージワーム並のモノを腹に抱えていない限りあり得ない。

 

「む、なんじゃ。起きておったのか?」

「ソラさん!」

「ぬ?」

 

 サンがいなくなったことを話すと、ソラは途端に神妙な顔つきになった。

 

「このダンジョンの中に、サンを殺せるような魔物は心当たりがないのぉ。隣接したダンジョンなら話が別だが」

「殺せる、って……」

「可能性として考えなければの。じゃが、妾の見立てではそれも違う」

 

 この辺りの魔物の強さは、訓練に向けて把握しておったしの。続けながら、ソラさんは頭を悩ませていた。

 

 誘拐ではない。他の人間の足跡がないし、トラップが起動していない。

 魔物でもない。彼女はそう簡単にやられない。

 

 ……じゃあつまり、サンは自分の意思でここを出ていったということになる。

 

「ふむ……ふむ、ふむ。足跡は残っているの、間抜けめ」

「……本当だ」

 

 寝床から森に向けて、足跡が残っていた。

 随分と急いでいたようで、走り出したような足跡だった。

 

 幾重にも折り重ねられて、いつのものだか判別がつかない痕跡の数々。その中でそれだけは、やけに目立っていた。

 

「追います」

「待て、妾もついて行こう」

 

 ソラさんと共に、足跡を追跡した。

 途中、転けたような跡。血がついていないのは幸いだった。

 

「……」

 

 そして、少し歩いて。足跡は消えた。飛んだのだと、なんとなく理解した。

 

「まずいのぉ」

 

 なんで、いきなり。

 そんな疑問に答えてくれる相手は、どこにもいない。

 

「サン……」

 

 どこに行っちまったんだよ。

 

「手分けをしよう。妾は空からあやつを探す。おヌシは地上から探せ。細心の注意を払っての。見つけたらこれを割れ。集合地点は拠点とする」

「……わかりました」

 

 そんなところまで、あいつに似なくたっていいじゃないか。

 

「……」

 

 ブレるな。今するべきは自己陶酔か?

 違う。サンを探すことだ。

 

「魔法」

 

 水魔法で探した水脈掘り当てるまで、数百メートルはあったと思う。

 つまり今の俺は、数百メートル圏内の水を探知できる。

 

「血だって水の一種だろ」

 

 魔法の改造や開発なんて初めてだけれど、言ってる場合か。意地でも成功させろ。

 まずは、探知の復習か、ら?

 

「……?」

 

 なんだ、これ。

 

「わかる」

 

 サンのいる場所がわかる。なんとなくだけれど。

 体じゃない。あいつとの繋がりを感じる。この手から、あいつの首に向けて。

 

「……契約紋?」

 

 従魔契約を介して、場所が伝わってきている?

 でも、今までそんなことはなかったのに。

 

「どうでもいい」

 

 走れ。急げ。また、あいつがどこかへ行ってしまう前に。

 

 振り切るように走り続けて、たどり着いたのは大きな木の根元だった。

 

「サン」

 

 返事は、ない。ここにいるはずなんだけれど。

 やはり、勘違いだったか。そう断じようとしても、俺の中の一番深い部分がそれを否定する。

 

「……《サン》」

 

 あとで、あいつには怒られちゃうかな。

 まあ、仕方ないや。

 

「《出ておいで》」

「っ……!」

 

 そうして、木のうろから出てきたサンは、ドラゴンの姿に戻っていた。

 魔道具は一応つけていて、よかった、服をなくしてしまったとか、そういうわけではないようだ。

 ……いや、かえって良くないか。

 

「どうしてそんな格好をしているんだい?」

「……」

 

 抱き上げると、サンはいじけたようにそっぽを向いた。

 ……大きくなったな。前より、ずっと。ドラゴンの成長は早いんだろうか。

 

「《何か喋ってくれよ》」

「グルルルル!!」

 

 多分悪口を言われたことはわかる。

 

「なぁ、元の姿に戻ってくれないかな。どうしてここにいたのか、話がしたい」

「……グル」

 

 いやだ、と。

 

「《頼むよ》」

「ガッ、ガガッ!!」

 

 それじゃあ、強制だな。

 ……本当に、後が怖いなぁ。ご機嫌取りを考えておくとしよう。

 

「グゥウう」

 

 段々と、サンは人間の体に変化していった。

 金色のドラゴンは、肌色の女の子に変化して……と、あ。

 

「ああ!? ごめ、ごめんね!? そういえばそうだったね!? 服を着るまで裏を向いてるから、できれば逃げずにそのままいてくれると」

「うるさい」

 

 普段なら、怒って不機嫌になっているような場面だろう。

 けれど、今のサンは違うようだった。

 

「……サン?」

「ちょっとでいいから。このまま、ここに居てくれ」

「……わかった」

 

 彼女が服の裾を掴んだ。

 後ろを向いたまま、互いに背合わせで体重を預けた。少しすると、サンも服を着始めたようだった。

 

「……」

 

 それが終わっても、彼女は何も語らなかった。

 

「サン。どうしてこんなところに隠れてたんだ?」

「……わかんない」

「そっか」

 

 わからないと言うのだから、それはわからないのだ。誰にもわかることがないのだ。

 

「ちょっと、一人になりたかった。でも、ご主人がこんなことするから……ロリコン野郎が……」

「酷い言いがかりだ」

「見た目幼女を無理やり操って全裸にひん剥く鬼畜変態ごしゅ」

「オーケー、僕が悪かった」

 

 サンはいつも通りを装っていた。装っているだけで、それはいつも通りではなかった。

 そういえば、と。思い出したように、ソラさんから貰った魔道具を割ろうとして。今は、するべきでないと思った。

 

「……わかんないよ……一回話したら、離れ離れになるのが怖くなった」

「……そんなものさ。人間は。一人でいたいなんて思っても、結局独りは辛いんだ」

 

 孤独は人を蝕む。本人が気づいていなくても、その心を錆び付かせていく。

 つまり何が言いたいかって、サンは今そういう状態なんだろう。

 

「サン、見ろ。今夜は、月がきれいだ」

「……死んでもいいってか?」

「ど、どういう?」

「……いや、いいよ……そうだよな」

 

 ひとまず、なんの脈絡もない雑談から始めようと思ったけれど……それも気に入らないようだった。

 

「俺の世界の言葉なんだよ。月がきれいですね、って、そしたら死んでもいいわ、って。なんでそうなるのかはわかんないけどさ。互いに、好きだって伝えてるらしい」

「へぇ。随分奥ゆかしい表現だ。素敵だね」

「そうかな。俺は……少なくとも、月は嫌いだ」

 

 サンは何か懐かしむように、仰向けになって空に手を伸ばした。俺もそれに隣あった。

 

「この世界でも太陽は一つだけど、月はそうじゃないだろ? いくつもある」

「サンの世界では違ったの?」

「うん。だから……ここはお前のいる世界じゃないんだって、そう思わされて。それが、嫌いだ」

 

 ……ああ、そうか。

 なんで気づかなかったんだ。

 

「さっきので、もっと嫌いになった。ここに俺の言葉を理解してくれる人はいない。思い出を理解してくれる人はいない」

 

 普段の明るい様子に、隠れていただけだ。

 彼女は一度死んでいる。故郷を失っている。帰れるかわからないそこに、残してきた人たちがたくさんいる。

 そんなの、当たり前に寂しくて悲しいに決まっている。

 

「……多分、死んでも誰も気づいてくれない」

 

 彼女は十四歳の、普通の子供なのだ。

 

「僕が悲しむよ。ソラさんも。ニィナさんも。もしかすると、レインさんやスノウだって」

「そうかな」

 

 あいつと重ねてしまったせいで、気づかなかったんだ。

 結局、俺は。まだ過去に囚われているだけだ。

 

「……世界を滅ぼすバケモノがいなくなったら、普通嬉しいんじゃないかな」

「……」

 

 あまり驚きはしなかった。気づいていないだけで、自分の中で結論は出ていたのかもしれなかった。

 サンの中で、何かが決壊するようなきっかけ。それはきっと、そのくらいしかなかった。

 

「ごめんな、黙ってて」

「いいよ。俺のためだろ。逆なら、俺もそうする」

 

 彼女は、なんだか諦めたように笑っていた。腫れ物のような笑顔だった。

 彼女にはひどく似合わないものだった。

 

「……正直さ。それで殺されるのに、納得なんてしないよ。でも、でもさ……もし本当に、俺が世界を滅ぼすなら……俺がいなくなったら、実はみんな嬉しいんじゃないかって」

「そんなことない」

 

 その顔をさせておくのが嫌で。

 

「そんなことないよ」

「……悪い。今のは、ずるかった。そう言って欲しかったんだ」

「サンを殺すくらいなら、こんな世界滅んだって構わない」

「……はぁ? す、すごいこと言うなご主人」

 

 本音だ。どうでもいい。

 ああ、ニィナさんや師匠、他にも死んでほしくない人はいるけど……でも、その人たちが生きていてくれるなら。世界なんて、そんなに大事なものではない。

 

 ……ああ。あいつには、嫌われちゃうかもな。こんなセリフ、らしくない。

 

「ダメだろ。大切に思ってもらえるのは嬉しいけど、おんなじくらい思い合ってる人が世界にはいるんだぜ?」

「……」

「だからさ。その時は、ご主人が俺を殺してくれよ」

 

 けれど、こんなにも傷ついた子供を放っておくのも違うだろう。

 

「そうなる前に、僕が君を止めるよ。見ろ、僕にはこいつがある」

「……はは。そうだな。じゃあ、この呪いは解かないままの方がいい」

 

 俺の手の甲の契約紋を首元に当てて、サンは沈むように笑った。

 この繋がりがあるうちは、生きていることに自信が持てる。そんな卑屈な笑顔だった。

 

「こんなものがなくても、変わらないよ」

「……そっか」

 

 本音なんだけれど。それがサンには、あまり伝わっていないようだった。

 

「本気だよ。だって……死ぬのは、嫌だろ?」

「……うん」

 

 サンは少し悩むように時間を置いて、はっきりと肯定した。何に悩んでいたのかはわからなかった。

 

「……なんかさ。いつのまにか死んで、気づいたらドラゴンの体で」

 

 少しずつ、少しずつ。ぽつり、ぽつりと、雨垂れのように、彼女は語り始める。

 

「その時さ。人に斬られかけたんだ」

 

 それがどれだけ、彼女の心を穿っただろう。

 

「その後、シェイプシフターに殺されかけた。わけわかんない呪いもかけられた」

 

 つい少し前まで、彼女は元の世界で安全に生きる学生のはずだった。

 なのに突然、家族とも友達とも引き離された。人生の全てを奪われた。

 

「それで、ご主人と会えてからはいいことが多かったよ。……でも、この体は正直、気持ち悪い。男なのに、女の体。どうしようもない嫌悪感みたいなのが、俺の中にあるんだ」

 

 右も左もわからない世界で、顔も名前も体も、全く別のものに変わってしまって。

 

「なのに、またウェイラに殺されかけてさ」

 

 なのに自分よりもずっとずっと強い人が、自分のことを殺しに来る。

 

「……怖いよ……」

 

 そんなの、怖いに決まってるよな。

 

「しにたくないよ……元の世界に帰りたい……元の体に戻りたい……」

 

 その体で元の世界に戻っても、果たして受け入れてもらえるのか。

 

 そもそも、元の世界に戻れるのか。

 

 いや、それ以前に。この世界で生きていくことすらできるのか。

 

「そう思うと……なんか、ちょっと。どうしようもない気分になって」

「ごめんな。気づいてやれなくって」

「……ううん。何も言わなかったのは、俺だし」

 

 彼女の頭を撫でた。嫌がられはしなかった。

 慰めてやりたかった。褒めてやりたかった。安心させてやりたかった。こんな方法しか思いつかなかった。

 

「……サン」

「……なんだよ」

 

 ……そう、きっと。俺には、こんなやり方しかできない。

 何度だって何度だって、同じ過ちを繰り返す。同じ最悪を繰り返す。

 なぜって俺は、それだけしか知らないから。

 

「大丈夫」

 

 根拠なんて、何もない。だけれど。

 

「俺、サンのことを死なせない」

 

 俺がそう決めたんだ。

 

「元の世界にも、元の体にも戻してやる。呪いだって、解いて見せる」

 

 それがサンにとっての根拠になれば、理由になれば。それでいい。

 

「約束する。君のことを、絶対に守るよ。俺の、命に変えても」

「……なんで、そんなに」

 

 ……君のことが、可哀想に見えたんだ。

 でも、今はそれだけじゃない。

 

「君の笑うこの日々が、俺にとって暖かなものだから。この温もりを失ってしまわないように、君の笑顔は絶やさせない」

「……ははっ。クッセー台詞」

 

 サンは馬鹿にしているわけでもなく。かと言って、鵜呑みにするわけでもなく。

 けれども、本気だと。そのことだけは伝わったらしい。

 

「……なあ、ご主人」

「ん」

 

 握った手を、少し強めに握り返された。いつもの彼女らしさが、戻ってきた気がした。

 

「今日はさ。このまま、寝てもいいかな」

「もちろん」

 

 きっとこの先にあるかわからない、彼女の甘えた姿だった。

 

「そんでさ。この世界の話をしてくれよ。なんでもいいからさ……寝れるまで。そうすれば、怖いのも少しマシになる」

「……そう、だな」

 

 どんな話がいいだろう。きっと、ワクワクするようなお話がいい。

 この世界もそんなに悪いものじゃないと思えるような、希望に満ち溢れたお話がいい。

 

「……」

 

 最初のうちなら、あれが当てはまるかな。

 

「……星屑の勇者様。僕の、一番好きな物語だ」

「うん」

 

 手を繋いだまま、話し始める。

 

「昔々、それこそ英雄が生まれるよりも昔の話。とある国に、勇者が生まれた。彼女の名は『ステラ』。平凡な家庭の出身で……」

 

 まるで、あの頃のように。

 

 

 

 

「そうして、勇者は仲間を集め……サン?」

「スゥ……スゥ……」

「……」

 

 ようやく寝ついた。

 よかった。このままだと、このお話の暗い部分に踏み込むところだった。まあ、そこからが本番なんだけれど。

 

「よし、っと」

 

 パリンと、魔道具を割った。きっと今頃、ソラが爆速で拠点に戻るだろう。

 

「ごめんよ」

 

 ギュウ、と握られた手をゆっくりと解いて、彼女を背負った。

 起こさないように、慎重に、シャボン玉に触れるように。

 

「ふん、ふーんふ、ふーん」

 

 子守唄を囀りながら、ゆっくりと森を抜けていく。

 途中現れた魔物から身を隠しながら、ようやく拠点に辿り着いた。

 

「戻ったか」

「はい。なんとか」

 

 サンを寝床に置いて、軽く頭を撫でた。

 無意識にうなされながら、強い力で押し退けてきて。ようやくいつも通りの彼女に戻ったと、安心できた。

 

「今日は、サンの隣で寝ます」

「そうか。……手は出すなよ」

「出しませんよ! 相手は子供なのに!」

 

 サンの眠りを妨げないように、小さな声で叫んだ。

 なんて事言うんだ、この人は。

 

「外に来い。少し話がある」

「……え?」

 

 ソラさんはそれだけ言って、そそくさと外に向かってしまった。

 ……えぇと……俺もかなり眠いんだけれど。それに、サンを放っておくのも。

 

「……ああ、もう」

 

 軽く書き置きをして、マントを彼女の手に握らせた。これで、少しの間は誤魔化せるだろう。

 

「話、か」

 

 一体、なんだろう。




昨日は実家の手伝いで更新ができませんでした。申し訳ございません。

今年の更新はこれで最後になります。年末、元旦or三が日はお休みをいただく予定です。
皆様におかれましても、残り短い時間にはなりますが良いお年をお迎えください。
来年も「TS従魔のダンジョン攻略記!」をよろしくお願いいたします。
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