TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

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鎧袖一触

 二つの炎は、圧倒的に格が違っていた。

 片方がより弱い方を飲み込み、喰らい、焼き尽くす。どちらがどちらの放ったものかなど、言うまでもないことだ。

 だが、それでいい。サンが炎に飲み込まれる直前。

 

「っ……」

 

 別のダンジョンに、景色が切り替わる。炎は消失し、現れるは巨大生物。

 

 キングワーム。現存するワームの中で最大の種。

 イリオスたちが相手取ったグランドワームよりもさらに巨大、そのサイズは一口で小規模な集落を丸呑みするほど。

 この魔窟に出現して以来、十年間討伐されていない化け物だ。

 

「転移の魔道具か」

 

 無論サンたちも脅威にさらされるが、野生の本能はソラの危険性を理解し、彼女らを歯牙にも掛けない。

 

「考えたのぉ」

 

 遠方にキングワームを発見して、ソラは。

 

「《暴風襲来》」

 

 周囲に、暴風を吹かせた。

 

「《乱流集気“縮”》」

 

 ぱったりと止んだそれらは、全てソラの指先の上に乗り。

 

「風魔法。《一天執誅(フォース・フォーカス)》」

 

 発射。後に、キングワームは、消滅した。

 

「で?」

「っ、次だご主人ン!!」

 

 サンとて、予想してなかったわけではない。予想していなかったわけではないが、これはあまりに。

 これだけ隔絶しているなどとは、予想できても目の当たりにしては。

 

「また景色が切り替わったな」

「それが僕たちの作戦ですから」

 

 動揺するサンに変わって、イリオスが仕掛ける。

 

「ふむ」

 

 一瞥、のちに尾で体を切り裂く。

 イリオスの姿は、上半身と下半身で真っ二つに別れ。

 

「《蜃気楼(デイ・ドリーム)》」

 

 それは、水に投影されただけの映像だ。実際のイリオスはその場におらず。

 

「《スター・トレイル》」

 

 潜ませた刃にて、ソラの体を切り裂かんと魔法を行使。

 衝突。同時に、鈍い金属音。ソラの体には、傷一つなく。

 

「無駄じゃ」

「どうですかね」

「《飢竜》」

 

 直後、刃が輝いたのをソラは見逃さなかった。

 しかし。

 

「《集雷拳》!!」

 

 それはそれ。たとえ見えていたとして、不可避の一撃。それすなわち、不可視と変わらないだろう。

 サンの切り札。ウェイラにさえ通用はした、下剋上の一撃。それを受けて、ソラは。

 

「いったいのぉ」

 

 ほとんど、無傷。

 今のサンの雷魔法は、あのグランドワームを一撃で葬れる威力。

 だというのに、ウェイラといいふざけるなと、サンは地団駄を踏みたい気分だった。

 

「やはり、厄介なのはおヌシの方か」

 

 姿が消えて見えるほど速い飛行。瞬きの間すらなく、ソラはサンの元まで移動する。

 

「ぐ、ぅ……!」

 

 そして、彼女の鳩尾に拳をめり込ませ。

 

「二回目、だぜ……! 腹パンばっかしやがって、DVかっつーの……!」

 

 しかしサンは、悪態をついてみせる。

 彼女の反撃をあしらいながらも、ソラは少々驚いていた。

 

 以前までのサンならば、今の一撃で気絶させることができていたはず。彼女の頑丈さとタフさには目を張るものがあったため、定かではないが。

 いずれにせよ、血反吐程度は吐かせるつもりで殴った。内臓破裂で済ませてやるつもりだった。

 しかし現に彼女はこうして、反撃に転じてみせている。

 

「お粗末なもんじゃ」

「のやろッ」

 

 もう一撃、加えてやろうか。拳を握ったところで、景色が入れ替わる。

 

「ほう」

 

 同時に、サンも遠くに離れていた。なるほど、転移の魔道具の狙いは三つ。ソラは内心納得する。

 

「第二ラウンドぉ……!」

 

 一つ。転移による状況のリセット。

 体のダメージは消えないが、複数箇所に設置した転移の魔道具により三人の居場所を変えることが可能。

 イリオスだからこそできる芸当。サンによる転移は発生し得ない。

 

「厄介な」

 

 二つ。魔法への対策。

 中途半端な魔法では、届くよりも先に転移で自分たちだけ移動させられる。魔法はダンジョンに取り残されるのみ。

 速度を上げれば使えるが、そもそもソラはサンたちに魔法を使うつもりはなかった。

 

「グルルルァアアアアアアッ!!」

 

 三つ。戦力の外付け。

 超スピードで迫る蛇のダンジョンボスを吹き飛ばして、その結論に至った。

 今も尚、自分とサンたちの戦力差は大きい。せめてあと百年は修行して来いという話だ。

 だからこそ、他の魔物の力を利用して自分の体力を削るつもりなのだ。

 

「舐められたものじゃな」

 

 だが、その程度で。

 

「《ヴォイド・ストリーム》」

 

 真空波によってダンジョンの全てを崩し、削る。瞬間的に、現在のダンジョンは崩壊した。

 足場がなくなれば、少なからず動揺する。その隙をついて、距離を詰め。

 

「……」

 

 再度発動する転移。

 ソラが狙っていたのは、その瞬間だ。

 

「おヌシはいつも優等生じゃのぉ」

 

 褒めながらも貶し、イリオスに攻撃を仕掛けた。

 イリオスはサンほど頑丈ではない。このまま殴り抜ければ。

 

「《圧縮型》」

 

 刹那。目の前に立っていたのは、口をいっぱいに膨らませたサンだった。

 

「《ドラゴンブレス》ッ!!」

「ぬ」

 

 迸る熱線。流石のソラもノーダメージとはいかない。

 翼でガードすると同時に、簡単な水魔法を展開。水球を出す程度のそれは爆ぜ、サンへのカウンターとして機能する。

 同時にソラは、再度の転移で立ち位置の入れ替えが行われたことを理解した。

 

「予想内」

 

 その際生まれたガードの隙間を、高速回転させた《スター・トレイル》が切り裂く。薄皮一枚程度だが、今度は手傷を負わせた。

 直後、ダンジョンボスが飛来。腕の代わりに翼を持つ、ワイバーン。

 

「竜種の成り損ないが」

「ルゥ!」

 

 言葉を理解してはいないが、罵倒されていることを理解し、怒りと共に高速で突っ込む。

 風の魔法を使い、流体を貫く形に適した肉体は亜音速に近いスピードを発揮する。

 

「ガッ……!?」

「死にさら」

「《暴竜集雷拳》!!」

 

 ワイバーンの首根っこを掴んだところを、サンは容赦なく攻撃。二度目の雷。

 これで占めて、《ドラゴンブレス》を二回、《飢竜集雷拳》と《暴竜集雷拳》を一回頭痛。

 使用した魔力は、《集雷拳》四回分。魔力と技術の向上により、残弾数は残り八発。

 

「……ふむ」

 

 かすり傷しか負わせることができない現状で、削り切ることが不可能なことなど分かりきっていた。

 それでいい。時間を稼ぎ、戦いを成立させれば。

 

「ちょっとは話す気になったか!! このロリババア!!」

 

 説得の時間があれば、それで。

 

「……」

 

 また、イリオスから見れば。サンの「固有魔法のようなナニカ」を加味して、継戦可能。という、計算だった。

 彼らの勝機は二つ。魔王がソラの力を上回る。ソラを説得する。

 断じて、正面からの戦いで勝利など望めはしない。

 

「……少しは、勝負になりそうじゃの」

 

 だが、それでいい。下手に刺激すれば、ソラを本気にさせかねない。

 最悪、千日手だって構わない。ウェイラへの連絡は依頼してある。一度はソラを上回った彼女なら、無力化は可能だろう。

 

 しかしそれでも、未だ《輩殺しの刃》の影響にあってこの強さは理不尽にも程がある。

 イリオスは、少し果てしない気持ちになった。

 

「あったり前だろ!! こちとら鍛えてきてんだよ!!」

 

 魔道具で防御を重ねがけし、それで尚まだ勝利が遠い。

 振り払うように、サンは言葉を重ねて戦い続ける。

 

「なんか!! 話せ!!」

「……」

「だんまり決め込むつもりかテメェこの野郎!!」

 

 内心の苛立ちをもはや隠すこともせず、サンはさらに攻防を続ける。

 戦いの内容、そのほとんどが、先ほどのやり取りの焼き直し。

 イリオスとソラの間で、互いの作戦を上回ろうと工夫と読み合いがなされるが、サンはただ殴り込むだけである。

 

 下手に頭を使わせるよりも、置物として暴力装置に仕立て上げた方が扱いやすい。

 サンを組み込んで複雑な作戦を立案する際、イリオスが出した結論である。

 

「おっと、それは喰らわんよ」

「チッ……」

 

 途中《輩殺しの刃》から作られた特殊弾でちょっかいをかけてはみるが、それにもあまり意味はないように思えた。

 切り札は、まだ使えない。イリオスの魔法はサポート寄り。今はただ、サンを信じるだけしかない。

 

「どれ」

「っ……!」

 

 イリオスに意趣返しと岩を軽く投げるも、それは《スター・トレイル》で防がれる。

 多少はできるようだ。しかし、だからと言ってイリオスに集中を割いては。

 

「よそ見すんな!! 俺だけ見てろ!!」

 

 サンの攻撃を喰らってしまう。

 ソラからすればあまり警戒するべきものではないが、クリーンヒットすれば話は別。

 出力の落ちた身体強化魔法では、今のサンの雷魔法や《ドラゴンブレス》は多少のダメージになる。何より、ソラは魔道具を警戒していた。

 

「……」

 

 ならばサンを警戒すれば問題ないが、そうすると今度は時間をかけられる。時間をかけると、サンがやかましい。

 イリオスを狙ってもうまくいかず、サンに集中したくない。それに、いい加減転移魔法もうざったいな、と。

 

「仕方のない奴らめ」

 

 ソラは。少し、本気でやってやることにした。

 

「怪我をしても、文句を言うなよ?」

 

 先程までサンにも、イリオスにも向けていなかった魔法を、行使することに決める。

 

「そういえば、これはおヌシの前で作ったんじゃったか」

 

 サンの拳を屈んでかわし。腹に、ぴたりと手のひらをつけた。

 瞬間、魔力が迸り。

 

「《渦飯綱》」

「ぶっ……!」

 

 その一撃で、サンはダンジョンの端まで吹っ飛ぶ。内臓に届かないまでも、腹を割いた。

 あとはイリオスを軽く制して、ダンジョンの外にでも放り投げてやれば。

 

「ってぇな、この野郎ッ!!」

「お?」

 

 そんなことを考えていたから。その拳を避けることはできなくて。

 

「どーだ……宣言通り、ぶん殴ってやったぜ……!」

 

 肩で息をしながらも、サンは煽ってみせる。

 ダンジョンの壁を思い切り蹴って加速。その様子を、イリオスは《広域型感知魔法》で見逃さなかった。

 瞬時に、転移の魔道具を発動。ソラの真後ろに、サンを置いてやる。

 

「《電撃、ビリビリ拳》ッ!!」

 

 不意の拳を起点に、さらにラッシュを叩き込む。避ける気のないソラは、それでも疑問を抱いていた。

 先程の魔法、《渦飯綱》は、少なくともサンでは防ぎ切れない魔力を込めた。

 ウェイラや勇者なら話は別だが、それでもあの威力。表皮までしか切れていないのは違和感があった。

 

「いや……」

 

 よく感じてみれば、今の拳の威力。先程より一段階重い。込められた電気量も普段以上だ。

 少し、目を凝らして。

 

「なるほどのぉ」

 

 すぐに、納得した。

 

「《部分竜化》か」

 

 それは、ソラがサンに数日間で教えていた秘儀の一つ。

 竜人は竜の特徴と人の特徴、両方を併せ持つ。

 

 竜の肉体は硬く頑丈で筋力も高く、戦闘に長けている。

 人の肉体は感覚が鋭敏で魔法の操作に長け、器用さを持つ。

 その、配分を。竜に寄らせる。肉体の構造そのものを変える魔法。

 

 一般に人間より強いとされる竜人の中でもごく一部しか扱えない、高難易度魔法。

 しかし、サンは本来竜。魔道具による変身を応用すれば、習得可能だと考えた。

 

「こなクソォっ!!」

 

───しかしこの数日で身につけてくるとは、流石のセンスと言ったところか。

 

 サンの拳を、がっしり掴んで。彼女を撫で回してやりたい衝動を堪えた。

 

「まだ足りんなぁ」

「ギャッ……!」

「三十点というところじゃ」

 

 鱗に覆われた腕を。拳を。握りつぶして、ひび割れさせる。

 先ほどの《ドラゴンブレス》で自傷ダメージがなかったのも、その影響か。感心さえしながら、ソラは。

 

「マイナスな」

 

 彼女を地面に叩きつけた。

 いくら《部分竜化》で防御力を底上げしても、ソラから見れば雀の涙程度。

 《電撃ビリビリ拳》で多少体の動かしにくさはあるが、そんなもの大したことはない。

 

 やはり、彼女たちでは無理か。ため息をついて、ソラは戦いを終わらせるべく踵を上げ。

 

「ハァ……」

 

 入れ替わった景色に、呆れさえ抱いた。

 この程度の強さで。この程度の力で。まだ足掻くか。

 

 一時期、人間を下等生物だと本気で見下していた頃を思い出す。

 今にして思えば思春期特有の痛々しさ、幼児性と自意識が混ざり合った結果の出力、要するにただの中二病だったが。

 大体、年齢が千を超えたあたりで罹った病である。

 

「……」

 

 

 そんなソラの、油断ですらない慢心を。イリオスは、見逃さなかった。

 即座に再度、景色を入れ替える。今度は、自分とソラを近づけて。

 

「む?」

 

 一閃。放たれた剣は、確かにソラの背を切った。

 今度は薄皮ではない。真皮を裂き、血管を穿つ。皮下組織にまでは通らなかったが、初めての傷らしい傷。

 

「……!」

 

 ソラは、大いに動揺した。

 イリオス程度に。舐めてかかるわけではないが、率直な感想はそれである。

 

 いくら結構鍛えた体をしているとはいえ、竜人の筋繊維とその密度とは根本的な構造が違う。

 サンの言葉を借りれば、「結構筋肉あるな」程度のイリオスに、ソラの体を傷つけれるはずがない。

 

「が、は……う、ぐ……っ……!」

 

 加えて、自分でダメージを受けているのだから二、三箇所は問いただしたいところだ。

 やはり、警戒するべきはイリオス。

 

「すまんの、イリオス。少し強めにいくぞ」

 

 うずくまる彼を前に、スッと手を少し上げた。彼女の横で、高密度の金属が回転を始める。

 ただの金属魔法を飛ばすだけ。物理的に骨が折れるだろうが、死にはしない。

 

「……!」

 

 躊躇いの間に。再び、景色が変わった。

 

───演技?

 

 否だと、即座に結論付ける。

 演技でもなく本気で苦しんでいたが、イリオスはそれでも発動した。先に来る苦しみがわかっていたとして、凄まじい胆力。

 苦しみさえも勘定に入れて、感情を外し、作戦の一部として見せた。

 いや、それどころか。今までの転移による状況のリセットも、そのためにしていたのかと思わせるほどで。

 

「《ドラゴン(ギャギャギャア)》……!」

 

 この一撃。そのためだけに。

 

「《ブレス(ガガア)》ッ!!」

 

 竜の姿になったサンによる《ドラゴンブレス》。威力は、人間体以上。

 それは、ウェイラに向けて撃った《ドラゴンブレス》の威力より、さらに高く。

 

「《ドラゴンブレス》」

 

 さらに、ソラのブレスの威力の方が高い。

 無慈悲に、現実を突きつけてくる。

 

「強くなりおって……嬉しいものじゃな」

 

 サンにも、イリオスにも聞こえないように。小さく呟いて、そのままブレスでサンを包んだ。

 

「ギャウッ!!」

「麗しい時間も、これで終わりじゃ」

 

 ソラは。地団駄を踏んだ。とでも、表現するべきだろうか。

 それだけで地面が割れ、ダンジョンが崩れ、風が逆巻き。

 

「《天変致死(ディザデスター)》」

 

 そこからは、一方的なものだった。

 ソラの使用した魔法により、サンもイリオスも全身に裂傷。体を地面に止めることとさえできず、容赦なく吹き飛ばされ。

 彼女ももはや加減はなく、そこに追撃を加えてくる始末。

 たとえ転移でダンジョンを切り替えても、同じ行動の再現未満にしかならない。

 

 図に乗るな。そう言わんばかりに、終着。

 

「……」

 

 わずか数秒。勝敗は、サンとイリオスの敗北で決した。

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