TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

53 / 62
4章 従魔と悪竜
御伽話の国


 シーカスケイヴを発ってから、数日が経過した。

 

「サン、起きれるかい?」

「……ん」

 

 サンは。まだ、心の整理がついていないみたいだった。

 

「おはよ。お腹すいた。朝ごはん」

「パンとサラミだ。チーズもある。あとスープ」

「……おいしいな」

 

 それでも、飯の時だけは全てを忘れたような顔で、だらしなく笑ってくれるので。できるだけ、その時間を保つように努めた。

 

「サン、食べるかい?」

「……餌付けか!!」

 

 そう、努めていたのだけど。

 

「え?」

「いや、最近ずっと気になってたんだけど……なんかめっちゃ飯食わせようとしてくるじゃん……」

「あぁ、いや……その、それはね……?」

 

 思いっきり、サンにらバレていたらしい。

 

「……いや、ありがと、ご主人。でも、俺は大丈夫だから」

「……」

 

 大丈夫なはず、ないだろ。そんな顔しておいて。

 

「ずっと頭の中に、チラついてるんだろ。ソラさんのこと」

「っ……」

 

 人の死は。その記憶は。そう簡単に、消えてくれない。

 目の前で血が弾けた感触。命が失われていく感触。最後の顔。その、どれか一つ取ったって。

 

───生きて。

 

 どんなに辛くたって、消えちゃくれない。

 

「……うん。なんでソラが、殺されなきゃいけなかったんだ、って。ずっと思ってる」

 

 トールの目的は、未だにわからなかった。

 ただ、ずっと前からあの国にいたこと。そして、ソラさんを殺そうとしていたこと。それだけが、確かだった。

 

 人間は、意味なく生まれてくる。なのに死ぬ時ばかり理由があるなんて、そんなの矛盾してる。

 だけど、サンは。そこに意味を求める。それはきっと、おかしなことではないと思う。

 

「ソラさんは、僕たちと国を守るために戦った。戦って、死んだ。それだけは、確かだよ」

 

 そうじゃないと。なんの意味もなく死ぬなんて、そんなの。辛いだろ。

 

「……」

 

 この頃サンから感じるのは、深い絶望や悲しみ、だけではなくって。怒りだ。

 強い、強い、怒り。殺意と言い換えたっていい。

 

 きっとこれは、あの男に対する。

 

「わ……なんだよぉ、ご主人……」

「いや……次の国では、おすすめの飯屋を紹介するからね」

「ほ、ほんとか? やった、信じるからな」

 

 どうか彼女が、ソラさんの死と向き合えますように。

 俺にできることはきっと、そんなちんけな願いだけだった。

 

「もうじき国に着く。荷物を整理しておこうか」

「あいよ、ご主人」

 

 ガサガサと荷物を漁り始めたサンを見守りつつ、僕も改めて荷物をチェックする。

 最近は魔道具の中に物を持ち運べるようになったから、かなり便利だ。

 

「……ん?」

 

 そんなことを考えていると、ふとサンがおかしな声を上げた。

 一体なにがあったのかと、サンの肩越しに覗き込む。

 

「なぁ、ご主人……これって……」

 

 サンが持っていたのは。丸い、手のひらよりも小さな球体。

 

「ソラさんの、髪留め?」

「だよな……」

 

 魔道具に変化したソラさんの髪留め。

 あの一回きり、それ以上の効果を示すことはなくって。それでも遺品だからと、スノウに渡したはずのもの。

 

「……スノウが入れてくれたのかな」

「かもね。どうする?」

「送り返す。これは、俺が持ってちゃいけないと思う」

「……あとで、行商人さんに相談してみような」

 

 サンは。自分を、責めている。

 

 俺がこの国に来なければ。《輩殺しの刃》を受けることもなかった。

 そうすれば、ソラはトールなんかに負けないはずだった。そもそも、トールは勝ち目がなければ戦いに来なかった。

 俺がメチャクチャにした。

 

 ……そんなことを、サンは言っていた。

 

「……」

 

 人の死を、誰かのせいにしたい気持ちはわかる。痛いほど。

 そしてそれは、自分であるほど楽だ。けれど、楽なだけで健全ではない。

 

 今は態度に出ていないけれど。取り乱したあの一瞬でしか、その姿は見せなかったけど。

 きっとまだ同じ気持ちが、サンの中を渦巻いている。

 

「ご主人?」

「……あ、うん? どうしたんだい?」

 

 なにができる。俺には、なにをしてやれる。どうすれば、こいつを……。

 

「だから……これから行く国、えっと、ファンタジアだっけ? は、どんな国なのかって……」

 

 ……兎にも角にも。今は、前に進むしかない。

 

「……そうだな。この前僕が話した、星屑の勇者様ってあるだろ?」

「うん」

「あれをはじめとして、いろいろなお伽話が語り継がれている国なんだよ」

「ふーん」

 

 サンはあまり興味がなさそうだった。

 まあ、空想で腹は満たされないもんな。

 

「そこに異世界の伝説がある、ってこと?」

「うーん……追って説明すると、少し複雑になるんだけど」

 

 一応、サンにも関係あることだし話しておくか。

 

「なんでこの国は、お伽話が有名だと思う?」

「なんで、って……なんか、そういうものだから……」

「そりゃまあ、そうなんだけど……きちんと理由があるんだよ。母数の多さだ」

 

 そう、この国は他国に比べて語り継がれるお話が多い。

 正直言って、その数は異常なほど。

 

「じゃあ、なんで数が多いのか。それは、この国の過去に関係している」

 

 到着して、サンに荷物を持たせる。

 

「髪留め、送り届けてくれるってさ」

「そっか。よかった」

 

 通りがかった商人さんにお金を払って髪留めを預け、久方ぶりに地面に降り立った。

 ここから少し歩けば、国に入れるはずだ。

 

「元々ね。この国では、ダンジョンの攻略が規制されてたんだ」

「規制……え、マジで……?」

「マジだ。一攫千金を求めて中へ向かう人が後を絶たなかったんだよ」

「ああ、そういう」

 

 規制というよりも、規則の方が近いかもしれない。

 元々ダンジョンの発生しにくいこの地域では、あまりダンジョンの攻略が必要とされなかった、というのもある。

 

「だから、こっそりとダンジョンを攻略する人たちが増えた。でもな、サン。そうすると、ダンジョンの攻略情報は共有しにくいんだ」

「まあ……そりゃ、そうだろうけど」

「じゃあ、どうする?」

 

 サンは顎に手を当てて、んー、と考える仕草を見せた。

 たっぷり十秒ほど考えた後、手のひらに拳を合わせて。

 

「あ、それがお伽話ってこと」

「その通り。人々は物語にしてダンジョンの情報を残したんだよ。逸話や、寓話の方が認識としては近い」

 

 もちろんそれが全てじゃなく、フェイクとして入れられた普通のお話もあれば、言い伝えなんかもある。

 

「当時から、まだ攻略されきっていないダンジョンもあってね。寓話を知っていると、攻略の役に立つこともあるんだよ」

 

 人の欲望が入り乱れて生まれた、お伽話と繋がった世界。

 それがこの国、ファンタジアだ。

 

「さ、着いたぞ。サン」

「わ……」

 

 そうして、国へと足を踏み入れ、真っ先に目に入るのは。

 

「銅像……?」

 

 勇者ステラと、悪竜の像。

 

「あれについても、あとで話すよ。今はとにかく飯だ」

「飯!」

 

 ……あいつも、連れてきてやりたかったな。

 

 

 

 

 通りがかった飯屋で、適当な夕飯を頼む。

 サンが食べてるのは肉の硬い部分をタレで煮込んだ、ナニカ。俺はサンドウィッチだ。

 

「やぁらかい……」

 

 サンは柔らかい肉、脂身やサシの多い肉よりも、歯応えのある赤身を好む。

 うちのお嬢様には少々不満なお味だったらしい、サンはしょぼしょぼとした顔になった。

 

「それで、ご主人……なんでその、お伽話の国? ってやつに、俺たちは来たの?」

「……それはね」

 

 ラルウさんが預けてくれた本をパラパラと開くと、そこにはレインさんのものにそっくりな筆跡があった。

 異世界についての文献がまとめられ、そのいくつかのうちの一つにここ、ファンタジアの名が記されている。

 

「さっきも言った通り、この国には事実を伝える逸話がたくさんある。それはわかったかい?」

「一応」

「それは、勇者についての話もそうなんだ」

「勇者……って、ご主人が話してたやつ……?」

「ああ」

 

 ステラに関する記述は、そのほとんどが事実に基づいたものだ。他の寓話とは、生まれたきっかけからして違う。

 勇者として国から認められたステラの冒険譚。所謂、ドキュメンタリーが近いだろう。

 

「……『星』。って、聞いたことあるかい? 」

「え……」

 

 そう。勇者は、実在した。

 

「し、知ってる。俺の世界の言葉」

「ああ、よかった。やっぱり、そうなんだね」

 

 ソラさんの言葉で裏は取れてたけど、改めてサンに聞くことで確信が得られた。

 

「勇者ステラは、まれに奇妙な言葉を扱ったらしい。他の誰も知らない。この世界のものではない、言葉を」

「……俺と同じ転生者だった、ってこと?」

「言い切れないけど、繋がりは見えてくるね」

 

 ソラさんのように、なぜだかその言葉を使う。それだけの可能性もある。

 けれど、ひょっとするとこの国で……何か、異世界へ繋がる手がかりが見つかるかもしれない。

 

「……そっか」

 

 サンは、それが嬉しいような。けれども、少し申し訳なさそうな。複雑な表情をした。

 

「サン、食べないのか? もらっちゃうぞ」

「誰がやるか」

 

 手の甲を叩かれた感触をビリビリと味わいながら、残りのサンドウィッチを口に放り込んで平らげた。

 あとはサンが食い終えるのを待つだけだ。

 

「私お腹すいたニャ……ねーぇー、ここで休憩して行こうよぉ」

「まあまあ、そう言わずに……休憩なら、宿屋に着いてからの方が良くありませんか?」

「俺は賛成だぜ。おっちゃんは体力ねぇからな、付き合ってくれや」

「……まあ、仕方ないか。昼飯にしよう」

 

 このお店は探索者が他に比べて多い。近くにダンジョンがあったはず。立地的にちょうど良いのかな。

 ダンジョンを攻略して、宿屋に帰る途中、ここで金を使う。うぅん、いかにもその日暮らしの探索者らしい。

 

「やったニャ! たまには良い判断するじゃないのモジャ毛ナイフ! おねーさん、四人入れますかニャ?」

「はーい! お好きな席どうぞ!」

「よっし。リーダー、酒飲もうぜ酒」

「断る」

 

 それにしてもサン、本当に美味しそうに食べるな。こっちまで腹が減ってくる。

 なんだかこうして見てるだけでも、と?

 

「サン?」

 

 なんだろう、目を開いて。尻尾がピンと立ってるあたり、驚いている?

 

「ミーニャ。こっちの席の方がいい」

「じゃあ私を動かしてみなよ。できるもんならニャ」

「ゲホッ、ゴホッ!! ぐふっ、えほっ……!!」

「サン!?」

 

 サンはいきなりむせた。顔にビチャビチャと肉の残骸が飛ばされてくる。

 どうしたんだ、突然。サンは肉を無駄にするなんて、そんなことしないだろうに。

 

「あ、ありがとご主人、ヘーキ……」

「いや、でも」

「違う、本当になんでもなくって……なんというかその、知ってる顔がいたから驚いた……」

「え……?」

 

 この異世界で、サンに知り合い?

 人間の姿を得たのは俺と出会ってからだし、それ以前の出会いなんてあの男くらい……いや、待った。

 

「なぁサン、まさか」

「うん……俺を斬ろうとしたやつ……あの真ん中の黒い男……」

 

 ……なんというか、奇妙な縁もあったもんだなぁ。サンからしたら勘弁願いたいことこの上ないだろうけど。

 

「……帰るか」

「ありがとご主人……」

 

 いくら魔物で仕方なかったとはいえ、自分を斬ろうとした相手と同じ空間に居たくはないだろう。

 

 いそいそと会計を済ませて、こっそりと外に出る。日はもう落ちかけていて、夕焼け色にじんわりと染まっていた。

 

「ダンジョンにはいつ行く?」

「うーん……そうだな。この国にどのくらい滞在することになるかわからないし、路銀は稼ぎたい。明日にでも行ってみようか」

 

 とはいえ、ここでの主な活動は情報収集だ。それを忘れちゃいけない。

 時間にも、あまり余裕があるとはいえないし……できることなら、早めに情報を手に入れたいけれど。

 

「いかんせん、漠然としているからね」

「だよなぁ」

 

 異世界の言葉。この国に来た理由なんて、ほとんどそれだけだし……やっぱり、魔道具探しの方が現実的なんだろうか。

 まずは図書館に行ってみて、そこで勇者ステラに関する文献でも漁ってみるか。

 

「おーい、君たちー!」

 

 ……となるとやはり、あまりダンジョンを攻略する必要はない。

 サンの精神的な休暇のためにも、しばらくはのんびりと探索者稼業を続けるとしよう。

 

「ねぇ、ちょっと! そこの二人!」

 

 サンをあまり一人にはさせたくないけど、図書館は退屈がりそうだから……そうだ、サンにも何か本を寄越してやるか。子供向けの簡単な本ならこの子でも読めるはずだし。

 

「そこの女殴ってそうなやつと金髪竜人族の二人組!! こっち見ろニャ!!」

「む。呼ばれてるぞご主人」

「え」

 

 僕ってサンにそんなふうに思われてたの?

 少しショックを受けながらも、後ろを振り向いて見て。

 

「げっ」

「あ」

 

 明るめの栗色をした髪に、猫の耳。ボブカットの髪は、いかにも探索者向きで。

 

「はぁ……やっと追いついたニャ……」

「さっきの……」

 

 サンの方をチラリと見ると、彼女は小さく頷いた。

 先程の探索者グループの一人。確かミーニャとか呼ばれてた女だ。彼女が、息を切らしながらこちらへ走っていた。

 

「何かご用ですか?」

 

 サンの前に立って、要件を聞いた。

 見たところ、ミーニャは僕と同年代。あるいは、少し年上くらいだろうか。

 

「なー、そんな警戒しないでくれニャぁ……二人とも探索者でしょ? 仲良くしようニャ……」

「い、いえ、警戒したわけでは」

「ご主人の顔、初対面で無表情だと結構怖いからな」

「えっ」

 

 突然後ろから刺され、結構なショック。

 そんな、女殴ってそうといい無表情といい、俺ってそんな怖い顔をしてるだろうか。

 

「この人、無表情なだけだから大丈夫。えっと、さっきのお店にいた人、だよな」

「うん、そうだよ。君も探索者? ちっちゃいのにえらいニャ」

 

 グニグニと顔をいじっていると、一歩前に踏み出たサンが勝手に話していた。

 少し辿々しくはあるけれど、あの分なら問題なさそうだ。

 

「えぇと、怖がらせたならごめんなさい。ただ聞きたかっただけで」

「いいニャいいニャ、探索者なんてそのくらいじゃないと舐められるし。それで用事なんだけど、君たち落とし物してたよ」

「へ?」

 

 落とし物。その言葉に荷物を見てみるけど、紛失したものはない。

 となると、サンの落とし物だろうか?

 

「えっとね、これだよ」

 

 そう言いながら、ミーニャが差し出してきたのは。

 

「え……」

「は?」

 

 ここにあるはずがないもの。

 

「あれ? 違った?」

 

 スノウに送り返したはずの、ソラさんの髪留めだった。




またしても更新が遅れました。申し訳ないです。
しばらくは隔日で更新できると思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。