TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

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月明かりの下で

 ソラさんに呼び出された俺が、最初にしたこと。それは。

 

「結局メシですか」

「いやぁ、なんか腹減っちゃってのぉ」

「そんな成長期みたいなこと言われても」

「なんじゃ? おい? 今ババアきっついなとか思ったか?」

 

 この手の理不尽には師匠で慣れているけど、ソラさんも中々だな。

 

「逆じゃよ、イリオス。逆に考えるんじゃ。妾は今成長期なんだと」

「はいはい、左様で。できましたよ」

「……うまいメシに免じて不問にしてやる」

 

 作ったのは芋とチーズを混ぜてカリッと焼いた、塩味の焼いたもの。以前作ってあったベーコンも使っている。

 

「うむ、悪くない。妾たち竜人好みの味じゃ」

「光栄です」

「しかしのぉ、イリオス。この料理は一つだけ足りぬものがある」

「……?」

 

 なんだろうか。まさか愛情とか言うんじゃないだろうな。

 失礼な。俺は一つ一つの料理においしくなぁれの魔法をかけている。あいつが教えてくれたんだ。

 

「酒が欲しい……!」

「はは……」

 

 見た目に似合わず、この人は成人女性。お酒も飲める年齢だったっけ。

 

「妾としたことが、切らしておったわ……この味で飲めんなど、ほとんど拷問じゃよ……」

「お好きなんですね」

「あまり酔えんがの。おヌシは()らんのか?」

「僕は、お酒は少し……」

 

 ほとんど飲んだこともないけど、あまりあれは好かない。

 そもそも、俺にとっては別段なくても困らないものだ。

 

「勿体無いのぉ……その歳で……ぬ? 待った、おヌシいくつじゃっけ?」

「十七です。今年で十八になります」

「かぁーっ!! 若い若い!! の割に老けておる!! 二十歳は超えてるかと思ったわ!!」

 

 は、二十歳は超えてる……そんなふうに見えるかな。

 今はいいけど、そのうち師匠くらいの年齢でも三十路に見られるようになっちゃうんじゃ。

 

「なるほどのぉ。そうなると、むしろ飲んだことがある方が珍しいな。この国では、一応合法じゃがの」

「……師匠に飲まされたんです」

 

 っと、これは人聞きが悪いか。

 

「十六の誕生日に、僕の生まれ年のお酒をくれました」

「そうだったのか」

「不器用な人ですよ。わざわざ、僕にはわからないように」

 

 あとで店主さんが、師匠が用意したものだと教えてくれた。

 翌日その人の頭頂部にたんこぶができていたのは、言うまでもないことだ。

 

「……まぁ、安心しろ。殺しはせんわ。だが、傷つける覚悟だけはしておけ」

「……はい」

 

 師匠は俺程度で傷つけれるほど弱い人じゃない。というか、むしろ反撃が恐ろしいかな。

 「師に手を挙げる出来の悪ィ腕は要らねェだろ?」とか言って捥いできそうだ。うわ、我ながら言いそう。

 

「どうした? 顔色が悪いぞ」

「い、いえ……は、話を変えましょうか……」

 

 リアリティがありぎて想像なのに殺されると思った。

 さすが師匠だね。刻まれたトラウマの量が違う。

 

「う、うむ……?」

「……あ、そ、そうだ。そういえば」

「ぬ?」

 

 サンの居場所がわかった理由。

 あいつとの繋がりを、従魔契約を通して感じた。

 

 けれど、これは今までになかったことだ。一体、どうして。

 

「ふむ。修行の成果が出ておるのぉ」

「それで説明がつくんですか……?」

「当然じゃ。ヌシとサンは従魔契約を通して、魂で繋がっておる。魔法的にな。それを感知したのじゃ」

「魂……」

 

 遥か太古の時代、その存在は否定された。けれど今では、再び議題として机上に持ち上がっている。

 

「ソラさんは、魂を信じますか?」

「……妾は篤学者ではないからのぉ。象牙の塔の住人よりも、魔窟に籠る探索者の方が性に合うておる」

「その割には、博学ですけど」

「時間は悠久に近くあったからの。暇つぶしじゃ。色々なものを身につけた」

 

 ソラさんのレシピに書かれていたのは、料理だけじゃない。

 探索者としての知識。様々なモンスターの弱点や特性、構造。俺が知らないものもあった。

 

「ま、そんな妾の浅見でよければ話すがのぉ……妾は、あると信じておるよ」

「……」

「そうでなければ説明できない事象が多い。固有魔法や、あるいは……あやつだったりの」

「あ……」

 

 転生。魂を別の世界から運ばれてきたサンは、成程、魂なしにはその存在を証明できない。

 

「……そっか」

「ま、それはそれ。輪廻転生や浄土があるかは別の話じゃ」

 

 浄土。言い換えるなら、こちらは穢土。

 

───なんだか、随分とこの世界が嫌いな人が作った言葉だとは思いませんか?

 

 ああ。確かにな。

 

「……どこを見ておる」

「え」

「今、おヌシが守るべきはサンじゃろう?」

「……!」

 

 心臓を、鷲掴みにされたような気分だった。

 

「過去に何があったかは知らん。だが、おヌシがサンを守ろうとしているのは確かじゃ。妾はそれを信じることにした」

「……」

「……その瞳の奥に、たとえ誰が映っていようとのぉ」

 

 そこまで、見抜かれていたなんて。

 

「ソラさん」

 

 疑念は、確信に変わった。

 

「サンがあの話を聞いていたことに、気づいていましたね?」

「ほぉ」

 

 まさか言い当てられるとは思わなかった。そう言いたげに、ソラさんはわかりやすく驚いてみせた。

 

「なぜそう思った?」

「察しの良さ。……も、ありますけど。どちらかと言えば、竜人としての能力です」

 

 竜人族は魔力が高く、体が頑丈で、五感が鋭敏だ。人間の上位互換と言ってもいい。

 その体をまだうまく使いこなせていないサンは、ある程度近づかないとあの話を聞けなかったはず。それなら、ソラさんは気づいて然るべきだ。

 

「僕のことをそこまで見抜いていたソラさんが、サンの気持ちを汲み取れないはずがないから」

「……ふむ」

「なぜですか?」

 

 サンは、まだ子供だ。今日の一件で、一層強くそう思うようになった。

 何かを知る権利は、皆等しく持ち合わせている。けれども何も知らない権利を持つのは子供だけ。庇護されるべき、あの子だけだ。

 

 そんなサンに、全てを伝えて。それを利用して何かをしようというのなら、たとえソラさんが相手でも。

 

「のぉ、イリオスよ」

「っ……!」

 

 気丈に、睨みつける。

 

「すまなかったのぉ」

 

 否、睨みつけた、のだけど。そんな行動が、空回りしてしまったように感じられて。

 

「おヌシのことを、疑ってしまって」

 

 思い出すのは、初対面の時。ソラさんに刀を突きつけられたその時だ。

 

「……いえ。その話は、もう」

「そうではない」

 

 ソラさんは懐から何かを取り出した。茶色と銀の、質素な管。煙管だ。

 

「良いか?」

「……はい」

 

 一口。スゥ、と吸ってから、フゥ、と吐いて。ソラさんは思い出すように語った。

 

「これから見せるものは、他の誰にも伝えることは許さぬ。良いな?」

「え……」

 

 月の一つに煙が差し掛かったあたりで、ソラさんはこちらを見て笑った。

 着物を解いて、胸元のあたりを僅かに見せた。

 

「見えるか?」

 

 そこには、小さなアザがあった。

 

「かつて人間によって付けられた呪いじゃ。最早効果もなく、形を保つばかりだが」

 

 それどころか、形すら消えかかっておるがの。笑い飛ばしながら彼女は、再び魔法でそれを包み隠す。

 

「妾自身、幼き頃は攫われかけたこともあった。騙されたこともあった。幾度となく、この体は狙われ続けた」

「……」

「竜人は希少価値が高い。救国の英雄の孫として庇護され、国に守られていた妾ですら狙われるほどに、の」

 

 着物を正して、ソラさんは次の料理に手をつけた。

 

 ……塩っぽいものとタバコって、合うんだろうか。俺は吸わないからよくわからない。

 場にそぐわないけれど……いや、場にそぐわないからこそ。誤魔化しをするように、そんなことを考えてしまった。

 

「かかかっ! なんという顔をしておる! 小童が、一丁前に妾の心配か?」

「その……」

「構わん構わん。妾が勝手に見せただけじゃしのぉ……それに、それで人間を嫌ったことなどないわ」

 

 煙管から灰の塊を掌で転がして、それを潰して空に舞わせた。慣れた手つきだった。

 

「レインやスノウ。老人から幼子まで。この国に生きる皆、大好きじゃ。……だがのぉ……それでも、サンが騙されているのではないかと疑っておった。今まで、ずっとの」

 

 疑われていた。そのことに、あまりショックは抱かなかった。

 

 初対面が初対面だったから、それもあるだろう。

 けれど、それ以上に……今でこそこんなにも強い彼女が過去に受けたものを考えると、そうなるのも、まあ仕方ないかと。そんな気がしたのだ。

 

「なにせサンは、あー……頭もあまり、強い方ではないというべきか……」

「はは……純粋、ですよね」

「おぉ、いい表現だのぉ!! 純粋! そう、純粋なのじゃ! ……だから、の。同族として、心配しておったのじゃ」

 

 それは結局間違いだったらしい。

 

 確かに、従魔契約を結んでおいてなんらやましいことはありません、だなんて、疑わしいにも程がある。

 サンくらい馬鹿……えぇと、純粋。なら、尚更ね。

 

「じゃがこの一週間、おヌシを見てきた。ヌシは善良だった。悪意で人を騙せるほど小器用なやつでもないからの。おヌシはただ、ただサンと共にそこにあった。……あやつの不安を、見事解きほぐしてみせた」

「……」

「妾はおヌシを信じ切ることができた。だからこそ、謝らせて欲しかったのじゃ。すまなかった、と」

 

 つまりは。サンにわざと、あの話を聞かせたのは……俺を見極める為だったと。そういうことらしい。

 でも、だとすれば……節穴にも程がある。

 

「……そう、見えますか?」

 

 夜は感情的になりやすい。副交感神経が優位になるからだ。

 だから今俺が抱くこの感情も、決して平静の下にあるものではない。

 

「何が言いたい?」

「あいつは確かに、僕を信じています。でもそれは、あいつから見た僕がそう見えるから、でしかない」

 

 だから、何が言いたいかって。こんなこと、話すつもりはなかったんだ。

 

「……多分、この世界で頼れる人が……僕しか、いなかったから。信じるしかなかった」

「……ふむ」

 

 ソラさんは弱みを見せた。俺も弱みを見せないと不公平だと思った。

 そんな理由もあったかもしれない。

 

「俺は……俺は、誇れるようなやつじゃない……それなのにあいつは、信じてついて来てくれる」

「難儀じゃのぉ、おヌシも」

「へ? うわっ!?」

 

 体に、衝撃が走った。地面に転がされたのだと、夜空を見上げてわかった。

 

「難しく物事を考えすぎじゃ。おヌシはサンを助けようとしている。それで十分じゃろう」

「……」

「あやつに頼られるばかりの存在になろうとするな。あやつのことを、少しは信じてやれ」

 

 随分、難しいことを言ってくれる。

 

「……サンはまだ、子供ですよ」

「妾から見ればヌシも同じじゃよ、小童」

 

 頭の裏を掻きながら、起き上がる。

 

「悩むのは若者の特権じゃがのぉ。少しは馬鹿になれ。一人で抱え込むな」

 

 ……ああ、そっか。俺はまだ、思い違いをしていた。

 あの話を聞かせたのは、サンのためじゃない。

 

「それも難しければ妾にくらい話せ、阿呆。こういう時こそ年寄り扱いをしろ」

 

 俺のため、だったのか。

 

「……ごめんなさい」

 

 それでもやっぱり、こんな話はできないよ。

 

「それでも、これは言えません」

 

 俺は……。

 

「他の誰にも、言うつもりもない」

「そうか」

 

 ソラさんは、突然構えた。

 

「来い」

「……ど、どういう?」

「おっと、抱擁ではないぞ? 生憎それはしてやれんのぉ。じゃが、霧を晴らすくらいはしてやれるわ」

 

 いや、それはわかっているけど。どうして、いきなり?

 

「いつまでも若人を悩ませておけるか。先の話を聞いても話せんなら今はそれでも構わんわ。代わりに、軽く揉んでやろう」

 

 ……つまりは。いつまでも悩んでおくくらいなら、体を動かして寝てしまえ、と。そういうことらしい。

 

「ま、明日からは新しい修行に入るしほどほどにのぉ。ほれ、二度も言わせるな。妾は準備万端だぞ? 頭の中が空っぽになるまで付き合ってやる」

「……ありがとうございます、ソラさん。胸を貸してもらいますね」

「……あァ?」

「へ?」

 

 あ、あれ? なんだか、思ってた反応とは違うような?

 

「なんじゃ、貴様……! 胸がなんじゃァ!!」

「は!?」

「あんなものなくたって授乳には困らんわ貴様ァ!! ふざけおって!! どうせ垂れるだけの運命じゃ!! 妾はまだハリがあるけどのぉ!!」

「聞いてませんよ誰も!!」

 

 ちょっと待った、この表現ってひょっとして共通語じゃなかったり……!? 向こうの大陸では普通に伝わるのに……!!

 

「上等じゃ小僧ォ!! 元気が出たようでなによりじゃのォ!? ぶち転がしてやるわ!!」

 

 つくづく、俺ってやつは。間が悪いというか、なんというか。

 

「ちょ、誤解です!!」

「問答無用!!」

 

 ああ。でも、なんというか。

 

「あぁーっ!?」

 

 ちょっと、ありがたいや。

 

 

 

 

 朝、か。昨日は、久々によく眠れたな。

 ……なんか、寝る前にスゲー恥ずかしいこと言った気がする。

 

「……ん?」

 

 あれ、手……握って、え?

 

「っ……!」

 

 まさかあの後もずっと、ご主人と手を……ご主人と……ご主人、と?

 

「誰だこれ」

 

 やっぱ違ぇや。誰だこの梅干し。

 

「ああ、サン。おはよ……なんで僕の顔に回復魔法をかけるのかな?」

 

 回復魔法は裂傷やアザ、腫れくらいなら治せる。大きな傷は無理だけど。

 試しにとかけてみると、だんだん腫れは引いていって。

 

「……あ、ご主人か。おはよ」

「どういうこと?」

 

 なんつーか、照れくさいな。あれどうよう、冷静になってみるとスッゲー恥ずかしい!!

 何がこのまま寝てもいいかだ!? いいわけないだろ!?

 

「えぇと、お嬢様。もうお手を外しても?」

「び、ビビデバビデブー!!」

「なんて?」

 

 よし、今ので全部記憶消ーえた! 否、消した!! 覚えてない覚えてない!! なんっにも覚えてない!!

 

「昨夜はよく眠れたかな?」

「覚えてない!!」

「えぇ……?」

 

 ああもう、それもこれも全部ウェイラのせいだ……! あいつ絶対許さないからな……!

 

「……まあ、今日も一日頑張ろうね。サン」

「あいよ、ご主人」

 

 照れ隠しがてら、ご主人と拳を合わせて朝の支度を整えた。

 ……まあ、おかげでかなり不安は紛れたかな。大丈夫さ。ご主人と一緒なら、きっと。

 

「……なんか遠いね?」

「気のせいだよハゲ」

「ハゲ!?」

 

 うるさい、ご主人なんてハゲだ。

 

「おぅ、なんじゃ。結局まぐわったのか。おめでただが、きちんと避妊はしておけよ」

「まぐわってないわ!!」

「まぐわってないですよ!!」

 

 開口一番にそれかよ。最悪なんだこいつ。

 

「年寄りの下ネタってえぐいよな。そんなんだから結婚できないんだよ」

「あ?」

「って、ご主人が言ってた」

「サン」

 

 ご主人とソラの二人からチョップを喰らわせられつつ、軽く伸び。

 朝食はフルーツクレープもどき。昨日の果物のあまりだ。魔法で冷やしておいた。おいしい。

 

「基本の体作りは及第点というところじゃのぉ」

 

 クレープを味わっていると、ソラが切り出す。

 

「ひゅふふぁふぃふぁ」

「飲み込め」

「んっ……及第点? んな強くなった気しないんだけど」

「いや、強くなっておるよ。試しに……ほれ」

 

 ソラが投げたナイフを、尻尾で弾く。それはそのまま木を通り越して、岩に深々と突き刺さった。

 

「以前までこんなことはできなかっただろう?」

「ふぁむ。ふぁふぃふぁふぃ」

「イリオス、おヌシは昨日ので実感できたから良いじゃろ?」

「は、はい」

 

 飯を黙々と食い進めていると、横でご主人がブルッと身震いをした。なんだろ。真っ赤だったのと関係があるのかな。

 

 ……そういえば昨夜、微睡の中で「来い」とか「準備万端」とか、「空っぽになるまで……」とか、あとご主人の嬌声が聞こえてきた。

 

 すけべしたんだろうなぁ。こいつらすけべしたんだ。

 

「すけべしたんだ」

「このたわけは何を言っておるのじゃ?」

「僕にもわかりません」

 

 ソラからさらに一撃チョップを食いつつ、飯も食らう。両方やらなくちゃいけないのが俺の辛いところだったりは別にしない。

 

「ともかく、じゃ! 今日から、必殺技の修行に移るぞ!」

「おお! ついに!」

 

 やっとか。基礎修行は結構辛かったけど、これでようやくマシになったりするのかな。

 

「必殺技の開発って、具体的に何するんだ?」

「んー、そうじゃのぉ……まあ、簡単に言うと」

 

 ソラは、悪巧みをするようにニンマリと顔を歪めて。

 

「ダンジョン攻略。魔道具集め、じゃの」

 

 次の修行内容を俺たちに伝えた。




新年、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

そのうち新年イラストをTwitterで投稿する予定です。
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