TS従魔のダンジョン攻略記!   作:おにっく

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サンの変化

 どういうことだ。なんでこれが、ここにある。

 あの時確かに、商人さんに預けたはず。

 

「それ、少しお借りしてもいいですか?」

「うん、いいよ。でも、取り扱いは慎重にニャ。結構古いやつだから、それだけ希少価値はあるニャ」

「……」

 

 傷の具合や、その形から見ても、間違いない。

 これはあの時、俺たちが手放したソラさんの髪留めだ。

 

「……ありがとうございます。間違いなく、俺たちのものです」

「でしょでしょ? そっちの子がポケットから落としてたよー」

「俺が……?」

 

 はっきり言って、不気味なことこの上ない。

 最初の方は、まだスノウが荷物に入れていたから、で説明がつく。でも、今回は。

 

「どうしたニャ? 顔が真っ青だよ?」

「いえ、なんでも……なんでも、ないんです」

「ふぅん……? 盗品ってワケじゃないよね?」

「誓って」

 

 ひとまず、スノウに確認しないとかな。

 

「ならいいニャ。探索者に成り済ました強盗なんていくらでもいるけど……見た感じ、君はウソがつけなさそうな性格だしねー」

 

 節穴もいいところだ。けど、今は変な疑いをかけられずに済んで、助かった。

 

「それじゃあ、私はもう行くニャ。またどこかで会ったらよろしくねぇ」

「その、お礼を」

「今度でいいよ。どうせ探索者をやってたら嫌でも会うだろうし。私、ミーニャ。じゃあね、青年少女」

「すみません、お手数をおかけして。ありがとうございました」

 

 人当たりのいい性格をしている。コミュニケーションが上手だ。

 ……できれば、次はゆっくり話したいな。

 

「サン、大丈夫か? 随分静かだったけど」

「……え? あ、うん。大丈夫」

「……?」

 

 とにかく、今日はもう休もう。

 

 

 

 

 見つけた宿屋は、いかにも女将といった感じのする、少しふっくらとした穏やかな女性が経営していた。

 二、三店舗見て回ったけれど、どこも満室だった。唯一空いてるのはここのみ、なんだけど。

 

「ごめんねぇ、今日はもうあと一室しか空いてなくって。一応、二人部屋ではあるんだけど……大丈夫かしら?」

「あー……」

 

 少々困ったことになった。

 基本的に、宿屋では別々の部屋を取っている。僕は問題ないけれど、サンには一人の時間も必要だろうと。

 

 正直、これ以上歩き回りたくないけれど……まあ、仕方ないか。

 夕飯より先に宿を探しておくべきだったろうか。判断を誤ったかもしれない。

 

「それで大丈夫。な、ご主人」

「え?」

「あら、そう。仲が良いのねぇ……兄妹……では、ないのよね? どういうご関係?」

「……どういう……どういう?」

 

 サンがうんうんと頭を捻り始めてしまったけれど、悩みたいのはこっちの方だ。

 今までのサンなら、結構嫌がっていたと思ったんだけど。まあ、本人がいいって言うならいいのかな?

 

「……相棒ってところです。それと、通信の魔道具をお借りできませんか? 友人に連絡をしたくて」

「もちろん、いいわよ。相棒……不思議な関係なのね?」

「サン、先に部屋に行っててもらえるかい?」

「え……あ、うん……早く来てな」

 

 サンに部屋の鍵を渡して、魔道具の配置をスノウの連絡先に合わせる。

 少し待ったあと、ガチャリと魔道具を取る音が聞こえた。

 

「はい、こちらシーカー。今保護者の人が対応できない状況。難しい話なら折り返してもらうことになるけど、大丈夫?」

「あ、スノウ。ごめんね、いきなり。イリオスなんだけど」

「……イリオス!? もう連絡して来るなんて、思ってなかった!」

 

 スノウは驚きながらも、心から嬉しそうな反応をしてくれた。

 ……ああ。サンにも聞かせてやればよかっただろうか。そうすれば、あいつも少しくらい。

 

「スノウが出たのは意外だったけど」

「爺やは今忙しい。体の感覚を取り戻すとか言って」

「一万八千二十一……一万八千二十二……!!」

「……? なんの数字?」

 

 後ろから荒い息遣いと謎のカウントが聞こえてくるけど、何か関係あるんだろうか。熱気がこっちまで伝わってきそうだ。

 

「気にしないで。まさか爺やがこういうタイプだとはわかってなかった、私の落ち度。それより、無事にファンタジアにはついた?」

「うん、おかげさまで。サンも、なんとかやってるよ。肉が柔らかいって文句つけてた」

「ふふ……目に浮かぶ。よかった。少しは元気になったみたいで」

「……スノウこそ」

 

 本当に。もう、立ち直ってるように見えるくらい。虚勢を張れるくらい、元気になっているなんて。

 

「……お父さんとお母さんがいないのは仕方ない。私は、私にできることをするだけ」

「お嬢様ァー!! ご立派になられてッ!!」

「爺やうるさい。途中の旅はどうだった? たくさん、冒険譚を聞かせて欲しい」

「……ああ、もちろん」

 

 強い子だ。この子は。

 ずっと後ろから聞こえてくる、水たまりに水滴が滴るような音が気になるけど。

 ……とにかく、たくさん話してやろう。ここに来るまでにあったこと。この国でしたいこと。

 

「……そんなこんなで、サンが熊用の罠に引っかかったんだ」

「はぁ……サンの頭は、野生動物よりも単純。お母さんもきっとあの世で呆れてる」

「だろうね……」

 

 手のひらでソラさんの髪留めを転がしながら、スノウとこれまでの話に華を咲かせた。

 あまり、向こうのことは話してはくれなかった。やけに師匠のことについて聞かれたけど、何かあったんだろうか?

 

「……ごめん、イリオス。そろそろお風呂の時間。もう行かないと」

「あ、最後に一つだけいいかな?」

「許してあげる。……というか、そのために電話をかけてきた」

「……そ、そのためだけってわけじゃないよ? 君の綺麗な声が聞きたかったんだ」

「サンは誤魔化せても、私には通じない」

 

 しまった、そうだ。この子に嘘は通じないんだった。

 

「ごめんね。本当は、明日かけるつもりだった」

「……嘘じゃないみたいだから、許してあげる。それで、聞きたいことっていうのは?」

「ふふ、ハハハ……血湧く血湧く……まだまだこの老兵も捨てたものではありませんなァ……!?」

「爺や汗臭い」

「ええと……」

 

 とりあえず聞かなかったことにしておこう。もうこのくだりは何回もやった。ラルウさん、何してるんだろう。

 

「イリオス」

「あ、それがね……その、ソラさんの髪留めってそっちにあるかな?」

「……ううん。ない。ひょっとして、そっちの荷物に混ざってた?」

「やっぱり……実はね」

 

 スノウに、これまでの経緯を大体話した。すると、彼女は。

 

「……そっか」

 

 なぜだか、少し安心したような声になって。

 

「何が起こってるのかは……ごめんなさい、まだよくわからない。でも、できればその髪留めはそのまま持っていて欲しい」

「……どうして?」

「お母さんは、この国を出たことがほとんどなかった」

 

 ……英雄として生き続けた彼女は、ほとんど守り神のような存在だろう。

 するとなるほど、シーカスケイヴを出たことがない、というのも頷ける。

 

「けれど、二人と旅をしたがっていた。その髪留めが今そこにあるなら、それはきっとそういうことだと思う」

「……」

「だから、せめて。色んな場所に、その子を連れて行ってあげて」

「わかった」

「それと、サンとおめでたするときは戸棚にしまって」

 

 通信の魔道具を急いで耳から離した。

 なんで親子揃ってこうなんだ。人をロリコンか何かだと思っているんだろうか。

 

「……しばらく、その宿に泊まる予定?」

「うん、そのつもり」

「それじゃあ、また連絡する。今日は、おやすみなさい」

「ごめんね、夜遅くに。おやすみ……ふぅ」

 

 結局、分かったことは何もなし、と。

 あとでアニスにでも聞いてみるか。

 

「今日はもう寝よう……」

 

 ああでもせめて、風呂にだけは入りたいな。ひとまず、部屋に戻るとしよう。

 

「サン、お待たせ」

 

 扉を開いて、中に入る。

 

「……遅い」

 

 すると、サンは。何もせずに、ただどこかを見つめて。否、どこも見つめずに。ベッドに腰掛けていた。

 いつものサンなら、軽く宿を探索して。外を見て。朝飯は何時かなんて、囃し立てていただろう。

 

「ごめんね。さっき、スノウと電話してきたよ」

「……そう」

「ああ。また電話してくるって。サンとも話したいって言ってたぞ」

「善処する」

 

 夜になってから、明らかに昼間より物静かな様子だ。

 疲労と、副交感神経への切り替えが原因だろう。

 

「よかったのか? 同じ部屋で」

「今更ご主人を警戒しないし……そういうことしようと思えば、いつでもこれで出来るだろ」

 

 チョーカーを外して剥き出しになった契約紋を叩いて、そう言った。

 否定はしないけど、改めて自分の世間体が最悪なことを認識させられる。

 

「一人の時間も」

「要らない」

「だけど」

「要らないって言ってるだろ」

 

 サンは少し声を低くして、目線を下に落として。沈み込むように、そう言った。

 

「……ははーん、わかった。ご主人も本当はすることしたいんだろ」

「え?」

「本当はしっぽりやりたいけど、俺がいるとできないからって引き離そうとしてたんだ! やーい、ムッツリ! スケベ! 『エロオス』!!」

「……?」

「……いや、なんでもない」

 

 「マジかこいつ」みたいな顔をしながら、サンはなにやら揶揄おうとするのをやめた。

 理不尽な気がするけれど、もしかすると相部屋で緊張しているのだろうか。

 

「明日は八時に朝食だって。昼頃からダンジョンに行ってみて、危険度を測ろう」

「うんばっば」

「真面目に聞くの。それが終わったら、連盟で依頼でも探してみるかな」

 

 この辺りはダンジョンが少ない。結果として、現存するダンジョンは難易度が高いものが多く、攻略は容易ではないハズ。

 

 ソラさんに鍛えられて強くなったし、通用しない、とまでは言わないけれど、そのリスクはとりたくない。だから、日銭は依頼で稼ぐ。

 特にお金に困っているわけではないけど……そういう稼ぎ方があるということを知らないと、いつかサンも困る日が来るだろうし。

 

「まあ、明日の予定はそんなところかな」

「わかった。……な、ご主人。明日やること終わったら、街探索しよーよ」

「よし来た」

 

 サンとの街の探索は、割とお決まりだ。部屋に止まっているよりも、外を見て回った方が楽しいから。

 ニィナさんもいた頃は、よく案内してもらっていたっけ。

 

「そういえば、あとでニィナさんにも電話してやらないとな」

「あ、そうだな。……そういや、スノウには髪留めのこと聞けた?」

「それが、スノウにもわからないらしいんだよ、この……」

 

 と、ポケットを弄ってみて。

 

「……サン」

 

 ない。さっき確かに、ここに入れたハズなのに。

 

「……」

 

 サンはゆっくり、恐る恐る、自分のポケットに手を伸ばした。

 

「なあ、ご主人……これ……」

 

 取り出した拳には、球状の髪留めが握られていて。

 

「アニス」

「呼ばれて飛び出てササササーン! 殿! 気分がすぐれないご様子! ささ、こちらをどうぞ! 心を安らげる飲み物でございます!」

「あ、ありがと」

「いえいえ、料金はきっちりいただきます故! イリオス殿から!」

「このやろう」

 

 登場してから二秒も立たず押し売りとはいい度胸じゃないか。ちょうどいい、新しい魔法をこいつで試してやろう。

 

「おっとイリオス殿。わたくしは魔法一発で死にますよ? わたくしはクソ雑魚ナメクジでございます故! ……お呼びいただけたということは、何かわたくしに聞きたいことがあるのでは?」

「このっ、自分を人質に……!」

「良いから早く聞けよ」

 

 サン、違うんだ。これは僕とこいつの戦いなんだ。高度な精神戦なんだよ。

 なんてとぼけてもしかたないので、皮肉たっぷりに咳払いをしてから、アニスに髪留めを渡す。

 

「これを鑑定してほしい。お前なら出来るだろ?」

「ふぅむ……不可能とは言いませんが、詳細については数日いただきますよ? とりあえず、何かの魔道具ではあるようですが」

「……それは、わかってるんだけど」

 

 アニスに伝えるのは、なぜか少し躊躇したくなる。

 そんなことを思いながらも、スノウに対してしたのと同じように説明をした。

 

「……なるほど。複数の効果を持つ魔道具ですか。前例がないわけではございません」

「そうなのか?」

「ええ。過去に幾らかの例はありますね。そのどれも、多少特殊な状況で採れた魔道具でございます」

 

 毎度ながら色んなことを知っているこいつは、一体何者なんだろうか。突然絡むようになってきたけれど。

 

「とにかく、数日間こちらはお借りします。料金はキチッといただきますよ?」

「わかってる」

 

 ソラさんの遺品を預けることに不安がないわけじゃないけど、アニスなら大丈夫だ。金さえ払えば仕事はしてくれるし、信用できる。

 

「それにしても、アニス久しぶりだな」

「左様でございますね。お元気でしたか?」

「……うん、一応」

「それは何よりです! しかし、おや? これは……」

 

 アニスはわざとらしくキョロキョロと周りを見回したあと、その仮面をにんまりと歪め。

 

「なるほど、少し見ない間にお二人はただならぬ仲になられたご様子!」

「帰れ」

 

 前言撤回。こいつは二度と信用なんてしない。

 ……念の為、相部屋なことはスノウには伏せておくとしよう。

 

「むぅ、つれないですねぇ。まあいいでしょう。こちらの鑑定もありますし、今日のところは勘弁しておいてやります」

「なんで小悪党の捨て台詞みたいになってんだよ」

「あはは、サン殿はボケ甲斐がございますね!」

 

 どこか満足げに頷きながら、アニスはドアの方へ向かった。

 

「サン殿の心は、以前にも増して不安定です。ゆめ、目を離さぬよう」

「……え?」

 

 通り際そう呟かれて、後ろを振り向いて。そこには、すでにアニスはいなかった。

 ……あいつ、どこまで知ってるんだか。言われなくたって、そうするさ。

 

「なんだか一気に疲れたな……」

「ご主人、アニス苦手なの?」

「そうじゃないけど、この時間のあいつは……なんというか、二枚目のステーキって感じだ」

「……?」

 

 胃もたれすると伝えたかったんだけど、胃が無尽蔵なサンには伝わらなかったらしい。

 

「とにかく、今日はもう寝よう……サン、先に風呂をもらうよ」

 

 サンは先よりも後から風呂に入りたがる。熱いお湯が苦手なんだそうだ。

 だから、いつも通り先に風呂に行こうとして。

 

「……?」

 

 袖を、摘まれた。

 

「どうしたの?」

 

 さっきぶりに見たサンの顔は、打って変わって真っ暗で。

 

「……その、早く帰ってな。お願い、だから」

 

 きっと、スノウと長通信をかましたことを引き摺っているのだろう。

 でも、それを加味しても……やっぱり今日のサンは、いつもより変だ。

 

「……一人は、やだから」

「……わかった。今度は、約束するよ」

 

 指切りをして、外に出て。あいつの表情が、声色が、やけに焼き付いている。

 師匠に命を狙われていた時とも違う。どこか、泣きそうな顔に見えて。

 

───ゆめ、目を離さぬよう。

 

 アニスの言葉を、なんとなく思い出した。

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