TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

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空白の記憶

 次のダンジョンは、少し遠くに見える魔窟が大きくなっていた。

 

「……つくづく、不思議な感じ。タイムスリップでもしたみたいだ」

「あはは……できるとしたなら、それこそ神話級の代物だね」

「この世界でも無いの? 過去に戻る魔道具とか」

「うん。というより、過去や未来という存在は研究によって……と」

 

 なんだか難しそうな話をしそうな雰囲気だったので渋い顔をすると、ご主人は苦笑いして話を取りやめた。

 興味ないわけじゃないけど、今は頭使いたくないや。

 

「……よし、設置終わり」

「よしゃ。次行くか、ご主人」

「うん」

 

 俺たちは、一々空を飛んで移動するのをやめた。

 この過去を再現しただけの世界に、敵意と害はない。無駄に体力を消耗する必要はないと考えたのだ。

 

「……わ。わあっ」

「ん?」

 

 すれ違った人たちから、聞き覚えのある声。

 

「勇者様っ、勇者様っ。私、ちょっと、行く」

「あ、おい」

 

 とたとたと足音をと当てて、こちらまで近づいてきて。

 

「久しぶり。久しぶりっ」

「……俺たち?」

「うん。回復魔法、くれた人。あと、お肉。おいしかった」

「っ……!」

 

 どういうことだ。なんでこの子に『その記憶』がある。

 俺たちは実際に過去に戻ってるわけじゃない。あくまでここは、現在の魔窟。

 ダンジョンごとに、違う時間を再現してる。それだけの話のはずなんだ。

 

「……そういうものだ、としておこう。考えてもしかたない」

「……そうだな、ご主人」

 

 どちらにせよ、俺たちに不都合であることに違いない。

 

「えぇと、久しぶり! 元気してたか?」

「げん、元気。勇者様、私、拾った。今、とっても楽しい」

「……そっか」

 

 あどけない笑顔で、ソラは身振り手振りで語った。

 ああ。よかったなぁ。俺もソラも、ツイてはないけど……最悪じゃないよな。まだ。

 

「おぉなんだ。知り合いかい、がきんちょ」

「うん! 名前……えと、名前……」

「……えぇと。さ……だ……『さだこ』」

「リースとサナです!」

 

 名前を知られるのは、なんとなくまずい。頓珍漢な偽名を使いかけたところで、ご主人が慌てて修正を入れる。

 

「変わった名前してんなぁー。……ははぁ。あれかい。向こうの大陸から渡ってきたクチかい」

「え、えぇ。妹を家に残していまして」

 

 ご主人が話してる間、ボロを出しかねない俺はソラと見つめ合う。

 尻尾が気になっていたようなので、右に。目線を右にやったので、今度は左に。

 右。左。右。左。ぐるぐる。

 

「わ、わ」

 

 目を回して、ソラはこてんと倒れた。

 ……何この子。愛おしい。

 

「おにーさんと遊んでようか」

「……? おねーさんじゃないの?」

「あ……そうだよなぁ」

 

 どうしようもない事実を突きつけられて、ガクンと肩を落とした。

 いい加減、性別くらい元に戻りたい。その、色々。最初の頃に比べて慣れたとはいえ、色々大変だから。風呂とか、トイレとか。

 

「ごめ、ごめんね。サナ、落ち込んでる?」

「いや、なんでも……そうだな。空中鬼ごっこでもしようか」

 

 修行の一環で生まれた遊び。ご主人は刃を潰した《スター・トレイル》、俺は空を飛んで鬼ごっこ。

 両者共に、いい訓練になった。

 

「空中……私、空……飛べない……」

「そうなのか?」

「ん……」

 

 ピラ、と、ソラは翼を見せた。

 ボロボロで、壊れかかっている。穴が所々空いていて、これでは空は飛べない。

 

「……」

「ごめん、ね……?」

 

 どうしようもなくなって、ソラの頭を撫でた。

 ご主人も、こんな気持ちで俺を撫でてるんだろうか。だとすれば心外だけど。

 

「大丈夫! 絶対飛べるようになっからな!」

「そうなの……?」

「おう! 思い描いた空を飛ぶんだって、あー……俺の、師匠みたいな人が言ってた!」

「思い描いた、空……」

 

 ふと、肩に手を置かれた。そろそろ行こう。という、合図だった。

 

「じゃあな、ソラ!」

「うん、うん。また、またね。……あれ……なんで名前、知ってるの……? おしえて、ない」

 

 手を振って、少し離れて。すぐに、ダンジョンの外に出る。

 すると、ご主人が。

 

「サン。あまり、深入りしてはいけないよ」

「……わかってるよ」

 

 途端にそんなことを言い出すもんだから、少しむっとしてみせた。

 言いたいことはわかるよ。ソラが記憶を保ってるなら、それはソラの本体だってそうかもしれないし。他の過去の人たちもかも。

 

 でも、だからってさ。

 

「あの人たちにとっては、今生きてることに変わりないじゃん。なのに無視とかは、なんか……あんまりだろ」

「……優しさは、君の美徳だけどね」

 

 ご主人は、困ったように後ろ髪を掻いた。ウェイラと同じ癖。

 

「今回、何かあったら僕ではサンを守れるかわからない。偽物のあの人たちに比べたら、今生きる本当の君を大事にしたい。ソラも、スノウもだ。その気持ちは、わかってくれるかい?」

「んー……」

「いじけないでよ……」

 

 久々に厳しめのご主人だーい……言ってることは正しいんだろうけど。

 今に終わる偽物の命でも、今を幸せに生きてほしいって気持ちが強い。

 

「ま、あんま余計なこと言わないとかの善処はするよ。もう関わっちゃったんだし、変に疑われても困るだろ?」

「……そうだね」

 

 後付けだけど。

 

「そういやご主人。さっきなんだっけ、あの、勇者? と、何話してたの?」

「情報収集。今後のダンジョンもあんな感じなら、情報は欲しいだろ?」

「ははぁ、確かに」

 

 干し肉を噛みながら、ほへぇと感心。俺じゃ情報収集とか難しいからな。

 

「なんかわかった?」

「簡単な常識。それと、あの時代でもすでに魔王が発見されていることくらいかな」

「へぇ……ってことはすでに封印も?」

「いいや、それはまだだ。あれらは魔王のダンジョンが広がった結果。計画としては、すでにある」

「なるほどな」

 

 相槌を打っていると、ご主人は一瞬言いづらような様子を見せて。

 

「そして、それがソラさんを拾った理由だ」

「……ん、どういうこと?」

「あの勇者はソラさんほど強くない。侵食現象は、一箇所への対処が限界。だから、自分と同じくらい強くなれる仲間を探していて……ソラさんに、才能を見出したらしい」

「ふーん」

「記念すべき、勇者パーティの一人目ってやつさ。……あまり素直に喜べないけれど」

 

 ご主人、子供には結構甘いからな。あの年頃の女の子を戦わせるのに、忌諱感があるのかもしれない。

 しかしソラ、しっかり才能はあったんだなぁ。

 

「と、そろそろ次のダンジョンだね」

「あーい」

 

 ダンジョンの境界線。そこに一歩、足を踏み入れて。

 

「っと、お?」

 

 目につく魔窟は、大きなものだった。今に比べれても、さらに。

 けれど、街並みはずいぶん古い。人は集まっているけれど、ど田舎。そんな感じだ。

 

「さっきより、少し先の年代かな」

「ふぅん……」

 

 もはや慣れてきた、人目につかないところまで移動して、魔道具をささっと。

 今度は見つからないように、こっそりと空を飛んで外に出た。

 

「ねぇ! それ、私の!」

「うぇ……お、悪い」

「あんた、子供の分まで食ってんじゃないわよ……」

 

 目についたソラには。たくさん、仲間が増えていた。

 勇者だけじゃない。なんか魔女っぽい人とか、明らかな脳筋とか、エルフっぽい人。他の奴隷っぽい獣人もいた。七人の集まり。

 おじいさんから若者まで、よりどりみどり。

 

「もういい。この後の探索、お前ご飯ナシ。当然の報い。全て私のもの」

「勘弁してくれよ……」

「ふぉっふぉ。ソラちゃんや、儂の分をやるよ」

「……食べ物で釣れるとふぉふぉふぁふぁふぃふぇ」

「じゃあ食うなよ」

 

 なんか、楽しそうだな。

 

「サン、くび……しまってる……くびが……!」

「……あ、ごめん」

 

 ご主人を持ち直して、再び次のダンジョンへ。

 

「今度のダンジョンは上かぁ」

「行けそう?」

「任せろって」

 

 空を飛び続けていると、どこかでそれ以上高いところへ行けなくなる。ずっと同じところを飛ばされてる感じ。

 それが、ダンジョンの切れ端だ。

 

「ってことは、この辺が天井で……」

 

 そうして周りを探すと、ダンジョンの外に繋がる場所がある。

 ダンジョンは異空間。よくよく考えなくても、かなりおかしいと思う。

 

「うん……うん、うん。よし」

 

 一応五種人の案内としては、次のダンジョンに直通のはず。

 

「よっと」

「サン、どうだい?」

「んー?」

 

 穴からひょこっと顔を出すと、いきなり前からネズミが。

 

「ぎゃわーっ!? 《ど、ドラゴンブレス》!!」

「サン!?」

「チュピィっ!?」

 

 小規模な火の玉はネズミの真横でボッと着弾して、脅しが効いたのか引き返していった。

 びっくりした。あのルートだと口の中直行だった。流石に生でネズミは食いたくない。

 俺は飯が食いたいんじゃない。うまい飯が食いたいんだ。

 

「よい、しょっと……ありがと、サン」

「あいよ……裏路地?」

 

 ご主人を引き上げてよくよく観察すると、そこは裏路地だった。

 で、俺たちが這い出てきたのはゴミ箱のすぐ側、と……。

 

「サン、すごい顔してるよ。フレーメン反応……?」

「不快……」

 

 くっさい。嗅覚も強い俺にはちょっときつい。後ここから出てきたって事実が嫌だ。

 ソラだって、そんなところまで再現しなくたっていいのに。

 

「もうかなり、街になってきているね。ちょうどいいし、魔道具はここに置こうか」

「えぇ? ここにぃ? 人来そうじゃね?」

「あまり人目にはつかないし、大丈夫さ」

「ほぉ? で、そこからどうするつもりじゃ?」

 

───言ってるそばから!

 

 って、言おうと思ったけど。流石にもう、びっくりしないかなぁ。

 

「ソラ」

 

 振り向くと、彼女は少し大きくなっていた。俺よりもちょっと背が高い。

 ……いや、俺だって前世だったら負けてねぇし。結構でかい方だったし。俺。

 

「む……なんじゃ、貴様。なぜ妾の名前をし、って……」

 

 俺としては、驚くことはそんなになかった。偶然か、運命か、何者かの意思か。俺たちとソラは、このダンジョンでよく出会う。

 代わりにと言わんばかりに、ソラは驚愕していた。

 

「サナ……それに、リース……なのか?」

 

 確認するように、恐る恐る問いかけてくるソラ。

 はて? サナにリースとな?

 ……どなた?

 

「あー、はい。そうです」

「あ」

 

 そっか、俺たちの偽名か。あっぶね、すっかり忘れてた。

 だってさ、あんまりいつも通りなんだもん。口調ももう今のになってるし。

 

「そう、か……そうか……!」

「うぇ、ソ、らぁっ!?」

 

 そんなことを考えていたからか。駆け寄ってきた彼女の体を受け止めきれなくって。

 

「会いたかったぞ……サナ……!」

「……そっか」

「あと一応リースも……」

「ついで!?」

 

 確かに何もしてないけどね。ソラの背中を撫でながら、そんな沈んだご主人の声を聞いた。

 

 

 

 

「そ、れ、で! あそこで何をしておった!」

「あぁと……なぁ……」

 

 とある一軒家にて。俺たちはソラに攻め立てられていた。

 豪勢な、立派な家だった。執事みたいな人何人かいたし。ちょっと、ラルウに似てたかな。

 

「なんでかっつーとな……」

 

 ご主人の方を困った目で見ると、彼は少し悩むそぶりを見せて。

 

「その、これを設置してたんです」

「……なんじゃ、これは?」

 

 あんまり素直に魔道具を差し出すもので、俺も少しびっくりしてしまう。

 ソラには見えないように、彼は口元に指を当てて、しー、とジェスチャーをした。

 

 ……なにそれ、あざとっ。イケメンじゃないと許されなさそうな動作。

 ずるい。俺もそういうのやって許される顔が良かったな。前世で。

 

「転移の魔道具です。ダンジョンの中に設置しておいて、万が一の時に使おうと。あまり人通りがあると、危ないので」

「ふむ……嘘は言っておらんの」

 

 すげぇ。嘘は言ってないけど本当のことも言ってねぇ。よくもまぁ、つらつらと。

 ご主人、その気になればヒモとかで食ってけそうだよな。ご主人用の罵倒の語彙に入れとこう。

 

「妾の早とちりだったか……その、悪かった……」

「いえ、こちらこそ紛らわしいことを」

 

 先走り癖は、今と変わらないんだな。ソラ。

 ……やっぱりこの黒い髪の人も、ソラ。俺たちが見てきた、ソラ・シーカー。ってことで、いいんだろう。

 

「しかし、行いは感心せんのぉ。最近ではその手の規制も厳しいんじゃぞ?」

「そうなの?」

「うむ。魔王は鎮んだ。魔窟も安定を見せている。故にこそ、次に恐れるべきは人、というわけじゃな」

 

 あ、難しい話だこれ。俺知ーらね。

 

「故にこそ、お国も妾を《救国の英雄》として任命したのだろう。象徴というわけじゃな」

「あ、英雄?」

「む、知らぬか? 結構、有名人になったつもりだったんじゃが……」

 

 ソラは気まずそうに頬を掻いた。

 しまった、思ったことがそのまま口に出ちまった。もう英雄になってたのか、ソラ。

 

「おかげさまで翼もほれ、この通り。もう亡き勇者から貰い受けた「シーカー」の家名を背負い、今では《救国の英雄》などと持て囃されているよ」

「へぇ、え?」

「妾が奴隷であったことを知る者など、ほんの一握りじゃろうのぉ。もう紋様も消えたもんな」

 

 いや、それはいいよ。割と知ってたし。

 そうじゃなくて、今。

 

「勇者様……亡くなられて、いたんですか?」

 

 俺に代わって。という、わけでもなく。彼自身の疑問に従って、ご主人が問いかけた。

 

「……知らなかったか」

 

 ソラは、寂しげにその表情を陰らせて。

 

「二十年前だったかの。逝ったよ。寿命じゃ。人の身の、脆いことよな……」

「え……」

「共に魔窟を封じたのも、もう百年以上前の話か。昨日のことのように思い出せるわ」

 

 百年。百年って、そんなに経ってたのか。

 でも、なのに。ソラ、全然姿が。

 

「……どいつもこいつも。妾のことをおいて、先に逝きおる」

「だから、口調……」

「……この、話し方な」

 

 ああ。やっとわかった。

 さっきのソラの反応の意味が。

 

「共には老いれぬ身。せめて、精神(こころ)だけでも……そう、思っていたんだが。あまり意味はなかったのぉ」

 

 あれは、単に昔助けてくれた知り合いを。俺たちを見つけて、喜んでたわけじゃない。

 

「だから、の。理由はわからんが、姿の変わらぬおヌシらがいる。たとえこれが妾の幻覚でも、それだけで嬉しいよ」

 

 まだ生きている。老いない俺たちを見て。だから、喜んでいたんだ。

 

「……幻覚じゃない。ちゃんと、ここにいるよ」

 

 ソラの手を握って。俺の存在を、よりはっきりさせてみせた。

 すると彼女は、ポロリと涙をこぼして。

 

「ふふ、いかんな……年甲斐もなく、涙が出てくるわ。……まだまだ、未熟じゃのぉ」

 

 そんなソラの姿は、見た目相応……いや、見た目よりもずっと小さな子供に見えた。

 

「しかしそうなるふぉ、リースの方はなぜ老けておらんのじゃ?」

「えぇとね、んー……なんでだろうな」

「よ、よくわかっとらんのか!?」

 

 竜人の寿命は、長い。ご主人と調べてみたら、だいたい数百年。千年は生きない。

 でも、ソラはまだ。生きてる。

 

「ふふっ……そうかそうか! 妾とお揃いだのぉ、二人とも!」

 

 なんとなく、わかった気がする。

 ソラがなんで、こんなことをしているのか。何を忘れていたのか。

 

「……」

「どうかしたか? サナ」

 

 きっとこれから、彼女は。何度も、出会いと別れを繰り返す。

 何度も、何度も、何度も、何度も。終わりの見えない命を続ける。

 

「……いや。なんでも!」

 

 その引き裂かれるような痛みが、ソラの人生の空白なんだ。

 

「そうか!」

 

 このままダンジョンを渡れば。嫌でも、知ることになる。

 ……きっと、ソラを連れ戻すためには。知らなきゃいけないことだ。




急用につき更新が遅れてしまいました。
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