体いってぇ。全身ズキズキやかましい。血管が破裂しそうだ。
「う、ぉおおおおおおおおっ!!」
だから、なんだ。動けなくたって気合いで動け。痛いくらいなんだ。
気張れ。歯ァ食いしばって、一歩。一歩でもいい、先へ。
「やかましい」
頭にぶつかった魔法で、肉がえぐれて痒いみたいに痛い。ずっとヒリヒリする、血の匂いがひどい。
「気合っ!!」
関係、ねぇ。
「んな」
「言っただろ!!」
電撃じゃ、足りない。
もっと、もっと強く。もっと早く。もっと丁寧に、もっと破滅的に。
「ぶん殴るってよぉ!!」
もっと、もっと、もっと、もっと、もっと。
「《電撃》……」
もっと!!
「《雷撃》!! 《バリバリ拳》ッ!!」
「ぐ、ふっ……!」
一発、一発。雷が、手のひらから溢れてくる。
いつも通りなら、すぐに魔力切れ起こしちまう。でも、あれ。なんか、変だな。
「まだ、まだァっ!!」
全然、無くなる気しないや。腹の中に溜まった暑苦しいもんが、全然底尽きる気がしねぇ。
フラフラする。視界が眩しいんだか暗いんだかよくわかんない。やけに心に空いた窓から風通しが良くて、このままどこかに飛んでけちゃいそうだ。
「調、子に……!!」
「っ……!!」
雷を、受けて尚。無理やり、防がれた。
「乗る、なぁっ!!」
「ぐぶっ……!!」
いてぇ。これ、ただの風の魔法じゃないな。吹っ飛ばすための魔法だ。
「寂しいだろ!! 一緒にこいよ!!」
「っ……!!」
尻尾でソラの腕を掴んで、無理やり一緒に吹き飛ばされる。
身体強化魔法に。上限を、感じない。どこまでも、どこまでも魔力を込めれる気がする。
「このっ」
「《ドラ、ゴン》……!!」
だったら、これだって。
「《ブレス》ッ!!」
ソラを捕まえた自分の尻尾ごと、焼いてやる。
痛い。焦げ臭くて、焼肉みたいな匂いがする。関係、ない。
「《暴竜集雷拳》ッ!!」
もっと。もっと。もっと、強く。
そうだ。あの本にあった。
「《天ノ雷》ッ!!」
技術不足。不出来。最悪もいいとこだ。
効率はクソミソで、体から魔力がごっそり抜け落ちる感じがする。でも、だからなんだ。
威力は、これが一番高い。
「《集雷拳》ッ!! 《天ノ雷》ッ!! 《雷撃バリバリ拳》ッ!!《集雷拳》ッ!! 《暴竜集雷拳》ッ!! 《ドラゴンブレス》ッ!! 《ドラゴンブレス》ッ!! 《ドラゴンブレス》ッ!!」
「ぐ、ぅうううう……!!」
こんだけやっても、ソラはちょっとしかダメージを負ってねぇ。このくらいじゃ、まだ足りねぇ。
「ふぅっ……!! ふぅっ……!!」
大丈夫。心を殺せ。痛くない。戦える。こいつの方が、ずっと痛いはずだ。
知らないさ。こいつのことなんて何も知らない。でも、俺より痛いってことくらいはわかるんだ。
心の傷は、時間でしか癒せないから。
「なのに、それがお前には毒だっつーんだもんなぁ……!!」
「文脈がめちゃくちゃ。半、暴走状態じゃな」
「だけど、お前にはまだまだ生きてもらうぞ……!! そんでもって、ぜってぇ生きててよかったって言わせてやる!!」
「……きさ、まはァ!! まだ、ほざくか!!」
「うるせぇ!! 俺が勝手に決めたんだ!! お前の意見なんざ知るかクソババア!!」
こいつの事情なんざ知らない。これから知っていけばいい。
でも、死んだらそれもできないんだ。だから、俺は。
「サン!! 《こっちに来い》!!」
「ぐぅ、うっ……!!」
なんだ、体が勝手に。
「ごしゅじ」
「無茶しすぎっ!!」
「あぅっ……!!」
「はぁ……!! はぁっ……! やっと追いついた!!」
デコピンかましてきたご主人の指には、ねっとり血が付いてた。あー、あれ全部俺のか。
なんか、変だな。あんま怖くねぇや。
「そんなやり方じゃまたすぐぶっ倒れるぞ!! 二人で」
「いやだ!! 俺は真っ直ぐ戦うから、サポートして!!」
「サン!!」
「じゃなきゃ、ソラには届かない!!」
死ぬことが。死にかけてることが。あんまり、怖くない。
「……お願い、ご主人。じゃなきゃ、俺は……一生後悔する……!! このこと、思い出すたびに……死にたくなる……!!」
「っ……!!」
答えに詰まった隙に、ご主人を振り払って。去ろうとするソラに、追い縋る。
「待たせた、なァっ!!」
「失せろッ!!」
「かはっ……! じんでも、ごどわる!!」
腕を捕まえた。逃がさねェ。
「いい加減に、しろォッ!!」
ダンジョン中に叩きつけられて。風で切られて。熱で焼かれて。頭が、おかしい。
「まだ、まだ……まだ、諦めねぇ……!!」
「……なぜじゃ……なぜ、そこまで」
「だってお前が、苦しそうな顔してたから!!」
なのに、逆に。力が湧いてくるみてぇだ。
「お前が、助けて欲しいって顔してたから!! 俺は自分勝手に!! お前を助ける!!」
「貴様に、なにが」
「わっかんねぇよ!!」
体が、ビクッと跳ねた。
「しらねぇよ!! お前がどんだけ辛かったかとか!! 苦しかったかとか!! 俺にはわかんねぇ!! なぜなら俺は馬鹿だから!!」
そうだ。最初から、わかるつもりなんてなかったんだ。だって俺とお前は別の人間だから。
何に知ったかぶって、最悪だ。本当に。
「でも、そんな腐れ馬鹿だってなァ!! お前が今、苦しいんだってことくらいはわかる!! だから全部ぶっ壊してやるよ!! この、クソみてぇなダンジョンごと!! 話はそれから聞いてやる!!」
「言葉が通じていないのか……!?」
「お前が何怖がってたって!! 俺が全部、止めてやるからよぉ!!」
「っ……!!」
あ、また怒らせた。いい。それでも俺は、ソラを死なせたくないんだ。
「このぉっ!!」
大丈夫。あんなブレブレの魔法。すごく遅い。壊せる。
ドラゴンブレスで。
「《スターダスト・スマッシュ》!!」
それより先に。キラキラした何かが、魔法を掻き消した。
「ご主人!!」
「サン。君の覚悟はわかったよ」
あれ、なんか。ご主人もキラキラしてない?
「ご、ご主人……? それ」
「師匠が身体強化魔法を込めた弾を、自分に撃った。体が破裂しそうだけど、なんとか扱えるよ」
「は、破裂って」
「大丈夫。これで、一緒に戦える」
さっきソラを切ってた時の。あの時は、一瞬で解除されてぶっ倒れてた。それだけ負荷は大きいってことだ。
「だから、安心してソラのところに行っておいで。降りかかる火の粉は、僕が全て受け止めよう。それくらいは、認めてくれるかい?」
「……うん!」
「だからあんまり!! 無茶ばっかりするなよ!!」
ご主人の言葉を背中に、まっすぐソラのところに飛ぶ。飛んでくる魔法は、宣言通りご主人が落として、切って、掻き消してくれる。
「お待たせっ!! 待った!?」
「目の前でイチャコラこいてるんじゃないぞ貴様らァ!! 当てつけか!?」
「こいてねェよバァーカッ!!」
あ、これは本音だ。割としっかりキレてる。そんなところで怒るなよ。
でも、他の部分は。相変わらず、嘘っぱちだらけだ。こいつ。
「ふざけるのも大概にしろ!! 妾は……妾は、もう!! 死にたいんじゃ!!」
「だったらそんな顔してんじゃねぇよ!! 死にたいっつーより、死なないとって感じに見えるぜ!!」
ダンジョンの奥から聞こえる魔王の鼓動が、どんどん大きくなってる。あんまり時間はなさそうだ。
あれ。なんでそんなことわかんだろ。はは、どうでもいいか。
「オラオラ!! そんなモンかよ英雄サマは!! なんか喋ってみたらどうなんだよほらほら!!」
「……る、さい」
「あァ!? 耳ァ遠くて聞こえねェなァ!!」
「うるさい!!」
ソラの拳が、顔面に直撃した。
「黙って聞いていれば知ったような口を!!」
「だから何も知らねーって!! 勝手にくっちゃべってるだけだっつーの!! それともなんだ、図星か!?」
「黙れッ!! 黙れぇッ!!」
周りの岩が、浮く。これ、ご主人の魔法か。他の岩に紛れ込ませてたんだ。
これでまた、戦いやすくなる。
「お前は!! お前は!! 何がしたいんじゃ!!」
「お前のこと助けたい!! それ以上、何もいらない!!」
「この化け物をか!?」
ソラの攻撃が、さらに激しくなる。
致命的な攻撃は、ご主人が寸前で庇ってくれたけど。もう自分が、どうやって立ってるのかもわかんない。
「当たり前だろ!! お前はそうしてくれただろうが!!」
「おヌシは化け物なんかではない!! じゃが、妾は」
「じゃあお前だってバケモンじゃねぇよ!! 自分と人で理屈捻じ曲げんな!!」
「っ……人を殺しかけたのにか!?」
でも。まだ、戦える。
絶対、負けれない。この前みたいな。ウェイラの時みたいな。見逃されるんじゃ、ダメだ。
勝つんだ、ここで。絶対に、勝つ。
「妾は……あの侵食現象は、妾が起こしていた!! 何人もの民が傷ついた!! 大きな傷を負った!! 治らない傷を負った者だっている!! もう自分で自分を、これ以上抑え切れるかわからぬ!! それでも貴様は、妾に生きろと言うのか!?」
「そうだよ!! 理屈なんざ知るか!! そこでフラッフラになってるご主人とか頭いいし、なんか思いつくだろ!!」
「この、クソガキがァアアアアッ!!」
なのに、体が。追いついてきてくれない。
まだ、だ。まだ、足りない。もっと。もっと。もっと。
───ババ上を……私の、お母さんを……連れて帰って。
まだ、戦える!!
「貴様に……! 貴様に、耐え切れるのか!? 妾のせいで人が死ぬ!! その責任は貴様のものじゃ!! その罪に、貴様は耐え切れるのか!!」
「考えたことねぇ!! から!! 今、考える!!」
「っ……!! 貴様に、妾の何がわかる!!」
どんどん、どんどん。ソラの攻撃は、強くなってる。
でも、俺だって負けてない。おんなじくらい、いや、それ以上に。魔力が増え続けてる。気が、する。
「どれだけ縁を結ぼうと喪い!! どれだけの幸福を得ても喪い!! どれだけ信じようとも喪い!! 最後には、必ず独りになる!!」
「ぐっ……!!」
「それだけの絶望を前に!! それでも貴様は、生きろというのか!?」
「そうだよ!!」
部分竜化も、集中力が限界だ。でも、喋る口は保たねぇと。
「だってお前に、生きてて欲しい奴がいる!!」
「ふざ、けるなぁっ!! 妾はどうなる!? まだ苦しめというのか!?」
「違う!!」
「何が違う!!」
そっか。やっと、ちょっとわかったよ。ご主人が、なんて言おうとしてたのか。
……だから、俺は。
「俺が一緒に生きてやるから!!」
「っ……!?」
俺にできるのは。きっと、このくらいしかないから。
「俺がお前を救ってやる!! 俺がお前の苦しみを終わらせてやる!! 俺が一緒に生きてやる!! だから、まだ生きろよ!!」
「……そんな、もの……そんな可能性を、考えなかったと思うか!?」
「ぐ……!」
もう、少し。あと、ちょっとでいいんだ。もう、一歩。前に進む、力を。
「たくさんの人間がそう言ってくれた!! レインもその一人じゃった!! じゃが、無理じゃ……! 皆、皆死んでしまう!! 妾より先に死んでしまう!!」
「俺はそうはならねェ!!」
「なるんじゃ、必ず!! 人の命と、妾の命は……! 違うから……!!」
鼓動が、まだ大きくなってる。ドクン、ドクンって。
……いや、それだけじゃない。呼吸音も。
「妾、は」
「ルゥウオオオオオオオオッ!!」
「っ……!!」
魔王が。目覚めた。
「……タイムリミット。じゃのぉ」
それに気づいて。ソラは、大穴を開けた。そこに向かって、飛び降りた。
ソラが、行っちまう。ソラがどこかに。行ってしまう。
いやだ。認められるか、そんなの。
「認め、られるかぁっ!!」
「は、はぁ!?」
ソラが落ちた、その大穴に。加速しながら、突っ込んだ。
「まだ話は終わってねェ!!」
「は、離せっ」
「離さない!!」
絶対に。お前を、あんな暗いところに。一人、置いてきぼりになんてしない。してたまるか。
「っ……!」
ゾワっと。本能が、全力で警鐘を鳴らす。
殺意を、おかしいくらいに感じる。怖い。怖い、けど。ソラを喪う方が、怖い。
「死ぬぞ!?」
「でもだからってほっといたら、お前が死ぬんだろ……! だったら、どっちにしろ一緒だ!」
「はぁ!?」
ボロボロになった翼の影響か、うまく飛ぶことができない。ふらふらと、墜落していく。
そして、地面につくよりも先に。
「っ……!!」
黒い、毛のようなものが見えた。
それが開いて。四白眼の不気味な瞳が、ギョロリとこちらを見据えた。
「魔王……これが……」
とりあえずぶん殴ってはみたけど、効果はないらしい。
「な、何しとるんじゃ貴様!?」
「お前のこと、助けるって言った。全部ぶっ壊すって。だから、これも……と……」
「ああもう、瀕死だろうが!!」
結局、そのまま地面に落っこちてしまって。ソラは、一応庇ってくれたみたいだった。
「……妾の魔法で、ダンジョンの外には送り出してやる」
ふわっと。体が浮き上がった。
「一応、感謝はしておくぞ。……ありがとうのぉ。お前のような馬鹿がいたことは、忘れ」
「まだ、だ……」
だから、どっかに連れてかれないように。しっかりと、手を掴んだ。
「っ……! おま、えは……どうして……どうして、そこまで……」
「……わかんない」
わからないよ。なんでここまで必死になってるんだろうな。
あんだけ、死にたくないとか思ってたくせに。わかんないよ。
「わかんないけど……ソラに、いなくなって欲しくないから……笑顔で、生きてて欲しいから……」
「っ……!」
でも、ソラに死んでほしくないんだもん。
……あ。そっか。
「だから、くるしいんだな……そら……」
これが、ソラの。痛み、なんだ。
「なに、を……」
「……なぁ。なぁ、ソラ。俺、いっぱい勉強するよ。それで、不老無くしたり……不死身になったり……色々、あると思うんだ。俺にも、できること」
「……おヌシのおつむでか?」
独りが辛いのも。人に死なれるのが辛いのも。生きるのが辛いのも。……のも。全部、本音なんだな。
「むずかしい、かもだけどさ……俺が、俺の人生を賭けて……絶対お前を、独りになんてさせないから……!」
「……」
「だから、一緒に旅をしよう。俺だけじゃ無理かもだけど……ご主人がいる。三人で、ウェイラにも勝ったんだ。なんとかなる気、してくるだろ……?」
「……!」
ソラは。こっち、みてくれない。
「そんで……そんで、さ……」
これが俺の。覚悟だ。
「全部、ダメだったら……俺が一緒に、死んでやるから……」
「な……」
「お前を殺せるくらい強くなって……お前のこと、終わらせてやるから。一人で逝かせたり、しないからさ……」
だから、信じてくれよ。ソラ。
「だから……なぁ……一緒に、生きてくれよ……ソラっ……!」
ソラは、振り向いてくれない。
もう、意識、が。
「……いいのか?」
「……?」
「なぁ……」
ソラは。後ろを振り向いた、ソラは。
「信じて、いいのか……!? 今度こそ……!!」
「うん……約束、だ」
泣いてた。
「グルァアアアアアアアッ!!」
魔王が、近くまで。すぐ、そばにいた。
「っ……!」
弱った俺から狙うことにしたのだろう。ヤツの体の一部が、俺に迫って。
「失せろ、痴れ者」
それは、ソラに弾かれた。
「久しぶりじゃのぉ、魔王。貴様、今何をした?」
ソラの声は、いつも通りみたいに。活き活きしてて。
「妾の友人を傷つけおって!!」
見えないけど。破滅的な、轟音が聞こえた。
「ルゥオオ……!」
「言っておくが。数千年前の妾と同じだと思うなよ?」
そしてソラは、立ち上がって。
「殺されようと思っていたが、やめじゃ。共に生きる
似つかわしい笑顔で、自信満々な声を出して。
「妾が目覚めた固有魔法!《
「ソラ……!」
堂々と、彼女らしく勝利宣言をしてみせた。